材料の名前

日本語では「全脂粉乳(ぜんしふんにゅう)」と呼ぶ。食品表示上の正式名称は「全粉乳(ぜんふんにゅう)」で、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(通称・乳等省令)に基づいた法定名称である。日常的には「全脂粉乳」「全粉乳」のどちらも使われており、製菓・製パンの現場ではこの二つの呼び方が混在している。

英語では whole milk powder(ホールミルクパウダー)、あるいは dry whole milk(ドライホールミルク)と表記される。フランス語では lait entier en poudre(レ・アンティエ・アン・プードル)、ドイツ語では Vollmilchpulver(フォルミルヒプルファー)にあたる。

脱脂粉乳(スキムミルク)と混同されやすいが、両者は乳脂肪の有無という決定的な違いがある。脱脂粉乳は牛乳から脂肪分を取り除いてから乾燥させたものであるのに対し、全脂粉乳は牛乳の脂肪分をそのまま残した状態で乾燥・粉末化している。つまり、全脂粉乳は「牛乳そのものを粉にしたもの」と考えるとわかりやすい。

特徴

全脂粉乳は、生乳(搾りたての牛乳)からほとんどすべての水分を除去し、粉末にした乳製品である。乳等省令では、全粉乳の成分規格として「乳固形分95.0%以上、うち乳脂肪分25.0%以上、水分5.0%以下」と定められている。

文部科学省の「日本食品標準成分表(八訂)」によれば、全粉乳100gあたりのおおよその栄養成分は、エネルギー約490kcal、たんぱく質25.5g、脂質26.2g、炭水化物39.3g、食塩相当量1.1gとなっている。なお、よつ葉乳業の北海道全粉乳(製品値)では100gあたりエネルギー494kcal、たんぱく質27.1g、脂質25.5g、炭水化物38.9g、カルシウム940mgと表記されており、原料となる生乳や製造ロットによって若干の幅がある。

最大の特徴は、牛乳が持つ乳脂肪をそのまま含んでいる点にある。この乳脂肪が生み出すリッチなコクとまろやかな風味は、脱脂粉乳やバターミルクパウダーでは得られないものだ。水に溶かせばほぼ牛乳と同等の味わいが再現できるため、「粉末の牛乳」という表現がもっとも的確だろう。

一方、乳脂肪を含むがゆえに脱脂粉乳と比べると酸化しやすく、保存期間がやや短い。高温環境に長くさらされると脂質の酸化が進み、風味が損なわれる。保存可能期間の目安は6~9か月程度とされるが、保管環境によって大きく左右される。

製造方法としては、生乳を加熱殺菌したのち真空濃縮し、噴霧乾燥(スプレードライ)によって粉末化するのが一般的である。噴霧乾燥とは、濃縮した乳を乾燥室内に霧状に噴射し、180~200℃の熱風で瞬時に水分を飛ばす方法で、栄養成分や風味の損失を最小限に抑えることができる。このほか、回転ドラムの表面に薄く広げて乾燥させるローラー乾燥(ドラムドライ)方式もあるが、噴霧乾燥が主流となっている。

色は白色から淡いクリーム色で、サラサラとした粉末状。スッキリとした乳の香りがあり、そのまま舐めるとほのかな甘みとミルクのコクが感じられる。

用途

お菓子づくりにおいて、全脂粉乳はさまざまな場面で活躍する。

焼き菓子の分野では、クッキー、サブレ、マドレーヌ、フィナンシェなどに配合することで、乳のコクが加わり、味わいに奥行きが出る。生地に練り込むだけでなく、チョコレートガナッシュやキャラメルの原料としても使われる。ミルクチョコレートの製造においても全脂粉乳は欠かせない原材料のひとつで、カカオマスやココアバターと合わせることで、なめらかなミルク感を生み出している。

アイスクリームやソフトクリームのベースミックスにも全脂粉乳は多く用いられる。乳固形分を手軽に高められるため、液体の牛乳だけでは得にくい濃厚な味わいを安定的に実現できる。

製パンの現場でも全脂粉乳は重宝される。パン生地に加えると、乳糖による焼き色の促進、乳たんぱくによる生地の保水性向上、乳脂肪によるクラムのしっとり感といった複合的な効果が得られる。ただし、乳脂肪はグルテンの形成をやや阻害するため、配合量には注意が必要である。

液体の牛乳の代わりに使えるという利便性も見逃せない。牛乳は冷蔵保管が必須で賞味期限も短いが、全脂粉乳であれば常温で長期保存が可能であり、必要な量だけ水で溶いて使うことができる。業務用の現場では在庫管理のしやすさから、牛乳の代替として全脂粉乳を選ぶケースも多い。

さらに、コーヒー飲料やミルクティーの原材料、粉末スープやホワイトソースの素、ベビーフードや栄養補助食品など、食品加工の幅広い領域で利用されている。

主な原産国

全脂粉乳は酪農が盛んな国や地域で生産されている。

世界最大の全脂粉乳輸出国はニュージーランドである。農畜産業振興機構(alic)の資料によれば、ニュージーランドは全脂粉乳の世界輸出シェアの過半を占めており、その中核を担うのが酪農協同組合フォンテラ(Fonterra Co-operative Group)だ。フォンテラはニュージーランド最大の企業であると同時に、世界最大の乳製品輸出企業でもある。

ニュージーランドに次いで、EU諸国(オランダ、フランス、アイルランド、ドイツなど)、オーストラリア、アメリカ合衆国、アルゼンチン、ウルグアイなどが主要な生産・輸出国として知られる。

日本国内においては、北海道が生乳生産量の過半を占めているため、全脂粉乳も北海道産の生乳を原料としたものが中心となっている。よつ葉乳業、雪印メグミルク、森永乳業、明治といった大手乳業メーカーが製造を手がけている。

選び方とポイント

全脂粉乳を選ぶ際は、以下のような点に着目するとよい。

まず原材料を確認する。品質のよい全脂粉乳は「生乳」のみを原材料としている。添加物が入っていないシンプルな構成のものが、お菓子づくりには適している。

次に産地にも目を向けたい。国産(北海道産)の生乳を100%使用した製品は、トレーサビリティの面で安心感がある。海外産の製品もコストパフォーマンスに優れるものが多いが、輸入時の保管状態や賞味期限の残日数には注意が必要だ。

保存方法については、直射日光や高温多湿を避け、涼しく乾燥した場所で常温保管するのが基本となる。冷蔵庫での保管は推奨されない。冷蔵庫から出し入れする際に結露が生じやすく、その水分が粉末に吸着してダマや品質劣化の原因になるためだ。開封後は袋の口をしっかり閉じ、できるだけ早めに使い切りたい。

乳脂肪を含むため、脱脂粉乳に比べると酸化による風味の変化が起こりやすい。製造日や賞味期限を確認し、なるべく新しいものを選ぶことが望ましい。

用途に応じたサイズ選びも大切である。家庭用であれば200g~700g程度の小分けパッケージが使い勝手がよい。業務用には20kg~25kgの大袋も流通している。

また、全脂粉乳と脱脂粉乳、バターミルクパウダーの違いを理解しておくと、レシピごとに最適な粉乳を選べるようになる。コクとリッチな味わいを求めるなら全脂粉乳、あっさりとした仕上がりやさくさく感を活かしたいなら脱脂粉乳やバターミルクパウダー、というように使い分けるのがポイントだ。

メジャーな製品とメーカー名

日本国内で流通している全脂粉乳の代表的な製品をいくつか紹介する。

よつ葉乳業「よつ葉北海道全粉乳」は、製菓・製パン用途でもっとも広く知られた製品のひとつである。北海道産生乳のみを原料に使い、700g入りのアルミパッケージで一般消費者向けに販売されているほか、業務用の20kg入りも展開されている。製菓材料専門の通販サイトや製菓材料店で入手しやすく、家庭でのお菓子づくりにも人気が高い。

雪印メグミルクも業務用の全脂粉乳を製造・販売しており、20kg入りの大袋が菓子メーカーやベーカリーに納入されている。

森永乳業は脱脂粉乳(スキムミルク)の一般消費者向け製品で広く知られているが、業務用の粉乳製品も幅広く取り扱っている。

明治も同様に業務用の全脂粉乳・脱脂粉乳を製造しており、製菓・製パン業界に供給している。

海外メーカーとしては、ニュージーランドのフォンテラ(Fonterra)が世界規模での流通量が圧倒的である。フォンテラの全脂粉乳は日本にも輸入されており、食品加工メーカーの原材料として広く使われている。

このほか、アメリカ産やオーストラリア産、EU産の全脂粉乳も業務ルートを通じて国内に流通している。一般消費者が手に取る機会は限られるが、スーパーや製菓材料店で見かける輸入ミルクパウダー製品の中にも全脂タイプが含まれることがある。

歴史・由来

粉乳の歴史は意外にも古く、その原型は13世紀のモンゴル帝国にまで遡る。マルコ・ポーロの記録によれば、クビライ・カーン時代のモンゴル騎兵(タタール)は、日干しした乳の上澄みを粉末状にして軍用食として携行していたという。水を加えて糊状にして食べたと描写されており、遊牧民族の知恵として古くから馬乳や山羊乳の乾燥粉末が利用されていたことがうかがえる。

近代的な粉乳の製造技術は19世紀に確立された。1802年にロシア人医師のO.クリフスキーが粉乳の製造過程を発明し、1832年にはロシア人化学者のM.ドゥリコフによって最初の商業生産が始まったとされている。その後、1855年にはアメリカのT.S.グリムワードが粉ミルク製造の特許を取得。さらに1837年以降にはイギリスのW.ニュートンが真空乾燥技術の特許を保有しており、欧米各国で粉乳の工業化が進んでいった。

全脂粉乳の製造に革命をもたらしたのが、1872年にアメリカの化学者サミュエル・R・パーシー(Samuel R. Percy)が特許を取得した噴霧乾燥(スプレードライ)技術である。液体を霧状に噴射して熱風で乾燥させるこの方法は、1901年に実用化され、その後の改良を経て現在の製造工程の基盤となった。噴霧乾燥の登場により、品質の均一な粉乳を大量生産することが可能になり、全脂粉乳は食品工業に不可欠な原材料として定着していく。

日本における粉乳の歴史は大正時代に始まる。1916年(大正5年)に日本コナミルク株式会社が粉乳の製造を開始したのが、国内生産の端緒とされている。翌1917年(大正6年)には東京の和光堂薬局(のちの和光堂)が、加糖全脂粉乳「キノミール」を製造・販売した。これが日本初の育児用粉ミルクとされ、全脂粉乳は育児分野から日本の食文化に入ってきたことになる。

第二次世界大戦後の1946年には、学校給食に脱脂粉乳(スキムミルク)が導入され、粉乳は多くの日本人にとって身近な存在となった。この時期に普及したのは脂肪分を除いた脱脂粉乳が中心であったが、高度経済成長期以降、食品加工業の発展とともに全脂粉乳の需要も拡大していった。チョコレート、アイスクリーム、菓子パンなど、さまざまな加工食品に全脂粉乳が使われるようになり、現在に至っている。

国際的に見ると、全脂粉乳は今も世界の乳製品貿易において重要な品目のひとつである。ニュージーランドのフォンテラが開催する国際乳製品取引オークション「GDT(Global Dairy Trade)」では、全脂粉乳の取引価格が世界の乳製品市況の指標として注目されている。

免責事項

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購入・ご利用の際は必ず最新のパッケージ表示または公式情報をご確認ください。特に食物アレルギーをお持ちの方は原材料を十分にご確認の上お求めください。
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