材料の名前

日本語では「メレンゲパウダー」と呼ばれるこの製菓材料は、英語では “Meringue Powder” と表記される。日本国内では「乾燥卵白」という名称で販売されることもあるが、厳密にいえば両者は同じものではない。乾燥卵白(英語では Dried Egg Whites / Powdered Egg Whites)は卵白だけを乾燥させた純粋な粉末であるのに対し、メレンゲパウダーはその乾燥卵白にコーンスターチや砂糖、アラビアガム(安定剤)、クエン酸、酒石酸水素カリウム(クリームオブタータ)、香料などの副原料をあらかじめ配合した調合品である。つまりメレンゲパウダーは「メレンゲを簡単につくるための調合粉末」であり、乾燥卵白はその主原料にあたる。ただし日本の製菓材料店では、cottaや富澤商店のように乾燥卵白を「メレンゲパウダー」の名称で販売しているケースもあるため、購入時には原材料表示を確認するのが賢明だ。フランス語圏では “Poudre de meringue”、イタリア語圏では “Polvere di meringa” と呼ばれることがある。なお、イタリアでは乾燥卵白を「アルブミナ(Albumina)」と呼ぶ慣習があり、富澤商店が取り扱うイタリア産の乾燥卵白もこの名称で販売されている。

特徴

メレンゲパウダーの最大の特徴は、生の卵白を使わずに安定した泡立ちが得られる点にある。生卵白は温度や湿度の影響を受けやすく、鮮度によって起泡力にばらつきが出やすい。メレンゲパウダーを使えば、水と粉砂糖を加えて混ぜるだけで、均一な品質のメレンゲやロイヤルアイシングを再現できる。

保存性の高さも見逃せない。生卵白は冷蔵保存で数日しかもたないが、メレンゲパウダーは未開封であれば常温で約12か月、開封後も密閉容器に入れて冷暗所に保管すれば数か月は品質を維持できる。冷凍保存であればさらに長期間の保管が可能とされている。粉末なので計量もしやすく、使いたい分だけ取り出せるため、卵白が中途半端に余ってしまう悩みからも解放される。

安全面でも優位性がある。生卵白にはサルモネラ菌による食中毒リスクがわずかながら存在するが、メレンゲパウダーに使用される乾燥卵白は製造過程で加熱殺菌(パスチャライズ処理)されているため、加熱調理しないロイヤルアイシングなどにも安心して使える。アイシングクッキーをプレゼントやイベントで配る機会が増えた近年、この安全性は大きなメリットといえる。

外観はクリーム色がかった白い粉末で、メーカーによってはバニラ系の香料が加えられているため、ほんのり甘い香りがするものもある。水に溶かすと卵白のようなとろみのある液体に戻り、ハンドミキサーやスタンドミキサーで泡立てると、きめ細やかで腰の強い泡が立つ。

用途

メレンゲパウダーの代表的な用途は、大きく分けて三つある。

一つめはロイヤルアイシングの材料として。ロイヤルアイシングとは、粉砂糖と卵白(またはメレンゲパウダー)を混ぜて作る、乾くと固くなるタイプのアイシングだ。アイシングクッキーのデコレーションには欠かせない素材で、繊細な線描きから面塗りまで幅広い表現に対応する。メレンゲパウダーを使うと、生卵白よりも白く仕上がり、乾燥後の光沢(シーン)も美しいとされている。

二つめはメレンゲ菓子やメレンゲクッキーの材料として。水に溶いたメレンゲパウダーに砂糖を加えて泡立て、絞り出してからオーブンで低温乾燥させれば、サクサクと軽い食感のメレンゲ菓子に仕上がる。レモンメレンゲパイのトッピングにも活用できる。

三つめはメレンゲの補助剤として。シフォンケーキやマカロン、ダックワーズなど、メレンゲの品質が仕上がりを大きく左右する焼き菓子では、生卵白に少量の乾燥卵白を加えることで気泡の安定性が格段に向上する。卵白に対して1~5%程度を加えるのが一般的な目安とされており、cottaの公式サイトでもこの使い方が推奨されている。特にココア生地のシフォンケーキのように油脂分が泡を壊しやすい配合では、乾燥卵白を加えたメレンゲの効果を実感しやすい。

そのほかにも、バタークリームフロスティングに少量加えて安定性を高めたり、マシュマロやヌガーの製造に使ったりと、プロのパティシエから家庭のお菓子づくり愛好家まで、幅広い層に活用されている。

主な原産国

メレンゲパウダーの主原料である乾燥卵白は、鶏卵の生産が盛んな国で製造されている。世界の鶏卵生産量で上位に位置する中国やアメリカ、インドは、乾燥卵白の主要な供給国でもある。ヨーロッパではフランス、オランダ、ドイツなどが卵加工品の生産・輸出で知られている。

製品としてのメレンゲパウダー(乾燥卵白に副原料を配合したもの)は、アメリカのメーカーが市場を牽引してきた。代表格であるウィルトン社をはじめ、ジュディーズ(Judee’s)、シェフマスター(Chefmaster)、ロランオイルズ(LorAnn Oils)といったアメリカのメーカーが製造・販売しており、北米を中心に世界各国へ流通している。

日本国内で販売される乾燥卵白は、国内産の卵を使用して国内で製造されたもの(cottaの乾燥卵白など)のほか、イタリアから輸入された「アルブミナ」(富澤商店で取り扱い)なども流通している。

選び方とポイント

メレンゲパウダーを選ぶ際にまず確認したいのは、原材料の構成だ。先に述べたとおり、「メレンゲパウダー」と「乾燥卵白」は厳密には異なる製品である。ウィルトン社のメレンゲパウダーのように、コーンスターチ・砂糖・アラビアガム・クリームオブタータ・香料などが配合された調合品は、水と粉砂糖を加えるだけで手軽にロイヤルアイシングが作れる。一方、cottaや富澤商店の乾燥卵白は原材料が卵白のみ(あるいは卵白+加工助剤のクエン酸程度)なので、自分で砂糖や安定剤の量を調整したい人や、シフォンケーキのメレンゲ補助剤として使いたい人に向いている。

用途に応じた選び分けもポイントになる。アイシングクッキーが主目的なら、ロイヤルアイシング用に配合が最適化されたウィルトンやジュディーズのメレンゲパウダーが使いやすい。焼き菓子のメレンゲ補助に使うなら、余計な添加物が入っていない純粋な乾燥卵白が適している。

アレルギー表示への注意も忘れてはならない。メレンゲパウダーには卵が含まれるのはもちろんだが、メーカーによってはコーンスターチ(トウモロコシ由来)や小麦デンプンが使われている場合がある。グルテンフリーが必要な場合は、ジュディーズの製品のようにグルテンフリーを明示している製品を選ぶとよい。

保存性の観点では、湿気を嫌う粉末製品であるため、チャック付きの袋や密閉蓋つきの容器に入っている製品が扱いやすい。少量しか使わない場合は、20~30g入りの小パックから試してみるのがおすすめだ。開封後は乾燥剤を入れた密閉容器に移し替え、高温多湿を避けて保管するのが基本となる。

メジャーな製品とメーカー名

メレンゲパウダーおよび乾燥卵白の市場には、以下のようなメジャーブランドが存在する。

ウィルトン(Wilton)はアメリカ・イリノイ州に本拠を置くケーキデコレーション用品の老舗ブランドで、メレンゲパウダーの分野では世界的に最もよく知られた存在だ。原材料はコーンスターチ、乾燥卵白、砂糖、アラビアガム、硫酸カルシウム、クエン酸、クリームオブタータ、香料、二酸化ケイ素で構成される。4オンス(約113g)と16オンス(約454g)のサイズ展開があり、日本国内でも富澤商店やAmazonなどで正規輸入品が手に入る。ロイヤルアイシングを作る際のスタンダードとして、多くのアイシングクッキー教室で採用されてきた。

ジュディーズ(Judee’s)はアメリカのメーカーで、グルテンフリー・ナッツフリーのメレンゲパウダーを製造している。バニラ風味が穏やかで、クリーンな原材料へのこだわりが特徴。クッキーデコレーターのコミュニティで人気が高い。

シェフマスター(Chefmaster)はカリフォルニア州を拠点とするメーカーで、非GMO原材料やケージフリー(放し飼い)の卵白を使用した「デラックスメレンゲパウダー」を販売している。プロのパティシエ向け製品を多く手がけており、品質に対する評価が高い。

ジーニーズドリーム(Genie’s Dream)は比較的新しいブランドながら、北米のクッキーデコレーターの間で急速に支持を広げている。風味の良さとアイシングの仕上がりの美しさで知られる。

ロランオイルズ(LorAnn Oils)はフレーバーオイルの専門メーカーとして知られるが、メレンゲパウダーも製品ラインナップに含まれている。コーンスターチ、乾燥卵白、砂糖、アラビアガムなどを原材料とし、手頃な価格帯で販売されている。

日本国内メーカーとしては、cotta(コッタ)が国内製造の乾燥卵白を販売している。原材料は「卵白(国内製造)」のみとシンプルで、20gと100gのパッケージがある。製菓材料のECサイト大手であるcottaの自社ブランド商品として、アイシングやシフォンケーキなど多用途に使われている。富澤商店(TOMIZ)では、イタリア産の乾燥卵白「アルブミナ」を30g入りパッケージで取り扱っている。原材料は卵たんぱくのみで、水に対して5~10%を加えて泡立てるとメレンゲになる。

なお、アメリカで長年にわたりアイシング用品メーカーとして親しまれてきたCKプロダクツ(CK Products)は、2024年から2025年にかけて事業を終了したとされており、同社のメレンゲパウダーは現在新規入手が困難な状況にある。

歴史・由来

メレンゲパウダーの歴史を語るには、その原料である乾燥卵白の技術史を遡る必要がある。

卵を乾燥させて保存するという発想は19世紀後半にまで遡ることができる。1865年、アメリカのチャールズ・ラモントが、卵を微細な液滴にして熱風で急速乾燥させる手法を考案した。これは現在の「スプレードライ(噴霧乾燥)」法の原型にあたるもので、食品の粉末化技術の先駆けとなった。その後、1872年にサミュエル・パーシーがスプレードライ法の特許を取得し、粉乳をはじめとする食品乾燥技術は急速に発展していく。1890年代には、アメリカ国内で乾燥卵の広告が登場しており、ラモント社の「クリスタライズドエッグ」が鉱山労働者や遠征隊向けの保存食として販売されていた記録が残っている。

乾燥卵の技術が大きく飛躍したのは、第二次世界大戦中のことだ。イギリスでは1942年から食料配給制の一環として乾燥卵が広く普及した。アメリカから大量に輸出された乾燥卵粉末は、生卵と比べて輸送スペースが約5分の1で済み、冷蔵も不要だったため、軍の食糧補給にとって欠かせない物資となった。戦時中にイギリス政府が乾燥卵に関する特許の制限を緩和したことで、アメリカの複数の企業が粉末卵の量産に乗り出し、製造技術がさらに洗練された。

「メレンゲパウダー」、すなわち乾燥卵白に安定剤や糖類などを配合した調合粉末の概念は、20世紀半ばに登場した。1950年にアメリカで取得された特許(US2524333A)には、乳粉末や中性塩、酸性物質を組み合わせたメレンゲ用ドライミックスの製法が記載されている。この特許では卵白を使わない代替配合が提案されていたが、その後、乾燥卵白をベースとしたメレンゲパウダーが主流となっていく。

ケーキデコレーション文化の普及も、メレンゲパウダーの需要拡大に一役買った。1929年、シカゴの菓子職人デューイ・マッキンリー・ウィルトンが、自宅のダイニングルームでケーキデコレーション教室を開いたのがウィルトン社の始まりである。その後、ウィルトンはケーキデコレーション用品の製造に進出し、1959年に最初の製品を発売。やがてメレンゲパウダーも製品ラインナップに加わり、同社のデコレーション教室と合わせて北米全土にロイヤルアイシング文化を広める推進力となった。

日本でメレンゲパウダーや乾燥卵白が一般の家庭菓子づくり愛好家に広く知られるようになったのは、2010年代以降のアイシングクッキーブームがきっかけといえる。SNSの普及によって華やかなアイシングクッキーの写真が拡散し、自宅で作りたいという需要が急増したことで、ウィルトンのメレンゲパウダーや国内メーカーの乾燥卵白が製菓材料店の定番商品として定着していった。

現在では、食物アレルギーや健康志向の高まりを背景に、非GMO原材料やケージフリー卵を使用したメレンゲパウダー、グルテンフリー対応製品なども登場し、選択肢は年々広がっている。お菓子づくりにおける「縁の下の力持ち」ともいえるこの粉末は、プロの厨房から家庭のキッチンまで、今後もさまざまな場面で活躍し続けるだろう。

免責事項

商品紹介等については、公式サイトおよび公開情報を基に作成しております。
記載内容は掲載時時点での参考値です。商品仕様は予告なく変更される場合があります。
購入・ご利用の際は必ず最新のパッケージ表示または公式情報をご確認ください。特に食物アレルギーをお持ちの方は原材料を十分にご確認の上お求めください。
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