材料の名前
日本語では「乾燥卵白」と呼ばれ、「粉末卵白」「卵白パウダー」と表記されることもある。英語では「Dried Egg White」または「Egg White Powder」、フランス語では「Blanc d’œuf en poudre」あるいは「Blanc d’œuf déshydraté」と表現される。ドイツ語では「Eiweiß-Pulver」にあたる。なお、製菓の現場では「メレンゲパウダー」という呼び名を耳にする機会も多いが、厳密には乾燥卵白とメレンゲパウダーは別物である。メレンゲパウダーは乾燥卵白にコーンスターチや増粘剤、香料などの添加物を配合した製品であり、純粋な乾燥卵白とは成分が異なる点に注意したい。製菓材料専門店では商品名に「アルブミナ」と付けて販売されるケースもあり、これは卵白の主要タンパク質であるアルブミン(albumin)に由来する名称である。
特徴
乾燥卵白とは、鶏卵から分離した卵白を加熱殺菌したのち、スプレードライ(噴霧乾燥)と呼ばれる工程で水分を飛ばし、微細な粉末にしたものである。色は乳白色からクリーム色を帯びた白で、さらさらとした粉状をしている。
最大の特徴は衛生面での安心感にある。製造過程で加熱処理を経ているため、生卵で懸念されるサルモネラ菌などの食中毒リスクが大幅に低減される。また、常温保存が可能で、未開封であれば製造から数年単位の賞味期限を持つ製品も多い。冷蔵庫のスペースを取らず、必要な量だけ計量して使える点も大きな利点といえる。
使用時の基本的な戻し方は、乾燥卵白1に対して水を7の割合で加えて混ぜ、10分以上置いてなじませること。こうすると生の液卵白とほぼ同等の状態に復元できる。ただし、いきなり水に投入するとダマになりやすいため、先にグラニュー糖や粉糖と混ぜ合わせてから水分を加えると均一に溶けやすくなる。
起泡性にも注目すべき点がある。乾燥卵白を生の卵白に少量(卵白量の1〜5%程度)添加すると、卵白の固形分濃度が高まり、メレンゲの気泡がつぶれにくくなる。とくに梅雨時や夏場など、鶏卵自体の水分量が増えて卵白が薄くなりがちな季節には、コシの強いメレンゲに仕上げるための補助剤として重宝される。
もうひとつ知っておきたい特性がある。乾燥卵白の製造工程では、褐変(メイラード反応)を防ぐために、卵白中の遊離グルコースをあらかじめ除去する処理が施される場合がある。これにより、長期保存中の変色や異臭の発生を抑え、品質の安定を保っている。
用途
乾燥卵白が最も活躍するのは製菓の分野である。具体的な用途を見ていこう。
まず、ロイヤルアイシングの材料としての使い方がある。アイシングクッキーに欠かせないロイヤルアイシングは、卵白と粉糖を練り合わせて作る。ここに乾燥卵白を使えば、生卵を使うよりも衛生的であるうえ、卵黄を余らせずに済む。粉糖200gに対して乾燥卵白5g・水30mlが基本の配合とされ、しっかりとした硬さのアイシングに仕上がる。
次に、メレンゲの安定剤としての役割がある。マカロンのように気泡の安定が命のお菓子では、生卵白に乾燥卵白を数%加えるだけで、メレンゲのキメが格段に細かくなり、つぶれにくい生地ができあがる。ダックワーズやパブロバ、ベーキングパウダーを使わないシフォンケーキなどでも同様の効果が期待できる。ココアパウダーを加えるスポンジ生地は油脂分によってメレンゲが消泡しやすいが、乾燥卵白を補助的に添加することで泡の安定性が高まる。
このほか、マシュマロの製造時にゼラチンと合わせて起泡力を与える材料として、あるいはヌガーやギモーヴの生地づくりにも利用される。業務用途では、かまぼこをはじめとする水産練り製品の弾力強化、ハム・ソーセージなどの結着補助、天ぷら粉のバッター材、麺類のコシの補強など、幅広い食品加工の現場で使われている。
家庭での製菓では、卵白が少量だけ必要なレシピに便利な存在である。卵1個分の卵白に満たない分量が必要なときに、生卵を割って卵黄を余らせる必要がないのは助かる。
主な原産国・生産国
乾燥卵白は鶏卵を原料とするため、養鶏が盛んな国々で生産されている。日本国内ではキユーピータマゴや三州食品などの大手メーカーが国産鶏卵を原料に乾燥卵白を製造しており、製菓材料店やネット通販で購入できる「国内製造」表記の製品はこれらに該当する。
一方、日本に輸入される乾燥卵白(粉卵)は、農林水産省の資料によると、その大部分をオランダ、イタリア、アメリカが占めている。ヨーロッパではEurovo(イタリア)やIgreca(フランス)といった大規模な卵製品メーカーが乾燥卵の生産を担い、EU域内外に輸出している。インドや中国も卵白粉末の生産量が多い国として知られ、特に中国は近年、全自動化された液卵加工ラインを備えた大規模工場が稼働しており、世界市場でのプレゼンスを高めている。
日本に輸入される卵白粉は、かまぼこなどの水産練り製品や菓子・菓子パンの原料向けが中心で、輸入量全体のうち約9割が粉卵として流通している。
選び方とポイント
製菓用に乾燥卵白を購入する際は、いくつかのポイントを押さえておくとよい。
第一に、原材料表示を確認すること。純粋な乾燥卵白であれば、原材料は「卵白」のみ、もしくは加工助剤として「クエン酸」が記載される程度である。メレンゲパウダーとして販売されている製品にはコーンスターチや増粘剤、香料が添加されており、用途によって使い分ける必要がある。アイシングクッキーの白さを重視するならメレンゲパウダーが向いているし、マカロンやシフォンケーキなどのメレンゲ安定剤として使うなら、添加物のない純粋な乾燥卵白のほうが適している。
第二に、タイプの違いを理解しておくこと。たとえばキユーピータマゴの製品には「Wタイプ」と「Kタイプ」がある。Wタイプは起泡性に優れ、きめ細かくコシの強いメレンゲが作れる。一方、Kタイプは凝固力・結着力に優れ、水産練り製品やハムなどの加工食品向きである。製菓目的であればWタイプを選ぶのが基本となる。
第三に、保存方法と使用期限に注意すること。直射日光と高温多湿を避け、冷暗所で保管するのが原則である。未開封であれば賞味期限は長めに設定されているものの、開封後は湿気を吸いやすいため、密閉容器に移して早めに使い切りたい。
第四に、使用量の目安を把握しておくこと。メレンゲの補助として使う場合、生卵白に対して1〜5%が一般的な添加量である。入れすぎると食感が硬くなったり、卵白特有の風味が強まったりするため、レシピの指示に従うか、少量から試すのが安全だ。
メジャーな製品とメーカー名
日本国内で流通している主な乾燥卵白製品は以下のとおりである。
キユーピータマゴ株式会社が製造する「乾燥卵白 Wタイプ」は、製菓業界で広く使われている業務用製品のひとつ。起泡性に優れ、1kg入りで流通しているほか、製菓材料専門店cotta(コッタ)や富澤商店を通じて小分け販売もされている。同社にはKタイプ(凝固・結着力重視)やMタイプなどの製品ラインナップがある。
株式会社きくやが販売する「乾燥卵白 100g」は、家庭での製菓に手頃なサイズとして人気がある。原産国は日本で、Amazonや楽天市場などのネット通販で入手しやすい。
NICHIGA(ニチガ)の「卵白粉末(国内製造)」は、150g・500g・1.5kgと容量のバリエーションが豊富。卵白100%で着色料・保存料・香料不使用と明記されており、健康志向の消費者やプロテイン補給目的の購入者にも支持されている。
三州食品株式会社は業務用乾燥卵の専門メーカーで、乾燥全卵・乾燥卵白・乾燥卵黄を世界各地の供給拠点から安定的に供給している。25kg段ボールや15kgクラフト包装の大口パッケージが中心で、食品メーカーや製パン工場などへの納入が主な販路である。
太陽化学株式会社は乾燥卵白をベースに、ゲル化強度や保水性を調整した機能性粉末卵製品を展開しており、食品加工メーカー向けに特化した提案を行っている。
海外メーカーでは、アメリカのWilton(ウィルトン)が販売する「メレンゲパウダー」が日本でも広く知られている。113g入りの缶で、富澤商店やcottaなどで取り扱いがある。こちらは乾燥卵白にコーンスターチなどを配合した製品で、アイシングクッキーやシュガークラフトの愛好者から支持が高い。真っ白な仕上がりが特長で、着色時に色味がきれいに出る。
歴史・由来
乾燥卵の歴史は、19世紀後半のアメリカにまでさかのぼる。1870年代にW.O.ストダードがミズーリ州セントルイスで卵の乾燥に関する特許を複数取得し、卵の乾燥事業を開始したのが商業生産の始まりとされている。当時の製法はパン乾燥(ベルト乾燥)方式で、卵液を薄く広げて熱風で乾かすというものだった。
その後、1889年にチャールズ・ラモントが卵のスプレードライ(噴霧乾燥)に関する特許を取得。液体を微細な霧状にして熱風中で急速乾燥させるこの方法は、粉ミルクの製造にも用いられる技術であり、現在の乾燥卵白製造の主流となっている基盤技術である。なお、スプレードライ技術そのものは1872年にサミュエル・パーシーが発明したとされる。
19世紀末から20世紀初頭にかけて、中国でもパン乾燥方式による卵の乾燥工場が多数稼働した。低コストで生産される中国産乾燥卵がアメリカ市場に流入したため、アメリカ国内の乾燥卵事業は一時縮小した。しかし、1920年代に中国産卵への関税が引き上げられたことで、アメリカ国内での乾燥卵生産が再び活発化する。
乾燥卵の需要が爆発的に拡大したのは第二次世界大戦中のことである。軍の食料として大量の粉末卵が求められ、1942年から1946年にかけてのアメリカにおける乾燥卵の年間平均生産量は約2億900万ポンド(約9万5千トン)にのぼった。1944年のピーク時にはスプレードライ工場が135か所以上稼働し、同年だけで約3億ポンドが生産されたと記録されている。イギリスでも戦時中の食料配給制度の下で粉末卵が広く使われた。
卵白のみの乾燥については、1930年代まではパン乾燥方式しか使えないと考えられていた。卵白のスプレードライが試みられたのは1930年代末で、その後1940年代後半にケーキミックスメーカーからの需要を受けて、乾燥卵白の本格的な量産が始まった。この過程で、乾燥前にグルコースを除去してメイラード反応による褐変を防ぐ技術や、起泡性を維持するための添加物(ラウリル硫酸ナトリウム、クエン酸トリエチルなど)の配合技術が確立されていった。
現代ではフリーズドライ(凍結乾燥)によって製造される乾燥卵白もある。スプレードライに比べて起泡力の維持に優れるとされるが、コストが高いため流通量はスプレードライ製品が圧倒的に多い。
日本における乾燥卵白の普及は、製菓技術の進歩とともに進んだ。家庭用としてはアイシングクッキーブームが追い風となり、2010年代以降は製菓材料通販サイトの充実もあって、一般の菓子愛好家にも身近な材料となっている。
