材料の名前
日本語では「キャンディングピーカンナッツ」あるいは「キャンディコートピーカンナッツ」と呼ばれる。英語では “Candied Pecans” と表記するのが一般的で、砂糖衣をまとわせたピーカンナッツ全般を指す。ベースとなるピーカンナッツそのものは、英語で “Pecan”(学名:Carya illinoinensis)と書き、日本語では「ピーカンナッツ」「ペカンナッツ」「ピカンナッツ」など複数の呼び方が存在する。いずれも同じナッツであり、英語の発音の揺れがそのままカタカナ表記に反映された結果だ。クルミ科の落葉高木「ヒッコリー」の仲間にあたり、くるみとは近縁ながら風味や食感がやや異なる。別名「バターの木」と呼ぶこともあり、これは脂質含量の高さに由来している。
特徴
キャンディングピーカンナッツの最大の特徴は、ピーカンナッツがもともと持つバターのようなコクと、砂糖の甘味が一体になった風味にある。生のピーカンナッツは渋みが控えめで、くるみよりもまろやかな口あたりが持ち味だ。その穏やかな味わいをキャンディング(砂糖がけ)することで、カリッとした歯ざわりと香ばしさが加わり、そのまま食べてもお菓子の素材として使っても存在感を発揮する。
キャンディングの工程は、大きく分けて二つのタイプがある。一つは「パンニング(回転釜がけ)」と呼ばれる方法で、回転する釜の中でナッツを転がしながら少量ずつ砂糖液を加え、薄い糖衣を何層にも重ねていく。もう一つは「キャラメリゼ」に近い手法で、鍋にグラニュー糖と水を煮詰めたシロップにナッツを絡め、オーブンや天板で乾燥させる。家庭向けのレシピでは、卵白を泡立ててナッツにまとわせ、シナモンシュガーをまぶしてオーブンで焼く方法も広く知られている。いずれのやり方でも、砂糖の膜がナッツの油脂を閉じ込め、酸化を遅らせるという実用的な利点がある。
栄養面では、ベースのピーカンナッツに由来するオレイン酸(一価不飽和脂肪酸)が豊富に含まれている。オレイン酸はオリーブオイルにも多い成分で、LDLコレステロールの抑制や抗酸化作用が期待される。また、カリウムやマグネシウム、リン、ビタミンEなどのミネラル・ビタミンもバランスよく含有している。ただしキャンディング後は砂糖や油脂が加わるため、100gあたりの熱量はおよそ678kcalと高カロリーになる。美味しいからといって食べすぎには気をつけたい。
色合いは琥珀色から深い飴色まで、砂糖の種類や加熱の度合いによって異なる。グラニュー糖を使うと比較的明るい仕上がりに、ブラウンシュガーやメープルシロップを使うと濃い褐色になる。製菓材料として販売される製品はハーフカット(半割り)が多いが、クラッシュタイプ(細かく砕いたもの)も流通しており、用途に応じて使い分けられる。
用途
キャンディングピーカンナッツの活躍の場は幅広い。
まず代表的なのが、アメリカ南部を象徴する伝統菓子「ピーカンパイ」のトッピングだ。コーンシロップとバターをたっぷり使ったフィリングの上にキャンディングしたピーカンナッツを並べると、焼き上がりの照りと歯ごたえが一段と引き立つ。同様に、タルトやブラウニーの上面にのせて焼くと、見た目にも華やかさが増す。
チョコレート菓子との相性もとりわけ良い。日本の市場では、キャンディコートしたピーカンナッツをホワイトチョコレートやミルクチョコレートで包んだ商品が人気を集めている。ナッツのカリッとした食感とチョコのなめらかさが交互に口の中で広がり、一度食べるとやみつきになるという声は多い。
焼き菓子全般との組み合わせも見逃せない。パウンドケーキやスコーンの生地に砕いたキャンディングピーカンナッツを混ぜ込めば、焼成後も甘い香ばしさが持続する。マフィンやクッキーの上に飾れば、見栄えと味わいの両方にアクセントを加えられる。
もちろん製菓だけにとどまらない。サラダのトッピングとしても使われており、苦味のあるグリーンリーフやブルーチーズとの組み合わせは定番のひとつ。ヨーグルトやアイスクリームに散らせば手軽なデザートが完成する。近年はグラノーラやトレイルミックスの材料としても採用されるケースが増えてきた。
主な原産国
キャンディングピーカンナッツの原料であるピーカンナッツは、北米原産のナッツだ。正確には、アメリカ合衆国の中南部からメキシコ北部にかけての河川流域を原産地とする。ピーカンの木はテキサス州の州木に指定されており、アメリカにとって象徴的な存在といえる。
現在、世界のピーカンナッツ生産量でトップを占めるのはアメリカ合衆国である。なかでもジョージア州、テキサス州、ニューメキシコ州が主要な産地として知られている。二番目に大きな生産国はメキシコで、アメリカとの国境地帯を中心に栽培が盛んだ。さらに近年は南アフリカが急速に生産量を伸ばしており、世界第三位の生産国に成長した。南アフリカ産の多くは中国向けに輸出されている。
日本で流通するキャンディングピーカンナッツの原料は、大半がアメリカ産だ。商品パッケージの原材料表示にも「ピーカンナッツ(アメリカ産)」と記載されていることが多い。日本国内ではピーカンナッツの大規模栽培はほとんど行われていないため、輸入に頼っているのが現状である。ただし、岩手県陸前高田市でピーカンナッツの植樹プロジェクトが進められるなど、国産化に向けた取り組みも少しずつ始まっている。
選び方とポイント
キャンディングピーカンナッツを選ぶ際にまず確認したいのは、原材料の表示だ。シンプルな製品はピーカンナッツ、砂糖、植物油脂の三つで構成されている。香料や着色料などの添加物が少ないものほど、ナッツ本来の風味を感じやすい。砂糖の種類にも注目すると面白く、グラニュー糖ベースの製品はすっきりした甘さに、ブラウンシュガーやメープル系を使った製品はコクのある甘味に仕上がる。
形状の選択も使い道に合わせて判断したい。ハーフカット(半割り)タイプはトッピングやそのまま食べる用途に向いており、見栄えが良い。一方、クラッシュタイプは生地への練り込みやアイスクリームへの混ぜ込みに適している。製菓材料店では両方のタイプが販売されているので、目的に応じて選び分けるのがコツだ。
鮮度も大切なチェックポイントになる。ナッツ類は油脂を多く含むため、時間が経つと酸化して風味が落ちやすい。キャンディングの糖衣が酸化をある程度防いでくれるとはいえ、賞味期限に余裕がある製品を選ぶに越したことはない。保存は直射日光と高温多湿を避け、28℃以下の冷暗所が推奨される。開封後は密閉容器に移し、早めに使い切りたい。
購入先としては、製菓材料専門店の通販サイト(富澤商店、プロフーズなど)が品ぞろえ豊富で比較しやすい。スーパーマーケットではまだ取扱いが限られるものの、ナッツ専門メーカーの個包装タイプが楽天市場やAmazonなどの通販モールで手軽に入手できる。
メジャーな製品とメーカー名
日本国内でキャンディングピーカンナッツといえば、まず名前が挙がるのが株式会社サロンドロワイヤルだ。1935年に大阪で創業した老舗のショコラティエで、看板商品の「キャンディコートピーカンナッツチョコレート」は第25回全国菓子大博覧会で日本商工会議所会頭賞を受賞している。キャンディングしたピーカンナッツをクーベルチュールチョコレートで包み、ココアパウダーをまぶした三層構造が特徴だ。同社はチョコなしの「キャンディングピーカンナッツ(120g袋)」も販売しており、こちらはピーカンナッツ・砂糖・植物油脂のみで構成されたシンプルな製品となっている。
次に注目したいのが、ナッツ専門ブランド「ナッツクリエイト このみみ」だ。「舞妓はんのおやつ キャンディピーカン」というシリーズ名で個包装タイプの商品を展開しており、ピーカンナッツをキャラメリゼ(飴がけ)した素朴な味わいが人気を集めている。ココア味のバリエーション「ちょっとビターなココアのキャンディングピーカン」も用意されている。
業務用途では、神戸に本社を置く株式会社みの屋が「キャンディコートピーカンナッツ」を500g単位で販売している。こちらはチョコレートコーティング用の中間素材として開発されており、パティスリーやベーカリーなど業務用のニーズに対応した製品だ。
また、製菓材料専門商社の正栄食品工業株式会社も「ピーカンナッツキャラメル掛け」を取り扱っており、業務用サイズでの供給を行っている。富澤商店(TOMIZ)やプロフーズなどの製菓材料小売店を通じて購入できるため、家庭でのお菓子づくりにも利用しやすい。
歴史・由来
キャンディングピーカンナッツの歴史を紐解くには、まずピーカンナッツそのものの来歴から始める必要がある。ピーカンナッツは北米大陸で唯一の主要な自生ナッツとされ、その利用は先住民の時代にさかのぼる。「ピーカン(Pecan)」という名称はアルゴンキン語族の先住民の言葉に由来し、もともとは「石で割る必要があるナッツ全般」を意味していた。ミシシッピ川流域やテキサスの河川沿いに自生するピーカンの木は、先住民にとって貴重なカロリー源であり、秋の収穫期にはまとめて採集し、冬場の保存食としても活用されていた。
ヨーロッパからの入植者たちがこのナッツの価値を認識し、16世紀ごろからスペイン人探検家やフランス人入植者によって記録が残されるようになった。やがてフランス系入植者が多く暮らしたルイジアナ、特にニューオーリンズで、ピーカンナッツは菓子文化と深く結びつく。
ここで登場するのが「プラリネ(Praline)」だ。プラリネの起源はフランスにあり、17世紀にフランスの外交官プレシ=プラリン公爵(César de Choiseul, comte du Plessis-Praslin)のシェフが、アーモンドに砂糖衣をかけた菓子を考案したという逸話が広く伝わっている。このレシピがフランス人入植者とともに新大陸へ渡り、ルイジアナに根づいた。しかし、当時の北米南部ではアーモンドが手に入りにくかった。そこで代用として選ばれたのが、現地に豊富に自生していたピーカンナッツだった。さらにクリームやバターを加えてファッジ状に仕上げるアレンジが加わり、ニューオーリンズ独自のピーカンプラリネが誕生する。19世紀にはアフリカ系アメリカ人の女性たちが「プラリネ売り」としてフレンチ・クォーターの路上で販売し、街の風物詩となった。
こうした砂糖とピーカンナッツを組み合わせる伝統が、現在のキャンディングピーカンナッツの直接的なルーツにあたる。プラリネがファッジ状のまとまった菓子であるのに対し、キャンディングピーカンナッツはナッツ一粒一粒に砂糖衣をまとわせたものであり、製法は異なるが、砂糖でピーカンナッツをコーティングするという発想の根は同じだ。
アメリカでは感謝祭やクリスマスのホリデーシーズンにキャンディードピーカンズを手づくりして配る習慣が今も続いている。シナモンやナツメグなどのスパイスを効かせたレシピが家庭ごとに受け継がれ、年末のギフトや持ち寄りパーティの定番として親しまれている。
日本においてピーカンナッツの知名度が高まったのは比較的近年のことだ。くるみやアーモンドと比べるとまだマイナーな存在ではあるものの、サロンドロワイヤルがピーカンナッツチョコレートを看板商品に据えたことで認知が広がった。同社は厳選したアメリカ産ピーカンナッツを自社でキャンディコートし、チョコレートで包むという独自の製法を確立し、日本におけるピーカンナッツスイーツの先駆けとなった。近年は健康志向の高まりとともに、オレイン酸を豊富に含むピーカンナッツへの注目度が上昇しており、キャンディングピーカンナッツを扱うメーカーや小売店も増えつつある。
