材料の名前

和名は「ヨモギ」で、漢字では「蓬」と書く。「艾」の字が当てられることもあり、漢方の世界では「艾葉(がいよう)」の名で生薬として扱われてきた。春に若芽を摘んで餅に練り込む習慣があることから、「モチグサ(餅草)」という別名でも広く親しまれている。灸のもぐさの原料になることから「ヤイトグサ」と呼ばれる地域もある。沖縄では「フーチバー」の名で料理や薬用に日常的に使われている。

学名は Artemisia indica var. maximowiczii で、キク科ヨモギ属に分類される多年草である。属名の「Artemisia」は、ギリシャ神話の女神アルテミスに由来する。英語名は「mugwort」で、日本産のヨモギを指す場合は「Japanese mugwort」と呼ばれることが多い。中国語では「艾草(アイツァオ)」あるいは「艾蒿(アイハオ)」と表記する。韓国語では「쑥(スック)」と呼ばれ、韓国でもよもぎ餅(쑥떡/スクトク)をはじめとする伝統的な餅菓子の材料として根付いている。フランス語では近縁種を含むヨモギ属全般を「armoise(アルモワーズ)」と呼ぶが、日本のヨモギそのものに対応するフランス語名は存在しないため、「armoise commune」や「Yomogi」と表記されるケースが見られる。ドイツ語ではオウシュウヨモギを「Beifuß(バイフース)」と呼ぶ。

特徴

ヨモギは日本各地の山野、道端、河原、空き地など、日当たりのよい場所にごく普通に自生している。地下茎を四方に伸ばして繁殖し、群生する姿を至るところで目にするため、多くの人にとって身近な野草のひとつだろう。草丈は成長すると50~150センチメートルほどになり、初秋に淡褐色の地味な小花を穂状につける。キク科でありながら虫媒花ではなく風媒花へ転換した植物で、秋には大量の花粉を飛ばすことから花粉症の原因のひとつにもなっている。

葉は互生し、羽状に深く裂けた独特の形をしている。表面は濃い緑色だが、裏面には白い綿毛が密生しており、この裏白の姿がヨモギの見分けポイントになる。この白い綿毛は「T字毛」と呼ばれる構造で、もともと中央アジアの乾燥地帯が原産地であるヨモギが、水分の蒸散を防ぐために発達させたものと考えられている。葉裏の綿毛を集めたものが灸に使う「もぐさ」の原料でもある。

お菓子の材料として注目すべきは、ヨモギの香りと色合いである。独特のさわやかな芳香は、精油成分のシネオールやα-ツヨンなどに由来する。この香りには抗菌作用があり、害虫や雑菌から身を守るために植物自身が作り出したものだ。鮮やかな若草色のもとは天然色素のクロロフィル(葉緑素)で、餅や団子に練り込むと美しい緑色に仕上がる。この色と香りの組み合わせが、よもぎを和菓子の材料として唯一無二の存在にしている。

栄養面も見逃せない。ヨモギにはクロロフィルのほか、食物繊維、β-カロテン、ビタミンK、ビタミンB群、鉄分、カリウム、カルシウムなどが含まれている。特に不溶性食物繊維が豊富で、体内の老廃物排出をサポートする働きがあるとされる。クロロフィルにはヘモグロビンの生成を助ける造血作用があるとも言われ、古くから「ハーブの女王」と称されるだけの根拠を備えた植物といえる。

用途

お菓子づくりにおけるヨモギの活用範囲は、和菓子を中心としつつも幅広い。

最も代表的な用途は、草餅(よもぎ餅)と草団子である。茹でて灰汁を抜いたヨモギの葉を、餅や団子の生地に練り込む製法は古くから受け継がれてきた。若草色の見た目、ほのかに野趣のある香り、そして餅との相性の良さから、春の和菓子として長く愛されている。よもぎ大福はこの草餅であんこを包んだもので、スーパーやコンビニでも手に入る定番商品として定着している。

製菓用の原料としては、乾燥よもぎ(乾燥させた葉を粉砕したもの)と、よもぎパウダー(さらに細かく粉末にしたもの)の2種類が広く流通している。乾燥よもぎは湯で戻してから餅や団子に練り込む使い方が一般的で、繊維質が残るため、よもぎ本来の食感と風味を活かしたい場合に適している。よもぎパウダーは粒子が細かく、粉類に直接混ぜて使えるため、蒸し菓子、焼き菓子、パンなどへの活用に向く。パウンドケーキ、スコーン、マフィン、蒸しパン、クッキーなど洋菓子系のレシピでも、よもぎパウダーを加えることで和のテイストを手軽にプラスできる。

韓国では「스크トク(쑥떡)」として餅菓子に利用されるほか、中国でも「艾草」を使った「青団(チンタン)」と呼ばれる緑色のもち菓子がある。清明節(4月初旬)に食べる伝統行事食で、よもぎの利用が東アジア全体に広がっていることがわかる。

お菓子以外では、よもぎ茶、よもぎうどん、天ぷら、おひたし、よもぎ入り蕎麦など食品全般に使われるほか、入浴剤やよもぎ蒸し(韓国発祥の温浴法)など美容・健康分野でも需要がある。

主な原産国と産地

ヨモギの原産地は中央アジアの乾燥地帯と考えられている。現在では日本の本州、四国、九州、小笠原諸島に広く分布し、朝鮮半島にも自生する。沖縄では野生化して定着している。

お菓子の原材料として流通するよもぎ(乾燥よもぎ、よもぎパウダー)は、国産品と中国産が中心である。国産では青森県、徳島県、大分県、宮崎県などが産地として知られ、「国産100%」を謳う製品は製菓材料店や通販で根強い人気がある。業務用の大量需要に対応するため、中国産のよもぎも多く輸入されている。山眞産業の製菓用よもぎ粉(中国産原料使用)や児玉食品のよもぎパウダー(中国産)などは、和菓子店やパン工場で広く採用されている業務用原料の代表格だ。

選び方とポイント

自分で摘む場合は、3月下旬から5月頃に出る新芽を選ぶのが基本となる。先端から15センチくらいまでの若くてやわらかい部分を摘み取る。黄緑色でみずみずしく、葉裏の白い綿毛がしっかりついているものがよい。古い葉や育ちすぎた茎は繊維が硬く、灰汁が強いため菓子づくりには向かない。交通量の多い道路沿いや、農薬散布が行われている場所での採取は避けたい。

市販の製菓材料として購入する場合、選択肢は大きく分けて「乾燥よもぎ(粗挽きタイプ)」と「よもぎパウダー(微粉末タイプ)」の2種類がある。

乾燥よもぎ(粗挽きタイプ)は、繊維質が残る仕上がりになるため、草餅や草団子など伝統的な和菓子に使うなら、こちらがおすすめだ。使用前に湯で戻す手間はかかるものの、よもぎの葉の風味を存分に味わえる。

よもぎパウダー(微粉末タイプ)は、生地へのなじみがよく、均一に混ざるのが利点で、焼き菓子や蒸しパン、製パンなどに幅広く対応できる。湯で戻さず粉類に直接混ぜ込める製品もあり、手軽さを重視するなら粉末タイプが使いやすい。

国産か中国産かは、用途と予算に応じて判断すればよい。国産品は香りが繊細で色も鮮やかな傾向があるが、価格は中国産より高くなる。家庭で少量使う場合は国産の小袋が入手しやすく、業務用として大量に使う場合は中国産が現実的な選択肢になる。

保存は高温多湿と直射日光を避け、開封後は密閉容器に移して冷暗所で管理するのが鉄則である。冷凍保存すれば香りと色の劣化を長期間抑えられる。

メジャーな製品とメーカー名

製菓材料としてのよもぎ製品は、家庭向けから業務用まで幅広いメーカーが手がけている。

家庭用製菓材料の分野では、山眞産業(花びら舎ブランド)の「よもぎ粉」が代表格といえる。「手作り和菓子工房」シリーズの一品として30g入りの小袋で販売されており、スーパーの製菓材料コーナーでも見かける定番品だ。富澤商店(TOMIZブランド)は、青森県産よもぎを使った「国産よもぎパウダー」を40g入りで展開している。微粉末タイプで生地なじみがよく、草餅から製パンまで幅広いレシピに対応する。cotta(コッタ)は製菓材料のオンライン通販大手で、国産粉末よもぎ(50g)やよもぎパウダー(20g)を取り扱っている。cottaの製品はレシピページと連動していて、初心者でも使いやすい点が特長だ。

業務用では、児玉食品のよもぎパウダー(中国産、1kg×10の荷姿)や、Agriture(アグリチャー)の乾燥よもぎなどが和菓子メーカーや製パン工場に供給されている。

完成品のお菓子としては、山崎製パンの「よもぎ大福」がスーパーやコンビニで広く販売されるロングセラー商品として知られる。明日香食品(明日香野ブランド)の「よもぎあんこ餅」は、着色料を使わずよもぎ本来の風味を活かした商品で、40年を超えるロングセラーだ。2025年にはジャパン・フード・セレクションのグランプリを受賞している。

老舗和菓子店では、東京・向島の「志゛満ん草餅(じまんくさもち)」が明治2年(1869年)創業の名店として名高い。生のよもぎを使った草餅一筋で暖簾を守り続けており、あん入りとあんなしの2種類を販売している。奈良の「中谷堂」は、高速餅つきの実演で知られるよもぎ餅の専門店で、観光客にも人気が高い。京都では松尾大社御用達の和菓子店「松楽(しょうらく)」の「よもぎ餅奥嵯峨」が、蓬を餅と丁寧に練り上げた上品な味わいで贈答品としても選ばれている。

歴史・由来

ヨモギと人間の関わりは古く、東アジアの食文化や民俗行事と深く結びついている。

草餅のルーツは古代中国にさかのぼる。中国では旧暦3月3日の「上巳(じょうし)の節句」に、香りの強い草を練り込んだ餅を食べて穢れを祓う風習があった。この習慣が平安時代の日本に伝わったとされる。ただし、当初使われていた草はヨモギではなく「母子草(ハハコグサ)」だった。平安朝の文献『文徳実録』(879年)には、三月三日に母子草を用いた餅の記述がある。これが「草餅(くさもちい)」と呼ばれた最初の記録のひとつと考えられている。

ところが、やがて「母と子を臼で搗くのは縁起が悪い」という考えが広まり、香りが強く邪気を祓う力があると信じられていたヨモギが代わりに使われるようになった。この転換がいつ頃起きたかについては諸説あるが、室町時代から江戸時代にかけて徐々にヨモギが主流になったと見られている。江戸時代には上巳の節句が「桃の節句」として一般に定着し、よもぎ餅は春の行事食として広く普及した。

「ヨモギ」という和名の語源にはいくつかの説がある。四方八方に広がって繁殖することから「四方草(よもぎ)」とする説、春によく萌える草の意で「善萌草(よもぎ)」とする説、よく燃えることから「善燃草」に由来するとする説が伝わる。「ギ」の部分は「茎のある立ち草」を意味するとされ、いずれの説も、ヨモギの旺盛な生命力を反映した命名といえるだろう。

ヨモギの属名「Artemisia」は、ギリシャ神話の月と狩猟の女神アルテミスに捧げられた植物であることを示す。古代ヨーロッパでも、ヨモギ属の植物は月経痛や生理不順に効くとされ、「女性の健康の守護神」として珍重された。この東西を問わない薬草としての評価が、「ハーブの女王」の異名につながっている。

日本の食文化においてヨモギは、お菓子の材料にとどまらず、灸のもぐさ、止血の民間薬、入浴剤など多面的に利用されてきた。北海道のアイヌの人々はヨモギを「ノヤ」と呼び、葉を揉んで傷口に貼る薬草として活用していた。沖縄の「フーチバー」は、肉や魚の臭み消しや沖縄そばの具材として、今も日常の食卓に欠かせない存在である。

近年は健康志向の高まりを背景に、よもぎ茶やよもぎ蒸しなど美容・健康分野での需要が拡大している。製菓の世界でも、よもぎの天然の色素と香りを活かしたスイーツがSNSを中心に注目を集めており、洋菓子とのコラボレーションも増えている。春先の和菓子素材という枠を超えて、よもぎは今なお新しい用途を切り拓きつつある。

免責事項

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購入・ご利用の際は必ず最新のパッケージ表示または公式情報をご確認ください。特に食物アレルギーをお持ちの方は原材料を十分にご確認の上お求めください。
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