材料の名前

日本語では「経木(きょうぎ)」と呼ぶ。辞書上では「へぎ」とも表記されることがある。英語では “paper-thin sheet of wood” と訳されるのが一般的で、固有の英単語は存在しない。木を紙のように薄く削り、乾燥させて作る日本独自の包装素材であり、海外に直接対応する製品がないため、英語圏では “Kyogi” とローマ字表記でそのまま紹介されるケースも増えている。


特徴

経木は、スギ・ヒノキ・アカマツといった国産の針葉樹を原料とし、鉋(かんな)で紙のように薄く削り出して乾燥させたものである。厚さはおおむね0.15mm~0.5mm程度で、「薄づき」「厚づき」「会敷(あいじき)」など厚みによって種類が分かれている。手で軽く曲げられるほどしなやかで、それでいて適度な張りがある。

この素材が食品包装として長く愛されてきた理由は、三つの天然機能にある。

一つ目は抗菌作用だ。とりわけアカマツの経木には「松やに」に由来するテルペン類が含まれており、雑菌の繁殖を穏やかに抑える働きがある。樹木が放出するフィトンチッドの一種で、食品を清潔に保つ手助けとなる。

二つ目は調湿・吸水作用である。木の繊維が食品から出る余分な水分やドリップを吸い取りつつ、吸いすぎることがない。キッチンペーパーや保鮮シートのように食材をパサつかせてしまう心配が少なく、ほどよくしっとりとした状態を維持できるのが強みだ。温かいおにぎりを包んだとき、ごはんが乾燥せず、海苔がべたつかないのはこの調湿機能のおかげである。

三つ目は通気性の良さ。プラスチックフィルムと違い、木の繊維の間を空気が通るため、蒸れが起きにくい。たい焼きや今川焼といった焼き菓子を包んでも、生地がじっとりしにくく、焼きたての食感を損ないにくい。

さらに、経木は天然素材であるため使用後はそのまま燃えるごみとして処分でき、土に還る。プラスチックごみの削減が社会的課題となるなか、環境負荷の少ない包装素材として再び脚光を浴びている。ほのかに漂う木の香りも経木ならではの魅力で、包みを開いた瞬間にふわりと感じる森のような清涼感は、食べる前のひとときを豊かにしてくれる。


用途

お菓子の世界における経木の出番は実に幅広い。

まず代表的なのが、和菓子の敷き紙・包装としての使い方だ。饅頭や大福、焼き餅などを経木で包んだり、折箱の底に敷いたりすることで、菓子から出る水分や油分を適度に吸い取り、見た目も美しく保てる。老舗和菓子店では、化粧箱のなかに経木を敷いて品物を並べる演出が今も続いている。経木を通して伝わる木目の風合いが、和菓子の品格を引き立てるためだ。

次に、たい焼きや今川焼など、屋台や店頭で焼きたてを提供する焼き菓子の包装がある。焼き上がりの熱い菓子をそのまま包んでも、経木の通気性のおかげで蒸気がこもらず、皮のパリッとした食感が長持ちする。プラスチック袋に入れた場合と比べるとその差は歴然で、こうした理由からあえて経木を使い続ける店も少なくない。

たこ焼きやみたらし団子で見かける舟形のトレー(木舟)も、実は経木を加工した製品だ。薄い木を舟の形に成形したもので、祭りの屋台やテイクアウト容器としておなじみの存在といえるだろう。

お菓子以外にも目を向けると、おにぎり・寿司・弁当の包装、鮮魚や精肉の下敷き、落とし蓋の代用など、台所まわりの多くの場面で活用されている。納豆の容器としても古くから使われており、茨城県の水戸周辺では松の経木で包んだ「経木納豆」が今も名物として親しまれている。経木のなかで大豆を発酵させると、松の香りが納豆の風味に深みを加えるといわれ、藁苞(わらづと)納豆とはまた異なる味わいが楽しめる。


主な原産国と産地

経木の原材料となる木材は、国産のアカマツが最も一般的である。アカマツは抗菌性と調湿性に優れ、匂いも穏やかで食品包装に適しているとされる。産地としては長野県(伊那谷)、群馬県(みどり市)、秋田県、埼玉県などが知られている。かつては全国各地に経木の生産者がいたが、プラスチック包装の普及に伴って激減し、現在は国内でもごく少数の工場や個人事業者が製造を続けている状況だ。

スギやヒノキを使った経木も存在し、折箱の素材としてはスギの経木が好まれる傾向がある。スギは木目が美しく香りも豊かで、高級弁当や仕出し料理の折箱によく使われている。

一方、祭りや屋台でよく見かける木舟(舟皿)には、アスペン(アメリカヤマナラシ)という北米やヨーロッパに自生するヤナギ科の広葉樹が使われることがある。アスペンは軽量で加工しやすく、コスト面でも優れているため、中国で加工された製品が日本に輸入されるケースが多い。したがって、国産の経木と輸入品の経木が市場に混在しているのが現状である。


選び方とポイント

経木を選ぶ際には、まず「何に使うか」を明確にすることが大切だ。

包む用途で使うなら、薄づきの経木が扱いやすい。おにぎりや和菓子を二枚の経木で十字に重ねて包むと、しっかりと食品を覆うことができる。厚さ0.15mm~0.2mm程度の薄経木は柔軟性が高く、食品の形に沿って自然に曲がるため初心者でも包みやすい。

折箱や容器として使う場合は、やや厚めの経木を選ぶとよい。厚づきの経木は板としての強度があり、弁当箱や菓子折りの材料に向いている。

素材の違いにも注目したい。抗菌性を重視するなら松(アカマツ)の経木が適している。松やにの成分が雑菌の増殖を穏やかに抑えてくれるため、生鮮食品やすぐに食べない持ち帰りの菓子などに向く。一方、香りの華やかさや見た目の美しさを優先する場合は、スギやヒノキの経木も選択肢になる。

産地や製造者が明記されている製品を選ぶと安心感がある。国産アカマツ材を使用した経木は、原料の品質管理がしっかりしている傾向がある。輸入品のアスペン経木はコストパフォーマンスに優れるが、食品を直接包むなら国産松材のほうが抗菌面で一歩リードする。

保管のポイントとして、経木は湿気を吸いやすいため、開封後はなるべく乾燥した場所で保管し、必要な枚数だけ取り出して使うのが望ましい。


メジャーな製品とメーカー名

経木に関わるメーカーや事業者はそれほど多くないものの、いくつかの特徴的な企業が市場を支えている。

株式会社やまとわ(長野県伊那市)が展開する「信州経木Shiki」は、信州伊那谷産のアカマツを素材から生産まですべて地元で手がけるブランドである。20枚入りのシート状経木を中心に、文具や花器といった食品以外の分野にも経木の用途を広げている点がユニークだ。環境配慮とデザイン性を両立させた取り組みとして、メディアでの紹介も多い。

阿部経木店(群馬県みどり市)は、親子二代にわたって国産アカマツの経木を製造する事業者である。家庭向けの経木セットをオンラインでも販売しており、「ふるさと納税」の返礼品にも採用されている。一般消費者が経木を入手しやすいルートとして貴重な存在だ。

アサヒグリーン株式会社(愛知県名古屋市)は、竹・松・白樺・ポプラなどの天然素材を使った包装資材を幅広く製造・販売している。経木関連では、経木ワッパ、経木文庫、経木敷板、さらにコーン型経木といった多彩な製品ラインナップを展開している。コーン型経木は片手で持ちやすい円錐形に加工されており、観光地やイベントの屋台で食べ歩きメニューを提供する容器として人気が高い。

マスキは木舟(舟皿)のメーカーとして知られ、アスペン材を使ったたこ焼き用の舟皿を定番商品として供給している。祭りや屋台の風景に欠かせない存在で、6寸・7寸・8寸などサイズ展開も豊富だ。

水野産業株式会社も経木舟をはじめとする食品容器を幅広く取り扱う企業で、樺材を使用した経木舟皿などを業務用に供給している。

小売流通の面では、シモジマがアサヒグリーン製品を中心に経木の取り扱いを行っており、オンラインショップや実店舗の合羽橋道具街の店舗などで購入できる。


歴史・由来

経木の名前の由来は、「お経を書く木」から来ている。今から約1500年前、仏教が中国大陸から日本に伝来した時代にさかのぼる。当時、紙はきわめて貴重な品だった。寺院の僧侶たちは紙の代わりに、木を薄く割いた板(ヘギ板)にお経を書き写したとされている。「経を書く木」がやがて「経木」と呼ばれるようになった、というのが有力な説だ。

ただし、この時代の経木は、現在のような紙のように薄いものではなかった。原点となる「ヘギ板」は木を斧やナタで薄くへいだ(割いた)板であり、お経の筆記以外にも屋根材や箱、傘の素材など暮らしのさまざまな場面で使われていた。大和時代にはすでに包装材としても用いられていた記録が残っている。

現在私たちがよく目にする紙のように薄い経木——いわゆる「薄経木」——が誕生したのは江戸時代のことである。そのルーツは「付木(つけぎ)」と呼ばれる着火用具にある。付木とは、薄く削った木片に硫黄を塗ったもので、火を別の場所に移す際に使われた。かまどや七輪が広く普及した江戸時代の暮らしの必需品だった。

江戸時代の中頃まで、食品の包装には竹皮や葉っぱが使われていた。柏餅を柏の葉で包む文化や、笹で巻くちまきなどは現在まで受け継がれている。ところが江戸時代末期、竹が一斉に開花し枯死するという自然現象が起き、竹皮の深刻な不足に見舞われた。

この窮状に着目したのが、埼玉県で付木屋を営んでいた宮嶋勘左衛門という人物である。宮嶋はアカマツの付木を大きなサイズに削ることで、竹皮の代用品になると考えた。しかし従来の付木用の機械では大判の薄板は作れない。電気もガスもない時代に試行錯誤を重ね、およそ一年をかけて薄経木専用の製造機を開発。「枇木(ひぎ)」と名付けて販売を始めた。

皮肉なことに、その一年の間に竹皮は回復してしまい、都市部ではなかなか売れなかった。しかし宮嶋は地方に目を向けた。竹皮商人のいない地方では、人々が自分で竹皮を拾い集めて下処理をしていた。サイズが均一で手間なく使える枇木はそうした地域で重宝され、やがて需要は江戸や大阪の大都市にも広がっていった。

明治・大正・昭和初期にかけて、経木は日本の食卓と商いを支える定番の包装材となった。肉屋ではブロック肉を経木で包み、魚屋では刺身の下に経木を敷き、菓子屋では饅頭やたい焼きを経木に挟んで客に手渡した。60代以上の世代にとっては「買い物といえば経木」という記憶が鮮明に残っていることだろう。

この風景が一変したのは、戦後の高度経済成長期である。大量生産・大量消費の時代が到来し、スーパーマーケットの全国展開とともに、あらかじめプラスチックフィルムやトレーで包装された商品が主流となった。融通が利き、安価で大量に生産できるプラスチック製品に押されて、経木は暮らしの表舞台から姿を消していった。それに伴い、経木の生産者も激減した。

しかし近年、海洋プラスチック問題やカーボンニュートラルへの関心が高まるなかで、天然素材の包装材としての経木が改めて見直されている。株式会社やまとわや阿部経木店のように、新たに経木の生産・普及に取り組む事業者も現れ、環境意識の高い飲食店や消費者の間で少しずつ需要が戻りつつある。1000年以上の歴史を持つこの素材は、「古くて新しい」包装材として、これからの食の現場でふたたび存在感を増していくに違いない。

免責事項

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購入・ご利用の際は必ず最新のパッケージ表示または公式情報をご確認ください。特に食物アレルギーをお持ちの方は原材料を十分にご確認の上お求めください。
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