お菓子の名前(日本語)
ババ(別名:ババ・オ・ラム、ババ・オ・ロム)
お菓子の名前(外国語)
フランス語:Baba au Rhum(ババ・オ・ラム)
イタリア語:Babà / Babbà(バッバ)
英語:Rum Baba(ラムババ)
ロシア語:Ба́ба(バーバ)
お菓子の分類
洋菓子(フランス菓子)/発酵生地を用いた焼き菓子(シロップ漬け)/生ケーキ
どんなお菓子
ババとは、イースト(酵母)を使ってふっくらと発酵させたブリオッシュに近い生地を、円筒形(コルク栓のような形)の型に入れて焼き上げ、ラム酒風味のシロップをたっぷりと染み込ませたフランスの伝統菓子です。ワインのコルク栓(フランス語でブーション bouchon)に似た形状から「ババ・ブーション(baba bouchon)」とも呼ばれます。
一般的なサイズは高さ約5cm程度の個食タイプで、生地にシロップがじゅわっと染み込んでおり、ひと口頬張ると芳醇なラム酒の香りが口いっぱいに広がるのが最大の特徴です。仕上げとして、あんずジャム(ナパージュ)を表面に塗り、ホイップクリーム(クレーム・シャンティイ)を添えたり、マラスキーノ・チェリーを飾ったりして提供されます。フランスのレストランではデザートとして提供される際、別添えのラム酒ボトルが添えられ、好みの量をさらに振りかけて楽しむこともあります。
日本では「サバラン」の名前の方が馴染みがある方も多いかもしれません。ババとサバランは親戚関係にあるお菓子ですが、厳密には形状が異なります。ババは円筒形(コルク型)で比較的小さく、サバランはリング型(ドーナツのような円環形)で大きめに仕上げるのが伝統的な違いとされています。ただし現在では、様々な形状のバリエーションが存在し、名称の使い分けも厳格ではなくなっています。
お菓子の名前の由来
「ババ」という名前の由来には、複数の説が伝えられています。
最も広く知られているのは、『千夜一夜物語(アラビアンナイト)』説です。このお菓子の原型を考案したとされるポーランド王スタニスワフ・レシチニスキ(後のロレーヌ公)は、『千夜一夜物語』の大の愛読者でした。甘口ワインに浸したクグロフの美味しさに感動したスタニスワフは、物語の登場人物「アリババ」にちなんで、このお菓子を「アリ・ババ」と名付けたと言われています。やがてその名前が縮まって「ババ」と呼ばれるようになったというものです。
第二の説は、ポーランド語のバブカ(babka)に由来する説です。バブカとはスラヴ語圏で「おばあちゃん」「おばさん」を意味する「ババ(baba)」の指小形で、ポーランドやウクライナに伝わる伝統的な発酵ケーキの名前でもあります。ロシア語をはじめとするスラヴ系の言語では「ババ」には「女」「農婦」「老女」などの意味があり、このケーキの原型であるポーランドの伝統菓子バブカの名前がそのまま受け継がれたとするものです。
このほか、お菓子を完成させた人物が喜びのあまり「ババッ!」と叫んだことに由来するという俗説もありますが、こちらは裏付けとなる記録が乏しく、あくまで逸話として伝わるものです。
お菓子の歴史
ババの歴史は18世紀初頭にまでさかのぼります。主役となるのは、ポーランド王の座を追われた後にフランスのロレーヌ公に封じられたスタニスワフ・レシチニスキ(スタニスラス・レクチンスキー)です。彼はフランス王ルイ15世の王妃マリー・レクチンスカの父であり、大変な食いしん坊として知られていました。
1736年、スタニスワフはロレーヌ公国の統治者としてナンシー近郊のリュネヴィル城に居を構えます。故郷ポーランドで幼少期から親しんでいたブリオッシュ風のケーキ「バブカ」を懐かしみ、ポーランドから取り寄せさせました。しかし長旅によってバブカは乾燥して硬くなってしまいます。そこでスタニスワフは歯痛にも悩んでいたことから、このケーキを柔らかく食べるために甘口のマラガ産ワインに浸してみたところ、思いがけず素晴らしい味わいになったと伝えられています。
この菓子をさらに発展させたのが、スタニスワフの娘マリーの専属菓子職人だったニコラ・ストレー(Nicolas Stohrer)です。ストレーはリュネヴィルの宮廷で修行を積み、ババの製法を磨きました。乾燥した生地をマラガワインに漬け込み、クレーム・パティシエール(カスタードクリーム)とギリシャ産のドライレーズンを加えて冷やしたお菓子として完成させたのです。
1725年、スタニスワフの娘マリーがルイ15世に嫁ぐ際、ストレーは付き添いの菓子職人としてベルサイユ宮殿に渡りました。そして1730年、ストレーはベルサイユを離れ、パリ2区のモントルグイユ通り51番地に自身のパティスリー「ストレー(Stohrer)」を開業します。これは現在もなお営業を続けているパリ最古のパティスリーとして知られています。
ストレーは自店で「アリ・ババ」を「ババ」と改名して販売しました。当初は注文のたびに焼いておいた生地に刷毛でシロップを塗って提供していましたが、やがて生地をまるごとシロップに浸す方法に改良されます。さらに1835年頃には、マラガワインに代えてラム酒を使用するようになり、カスタードクリームの代わりにクレーム・シャンティイ(泡立て生クリーム)を添える形に進化しました。これが現在の「ババ・オ・ラム(Baba au Rhum=ラム酒のババ)」の原型です。
その後、1844年にパリの菓子職人ジュリアン兄弟(オーギュストとアルチュール)が、ストレーのババに触発されてリング型のババを考案し、敬愛する美食家ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァランに敬意を表して「サヴァラン」と命名しました。以来フランスでは、コルク型の小さなものを「ババ」、リング型の大きなものを「サヴァラン」と呼び分けるようになりました。
また、ストレーがパリで商品化したのとほぼ同時期に、ナポリの貴族のお抱え料理人がレシピを持ち帰ったことで、ババはイタリア南部ナポリの名物菓子「バッバ(Babà)」としても定着しました。ナポリでは現在でもリング型・コルク型いずれも区別なく「ババ」と呼ばれています。
発祥の地
ババの発祥の地はフランス・ロレーヌ地方(首府ナンシー)とされています。ただし、そのルーツはポーランドの伝統菓子「バブカ」にあり、ポーランド出身のスタニスワフ・レシチニスキ(ロレーヌ公)の宮廷で誕生したお菓子です。ババが商品として広まったのはパリ(モントルグイユ通りのストレー)であり、さらにイタリア・ナポリにも伝わって現地の名物菓子となっています。
有名な商品(メーカー名と商品名と販売価格)
ババ(ババ・オ・ラム)を味わえる代表的な店舗や商品を以下に紹介します。なお、価格は取材時点の参考価格であり、変動する場合があります。
パティスリー・ストレー(Pâtisserie Stohrer)/パリ
1730年創業のパリ最古のパティスリー。ババ・オ・ラム発祥の店として名高く、現在もスペシャリテとして提供されています。パリ2区モントルグイユ通り51番地に店舗があり、1個あたり約3〜5ユーロ程度で販売されています。
ラ・ヴィエイユ・フランス(LA VIEILLE FRANCE)/東京(千歳烏山・仙川)
パリの名店で11年間修行した木村成克シェフが手がけるフランス伝統菓子の店。「ババ・オ・ロム」は瓶詰めの冷蔵商品として通販でも購入可能で、1本(約340g・7個入り)で約2,300円(税込)です。常温保存で賞味期限は出荷日から約60日と日持ちに優れています。
ラ・メゾン・ジュヴォー(La maison JOUVAUD)/東京・名古屋・京都
1948年に南フランス・プロヴァンスで誕生した老舗パティスリーの日本店舗。期間限定でオレンジシロップのババ・オ・ラムを販売することがあり、1個あたり400〜500円程度で提供されています。
アマン東京 ラ・パティスリー(La Pâtisserie by Aman Tokyo)/東京
宮川シェフによる「ババ オ ラム パッション」が期間限定で販売されたことがあり、1個900円(税込)で提供されていました。テイクアウト・イートインともに可能です。
味や食感などの特徴
ババの最大の魅力は、ふんわりとした発酵生地にラム酒シロップがたっぷりと染み込んだ「じゅわっとした食感」にあります。ブリオッシュに近い柔らかな生地はバターと卵を豊富に使っているため、しっとりとしてリッチな風味を持ちます。シロップを含んだ生地は口の中でほどけるように崩れ、芳醇なラム酒の香りが鼻腔に広がります。
甘さはしっかりとしていますが、ラム酒のアルコールのキレがあるため、甘さ一辺倒にはならず、奥行きのある大人の味わいです。日本で販売されているものはアルコール度数が控えめのものが多いですが、本場フランスやナポリでは洋酒をしっかりと効かせた力強い風味のものが主流です。
表面に塗られたあんずジャムのナパージュは艶やかな見た目を演出するとともに、フルーティーな酸味のアクセントを加えます。添えられたクレーム・シャンティイ(軽く泡立てた生クリーム)は、ラム酒の芳香をまろやかに包み込み、全体の味わいのバランスを整えてくれます。
どんな場面やどんな人におすすめ
ババは大人のためのスイーツとして、さまざまな場面で楽しめます。
食後のデザートとしてレストランで味わうのが最もクラシックなスタイルです。フランス料理やイタリア料理のコースの締めくくりとして供される場面が多く、食事の余韻に華を添えてくれます。アルコールの効いた菓子であるため、食後酒(ディジェスティフ)の代わりとしても楽しめます。
洋酒やラム酒が好きな方、甘いものは好きだけれど甘すぎるのは苦手という大人の嗜好を持つ方に特におすすめです。ワインやウイスキー愛好家へのちょっとしたプレゼントにも喜ばれるでしょう。瓶詰め商品であれば日持ちもするため、ギフトやお土産としても適しています。
なお、アルコールを含むお菓子であるため、お子さま、妊娠中の方、運転前の方、アルコールに弱い方は注意が必要です。
材料
ババ・オ・ラムの基本的な材料は、大きく分けて「生地」と「シロップ」、そして「仕上げ」の3つのパートで構成されます。
生地の材料
強力粉(または準強力粉)、卵、バター、砂糖、塩、牛乳、ドライイースト(インスタントイースト)
シロップの材料
水、グラニュー糖、ラム酒(ダークラム)、レモンの皮やバニラビーンズ(風味付け用、お好みで)
仕上げの材料
あんずジャム(ナパージュ用)、生クリーム、グラニュー糖(クレーム・シャンティイ用)、マラスキーノ・チェリーやフルーツ(飾り用、お好みで)
レシピ(基本のババ・オ・ラム 約8個分)
以下は、家庭でも作りやすい基本のレシピです(富澤商店のレシピ等を参考にした一般的な配合です)。
生地
強力粉 120g、砂糖 大さじ1(約12g)、塩 小さじ1/2(約2.5g)、ドライイースト 小さじ1(約3g)、溶き卵 1個分、牛乳 40ml、無塩バター 30g
シロップ
水 250ml、グラニュー糖 150g、ラム酒(ダークラム) 50〜80ml
仕上げ
あんずジャム 適量、水 少々、生クリーム 100ml、グラニュー糖 10g
作り方
- 生地作り
強力粉、砂糖、塩、ドライイーストをボウルに入れて混ぜ合わせる。人肌に温めた牛乳と溶き卵を加え、粉気がなくなるまでしっかりと混ぜる。生地がまとまったら台に取り出して力を入れて捏ね、艶が出るまで約10分こねる。常温に戻して柔らかくしたバターを加え、ドレッジを使いながら生地に練り込む。バターが完全になじんで滑らかな生地になるまでこねる。 - 一次発酵
生地をひとまとめにしてボウルに入れ、ラップをかけて30℃程度の暖かい場所で約30分発酵させる。生地がひと回り大きくなればOK。 - 成形
打ち粉をした台で生地を8等分(1個約40g)にし、丸く成形する。バターを塗ったプリンカップ(直径6cm程度)に入れる。 - 二次発酵
30℃で約30分、生地が型の8分目まで膨らむまで発酵させる。 - 焼成
オーブンを200℃に予熱し、12〜13分焼く。きれいな焼き色が付いたら型から外して冷ます。 - シロップ作り
鍋に水とグラニュー糖を入れて沸騰させ、砂糖を完全に溶かす。火からおろして粗熱が取れたらラム酒を加えて混ぜる。 - シロップ浸し
焼き上がったババ生地をシロップにゆっくりと浸し、時折返しながら全体にしっかりとシロップを染み込ませる。生地が崩れやすいので優しく扱うこと。少し乾かしてからシロップに浸すと吸い込みが良くなる。 - 仕上げ
あんずジャムに少量の水を加えてレンジで温め、シロップを含んだババの表面に刷毛で塗る。生クリームにグラニュー糖を加えて8分立てにし、ババの横に切れ目を入れてクリームを絞り入れるか、上に添えて完成。
販売温度帯
ババは主に冷蔵で販売されます。シロップをたっぷり含んだ生菓子であり、生クリームを使用する場合は10℃以下での保存が必要です。パティスリーの店頭では冷蔵ショーケースに並べられるのが一般的です。
一方で、瓶詰めタイプ(ラ・ヴィエイユ・フランスの「ババ・オ・ロム」など)は常温保存が可能な商品もあります。ラム酒のアルコール分と砂糖の高い濃度が保存性を高めるためです。
冷凍販売の商品もあり、通販では冷凍状態で届けられ、冷蔵庫でゆっくり解凍して食べるタイプも流通しています。
主な流通形態
ババの主な流通形態は以下のとおりです。
パティスリー(洋菓子店)での対面販売が最も一般的で、冷蔵ショーケースから1個ずつ個食タイプで販売されます。フレンチレストランやイタリアンレストランではデザートメニューとして提供されることも多く、ホテルのラウンジやカフェでも取り扱いがあります。
近年は瓶詰めや缶詰のギフト向け商品が増えており、百貨店のスイーツ売り場やオンラインショップ(高島屋、三越伊勢丹オンラインストアなど)でも購入できます。冷凍通販も拡大しており、Amazonや楽天市場でもサバラン(ババ)の取り扱いがあります。
日本においては、ババ単体よりもサバランの名前で流通することが多く、老舗洋菓子店の定番メニューとして長く親しまれてきました。
価格帯
パティスリーで購入する場合、1個あたり400〜900円程度が一般的な価格帯です。ホテルや高級パティスリーの商品ではさらに高額になる場合もあります。
瓶詰めタイプのギフト商品は、容量やブランドによりますが1,500〜3,000円程度です。冷凍通販のサバラン(ババ系)は4個入りで2,000〜4,000円程度のものが多く見られます。
本場フランスでは、パティスリーやブーランジュリーで1個3〜5ユーロ程度で購入でき、比較的手頃な価格の日常菓子として親しまれています。
日持ち
ババの日持ちは、形態によって大きく異なります。
パティスリーで購入する生ケーキタイプのババは、当日〜翌日が消費期限となります。生クリームを使用している場合は特に日持ちが短いため、購入したらなるべく早く食べるのがおすすめです。冷蔵保存で2〜3日程度は品質を維持できる場合もありますが、風味は徐々に落ちていきます。
瓶詰めタイプ(アルコール度数が高くクリーム不使用のもの)は、常温保存で約60日と格段に長持ちするものもあります。開栓後は冷蔵保存で7日以内が目安です。
冷凍商品は冷凍で約1〜3か月保存可能で、解凍後は冷蔵保存で2〜3日以内に食べきるのが推奨されます。
アレンジ・バリエーション
ババには多彩なアレンジやバリエーションが存在し、時代とともに進化を続けています。
ババ・オ・フリュイ(Baba aux Fruits)
ラム酒風味のシロップに浸したババを皿に盛り付け、イチゴやブルーベリーなどのフレッシュフルーツをシロップ漬けにして周りに飾り、ラム酒風味のクレーム・シャンティイを添えたもの。華やかな見た目で、フルーツの酸味がラム酒の風味と好相性です。
ナポリ風ババ(Babà Napoletano)
イタリア・ナポリの名物で、ババの上にカスタードクリーム(クレーマ・パスティッチェーラ)をたっぷりと絞り出し、マラスキーノ・チェリーを飾るスタイル。フランスのババよりも甘めに仕上げられる傾向があります。
サヴァラン(Savarin)
ババの派生形であり、リング型に焼いた生地に洋酒シロップを染み込ませ、中央の穴にクリームやフルーツを盛り付けたもの。1844年にジュリアン兄弟が考案し、美食家ブリア=サヴァランの名を冠しています。ラム酒以外にもキルシュヴァッサーやオレンジキュラソーなど、多様な洋酒が使われます。
アリ・ババ(Ali Baba)
パリのストレー(Stohrer)で現在も販売されている看板商品のひとつ。クレーム・パティシエールとラム酒入りシロップの組み合わせで、ババの原型に近いスタイルです。
ノンアルコールタイプ
お子さまやアルコールが苦手な方向けに、ラム酒を使わずにバニラやオレンジの風味を効かせたシロップで仕上げるアレンジもあります。風味は穏やかになりますが、しっとりした生地の美味しさは十分に楽しめます。
パッションフルーツ・ババ
アマン東京で提供された「ババ オ ラム パッション」のように、パッションフルーツの酸味とラム酒の甘い香りを組み合わせた現代的なアレンジ。パティシエの創造性が光るバリエーションです。
チョコレート・ババ
ラム酒シロップにカカオを加えたり、チョコレートクリームを添えたりしたアレンジ。冬のデザートとして人気があります。
東欧のババ(バーバ)
フランスやナポリのものとは異なり、ロシアやポーランド、ウクライナには独自の「ババ」が数多く存在します。ロシアだけでも40種類以上のバリエーションがあるとされ、卵白を多く使ったものや、フルーツを練り込んだものなど多岐にわたります。
