材料の名前

日本語では「果糖(かとう)」と呼ばれる。英語では「fructose(フルクトース)」が正式名称で、「fruit sugar(フルーツシュガー)」という別名もある。フランス語では「fructose」、ドイツ語では「Fruktose」または「Fruchtzucker」と表記される。かつては「レブロース(levulose)」という名称でも知られていた。このレブロースという呼び名は、ラテン語で「左」を意味する「laevus」に由来し、D-果糖が偏光面を左に回転させる性質を持つことから名づけられたものである。

化学式はC₆H₁₂O₆で、ブドウ糖(グルコース)と同じ分子式を持つが、分子の構造が異なる「異性体」の関係にある。糖類の分類上は「単糖」に該当し、これ以上加水分解できない最小単位の糖である。

特徴

果糖の最大の特徴は、天然に存在する糖のなかで最も甘味が強い点にある。ショ糖(砂糖の主成分であるスクロース)を基準とした甘味度は、低温時で約1.2~1.5倍に達する。ただし、この甘さは温度によって大きく変動する。冷たい状態では甘味を強く感じるが、温度が上がるにつれて甘さは弱まり、高温ではショ糖の約60%程度の甘味度にまで下がるとされる。

なぜ温度で甘さが変わるのか。それは果糖が水溶液中で複数の分子構造の間を行き来しているためである。低温では六員環構造(β-D-フルクトピラノース)と呼ばれる甘味の強い形が多く存在するが、温度が上昇すると甘味の弱い五員環構造(フルクトフラノース)の割合が増えていく。果物を冷やすと甘く感じるのは、この温度依存性に起因している。リンゴやキウイ、梨、ブドウなど果糖を多く含む果物は冷蔵庫で冷やすと一層甘味が際立つ。反対に、バナナや柿のようにショ糖やブドウ糖が主体の果物は、冷やしても甘さの変化は小さい。

もうひとつの顕著な性質として、水への溶けやすさが挙げられる。果糖は全ての糖のなかで最も高い水溶性を持ち、室温の水にはその約4倍量が溶ける。加えて保湿性・吸湿性にも優れており、焼き菓子やパンに配合すると生地がしっとりと仕上がりやすい。

さらに、果糖はアミノ酸と反応して褐変を起こす「メイラード反応」がブドウ糖よりも速く進行する性質がある。焼き菓子やパンに使った場合、少量でもこんがりとした焼き色がつきやすく、香ばしい風味を生み出せる反面、焼き過ぎに注意が必要となる。

栄養面に目を向けると、カロリーは砂糖と同じく1gあたり約4kcalである。一方、グリセミック指数(GI値)は約19~20と低い。ブドウ糖のGI値が100であるのに比べると顕著に低く、食後の血糖値上昇が穏やかとされる。ただし、果糖は主に肝臓で代謝される特性があり、過剰摂取すると中性脂肪の合成が促進されるため、摂り過ぎには注意したい。

外観は白色の結晶性粉末で、融点は103~105℃である。

用途

お菓子づくりにおける果糖の活躍の場は幅広い。代表的な用途をいくつか紹介する。

冷菓への利用が最も相性の良い使い方のひとつである。アイスクリーム、シャーベット、ゼリーといった冷たいデザートは、低温で甘味が増す果糖の特性を存分に活かせる。砂糖よりも少量で同等の甘さを実現できるため、甘味料の使用量そのものを減らすことも可能だ。

焼き菓子においては、生地のしっとり感を長持ちさせたい場面で力を発揮する。果糖の高い保湿性がスポンジケーキやマフィン、マドレーヌなどの水分保持に役立つ。ただし前述のとおり焼き色がつきやすいため、オーブンの温度や焼き時間を通常よりもやや控えめに設定するのがコツとなる。

練りあんの製造にも使われる。砂糖の一部を果糖に置き換えることで、あっさりとした上品な甘さに仕上がり、あん自体のなめらかさも向上する。和菓子の分野では、素材の風味を損なわない控えめな甘さが好まれる場面に適している。

清涼飲料水やスポーツドリンクでは、果糖とブドウ糖の混合液である「異性化糖」の形で大量に使用されている。冷たい状態で飲むことが多いこれらの飲料は、低温で甘味が強まる異性化糖と相性が良い。日本農林規格(JAS)では、果糖含有率が50%未満のものを「ブドウ糖果糖液糖」、50%以上90%未満を「果糖ブドウ糖液糖」、90%以上を「高果糖液糖」と区分している。

そのほか、果実酒づくりにも活用されている。果糖は浸透圧が氷砂糖の約2倍あるため、果実からエキスを引き出す力が強く、漬け込みの熟成期間を短縮できるメリットがある。

主な原産国・原料産地

果糖は天然では果物やハチミツのなかに多く含まれる糖だが、工業的に製造される結晶果糖や異性化糖の原料となるのは、主にトウモロコシのデンプンである。

トウモロコシの最大の生産国はアメリカ合衆国で、世界生産量のおよそ3割を占める。これにブラジル、中国、アルゼンチン、ウクライナが続き、上位5カ国で世界の約7割を生産している。日本のコーンスターチ用トウモロコシは、その大半をアメリカからの輸入に依存している。

このほか、ジャガイモやサツマイモのデンプンを原料とすることもある。日本国内では、かつて甘藷(サツマイモ)デンプンの有効活用策として異性化糖の製造が推進された経緯がある。ヨーロッパでは小麦デンプンが原料に使われるケースもみられる。

フィンランドは結晶果糖の工業生産において先駆的な役割を果たした国として知られる。1960年代後半に砂糖を原料とした果糖の工業的結晶化に成功し、遺伝性糖尿病患者が多い北欧地域で代替甘味料としての需要を切り開いた。

選び方とポイント

お菓子づくりに果糖を取り入れる際には、用途に応じた形態選びが大切になる。

まず「結晶果糖(クリスタルフルクトース)」は、白色の粉末状で砂糖に似た見た目をしている。純度が高く、計量がしやすいため、家庭での製菓・製パンに向いている。冷たい飲み物にも溶けやすく、自家製シロップやフルーツドリンクにも使いやすい。購入時は、原材料表示が「澱粉」や「とうもろこし」のみで、添加物が含まれていないものを選ぶとよい。

業務用としては「果糖液糖」や「高果糖液糖」も選択肢に入る。液体タイプは混合の手間が省けるため、大量生産ラインでの使用に適している。ただし家庭での少量使いにはやや不向きで、保管にも気を遣う。

保存の際は、高温多湿を避け、密閉容器に入れて冷暗所で管理するのが基本である。果糖は吸湿性が高いため、開封後にそのまま放置すると固まったり、べたつきが出たりすることがある。使用のたびにしっかり封をする習慣をつけたい。

砂糖の代替として使う場合の分量目安は、砂糖の約7割程度が目安になる。果糖はショ糖の約1.2~1.5倍の甘味度を持つため、同じ甘さにするなら砂糖より少ない量で足りる。とはいえ、焼き色のつきやすさや保湿性の違いがあるので、レシピの砂糖をそのまま全量置き換えるのではなく、まずは半量を果糖に替えてみて、仕上がりを確かめるところから始めるのが無難だ。

メジャーな製品とメーカー名

日本国内で入手しやすい結晶果糖の代表的な製品をいくつか挙げる。

フラクトースジャパン(富山県富山市)が製造販売する「健康 CRYSTAL FRUCTOSE 結晶果糖」は、トウモロコシ由来の結晶果糖として市場でよく見かける製品である。1kg入りの袋やスティックタイプ(6g×20本)など家庭向けの容量展開があり、楽天市場やAmazonなどの通販サイトでも広く流通している。

加藤化学(愛知県知多郡美浜町)は、無水結晶果糖の製造で知られる澱粉糖化メーカーである。業務用の20kg袋が中心で、食品メーカーや菓子工場向けの大口供給を担っている。日本食品化工との業務提携も行い、糖化製品全般を幅広く手掛けている。

日本食品化工は、トウモロコシ由来の糖化品を総合的に製造する企業で、異性化糖(ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖)のラインアップが充実している。飲料メーカーや食品加工会社への供給量が多い。

このほか、サンエイ糖化(岐阜県安八郡)は澱粉から各種糖化製品を製造する老舗メーカーで、異性化糖や水飴とともに果糖関連製品も取り扱っている。王子コーンスターチ(現・王子ホールディングスグループ)も異性化液糖や高果糖液糖の製造を行っている。

一般消費者向けには、自然健康社の「果糖 1kg」も通販市場で人気の製品である。「無添加」「結晶フルクトース」を謳い、コーヒーや紅茶、ヨーグルトに混ぜる甘味料としてリピーターを集めている。

歴史・由来

果糖の歴史は、1847年にフランスの化学者オギュスタン=ピエール・デュブランフォー(Augustin-Pierre Dubrunfaut)がショ糖から果糖の分子を分離・発見したことに始まる。それまで砂糖(ショ糖)は単一の糖だと考えられていたが、デュブランフォーの研究によって、ショ糖がブドウ糖と果糖という2種類の単糖から構成されていることが明らかになった。

「fructose」という名称が生まれたのはその10年後、1857年のことである。イギリスの化学者ウィリアム・アレン・ミラー(William Allen Miller)がラテン語で果実を意味する「fructus」にちなんで命名した。この名称は世界中に広まり、現在に至るまで国際的な標準名として使われている。

その後、果糖に関する研究は進んだものの、長い間、果糖を結晶として工業的に量産する技術は確立されていなかった。転機が訪れたのは1960年代である。フィンランドで砂糖を原料とした果糖の工業的結晶化が達成され、量産への道が開かれた。北欧諸国では遺伝性の糖尿病患者が多く、砂糖の代替となる甘味料へのニーズが背景にあったとされる。

日本における果糖の歴史は、異性化糖の開発と切り離せない。1960年代、通商産業省工業技術院(現・産業技術総合研究所)の研究者らがブドウ糖を果糖に変換する酵素「グルコースイソメラーゼ」の工業利用技術を開発した。1965年には参松工業(千葉県)が世界で初めて異性化糖の工業生産に成功している。この技術は1966年に日本初の特許輸出としてアメリカに渡り、トウモロコシ大国であるアメリカで高果糖コーンシロップ(HFCS)として爆発的に普及した。

日本国内では1970年代後半から異性化糖の使用が本格的に広がった。清涼飲料水の甘味料として砂糖に代わるポジションを確立し、現在では日本の飲料産業に欠かせない存在となっている。1990年代に入ると、スポーツドリンクや冷菓への利用も拡大し、結晶果糖が一般消費者向けにも販売されるようになった。

果糖は「果物に含まれる天然の糖」という側面と、「デンプンから工業的に大量生産される甘味料」という側面の両方を持つ。こうした二面性こそが、果糖という素材の奥深さであり、製菓の世界においても「冷たいお菓子には果糖、温かいお菓子には砂糖」といった使い分けの知恵が受け継がれてきた理由だろう。

温度で甘さが変わるという少し不思議な性質を知っておくだけで、お菓子づくりの幅はぐんと広がる。果糖は、シンプルでありながら奥の深い甘味素材である。

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