材料の名前
日本語では「凍結卵白(とうけつらんぱく)」、あるいは「冷凍卵白」と呼ばれる。業界内では「殺菌凍結卵白」や「殺菌加工凍結卵白」という呼称も広く使われている。英語では「Frozen Egg White」、フランス語では「Blanc d’œuf congelé(ブラン・ドゥフ・コンジュレ)」にあたる。製菓の世界はフランス語の影響が大きく、メニューや技術書ではフランス語表記を目にする場面もある。
製品分類としては「加工卵(かこうらん)」の一種にあたり、鶏卵を割って取り出した卵白液を殺菌処理したのち、急速凍結してパック詰めした半加工品である。
特徴
凍結卵白の最大の特徴は、起泡性に優れている点にある。新鮮な鶏卵から機械で卵黄と卵白を分離し、殺菌したうえで-30℃以下で急速凍結して製造される。殺菌には低温保持殺菌法(パスチャライゼーション)が用いられ、食品衛生法の製造基準では、液状卵白を連続式で殺菌する場合「56℃で3分30秒間以上」、バッチ式の場合は「54℃で10分間以上」の加熱が必要と定められている。卵白のタンパク質は熱に敏感で、高温にしすぎると凝固して機能を失うため、卵黄や全卵よりも低い温度帯で慎重に殺菌されている。
生の殻付き卵から取り出した卵白は、鮮度や鶏の個体差によって起泡性にばらつきが出やすい。一方、凍結卵白は工場で均質化されているため、年間を通じて安定した泡立ちが得られる点がプロの製菓現場で高く評価されている。とくに製菓用として販売されている製品は、きめ細かくコシの強いメレンゲが立つよう配合や殺菌条件が調整されており、マカロンやシフォンケーキなどの仕上がりが安定しやすい。
保存は-18℃以下の冷凍庫で行い、賞味期限は製品によって異なるが、おおむね製造日から1年半~2年程度に設定されているものが多い。例えばキユーピーの「凍結卵白(製菓用)」は賞味期間18か月、三州食品の「PP殺菌凍結卵白(製菓用)」は製造日より2年間とされている。
解凍は、流水解凍か冷蔵庫内での自然解凍が推奨されている。三州食品の製品では「一晩冷蔵庫にて解凍するか、3時間の流水解凍」という目安が示されている。一度解凍した卵白は再凍結せず、0~5℃の冷蔵保管で翌日中に使い切るのが鉄則だ。
凍結によって卵白にはある種の変性が起きることも知られている。Wikipediaの「加工卵」の項目には「卵白の粘度が低下して起泡性が低下する」という凍結変性の記述がある。ただし、製菓用として販売されている凍結卵白は、こうした変性をカバーするために原材料に工夫が施されている場合がある。キユーピーの製菓用凍結卵白には、品質安定のために微量の食塩と環状オリゴ糖が添加されている。
卵白の主要なタンパク質はオボアルブミンで、全タンパク質の約54%を占める。このオボアルブミンが空気に触れると膜状に固くなり、泡をコーティングして壊れにくくする「空気変性」という働きを持つ。さらにオボグロブリンが起泡を助け、オボムチンが泡の安定性を高める。これら複数のタンパク質が連携することで、卵白はメレンゲという独特の構造を作り上げる。凍結卵白を製菓に用いる際も、この仕組みは変わらない。
用途
凍結卵白が活躍する場面は幅広い。最も代表的なのは、メレンゲを土台とする焼き菓子の世界である。
マカロンは、アーモンドパウダーと粉糖、そしてメレンゲを合わせたシンプルな生地だが、メレンゲの品質によって仕上がりが大きく左右される。凍結卵白はロットごとの品質差が小さいため、マカロンのピエ(フリルのような裾部分)が安定して出やすい。
シフォンケーキもメレンゲの仕込みが生命線のお菓子である。しっかりとしたコシのあるメレンゲを作れるかどうかで、ふんわり感が決まる。凍結卵白なら、泡立ちのムラを抑えてふっくらとした生地を安定的に仕込める。
ダックワーズは、メレンゲにアーモンドパウダーと砂糖を加えて焼き上げるフランス菓子だ。外はサクッと、中はしっとりした食感を生み出すにはメレンゲの状態がカギとなるため、凍結卵白の均一な品質が役立つ。
フィナンシェやラングドシャなど、メレンゲにせずそのまま卵白を混ぜ込むタイプの焼き菓子にも使用される。フィナンシェでは卵白と焦がしバター、アーモンドパウダーを合わせるが、卵白の鮮度や品質が焼き色や風味に影響するため、均質な凍結卵白を使うメリットがある。
スフレやムースのように、加熱して膨らませる菓子やゼラチンで固める冷菓でも利用されている。また、ヌガーやギモーヴ(マシュマロ)など砂糖菓子の製造で、イタリアンメレンゲやスイスメレンゲの材料としても欠かせない。
さらに製菓以外では、製パン分野でふわふわのパンケーキを作る際に使われたり、医薬品のカプセル原料に卵白液が使われたりする例もある。
主な原産国
凍結卵白の原料となる鶏卵は、日本国内で生産されたものが主に使用されている。JA全農たまごの資料によると、日本の鶏卵自給率は重量ベースで約97%と高水準で、国産卵を原料とした加工卵製品が流通の中心となっている。キユーピーには「九州産の鶏卵使用」と明記した製品もあり、三州食品のPP殺菌凍結卵白も原材料欄に「卵白(国産)」と記載されている。
世界の鶏卵生産量を見ると、中国が圧倒的な首位で、インド、インドネシア、アメリカが続く。日本は年間生産量で上位にランクインし、一人あたりの卵消費量でも世界トップクラスの水準を維持してきた。こうした消費の厚みがあるからこそ、凍結卵白のような加工卵製品の国内製造基盤も成り立っている。
農林水産省の資料によると、日本国内の鶏卵出荷量のうち約20%が加工卵として消費されている(2006年度の統計)。業務用の液卵や凍結卵はこの加工卵に分類され、製菓・製パン・製麺・マヨネーズなどの食品加工産業で幅広く利用されている。
液卵の輸入については粉卵(乾燥卵白)が一定量輸入されているほか、鳥インフルエンザの流行や卵価格高騰の際にはブラジル産の液卵をキユーピーが輸入したケースが報道されるなど、供給状況に応じて海外産が補完的に使われることもある。
選び方とポイント
凍結卵白を選ぶ際に意識したい点をいくつか挙げる。
まず、用途に合った製品かどうかの確認が欠かせない。製品名に「製菓用」と表記されたものは、メレンゲの起泡性やコシを重視した設計になっている。料理全般向けの凍結卵白とは配合や殺菌条件が異なる場合があるため、お菓子作りを目的とするなら製菓用を選ぶのが無難だ。
次に、原材料表示の確認である。キユーピーの製菓用凍結卵白には食塩と環状オリゴ糖が含まれている一方、三州食品のPP殺菌凍結卵白(製菓用)は原材料が「卵白(国産)」で、添加物として増粘多糖類が含まれている。中沢乳業の「ヴィエンヌ」は独自の高温殺菌システムを採用しており、他社よりやや高めの温度で殺菌している点が特徴だ。このように、メーカーごとに処方や殺菌方法が異なるため、作りたいお菓子や自分の好みに合った製品を試しながら見つけることが大切になる。
容量も選択のポイントになる。業務用では1kgや1.8kgのパックが主流だが、キユーピーからは500gの小パック製品も出ている。家庭で少量だけ使いたい場合は、500gのほうが扱いやすい。一度解凍すると翌日中に使い切る必要があるため、使用量に見合ったサイズを選ぶことが食品ロス削減にもつながる。
保管状態の確認も見落とせない。購入時に一部が溶けていたり、パッケージに霜が大量に付着していたりする場合は、流通過程で温度管理に問題があった可能性がある。こうした製品は起泡性の低下や衛生面のリスクにつながるため、避けたほうが安心だ。
メジャーな製品とメーカー名
日本国内で流通している代表的な凍結卵白製品とメーカーを紹介する。
キユーピー(キユーピータマゴ株式会社)は、液卵・加工卵のトップメーカーであり、マヨネーズ製造で大量の卵黄を使用する過程で余剰となる卵白を有効活用するかたちで、卵白製品を幅広く展開している。「凍結卵白(製菓用)」は500g、1kg、1.8kgの3サイズで販売され、多くの製菓店やパン屋で使われている定番製品だ。原材料は卵白、食塩、環状オリゴ糖。賞味期間は18か月に設定されている。
三州食品株式会社は、愛知県に本社を置く液卵メーカーで、「PP殺菌凍結卵白(製菓用)」を1kgパックで販売している。こちらは製菓材料の専門店である富澤商店(TOMIZ)の店頭やオンラインショップで個人向けにも入手しやすい製品として知られる。原材料は卵白(国産)と増粘多糖類で、賞味期限は製造日より2年間。
中沢乳業株式会社は、生クリームで有名な乳製品メーカーだが、製菓用の卵製品も手がけている。殺菌冷凍卵白「ヴィエンヌ」は1kgパックで販売され、きめの細かいなめらかなメレンゲが作れると評判が高い。他社よりも高めの温度で殺菌する独自のシステムを採用し、衛生面を重視した設計がプロのパティシエから支持を受けている。
イフジ産業株式会社は、液卵の専業メーカーとしては国内最大手で、福岡県に本社を構える。全国4か所に製造拠点を持ち、全卵・卵黄・卵白を生液卵・凍結卵のかたちで製造・販売している。業界内では「独立系液卵メーカーとして日本一のシェア」を自負しており、液卵市場全体ではキユーピーに次ぐ2位の位置づけにある。直接消費者に販売する製品は少ないものの、製菓・製パン業界への安定供給を支える存在として大きな役割を果たしている。
歴史・由来
凍結卵白を含む加工卵の歴史は、近代的な食品加工技術の発展と深く結びついている。
卵そのものの食用の歴史は古く、日本には約2,500年前に中国大陸から朝鮮半島を経由して鶏が伝えられたとされる。ただし、仏教の影響で肉食を避ける風習が長く続いたため、鶏卵が一般に食べられるようになったのは江戸時代以降のことだ。
鶏卵を割って中身を取り出し、液状のまま加工・保存する「液卵」や「凍結卵」の技術は、20世紀に入ってから本格化した。欧米ではルイ・パスツールが1860年代に確立した低温殺菌法(パスチャライゼーション)が食品保存の基盤となり、やがて卵にも応用されるようになった。アメリカでは20世紀前半から卵の工業的な加工が進み、液卵の殺菌や凍結の技術が発展していった。
日本では、第二次世界大戦後の食品産業の急速な発展のなかで、加工卵の需要が高まった。養鶏産業の規模拡大と歩調を合わせるように、液卵・凍結卵の製造体制が整えられていった。イフジ産業の前身が1964年に養鶏場として創業し、1972年に卵の加工事業へ特化したという経緯は、こうした時代の流れを象徴している。
食品衛生法に基づく液卵の製造基準が整備されたのは1990年代以降である。1993年(平成5年)には「液卵の製造等に係る衛生確保について」という厚生省(当時)の通知が出され、殺菌温度や保管温度の基準が明確化された。さらに1998年(平成10年)には、卵によるサルモネラ食中毒の防止を目的として規格基準が強化され、殺菌液卵の製造基準に連続式・バッチ式それぞれの温度と時間が詳しく定められた。
こうした衛生管理の確立により、凍結卵白は安全性と品質が保証された製菓原材料として定着していった。近年では2022年末から2023年にかけての鳥インフルエンザ流行による卵不足・卵価格高騰の影響で、液卵や凍結卵の安定供給が改めて注目を集めた。殻付き卵と異なり長期保存が可能な凍結卵は、供給が不安定な時期にもストック材料として製造を維持できるため、そのインフラとしての価値が再認識されている。
