材料の名前
日本語では「アーモンドプラリネ」と呼ばれる。フランス語では「プラリネ・ダマンド(praliné d’amande)」と表記し、砕いた粒状のものとペースト状のもの(プラリネマッセ)を総称してこの名で扱う。英語圏では「アーモンドプラリン(almond praline)」と発音されることが多く、ドイツ語では「プラリネ(Praline)」がそのまま通用する。日本の製菓業界で定着している「プラリネ」という読み方は、実はドイツ語由来の発音であり、フランス語本来の読みは「プラリネ」ではなく「プラリーヌ」に近い。ただし、フランス語で「praliné(アクサン付き)」と書けばキャラメリゼしたナッツやそのペーストを指し、「praline(アクサンなし)」と書くとキャラメリゼしたナッツ粒そのものを指すなど、綴りの違いで意味合いが微妙に変わる点にも注意が必要である。
特徴
アーモンドプラリネとは、ローストした皮付きアーモンドに砂糖を加え、加熱してキャラメリゼ(カラメル化)したものを砕いた製菓用原材料のことである。これをさらにローラーやフードプロセッサーで滑らかに挽いてペースト状にしたものは「アーモンドプラリネマッセ」や「アーモンドプラリネペースト」と呼ばれ、製菓の現場ではむしろこちらの形態のほうがよく流通している。
味わいの最大の特徴は、アーモンドの香ばしさと砂糖のキャラメル風味が一体になった濃厚なコクにある。ヘーゼルナッツで作るプラリネと比べると、アーモンドプラリネのほうがやや穏やかで上品な甘みを持ち、色合いも淡い金色に仕上がる傾向がある。ヘーゼルナッツプラリネが力強いナッツの個性を前面に出すのに対し、アーモンドプラリネはほかの素材との調和を取りやすく、チョコレートやバタークリーム、生クリームなど幅広い相手と馴染みがよいとされる。
粒状のアーモンドプラリネは、カリカリとした食感がアクセントになるため、トッピングや生地への練り込みに向いている。ペースト状のプラリネマッセは、口の中でとろけるような滑らかさがあり、ムースやクリーム、ボンボンショコラのセンター(中身)などに幅広く使われる。
なお、プラリネと混同されやすい素材に「ジャンドゥーヤ」がある。ジャンドゥーヤはイタリア発祥で、ローストしたナッツのペーストと砂糖を合わせたあとにチョコレートを混ぜて作る。キャラメリゼの工程を経ないため、プラリネとは風味の方向性が異なる。プラリネには砂糖の焦がしによるほろ苦さや深みがある一方、ジャンドゥーヤはナッツそのものの風味とチョコレートの甘みがストレートに感じられるという違いがある。
用途
製菓・製パンの現場において、アーモンドプラリネは多彩な用途を持つ素材として重宝されている。
まず代表的な使い方が、ボンボンショコラのセンターへの利用である。ペースト状のアーモンドプラリネをテンパリングしたチョコレートと合わせ、型に流し込んで固めると、口の中でナッツの風味がふわっと広がる上品なショコラに仕上がる。ベルギーやフランスの老舗ショコラトリーでは、このプラリネのレシピが店の看板を背負う存在になっていることも珍しくない。
パティスリーの定番であるパリ=ブレストにも、アーモンドプラリネは欠かせない。シュー生地のリング型にプラリネ入りのバタークリーム(クレーム・オ・ブール・プラリネ)やプラリネ入りのムースリーヌクリームを絞り込むのが伝統的なスタイルで、キャラメルの香ばしさがシュー生地の軽さと絶妙に調和する。
また、ムースやババロアに混ぜ込んでプラリネ風味のデザートを作ったり、アイスクリームのベースに加えてナッツの芳醇な味わいを引き出したりすることもできる。焼き菓子との相性もよく、クッキーやサブレの生地に粒状のプラリネを練り込めば、食感と味の両面にアクセントが生まれる。
製パンの分野でも、デニッシュやブリオッシュのフィリングとして使われるほか、表面にトッピングすることでカリカリとした食感と見た目の華やかさを加えることができる。
このように、粒状とペースト状という二つの形態があるおかげで、アーモンドプラリネは焼き菓子から冷菓、チョコレート、パンまで幅広いジャンルで活躍する万能な素材だといえる。
主な原産国
アーモンドプラリネの品質を左右する最大の要因は、原料であるアーモンドの産地と品種にある。
世界のアーモンド生産量で圧倒的な首位を走るのはアメリカ合衆国、とりわけカリフォルニア州である。カリフォルニア産アーモンドは「ノンパレル」をはじめとする多くの品種が栽培されており、粒ぞろいのよさと安定した供給量から、日本国内で販売されている製菓用アーモンドプラリネの多くにもカリフォルニア産アーモンドが使われている。富澤商店が販売するアーモンドプラリネペーストの原料もアメリカ産アーモンドと表記されている。
ヨーロッパに目を向けると、スペインが世界第2位の生産国として知られる。フランスの高級チョコレートメーカーであるヴェイス社のプラリネには、スペイン・バレンシア産アーモンドとイタリア産ヘーゼルナッツが使用されている。バレンシア種のアーモンドは風味が濃く、プラリネに加工した際にナッツの個性がしっかり残るとして、フランスのパティシエから根強い支持を集めている。
イタリア、トルコ、モロッコ、イラン、オーストラリアなどもアーモンドの産地として名が挙がるが、プラリネの原料として主に流通しているのはカリフォルニア産とスペイン産が中心である。
砂糖とアーモンドを合わせて加工するプラリネ自体の製造国としては、フランスが本場であり、カカオバリー(ベルギー/フランス)、ヴァローナ(フランス)、ヴェイス(フランス)といったメーカーがヨーロッパ市場を牽引している。日本国内では正栄食品工業やサガミ産業などが業務用プラリネを製造しており、国産プラリネの選択肢も充実している。
選び方とポイント
アーモンドプラリネを選ぶ際には、いくつかの着目点がある。
まず確認したいのが、ナッツと砂糖の配合比率である。業務用プラリネは「50/50」のように、ナッツの割合がパーセンテージで表示されていることが多い。ナッツの比率が高いほど風味が濃厚になり、逆に砂糖の比率が高いとキャラメル感が強くなる。ヴァローナには60%のアーモンドプラリネもあり、甘さ控えめでナッツの味がダイレクトに伝わるタイプとして人気がある。用途や好みに合わせて選び分けるのがよいだろう。
次に確認すべきは、植物油脂の有無である。正栄食品工業の「アーモンドプラリネマッセRE」のように、アーモンドと砂糖だけで作られた製品もあれば、コストを抑えるために植物油脂が添加された製品もある。油脂を加えると作業性が向上し、なめらかなテクスチャーが得られる反面、ナッツ本来の風味がやや弱まる傾向がある。仕上がりの味を重視するなら、原材料がシンプルな製品を選ぶのが一つの指針になる。
粒状かペースト状かという形態の違いも、用途に応じて選ぶ必要がある。トッピングや生地への混ぜ込みなど食感を活かしたい場合は粗挽きの粒状タイプ、ムースやクリームへの均一な混合を求めるならペースト状のプラリネマッセが適している。カカオバリーの「クランチー・プラリネ」のように、ペーストの中にナッツの粒が残されたタイプもあるので、食感と滑らかさの両方を求める場合はそうした製品も選択肢に入る。
保存面では、ナッツの油脂分を多く含むため、開封後は密閉容器に入れて冷暗所で保管するのが鉄則である。高温や直射日光にさらされると酸化が進み、風味の劣化やオイルの分離が起こりやすくなる。未開封であっても15℃以下の冷暗所保存が推奨されている製品が多い点も覚えておきたい。
メジャーな製品とメーカー名
日本国内の製菓材料市場で流通しているアーモンドプラリネの代表的な製品とメーカーを紹介する。
正栄食品工業(日本)は、業務用ナッツ加工品の大手メーカーである。「アーモンドプラリネ」は皮付きアーモンドを砂糖でキャラメリゼした後に粗挽きにした粒状タイプで、製菓・製パンの練り込みやトッピングに利用される。「アーモンドプラリネマッセRE」はアーモンドと砂糖のみで作られたペーストタイプの製品で、植物油脂不使用という点がパティシエから評価されている。1kgの業務用サイズが主な流通単位となっている。
富澤商店(日本)は、製菓材料の小売で知名度の高い専門店であり、正栄食品工業製のアーモンドプラリネを100gの小分けパックでも販売している。家庭での少量使用にも対応しやすく、初めてプラリネを試す人にとって手に取りやすい。ペーストタイプの「アーモンドプラリネペースト」は70g入りの小容量もある。
カカオバリー(Cacao Barry/フランス・ベルギー)は、バリーカレボーグループに属するプロフェッショナル向けチョコレート・製菓原料のブランドである。「プラリネ 50% アーモンド」は、ローストアーモンドとキャラメリゼした砂糖を半々の割合で配合したペーストで、淡い金色の外観と繊細な風味が特徴。ムースやボンボンショコラのセンター、アイスクリームなど多用途に使える。「プラリネ 50% アーモンド・ヘーゼルナッツ」はアーモンドとヘーゼルナッツを組み合わせたブレンドタイプで、両方のナッツの個性を楽しめる。5kgバケツが業務用の標準サイズとして流通している。
ヴァローナ(Valrhona/フランス)は、1922年にパティシエのアルベリック・ギロネによって設立されたフランスの高級チョコレートメーカーで、プラリネ製品も充実している。「プラリネ・アマンド・ノワゼット 50%」はアーモンドとヘーゼルナッツのブレンドで、やや甘さを抑えたキャラメルの風味が際立つ。「プラリネ・アマンド 60%」はアーモンドの比率を6割に高めた製品で、ナッツ感をより強く打ち出したい場合に選ばれている。
ヴェイス(Weiss/フランス)は、1882年にフランス・サンテティエンヌで創業した老舗ショコラティエで、プラリネにはスペイン・バレンシア産アーモンドとイタリア産ヘーゼルナッツを採用している。「プラリネ・アマンド・ノワゼット 50/50」はフランス国内のパティスリーで広く使われている定番製品であり、粉末タイプの「プラリネ・パウダー」も展開している。
歴史・由来
アーモンドプラリネのルーツは、17世紀フランスの宮廷料理の世界にまで遡る。
プラリネの名前の由来となった人物は、フランスの貴族・外交官・軍人であったセザール・ド・ショワズール・デュ・プレシス=プラズラン(César de Choiseul du Plessis-Praslin)である。彼に仕えていた料理人がアーモンドと砂糖を使った菓子を考案し、主人の名「プラズラン(Praslin)」にちなんで「プラズリン(prasline)」と名付けられた。これがやがて「プラリネ(praline/praliné)」へと転じたとされている。
この料理人の名前については、資料によって異なる説がある。広く知られているのは「クレマン・ラサーニュ(Clément Lassagne)」という名だが、フランス・モンタルジの老舗菓子店メゾン・マゼ(Maison Mazet)の伝承では「クレマン・ジャリュゾ(Clément Jaluzot)」とされている。いずれにしても、17世紀にプレシス=プラズラン公爵のもとでアーモンドに砂糖をからめた菓子が生まれたという骨格は共通している。
誕生にまつわる逸話もさまざまに語り継がれている。ある説では、厨房に忍び込んだ子どもたちがデザートの残りであるアーモンドとキャラメルの欠片をつまみ食いしている姿を見て着想を得たという。別の説では、見習い料理人がアーモンドの入った容器をキャラメルの鍋にうっかりひっくり返してしまい、偶然の産物として生まれたとも伝わる。また、女性へ贈る手土産として魅力的な菓子の開発を主人から命じられたことがきっかけだったという話もある。
マゼ社の伝承によると、1636年にプレシス=プラズランがボルドーの市参事会員たちの和解を取りもつ晩餐会で、バニラ風味のキャラメルをまとわせたアーモンド菓子が振る舞われた。この菓子に感銘を受けたプラズランがレシピを自分のものとして広めたところ、怒った料理人がモンタルジの町に「メゾン・ド・プラリーヌ」を開業し、自らのレシピで菓子を売り始めたという。この店を1903年にレオン・マゼが買い取り、現在もメゾン・マゼとして当時のレシピを守りながら「プラズリン・ド・モンタルジ」を製造し続けている。フランスの無形文化遺産企業(Entreprise du Patrimoine Vivant)にも認定されており、フランス国内の約2,000の販売拠点のほか、海外約40カ国にも輸出されている。
プラリネが現在のようなペースト状の製菓原料として広く使われるようになったのは、19世紀以降のことである。産業革命を経てローラーやグラインダーなどの機械設備が発達し、キャラメリゼしたナッツを均一に挽いてなめらかなペースト状に加工することが可能になった。これにより、プラリネは砕いてそのまま食べる菓子から、チョコレートやクリームに練り込む製菓原料へと用途が拡大していった。
1912年にベルギーのショコラティエ、ジャン・ノイハウス2世がチョコレートの殻の中にプラリネのペーストを詰めたボンボンショコラ(ベルギーでは「プラリーヌ」と呼ばれる)を考案したことで、プラリネはチョコレートの世界でも欠かせない存在となった。以来、アーモンドプラリネはボンボンショコラのセンターとして世界中のショコラトリーで愛用され続けている。
一方、18世紀後半にフランスからアメリカのルイジアナへ渡った移住者たちは、入手しにくいアーモンドの代わりに現地で豊富に採れるピーカンナッツを使い、新たなスタイルのプラリネを生み出した。ニューオーリンズ名物のピーカンプラリーンはこの流れから生まれたもので、フランス生まれのアーモンドプラリネが新天地で独自の進化を遂げた好例である。
こうして400年近い時間をかけて、アーモンドプラリネは宮廷の一品菓子から世界の製菓を支える基礎素材へと姿を変えてきた。フランスの貴族が愛した素朴なアーモンド菓子が、今日のパティスリーやショコラトリーの必需品として生き続けているという事実は、この素材の持つ普遍的な魅力を物語っている。