バターミルクとは

バターミルク(buttermilk)とは、クリームを撹拌してバターを製造する際に、バターの固形分から分離して残る液体のことである。英語の名称は「バターのミルク」を意味するが、バターそのものを溶かした液体ではなく、むしろバターを取り除いた”残り”にあたる乳製品である。外見は牛乳よりもやや黄みがかった白色で、通常の牛乳よりもとろりとした粘度を持ち、独特のほのかな酸味とコクのある風味が特徴である。

お菓子づくりにおいてバターミルクは、パンケーキ、スコーン、マフィン、ビスケット、ケーキなど、欧米の焼き菓子レシピで頻繁に登場する重要な原材料である。日本では液体のバターミルクが市販されることは少ないが、乾燥させた「バターミルクパウダー」として製菓・製パン用の材料店やオンラインショップで入手することができる。

歴史と起源

バターミルクの歴史は、バターの歴史そのものと密接に結びついている。人類がクリームを撹拌してバターを製造するようになった古代から、その副産物として自然に生まれてきた乳製品であり、ヨーロッパ、中東、南アジアなど、世界各地の酪農文化圏で古くから利用されてきた。

もともとバター製造は、搾りたての生乳をしばらく常温で静置してクリーム層を分離させ、そのクリームを木樽(バターチャーン)の中で手作業により撹拌するという工程で行われていた。この過程で牛乳中に自生する乳酸菌が自然にラクトース(乳糖)を発酵させ、乳酸を生成する。その結果、バターを取り除いた後に残る液体には爽やかな酸味が生まれ、これが「伝統的バターミルク(traditional buttermilk)」と呼ばれるものである。酸性の環境は有害な微生物の生育を阻害するため、冷蔵技術のなかった時代にはバターミルクは保存性にも優れた飲料として重宝された。

インドやパキスタンでは、ダヒ(ヨーグルト)から作られたバターミルクが現在も日常的に飲用されており、「チャース(chaas)」と呼ばれるスパイシーなバターミルク飲料は広く親しまれている。ヨーロッパにおいてはアイルランドのソーダブレッドに代表されるように、バターミルクが焼き菓子やパンの膨張に不可欠な酸性材料として伝統的に使われてきた。

1900年代初頭になると、工業的手法により牛乳に乳酸菌を意図的に加えて発酵させた「培養バターミルク(cultured buttermilk)」が登場した。当初は伝統的なバターミルクと区別するため「artificial buttermilk(人工バターミルク)」のラベルで販売されたが、次第にこちらが主流となり、現在欧米のスーパーマーケットで販売されているバターミルクのほとんどは培養バターミルクである。

バターミルクの種類

バターミルクには、大きく分けて以下の3つの種類がある。

伝統的バターミルク(Traditional Buttermilk)

クリームからバターを製造した際に残る液体そのもの。バター製造の副産物であるため自然な発酵による穏やかな酸味があり、脂肪分が少なくさっぱりとした風味を持つ。現在の日本で市販されている「バターミルクパウダー」の多くは、この伝統的バターミルク(非発酵タイプ)を乾燥させたものである。

培養バターミルク(Cultured Buttermilk)

加熱殺菌・均質化された低脂肪乳(脂肪分1〜2%)に、Lactococcus lactis(旧名 Streptococcus lactis)などの乳酸菌を加えて発酵させたもの。伝統的バターミルクよりも粘度が高く、酸味も強い。欧米のスーパーマーケットで一般的に販売されているのはこのタイプであり、焼き菓子のレシピで「buttermilk」と記載されている場合は、通常この培養バターミルクを指す。なお、ブルガリアバターミルクと呼ばれるものは、Lactobacillus bulgaricusというさらに酸味の強い菌を加えて作られる。

酸性バターミルク(Acidified Buttermilk)

牛乳にレモン汁や食用酢などの酸を加えたもので、バターミルクの代用品として使用される。厳密にはバターミルクではないが、生地に酸性を付与するという機能的な面で近い効果を発揮する。牛乳240mlに対して大さじ1杯のレモン汁または酢を加え、5〜10分ほど放置すると牛乳のタンパク質が凝固し、とろみのある液体になる。日本のようにバターミルクが入手しにくい環境では、最も手軽な代用手段として広く紹介されている。

製法

液体バターミルクの製法

伝統的バターミルクの製法は、バター製造工程そのものに組み込まれている。生乳からクリームを遠心分離し、そのクリームを殺菌・冷却した後、低温で8〜12時間のエージング(熟成)を行う。その後チャーニング(撹拌)によってクリーム中の脂肪球が凝集してバター粒となり、残った液体がバターミルクである。このバター粒を冷水で洗い、バターミルクを完全に取り除く工程を経てバターが完成する。

培養バターミルクの場合は、低脂肪牛乳を加熱殺菌・均質化した上で乳酸菌を添加し、一定温度で発酵させて製造する。

バターミルクパウダーの製法

液体のバターミルクを濃縮し、噴霧乾燥(スプレードライ)によって水分を除去して粉末化したものがバターミルクパウダーである。常温保存が可能で日持ちするため、製菓・製パン用の原材料として流通しやすい形態である。

栄養成分

バターミルクはバター製造の過程で脂肪分の大部分が除去されているため、通常の全乳と比較して低脂肪・低カロリーである。Wikipediaの栄養表によると、培養バターミルク(液体)100gあたりの主な成分は、エネルギー約40kcal、炭水化物4.8g、脂肪0.9g、タンパク質3.3g、カルシウム116mgとなっている。牛乳1カップ(約240ml)あたりで比較すると、全乳が約157kcal・脂肪8.9gであるのに対し、バターミルクは約99kcal・脂肪2.2gとされる。

一方、バターミルクパウダー(粉末)の場合は水分が除去されているため、100gあたりのエネルギーは約390kcal、タンパク質31.0g、脂質7.3g、炭水化物50.1g、カルシウム960mgと、濃縮された高い栄養価を示す(cotta製品の表示に基づく)。

バターミルクにはカリウム、ビタミンB12、カルシウム、リボフラビン(ビタミンB2)が豊富に含まれている。また、乳酸の作用により牛乳よりも消化がよく、タンパク質やカルシウムの体内吸収率が高いとされる。さらにバターミルクにはリン脂質が比較的多く含まれており、この成分が乳化力をもたらす要因となっている。

お菓子づくりにおける役割と科学的メカニズム

バターミルクがお菓子づくりで重宝される理由は、その酸性(pH約4.4〜4.8)に基づく化学的な作用にある。この酸性は、乳酸菌がラクトースを発酵させる際に生成する乳酸に由来する。

重曹(ベーキングソーダ)との反応による膨張

バターミルクに含まれる乳酸は、アルカリ性の重曹(炭酸水素ナトリウム)と化学反応を起こし、二酸化炭素ガスを発生させる。この反応は以下のように表すことができる。

乳酸(酸性)+ 炭酸水素ナトリウム(アルカリ性)→ 乳酸ナトリウム + 水 + 二酸化炭素

生地内部で発生した二酸化炭素の微細な気泡が、オーブンの熱で膨張することにより、焼き菓子はふんわりと軽い食感に仕上がる。欧米のパンケーキ、スコーン、ビスケット、ソーダブレッドのレシピで「バターミルク+重曹」の組み合わせが頻出するのは、このメカニズムを活用しているためである。

グルテンの分解によるテンダー効果

バターミルクの酸は、小麦粉中のグルテンの長い鎖状構造を分解する作用がある。これにより生地が過度に引き締まることを防ぎ、焼き上がりはしっとりと柔らかい(テンダーな)食感となる。ケーキやマフィンにバターミルクを使用すると口どけがよくなるのは、この効果による。

保湿性とコクの付与

バターミルクに含まれるタンパク質や乳糖は、焼き菓子に保湿性をもたらし、パサつきを抑える効果がある。また、乳酸発酵に由来する独特の風味が、お菓子に深みのあるコクと微かな酸味のアクセントを与える。さらにリン脂質による乳化作用が、バターなどの油脂を生地中に均一に分散させる手助けをし、なめらかな食感の実現に寄与する。

焼き色(メイラード反応)の促進

バターミルク中のタンパク質と糖類が加熱時にメイラード反応を起こし、焼き菓子に美しい黄金色の焼き色を付ける効果もある。

お菓子での具体的な使用例

バターミルクは欧米の焼き菓子レシピにおいて非常に幅広く使用されている。代表的な使用例としては、バターミルクパンケーキ(アメリカの朝食の定番で、通常の牛乳で作るものよりもふわふわでしっとりした仕上がりになる)、バターミルクビスケット(アメリカ南部の伝統的な焼き菓子で、層状にサクッと割れるフレーク感が特徴)、スコーン(英国式のスコーンにもバターミルクがよく使われ、軽やかな食感を生む)、レッドベルベットケーキ(ココアパウダーとバターミルクの酸の組み合わせが鮮やかな色合いとしっとりしたクラムを生み出す)、マフィン・パウンドケーキ(生地にバターミルクを加えることで保湿性が高まりしっとりした焼き上がりになる)、フライドチキンの衣(お菓子ではないが、バターミルクに肉を漬け込むマリネ液としても広く使われ、酸がタンパク質を柔らかくする)、ワッフルやドーナツなどがある。

日本における入手方法と主なメーカー

日本では液体のバターミルクが一般的に市販されていないため、製菓・製パン用途ではバターミルクパウダー(粉末)として使用されるのが一般的である。

日本で入手可能な代表的な製品としては、よつ葉乳業の「よつ葉北海道バターミルクパウダー」がある。北海道産生乳100%を原料とした非発酵タイプの製品で、業務用1kgサイズが主流である。原材料は生乳(北海道産)のみで、賞味期限は製造日から365日、常温保存が可能である。製菓材料専門店の富澤商店(TOMIZ)やcotta、ママパントリーなどのオンラインショップ、またAmazonや楽天市場等でも購入できる。cottaからも北海道産生乳のみを原材料とした「cotta バターミルクパウダー 100g」が家庭向けの少量サイズとして販売されている。

使用量の目安は、パン生地の場合は粉類に対して5〜10%程度、お菓子の場合もレシピに応じて粉類の5〜10%を目安に加えるとよいとされている。粉末のまま粉類に混ぜ込んで使用するのが基本的な方法である。

スキムミルク(脱脂粉乳)との違い

バターミルクパウダーとスキムミルク(脱脂粉乳)は見た目が似ているが、原料と成分に明確な違いがある。スキムミルクは生乳から脂肪分と水分を取り除いて粉末化したもので、脂質はほとんど含まれない。一方、バターミルクパウダーはクリームからバターを製造する際に分離した液体を乾燥させたもので、約7%の脂質を含む。この脂質の中にはリン脂質が多く含まれており、バターミルクパウダー特有の乳化力の源泉となっている。

外見の違いとしては、スキムミルクは白っぽくサラサラとした粉末であるのに対し、バターミルクパウダーはやや黄色みを帯びたほろほろとした質感を持つ。風味面でもバターミルクパウダーの方がコクのある甘いミルクの香りが強く、リッチな仕上がりを求めるレシピにはバターミルクパウダーが適している。なお、ミルク風味を足すという目的であれば相互に置き換えて使用することも可能だが、乳化作用を期待してバターミルクパウダーが指定されているレシピでは、スキムミルクへの単純な置き換えは推奨されない。

バターミルクが手に入らないときの代用方法

日本ではバターミルク(液体)の入手が難しいため、代用方法を知っておくとお菓子づくりの幅が広がる。最も一般的な方法は、牛乳240ml(1カップ)に対して大さじ1杯のレモン汁または酢(ホワイトビネガー、りんご酢など)を加え、軽くかき混ぜた後5〜10分間放置するというもので、酸の作用で牛乳のカゼインが凝固し、とろみのある酸性の液体が得られる。ほかにも、牛乳の4分の1量をプレーンヨーグルトに置き換える方法や、牛乳にクリームオブターター(酒石酸水素カリウム)を少量加える方法もある。

保存方法と注意点

バターミルクパウダーは高温・多湿・直射日光を避けて常温保存が可能であり、未開封であれば製造日から約1年間の賞味期限が設定されている製品が多い。開封後は吸湿を防ぐために密閉容器に移し替え、なるべく早めに使い切ることが望ましい。液体のバターミルク(海外製品など)は要冷蔵で保存し、開封後は数日以内に消費する必要がある。

お菓子づくりの際は、バターミルクの酸性が重曹と反応して膨張作用を発揮するため、レシピが「重曹」を膨張剤として指定している場合にバターミルクは特に効果的である。一方、ベーキングパウダーを使用するレシピでは、ベーキングパウダー自体に酸性剤が含まれているため、バターミルクの酸性はあくまで風味と食感の向上に寄与する位置づけとなる。

免責事項

商品紹介等については、公式サイトおよび公開情報を基に作成しております。
記載内容は掲載時時点での参考値です。商品仕様は予告なく変更される場合があります。
購入・ご利用の際は必ず最新のパッケージ表示または公式情報をご確認ください。特に食物アレルギーをお持ちの方は原材料を十分にご確認の上お求めください。
本記事の内容ならびに画像の一部にAIを使用している場合があります。
画像はイメージの場合があり、説明内容とは異なる場合があります。
当記事の内容により生じた損害について、作成者は一切の責任を負いません。