材料の名前
和名は「上新粉(じょうしんこ)」。もともとの漢字表記は「上糝粉」で、のちに現在の「上新粉」へ改められた。「しん粉」「米粉」「米の粉」といった別名でも呼ばれることがある。
英語では “Joshinko” とローマ字表記されるか、”non-glutinous rice flour”(非もち性の米粉)と訳される。海外のアジア食材店やオンラインショップでは “Joshinko rice flour” の名で流通しており、和菓子づくりの材料として認知が広がりつつある。中国語圏では「粳米粉(ジンミーフェン)」、韓国語では「멥쌀가루(メプサルカル)」のように、いずれも「うるち米の粉」を意味する名称が使われている。
特徴
上新粉は、日常的に食卓にのぼる「うるち米」を精白・水洗い・乾燥したのち、製粉してふるい分けた穀粉である。非加熱の生粉製品(なまこせいひん)に分類され、製品にするには蒸す・ゆでるといった加熱工程が欠かせない。
うるち米のでんぷんは、直鎖状の「アミロース」と枝分かれ構造の「アミロペクチン」をおよそ2対8の割合で含んでいる。もち米のでんぷんがほぼ100%アミロペクチンで構成されているのに対し、うるち米はアミロースを約20%含むため、加熱しても伸びすぎず、冷めると適度に締まる。この性質が、上新粉で作った菓子に「歯切れのよさ」と「しっかりしたコシ」をもたらしている。白玉粉やもち粉で作るもちもちと柔らかい生地とは対照的で、噛むほどに米の風味が広がるのが持ち味だ。
粒度(粒の細かさ)によって名前が変わる点も押さえておきたい。粗いものから順に「並新粉(なみしんこ)」→「上新粉」→「上用粉(じょうようこ)」と区分される。上新粉は約90メッシュ前後の粒度が一般的で、上用粉はさらに細かく、薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)のようになめらかな皮を求める菓子に使われる。近年は気流粉砕技術の進歩により200~400メッシュの超微粉砕米粉も登場しており、パンや洋菓子への応用が進んでいる。ただし、こうした製菓・製パン用の米粉と、従来の上新粉では粒度も食感も異なるため、レシピに合わせた選択が求められる。
製粉方法にも大きく二つの流れがある。ひとつは「ロール製粉」で、水洗い後に乾燥させた米をロール製粉機で粉砕する方法。関東で主流とされ、比較的粗い粒子に仕上がりやすく、歯切れの強い生地をつくれる。もうひとつは「胴搗き(どうづき)製粉」で、臼と杵の原理を応用した機械を用い、水漬けした米を搗いてから乾燥させる方法。関西で古くから親しまれてきた製法で、粒子が細かくなりやすく、口あたりがなめらかに仕上がる。富澤商店(TOMIZ)などの製菓材料店では「胴搗き製法」の新潟県産上新粉を取り扱っており、パッケージに製法を明記している商品もある。
上新粉はグルテンを含まないため、小麦アレルギーのある方の代替素材としても注目されている。ただし製造ラインで小麦製品と共用している場合はコンタミネーション(微量混入)の可能性があるため、アレルギー対応を目的とする場合はパッケージの表示を確認してほしい。
用途
上新粉の代表的な用途は、やはり和菓子である。串だんご、柏餅、草餅、ういろう、かるかん饅頭など、日本の四季を彩る菓子の多くに上新粉が使われている。白玉粉のようなとろりとした柔らかさではなく、しっかり噛みごたえのある仕上がりになるのが特長で、歯で切れるような食感を活かした菓子に向く。
和菓子以外にも活躍の場は広い。天ぷらの衣に少量混ぜると、カリッとした軽い揚げ上がりになる。大根餅や中華風の蒸し菓子など、アジア圏の料理にも応用しやすい。さらに、鶏肉にまぶして揚げるとハワイの名物料理「モチコチキン」に近い仕上がりが楽しめるなど、揚げ物の衣としても優秀だ。
近年はグルテンフリーの観点からクッキーやパンケーキ、マフィンといった洋菓子に取り入れる家庭も増えている。ただし上新粉単体ではグルテンによる膨らみが得られないため、パンを焼く場合は小麦グルテンを添加したミックス粉を使うか、ベーキングパウダーなどの膨張剤で補う工夫が必要になる。
主な原産国と産地
上新粉の原料であるうるち米は、日本国内で広く栽培されている。とりわけ新潟県は米の生産量・品質ともに高い評価を得ており、上新粉のパッケージにも「新潟県産うるち米使用」と銘打った商品が少なくない。新潟製粉やたかい食品など、地元の製粉会社が産地の利を活かして高品質な上新粉を製造している。
国産品のほかに、アメリカ産やタイ産のうるち米を原料とした業務用上新粉も流通しており、価格を抑えたい業務用途で使われるケースがある。海外産の原料を使用した製品には「米国産」「タイ産」などと産地が記載されていることが多い。
うるち米そのものの原産地は、現在もっとも有力とされる説によれば、中国の長江中・下流域とされる。ジャポニカ種の稲が日本に伝わったのは縄文時代後期、約2200~2300年前のことで、弥生時代に水稲耕作が本格的に広まった。以来、米は日本の食文化の根幹であり続けており、上新粉もその豊かな米食文化から生まれた加工品のひとつといえる。
選び方とポイント
上新粉を選ぶ際にまず確認したいのは、原料米の産地である。国産米100%のものは風味がよく、品質も安定している。パッケージの裏面に「うるち米(国内産)」あるいは「うるち米(新潟県産)」のように記載されているので目安にしてほしい。
次に見ておきたいのが製粉方法と粒度だ。前述のとおり、ロール製粉はコシの強い仕上がりに、胴搗き製粉はなめらかな口あたりになる。商品によっては「胴搗き製法」と明記されているので、好みの食感に合わせて選ぶとよい。粒度については、だんごや柏餅なら一般的な上新粉(約90メッシュ)で十分だが、薯蕷饅頭のように緻密な生地を求める場合は「上用粉」や「特上」と表記された細かい粉を選ぶのが適切だ。
保存面では、高温多湿を避け、開封後は密閉容器に移して冷暗所に置くのが基本である。穀粉類は虫やにおいの吸着が起こりやすいため、使い切れる量をこまめに購入するのが望ましい。
また、レシピに「だんご粉」と書いてある場合は注意が必要だ。だんご粉はうるち米ともち米をブレンドした粉であり、上新粉とは食感が異なる。代用するときは仕上がりの違いを理解したうえで調整しよう。
メジャーな製品とメーカー名
上新粉を製造・販売している代表的なメーカーと製品を以下に紹介する。
火乃国食品工業(熊本県)は、明治43年(1910年)創業の白玉粉・和粉専門メーカーで、「粉の郷 上新粉」シリーズを展開している。Amazonの米粉・上新粉カテゴリで上位にランクインすることが多く、250g入りや1kg入りなど容量のバリエーションが豊富だ。有機栽培米を使用した上新粉もラインナップしている。
波里(栃木県)は、米粉製品を幅広く手がけるメーカーで、家庭用から業務用まで多種の上新粉を揃えている。「波里 上新粉 1kg」は通販サイトでの取り扱いも多く、手に入りやすい。製パン用米粉「ミズホチカラ」シリーズでも知られる会社だ。
前原製粉(兵庫県)は「義士」ブランドで知られる老舗製粉会社で、上新粉をはじめ白玉粉・もち粉・きな粉など和粉を幅広く製造している。海外のAmazonやウォルマートでも「Gishi Joshinko」として販売されており、国外でも入手が可能だ。
みたけ食品工業(埼玉県)は、国産うるち米100%使用の上新粉を製造しており、スーパーマーケットの製菓材料売り場で見かけることが多い。220g入りや450g入りなど、家庭で使い切りやすいサイズを揃えている。
このほか、富澤商店(TOMIZ)のプライベートブランドでは、新潟県産うるち米を胴搗き粉砕した「新潟県産 上新粉 特上」を販売しており、製菓愛好家から支持を集めている。
歴史・由来
上新粉の歴史をたどると、日本における米粉利用の歩みそのものに行きつく。
米穀粉の利用が文献に現れるのは奈良時代にさかのぼる。遣唐使によって唐から伝えられた「唐菓子(からくだもの)」は、米粉や小麦粉をこねて油で揚げた菓子であった。「ぶと」と呼ばれる揚げ菓子がその代表で、神饌(しんせん=神前に供える食べ物)として現在も奈良の春日大社などで受け継がれている。
平安時代には、粽(ちまき)が上流階級の女性の間食として食されていた記録がある。当時はまだ粉ひき用の石臼が一般に普及しておらず、米を水に漬けて竪杵(たてぎね)でつき、どろどろの粉状にしたものを絞って乾燥させた「新粉(しんこ)」が使われていた。粉ひき用の回転式石臼が農家にまで広がるのは江戸時代に入ってからで、それ以降、だんごや餅菓子が庶民の日常的な食べ物として定着していった。
「上新粉」という名は「上等な新粉」を意味する。新粉とは生の米を粉にしたものの総称で、そのなかでもふるいにかけて細かい粒子だけを集めた上質なものを「上新粉」と呼んだ。さらに細かいものは「上用粉」と区別され、薯蕷饅頭など繊細な和菓子に用いられるようになった。
江戸時代になると、茶道の発展とともに和菓子の文化が花開く。神社仏閣への供物や公家・大名の御用菓子から始まり、やがて地方それぞれの気候風土を活かした郷土菓子が生まれた。その主原料が米をはじめとする穀物の粉であり、挽き臼から水車、そして明治以降の機械製粉へと技術が進むにつれ、より均一で良質な上新粉が大量に生産できるようになった。全国穀類工業協同組合の資料によれば、穀物を粉にする技術の発展が、和菓子の多様化を支えた大きな要因とされている。
現代では気流粉砕などの新しい製粉技術が登場し、従来の上新粉よりもはるかに微細な米粉が製造可能になった。この技術革新によって、米粉パンや米粉スイーツという新たなジャンルが切り開かれている。一方で、伝統的な上新粉は約90メッシュ前後の粒度ならではの歯ごたえと米の風味が持ち味であり、和菓子づくりに欠かせない素材として変わらぬ地位を保っている。
奈良時代の唐菓子から平安の粽、江戸の花見だんご、そして現代のグルテンフリースイーツまで、上新粉は形を変えながら日本の菓子文化を静かに、しかし確実に支え続けてきた。家庭のキッチンで手軽にだんごや柏餅を手作りできるのも、この粉の汎用性と親しみやすさがあってこそだろう。季節ごとの和菓子づくりを楽しみながら、千年を超える米の粉の歴史に思いをはせてみるのも一興である。
