材料の名前
日本語での正式な分類名は「顆粒状糖(かりゅうじょうとう)」。ただし、一般には商品名である「フロストシュガー」の呼び名が広く浸透しており、製菓材料店やレシピサイトでもこの名称で流通している。英語表記は「Frost Sugar」で、これは日本独自の商品名にあたる。英語圏で同種の砂糖を指す一般的な用語はなく、あくまで日本の製糖メーカーが名づけた和製英語に近い位置づけである。
「フロスト(Frost)」とは英語で「霜(しも)」を意味する。霜のようにすぐ溶けてなくなるという砂糖の性質と、砂糖衣がけを意味する「フロスティング(Frosting)」の語感を掛け合わせ、このネーミングが生まれた。開発元であるウェルネオシュガー(旧・日新製糖)のブランドサイトにも、こうした由来が明記されている。
特徴
フロストシュガー最大の特徴は、冷たい液体にも短時間で溶けるという点にある。グラニュー糖を原料とし、特殊な加工によって多孔質の顆粒状に成形しているため、粒の内部に細かな穴が無数に存在する。この穴の中に空気を含んでいることが、素早い溶解を実現する仕組みだ。
見た目は白く、粒はグラニュー糖よりも大きめでふわりと軽い。スプーンですくうと、同じ重量のグラニュー糖に比べてかさ(体積)が大きく感じられるが、これは空気を含んだ構造に由来する。重量が同じであれば甘味度はグラニュー糖と変わらず、味わいもクセのない上品な甘さで、素材の風味を邪魔しにくい。
栄養成分は100gあたり熱量393kcal、炭水化物99.7g、たんぱく質・脂質・食塩相当量はいずれも0gとなっている(ウェルネオシュガー公式サイトの表示による)。成分構成はグラニュー糖とほぼ同等で、純度の高い砂糖であることがわかる。
粉糖(パウダーシュガー)との違いも押さえておきたい。粉糖はグラニュー糖を微粉末に粉砕したもので、水に入れるとダマになりやすいという弱点がある。一方、フロストシュガーは顆粒の構造上、水分を吸収しながら内部から崩れるように溶けていくため、ダマにならずにサッとなじむ。また、粉糖にはコーンスターチなどの固結防止剤が添加されている場合があるのに対し、フロストシュガーは原料糖のみで作られているため、添加物を気にする人にも使いやすい。
固まりにくい性質も見逃せないポイントだ。上白糖のように湿気を吸って塊になることが少なく、長期間保存してもサラサラの状態を保ちやすい。
用途
フロストシュガーの用途は幅広い。お菓子作りにおいては、次のような場面で力を発揮する。
まず、生クリームやメレンゲの泡立てに相性がよい。多孔質で空気を含んでいる構造のおかげで、冷やしたクリームや卵白にすばやくなじみ、泡立ての効率が上がる。通常のグラニュー糖を使う場合に比べて短時間でふんわりと仕上がるため、プロの製菓現場でも採用されている。
スポンジケーキの生地に砂糖を加える際にも、溶け残りが起きにくい点が重宝される。とくに全卵を泡立てるジェノワーズ法や、別立てのビスキュイ法などでは、砂糖の溶け具合が仕上がりのきめ細かさに直結するため、フロストシュガーの溶けやすさは大きなアドバンテージとなる。
フォンダン(砂糖衣)やアイシング、グレーズといった砂糖ベースのコーティング材を作る際にも活躍する。粉糖の代わりにフロストシュガーを使うと、ダマになりにくくなめらかなペースト状に仕上がりやすい。
お菓子づくり以外でも、アイスコーヒーやアイスティーなど冷たい飲み物への甘味づけに向いている。通常の砂糖は冷たい液体には溶けにくいが、フロストシュガーなら底に沈殿しにくく、スプーンで数回かき混ぜるだけでなじむ。
ヨーグルトにかける砂糖としてもおなじみだろう。かつて大容量のプレーンヨーグルトには、小袋のフロストシュガーが付属していた時代があった。1980年ごろからヨーグルトメーカーに採用され始め、あの「ヨーグルトに付いていた砂糖」として記憶している人も多いはずだ。
酢の物やドレッシングなど、加熱せずに砂糖を溶かしたい料理にも適している。調理時間の短縮にもつながり、日常的な台所仕事のちょっとした時短アイテムとしても役立つ。
主な原産国
フロストシュガーの加工・製造は日本国内で行われている。原料となるグラニュー糖は「原料糖」と呼ばれる粗糖から精製されるが、この原料糖の調達先は国内外にまたがる。
国産の原料糖は、沖縄県や鹿児島県のさとうきび、北海道のてんさい(ビート)から製造される。しかし、国内産だけでは需要を満たせないため、全体の7〜8割は輸入に頼っている状況だ。輸入先の大半はオーストラリアとタイで、いずれもさとうきびを原料としている。ウェルネオシュガーの公式サイトでも、こうした原料糖の調達構成が開示されている。
つまり、フロストシュガーという製品そのものの製造国は日本だが、原料糖の産地は日本・オーストラリア・タイなど複数にわたる。製糖工場では複数産地の原料糖を混合して使用しており、製品ごとにどの産地の原料がどれだけ含まれているかを特定するのは難しい。食品表示法に基づき、使用実績の重量順に「又は」表記で産地が並べられるのが一般的だ。
選び方とポイント
フロストシュガーを購入する際に確認しておきたいポイントをいくつか挙げる。
まず、容量の選択。家庭でお菓子作りや飲み物に使う程度であれば、300gのスタンドパックが扱いやすい。チャック付きの袋になっている製品が多く、開封後もそのまま保存できる。一方、頻繁にお菓子を焼く人や、教室・業務用途であれば1kgや20kgの大袋も流通している。
次に、保存環境にも注意を払いたい。フロストシュガーは固まりにくいとはいえ、高温多湿の場所に長期間置くと品質が変わる可能性がある。直射日光の当たらない涼しい場所で、密閉容器に入れて保存するのが望ましい。砂糖は食品表示法上、賞味期限の表示義務がない食品だが、開封後はできるだけ早めに使い切るほうがよい。においの強い食品のそばに置くと、においを吸着してしまうことがあるため、保管場所の選定にも気を配ろう。
また、レシピでの置き換え時には分量の考え方に注意が必要だ。フロストシュガーはかさが大きいため、計量カップなどで体積を基準に量ると、同じ「カップ1杯」でもグラニュー糖より軽くなる。レシピで指定された砂糖と置き換える場合は、体積ではなくグラム(重量)で計量するのが確実だ。重量が同じであれば甘さも同等になる。
メジャーな製品とメーカー名
フロストシュガーの代名詞的存在といえるのが、ウェルネオシュガー株式会社が展開する「カップ印 フロストシュガー」シリーズだ。もともと日新製糖株式会社のブランドとして長年親しまれてきたが、2023年1月に日新製糖と伊藤忠製糖の経営統合によりウェルネオシュガーが持株会社として発足。その後、2024年10月に日新製糖と伊藤忠製糖がウェルネオシュガーに吸収合併され、現在の社名に至っている。
カップ印のフロストシュガーには、家庭用として「フロストシュガー スタンドパック300g」と「フロストシュガー 1kg」がある。300gのスタンドパックはチャック付きで、キッチンに立てて置ける使い勝手のよい設計だ。さらに、「ヨーグルト用のお砂糖」として8g×10本入りのスティックタイプも販売されており、一回ずつ使い切れる手軽さが好評を得ている。業務用には20kg入りの大袋が用意されており、製菓・製パン業界のほか、飲料ミックスやヨーグルトメーカーへの原料供給にも使われている。
購入できる場所も幅広い。製菓材料専門店のcotta(コッタ)やTOMIZ(富澤商店)といったオンラインショップのほか、Amazon、楽天市場などの大手通販サイトでも取り扱いがある。スーパーマーケットの砂糖売り場に並んでいることもあるが、上白糖やグラニュー糖ほどの定番商品ではないため、店舗によっては取り扱いがない場合もある。確実に入手したいときは、製菓材料専門の通販サイトを利用するのが手堅い。
歴史・由来
フロストシュガーの誕生は1968年(昭和43年)ごろにさかのぼる。開発したのは当時の日新製糖(現・ウェルネオシュガー)だ。当時の日本では、フルーツの酸味が強い品種が多く、果物に砂糖をかけて食べる習慣が一般的だった。グラニュー糖や上白糖では果物の表面で溶け残ることがあり、「もっと素早く溶ける砂糖が欲しい」という消費者の声に応える形で開発が始まったという。
発売当初は「フルーツにかける甘味料」として市場に投入されたが、販売実績は振るわなかった。転機が訪れたのは、高速道路のサービスエリアなどに設置されていた紙コップ式の飲料自動販売機への採用だ。当時の自動販売機は液体のシロップではなく粉末の甘味料を使う方式が主流であり、ホットでもアイスでも素早く溶けるフロストシュガーの特性がぴったりはまった。この用途をきっかけに、「温度を問わず溶けやすい砂糖」としての認知が広がっていく。
そして1980年ごろ、大容量プレーンヨーグルトの付属砂糖として採用されたことで、一般家庭への浸透が一気に進んだ。ヨーグルトのパッケージを開けると入っていたあの小さな砂糖袋──多くの人の記憶に残る存在になったのは、この時期からだ。ヨーグルトの冷たさにもすぐなじむ溶けやすさと、上品でくせのない甘さが、乳製品との相性のよさを証明した。
近年では、ヨーグルトに砂糖を別添しない商品が増えたこともあり、「ヨーグルトに付いてくる砂糖」としての姿を見る機会は減った。しかし、製菓・製パンの世界ではクリームの泡立てやフォンダンづくりに欠かせない材料として定着しており、製菓材料店では安定した需要がある。また、自宅でのお菓子作りブームの広がりとともに、その利便性が改めて注目される場面も増えている。
開発から半世紀以上が経過した現在も、フロストシュガーはウェルネオシュガーの看板商品のひとつとして製造・販売が続いている。ヨーグルトの付属品という印象が強かった砂糖が、実は製菓のプロも認める機能性を備えた材料だったという事実は、改めて知っておいて損はないだろう。
