お菓子やパンのレシピを見ていると、「脱脂粉乳(スキムミルク)」「全脂粉乳(全粉乳)」「バターミルクパウダー」といった粉乳類が材料として登場することがあります。どれも白っぽいパウダー状で一見よく似ていますが、実はそれぞれ製法も成分も異なり、焼き上がりの風味や食感にはっきりとした違いをもたらします。この記事では、お菓子作りに携わるすべての方に向けて、この3つの粉乳の違いを製法・栄養成分・お菓子作りでの役割という3つの視点から詳しく解説します。
そもそも粉乳とは何か
粉乳とは、牛乳やその加工過程で得られる液体を濃縮・乾燥して粉末状にしたものです。水分をほぼ除去しているため保存性が非常に高く、常温で長期間保管できるという大きなメリットがあります。お菓子作りにおいては、液体の牛乳を使うと生地の水分量が大きく変わってしまいますが、粉乳であれば水分量をほとんど変えずにミルクの風味や栄養を生地に加えることができます。これが、製菓・製パンの現場で粉乳が広く重宝されている理由です。
粉乳は原料や製法の違いによって大きく3種類に分けられます。それが「脱脂粉乳(スキムミルク)」「全脂粉乳(全粉乳)」「バターミルクパウダー」です。
3つの粉乳の製法の違い
脱脂粉乳(スキムミルク)
脱脂粉乳は、生乳からクリーム(乳脂肪分)を遠心分離によって取り除いた「脱脂乳」を、さらに濃縮・乾燥させて粉末にしたものです。脂肪分をほぼ完全に除去しているため、脂質は100gあたり約0.7〜1.0gと極めて少なく、その分たんぱく質や乳糖、カルシウムなどの栄養素が凝縮されています。スキムミルクという呼び名はskim(すくい取る)に由来しており、文字どおり脂肪分を「すくい取った」あとのミルクを乾燥させたものです。
全脂粉乳(全粉乳)
全脂粉乳は、生乳をそのまま濃縮・乾燥させて粉末にしたものです。脂肪分を除去する工程がないため、牛乳に含まれる乳脂肪がそのまま残っており、脂質は100gあたり約25〜26gと高い数値になります。牛乳を丸ごと乾燥させているため、風味が最も牛乳に近く、濃厚でクリーミーな味わいが特徴です。ただし脂質を多く含む分、脱脂粉乳に比べると酸化しやすく、保存性ではやや劣ります。
バターミルクパウダー
バターミルクパウダーは、クリームからバターを製造する際の「チャーニング(撹拌)」工程で分離して生じる液体「バターミルク」を濃縮・乾燥させたものです。ここが非常に重要なポイントで、バターミルクは「バターを作ったあとに残る液体」であり、バターそのものとはまったく別のものです。バターミルクにはクリームの脂肪分の大部分がバターとして取り除かれたあとの成分が含まれていますが、乳脂肪球の皮膜に由来するリン脂質(レシチンなど)が豊富に残っているのが大きな特徴です。脂質は100gあたり約7%前後と、脱脂粉乳より多く全脂粉乳より少ない中間的な値になります。
なお、日本で一般に流通しているバターミルクパウダー(よつ葉乳業の製品など)は、甘性クリーム(非発酵クリーム)から作られる「スイートバターミルク」を乾燥させたもので、pHは通常の牛乳とほぼ同じであり酸味はありません。一方、欧米で伝統的に使われる「カルチャードバターミルク」は発酵クリームから作られるため酸味があり、スコーンやパンケーキの膨張剤(重曹)との組み合わせに利用されてきました。海外のレシピで「buttermilk」と指定されている場合は発酵タイプを指していることが多いので、日本の非発酵タイプで代用する際にはプレーンヨーグルトと1対1で混合するとより近い仕上がりになります。
栄養成分の比較
よつ葉乳業の公表データを基に、100gあたりの主要栄養成分を比較してみましょう。
脱脂粉乳(よつ葉北海道脱脂粉乳)
エネルギー:356kcal、たんぱく質:35.6g、脂質:0.7g、炭水化物:51.8g、カルシウム:1,200mg、食塩相当量:1.1g
全脂粉乳(よつ葉北海道全粉乳)
エネルギー:494kcal、たんぱく質:27.1g、脂質:25.5g、炭水化物:38.9g、カルシウム:940mg、食塩相当量:0.9g
バターミルクパウダー(よつ葉北海道バターミルクパウダー)
エネルギー:390kcal、たんぱく質:31.0g、脂質:7.3g、炭水化物:50.1g、カルシウム:960mg、食塩相当量:1.2g
この数値から読み取れるポイントを整理します。
まず脂質について。脱脂粉乳は0.7gとほぼゼロに近いのに対し、全脂粉乳は25.5gと圧倒的に多く、バターミルクパウダーは7.3gでちょうどその中間に位置します。この脂質量の違いが、お菓子やパンに与えるコク、しっとり感、発酵への影響を大きく左右します。
次にたんぱく質。脂肪分を取り除いている脱脂粉乳が35.6gと最も高く、バターミルクパウダーが31.0g、全脂粉乳が27.1gの順です。たんぱく質が多いほどメイラード反応(アミノカルボニル反応)が起こりやすく、パンやお菓子の焼き色が付きやすくなります。
炭水化物(そのほとんどが乳糖)は、脱脂粉乳が51.8g、バターミルクパウダーが50.1gと高く、全脂粉乳は38.9gとやや低めです。乳糖もまたメイラード反応に関与する還元糖であるため、脱脂粉乳やバターミルクパウダーを使ったお菓子のほうが美しい焼き色が付きやすいという傾向があります。
カルシウムは脱脂粉乳が1,200mgと突出しています。栄養補給の観点から見ると、脱脂粉乳が最も優秀です。
お菓子作りにおける3つの粉乳の役割と特徴
脱脂粉乳がお菓子にもたらす効果
脱脂粉乳は製菓・製パンにおいて最も汎用性が高い粉乳です。脂質がほとんど含まれないため、生地に加えても油脂のバランスを崩しにくく、レシピの設計がしやすいという利点があります。
パン作りにおいては、グルテンの形成を阻害しにくく、発酵もスムーズに進むため、ボリュームのあるふんわりとしたパンが焼き上がります。また、豊富なたんぱく質と乳糖のおかげでメイラード反応が促進され、こんがりと美しい焼き色が付くのも大きな魅力です。
焼き菓子においては、クッキーやマフィン、スコーンなどの生地に加えることで、あっさりとしたクセのないミルク風味をプラスできます。主張が控えめなので、バターやチョコレートなど他の素材の風味を邪魔しない点が使いやすさの秘密です。また低脂肪で高たんぱくという特性から、ヘルシー志向のお菓子作りにも適しています。
全脂粉乳がお菓子にもたらす効果
全脂粉乳は、牛乳をそのまま粉末にしたものだけあって、3つの粉乳のなかで最も濃厚でリッチなミルク感を生地に与えます。約25%もの乳脂肪が含まれているため、焼き上がりはしっとりとやわらかく、口溶けのよい仕上がりになります。ミルクキャラメルやミルクプリン、ミルク味のアイスクリームなど「ミルクそのものの風味を前面に打ち出したいお菓子」には全脂粉乳が最適です。
ただし注意点もあります。脂質が多い分、パン作りではグルテンの形成をやや阻害し、膨らみが弱くなることがあります。焼き色も脱脂粉乳ほどはしっかりと付かない傾向があります。また、乳脂肪を含むことで保存時に酸化が進みやすく、開封後は早めに使い切る必要があります。
焼き菓子に使う場合は、その濃厚なミルク風味を活かして、ミルククッキーやフィナンシェ、ミルクスコーンなどに特に向いています。バターと組み合わせると相乗効果で非常にリッチな味わいになりますが、脂質の総量が増えるため、レシピ全体の油脂バランスには気を配る必要があります。
バターミルクパウダーがお菓子にもたらす効果
バターミルクパウダーの最大の特徴は、脂質中のリン脂質の含有比率が高いことです。リン脂質(レシチンなど)には強い乳化作用があり、生地中の水分と油脂を均一になじませる働きがあります。この乳化力のおかげで、バターミルクパウダーを配合した生地はきめが細かく、ふんわりとやわらかく仕上がります。
パンケーキやマフィンにバターミルクパウダーを加えると、ふっくらと膨らんで軽やかな口当たりになるのはこの乳化作用によるものです。また、脂質は7%程度と脱脂粉乳より多いものの、全脂粉乳ほどは多くないため、発酵を大きく阻害することなく、かつ適度なコクとしっとり感を付与できるという「いいとこ取り」のバランスを持っています。
風味の面では、脱脂粉乳よりも甘みが強く、独特の芳醇なミルクの香りがあります。よつ葉乳業のオンラインショップでも「バターミルクパウダーならではの独特な甘みや香りがあり、脱脂粉乳の代わりに使うとコクのあるミルクの味わいがふわりと広がる」と紹介されているとおり、少量加えるだけでワンランク上のミルク感を演出できます。
欧米ではバターミルクはパンケーキ、スコーン、ビスケット(アメリカンビスケット)など、ふんわり・さっくりとした食感を求めるお菓子に古くから使われてきました。日本でもここ数年で認知度が上がり、製菓材料店での取り扱いも増えています。クッキーやパウンドケーキに加えてもよいですし、アイスクリームやグラタンのホワイトソースなどに加えてコクをプラスする使い方もおすすめです。
3つの粉乳の相互代用は可能か
結論から言えば、ある程度の代用は可能ですが、まったく同じ仕上がりにはなりません。
脱脂粉乳の代わりにバターミルクパウダーを使うのは比較的容易です。どちらも脂質が少なめで、粉乳としての基本的な使用量(粉に対して数%程度)がほぼ同じだからです。バターミルクパウダーに置き換えると風味がやや濃厚になり、生地がしっとりふんわりしやすくなります。
逆にバターミルクパウダーの代わりに脱脂粉乳を使う場合、ミルク風味をプラスするという目的であれば問題ありません。ただし、バターミルクパウダーの乳化作用を期待してレシピに配合されている場合は、脱脂粉乳で代用するとその効果が得られず、仕上がりが異なる可能性があります。
全脂粉乳は脂質が25%以上と多いため、脱脂粉乳やバターミルクパウダーと単純に同量で置き換えると、生地全体の油脂量が大きく変わってしまいます。特にパン作りでは発酵や膨らみに影響が出やすいので、置き換える場合はバター等の油脂の分量を減らすなど、レシピ全体の調整が必要です。
保存方法と取り扱いの注意点
3つの粉乳に共通して言えるのは、高温多湿を避け、直射日光の当たらない涼しい場所で保存することが基本だという点です。粉乳は吸湿性が高く、湿気を吸うとダマになったり風味が劣化したりするため、開封後は密封容器に入れて保管しましょう。
保存性に関しては、脂質が少ない脱脂粉乳が最も優れています。全脂粉乳は乳脂肪を多く含むため酸化が進みやすく、開封後はできるだけ早く使い切ることが推奨されます。バターミルクパウダーはその中間程度と考えてよいでしょう。
いずれも水分に溶かして使う場合は、50℃以上の温水で溶くとダマになりにくくきれいに溶けます。10gの粉乳を90gの温水で溶かすと、それぞれ脱脂乳・牛乳・バターミルクとほぼ同等の濃度になります。
目的に合わせた使い分けが美味しさの秘訣
脱脂粉乳は「低脂肪・高たんぱく・高い汎用性」が魅力で、あらゆるお菓子やパンに幅広く使える万能選手です。しっかりとした焼き色とふんわりした食感を両立したいときに頼りになります。
全脂粉乳は「濃厚なミルク風味としっとり感」が持ち味で、ミルクのリッチな味わいを前面に出したいお菓子に最適です。ミルクキャラメルやミルクアイスなど、ミルクの存在感が主役になるお菓子で真価を発揮します。
バターミルクパウダーは「リン脂質による乳化力と芳醇な風味」が最大の武器で、ふんわり・しっとりとした食感を生み出す力に優れています。パンケーキやスコーン、マフィンなど、軽やかさとコクの両立を求めるお菓子にぴったりです。
この3つの粉乳はどれも「牛乳由来のパウダー」という共通点を持ちながら、製法の違いによって脂質の量や種類、風味、焼成時の挙動がそれぞれ異なります。お菓子作りで粉乳を選ぶ際は、「仕上がりにどんなミルク感を求めるか」「生地の食感をどうしたいか」「焼き色はどの程度付けたいか」といったポイントを基準に使い分けてみてください。きっと、ワンランク上のお菓子作りにつながるはずです。
