材料の名前

和名は「ひよくもち粉」。漢字では「肥沃餅粉」と当てられることもあるが、品種名としてはカタカナで「ヒヨクモチ」と表記するのが正式である。英語圏では、もち粉全般を “Glutinous Rice Flour” あるいは “Sweet Rice Flour” と呼び、日本語のもち粉をそのままローマ字にした “Mochiko” も海外の製菓材料として流通している。ただし「ひよくもち粉」という品種指定の名称は海外ではあまり使われず、単に “Mochiko” や “Japanese Sweet Rice Flour” に含まれる形で認知されているのが現状だ。中国語圏では糯米粉(ヌォーミーフェン)が対応する語にあたる。

特徴

ひよくもち粉は、佐賀県を中心に九州で栽培されるもち米品種「ヒヨクモチ」を原料にしたもち粉である。一般に流通しているもち粉の多くは、使用している品種が明記されていない輸入米やブレンド米を原料としていることが多い。それに対して、ひよくもち粉は品種を「ヒヨクモチ」に限定し、なおかつ産地を佐賀県産に絞っている点で、いわばもち粉の中でもプレミアムな位置づけにある。

ヒヨクモチ米そのものの特徴として、きめの細かさ、粘りの強さ、そして冷めても硬くなりにくい性質が挙げられる。もち米のでんぷんはアミロペクチンのみで構成されており、うるち米のようにアミロースを含まない。そのため粘り気が強く、もちもちとした食感を生み出しやすい。ヒヨクモチはこのアミロペクチン由来の粘りがとりわけ上品で、舌触りもなめらかだと評されてきた。

粉としての仕上がりにも違いがある。富澤商店(TOMIZ)が販売するひよくもち粉は、昔ながらの「胴搗き(どうづき)」と呼ばれる製法で粉砕されている。胴搗きとは、石臼と杵で米を搗いて砕く伝統的な方法で、ロール製粉に比べると粒子の角が丸く仕上がり、熱をほとんど加えないため米本来の風味や香りが残りやすい。結果として、粉の段階から米の甘い香りが感じられ、和菓子に仕立てたときに奥行きのある味わいを生むのだ。

栄養面を見ると、100gあたりのエネルギーは約364kcal、たんぱく質7.2g、脂質0.5g、炭水化物81.9g(富澤商店の製品表示による)。小麦粉と異なりグルテンを含まないため、グルテンフリーの食生活を実践している人にも使いやすい素材といえる。

用途

ひよくもち粉の用途は幅広いが、その真価がもっとも発揮されるのは和菓子の世界である。

まず代表的なのが「求肥(ぎゅうひ)」づくり。求肥はもち粉や白玉粉に砂糖と水を加えて練り上げた生地で、大福や練り切りの皮、雪見タイプの菓子などに用いられる。もち粉は白玉粉よりも粒子が細かいため、求肥に仕上げたときの口溶けがなめらかになる。ひよくもち粉は特にきめが細かいとされるので、上質な求肥を目指す菓子職人に好まれる。

「うぐいす餅」もひよくもち粉の得意分野だ。求肥であんこを包み、青きな粉をまぶして早春の鶯を模したこの和菓子は、生地のやわらかさと伸びの良さが命。ひよくもち粉を使えば、しなやかで弾力のある生地に仕上がる。

ちまきにも向いている。ひよくもち粉に上新粉やグラニュー糖を合わせ、電子レンジや蒸し器で加熱すると、もちもちとした食感のちまきが手軽につくれる。笹の葉の香りとひよくもち粉のほのかな甘みが相性を見せてくれる。

和菓子だけにとどまらず、とら焼き(どら焼きの変形)の生地に加えてもちもち感を出したり、ポンデケージョのようなパン系のレシピに応用したりと、洋風の菓子やパンとの組み合わせも可能だ。アーモンドやチーズといった洋素材との相性もよく、和洋折衷の創作菓子づくりに一役買ってくれる。

から揚げの衣に少量混ぜると、外はサクサク・中はもちっとした独特の食感になるという活用法も、家庭料理の愛好家のあいだで知られている。

主な原産国・原産地

ひよくもち粉の原料であるヒヨクモチ米は、日本国内、それも九州地方でのみ作付けされている品種である。なかでも佐賀県がもっとも生産量が多く、佐賀県はもち米全体の生産量でも全国有数の産地として知られる。福岡県や鹿児島県でも栽培されてきたが、佐賀県が圧倒的なシェアを占めている。

佐賀県がもち米の大産地となった背景には、昭和54年(1979年)ごろから始まった「もち米生産団地」の形成がある。共同乾燥調製施設を核にして、特定の品種に作付けを集中させることで、品質の均一化と大量安定供給を実現した。この仕組みによって「佐賀のもち米は均一で高品質」という評価が全国の実需者に定着し、ヒヨクモチは佐賀を代表するブランド米のひとつに成長したのだ。

ひよくもち粉として製品化される際も、原料原産地は「佐賀県産」と明記されるのが通例で、産地のトレーサビリティが確保されている点も信頼性の高さにつながっている。

選び方とポイント

ひよくもち粉を選ぶ際には、いくつかの観点を押さえておくとよい。

第一に、原料米の品種と産地が明記されているかどうか。「もち粉」と表示された製品は多々あるが、品種名が記載されていないものも少なくない。ひよくもち粉と名乗る製品は「もち米(ヒヨクモチ)(佐賀県産)」のように品種と産地が両方示されているので、裏面の原材料欄を確認したい。

第二に、製法への注目。胴搗き粉砕の製品は、ロール製粉のものに比べて米の風味が残りやすく、きめも細かい傾向がある。製品説明に「胴搗き」の記載があるかどうかをチェックするとよいだろう。ただし胴搗きのほうが手間がかかる分、価格はやや高めになる。

第三に、保存状態。もち粉は直射日光や高温多湿に弱く、開封後は吸湿してダマになりやすい。未開封でも冷暗所で保存し、開封後は密閉容器に移して早めに使い切るのが望ましい。賞味期限は製品によるが、富澤商店のひよくもち粉の場合は製造日から240日と設定されている。

第四に、用途に合わせた使い分け。求肥やうぐいす餅など、きめ細かさとなめらかさを重視する用途にはひよくもち粉がぴったりだが、白玉団子のように独特の歯応えが求められるレシピでは白玉粉のほうが適している場合もある。もち粉と白玉粉は原料こそ同じもち米だが、白玉粉は水挽き(水とともに石臼ですりつぶし、沈殿したでんぷん質を乾燥させる)で製造されるため、粒が粗く独特の弾力を持つ。仕上がりの食感が異なるので、レシピの狙いに合わせて選ぶことが大切だ。

メジャーな製品とメーカー名

ひよくもち粉を品種指定で販売しているメーカーとして、まず挙げられるのが富澤商店(TOMIZ)である。「佐賀県産 ひよくもち粉」の商品名で200g入りと1kg入りの2サイズを展開しており、オンラインショップのほか全国の実店舗、楽天市場、Amazon、ヨドバシ.comなどでも購入できる。胴搗き粉砕にこだわった製品で、和菓子愛好家やプロの菓子職人から根強い支持を集めている。

もち粉全般に目を広げると、波里(なみさと)が老舗の製粉メーカーとして知られる。栃木県に本社を置く波里は、1951年から上新粉やもち粉の加工に取り組んできた企業で、業務用の「うさぎ印餅粉」や「羽二重粉」「大福粉」など多彩な製品ラインナップを持つ。品種指定のひよくもち粉という形ではないが、国産もち米を使用した高品質なもち粉を業務用・家庭用ともに展開している。

火乃国食品工業(熊本県)も、和菓子用の米粉を数多く手がける製粉メーカーだ。「粉の郷」シリーズとしてもち粉を販売しており、胴搗き製法を採用した製品もラインナップに含まれる。

このほか、地方の製粉所が佐賀県産ヒヨクモチ米を使ったもち粉を製造し、地元の和菓子店に直接卸しているケースもある。製品として小売店に並ぶものは限られるが、プロの菓子職人の世界ではヒヨクモチ米由来のもち粉が指名買いされる場面は少なくない。

歴史・由来

ヒヨクモチの歴史は、昭和38年(1963年)にさかのぼる。当時の九州地方では、もち米の作付面積が水稲全体の約6.5%を占めていたにもかかわらず、「備南糯(びなんもち)」「神選糯」「糯祝」「金作糯」など旧来の品種が雑多に栽培されている状態だった。いずれも草型や生産力、病害への耐性に課題を抱え、九州の糯米生産を支える基幹品種と呼べるものがなかったのである。

この状況を打開するため、農林省九州農業試験場(現在の農研機構九州沖縄農業研究センター)において、昭和38年に母本「ホウヨク」と父本「祝糯」の人工交配が行われた。母本のホウヨクは昭和36年から九州で普及していた短稈・穂数型のうるち米品種で、白葉枯病に対する抵抗性を持っていた。一方の祝糯は、熊本県や広島県の奨励品種であった糯米で、品質は優れていたものの倒伏しやすく白葉枯病にも弱いという欠点があった。両者の長所を掛け合わせ、短稈で倒れにくく、病気に強く、なおかつ食味の優れた糯米をつくる。これが育成の目標であった。

交配後は集団育種法が採用され、温室での世代促進も実施された。昭和38年7月からわずか15か月のあいだにF1からF3まで4世代を進めるという、当時としては効率的なスケジュールで選抜が進められた。その後も田畑での栽培試験、いもち病や白葉枯病の耐性検定、玄米品質の室内検査など、何段階もの選抜を経て候補系統は絞り込まれていった。

昭和43年(1968年)に「西海糯118号」の地方系統名が付され、関係各県への配布と奨励品種決定調査が開始された。そして昭和46年(1971年)5月、「水稲農林糯216号」として正式に登録され、品種名「ヒヨクモチ」が与えられた。

名前の由来には二つの解釈がある。ひとつは「肥沃」。九州の平坦な肥沃地帯に最適な品種であることを示すものだ。もうひとつは「比翼連理(ひよくれんり)」。北部九州(佐賀県・福岡県)と南部九州(鹿児島県)が一体となって普及することへの願いが込められたとされる。同年に佐賀県で奨励品種に採用され、翌昭和47年からは福岡県と鹿児島県でも採用された。

登場から半世紀以上が経過した現在も、ヒヨクモチは糯米のなかで全国トップクラスの作付面積を維持し続けている。少なくとも1990年代以降、糯米の中で日本一の生産量を記録してきたとされ、その安定した収量性と食味の良さが長寿品種たるゆえんだ。

もち粉としての利用もまた長い歴史を持つ。もち米を粉にして菓子に用いる文化は日本に古くからあり、求肥の原形は中国から伝わったとされる。江戸時代にはすでに求肥を使った和菓子が庶民のあいだにも広まっていた。もち粉は求肥のほか大福餅やうぐいす餅、柏餅、ちまきなど、四季折々の和菓子に欠かせない存在として受け継がれてきた。ヒヨクモチの登場と佐賀県でのもち米団地形成は、こうした和菓子文化を品質面で支える大きな役割を果たしてきたといえるだろう。

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