材料の名前
日本語では「ドライフルーツ」、あるいは「干し果物(ほしくだもの)」と呼ばれる。英語では「Dried Fruit」と表記し、フランス語では「Fruits secs(フリュイ・セック)」、ドイツ語では「Trockenobst(トロッケンオプスト)」にあたる。日本では英語由来のカタカナ表記が定着しており、製菓業界でも「ドライフルーツ」の名称で広く流通している。
特徴
ドライフルーツとは、生の果実から水分を取り除き、保存性を高めた食品のことである。天日干し、熱風乾燥、フリーズドライ(凍結乾燥)、砂糖漬けによる脱水など、製法にはいくつかの種類がある。いずれの方法でも、果実がもつ糖分や有機酸、食物繊維、ミネラルなどが凝縮されるため、少量でも濃厚な甘さと風味を楽しめるのが大きな魅力だ。
生の果実は水分量が80〜90%ほどあるのに対し、ドライフルーツは種類や製法によって異なるものの、おおよそ水分量が15〜35%程度にまで減少する。この水分の低減によってカビや細菌の繁殖が抑えられ、常温での長期保存が可能になる。
食感にも幅があり、レーズンやプルーンのようにしっとり柔らかいもの、バナナチップスのようにカリカリとした食感のもの、フリーズドライのイチゴのようにサクサクと軽いものまでさまざまだ。お菓子づくりにおいては、この食感の多様さが大きなアドバンテージとなる。焼き菓子の生地に練り込めばしっとりとしたアクセントになり、チョコレートやアイスクリームのトッピングに使えば見た目にも華やかさが加わる。
なお、市販のドライフルーツには、色を鮮やかに保つために亜硫酸塩(二酸化硫黄)が使われていることがある。たとえばドライアプリコットの鮮やかなオレンジ色は、この亜硫酸塩処理によるものだ。無処理のアプリコットは茶色っぽく仕上がるため、見た目の好みや添加物への考え方によって選択が分かれる。また、表面にオイルコーティング(植物油を塗布して果実同士のくっつきを防ぐ加工)が施された製品も多い。製菓用途では、ノンオイルコートの製品のほうが生地へのなじみがよく、仕上がりに影響しにくい傾向がある。
用途
お菓子づくりにおけるドライフルーツの使い方は実に幅広い。
まず定番なのが、パウンドケーキやフルーツケーキへの練り込みだ。レーズン、オレンジピール、ドライチェリーなどをラム酒に漬け込んでから生地に加えると、焼成後にしっとりとしたリッチな食感が生まれる。欧州のクリスマス菓子であるシュトレンやイギリスのクリスマスプディングには、大量のドライフルーツとナッツが欠かせない。
クッキーやビスコッティにも頻繁に使われる。クランベリーやブルーベリーの酸味は、バターの風味や砂糖の甘さと相性がよく、味わいに奥行きを加えてくれる。グラノーラバーやエナジーバーなど、近年人気のヘルシー系焼き菓子にもドライフルーツは必須の素材だ。
チョコレートとの組み合わせも見逃せない。ドライマンゴーやドライイチゴにチョコレートをコーティングした製品は、手土産やギフト菓子として根強い人気がある。和菓子の世界でも、干し柿は古くから親しまれてきた素材で、求肥(ぎゅうひ)と合わせた創作和菓子なども存在する。
さらに、タルトやデザートの飾りつけにドライフルーツを散らすと、色合いのコントラストが生まれて見栄えがよくなる。ヨーグルトやアイスクリームへのトッピング、シリアルやグラノーラの混ぜ込みといった日常的な使い方も、製菓分野と密接につながっている。
このように、ドライフルーツは「保存がきく」「風味が凝縮されている」「生地の水分量を過度に増やさない」という三つの特性から、プロのパティシエから家庭のお菓子づくり愛好家まで、幅広い層に重宝されている。
主な原産国
ドライフルーツの原料となる果実は世界各地で栽培されており、種類によって主要な産地が異なる。
レーズン(干しぶどう)の主要産地はトルコ、アメリカ(カリフォルニア州)、イラン、中国など。トルコは世界最大のレーズン生産国のひとつで、世界の生産量の20〜25%を占めるとされる。アメリカ・カリフォルニア州もレーズン生産の一大拠点で、国内生産量の99%以上を占める。
ドライアプリコット(干しあんず)はトルコが世界最大の生産国で、世界全体の約27%を生産している。トルコのマラティヤ県は特に有名な産地である。
ドライイチジクもまた、トルコのアイドゥン県が世界有数の産地だ。このほか、イラン、エジプト、モロッコなども生産が盛んである。
デーツ(ナツメヤシの実)は、イラン、サウジアラビア、エジプト、イラク、アルジェリアなど中東・北アフリカ諸国が主要産地である。
プルーン(乾燥プラム)はアメリカ・カリフォルニア州産が圧倒的なシェアを誇り、日本に輸入されるドライプルーンの90%以上がカリフォルニア産だ。フランスのアジャン地方も伝統的な産地として知られる。
クランベリーはアメリカ(ウィスコンシン州やマサチューセッツ州)とカナダが主産地で、アメリカだけで世界の生産量の半分以上を占めている。
ドライマンゴーはタイ、フィリピン、インドなど東南アジア・南アジア産が主流。パイナップルやパパイヤのドライフルーツもタイ産が多く流通している。
なお、トルコは2021年にドライフルーツ全体の輸出額が15億ドルに達し、世界最大のドライフルーツ輸出国となったことが報じられている。
選び方とポイント
お菓子づくりに使うドライフルーツを選ぶ際には、いくつか押さえておきたい点がある。
まず確認したいのが添加物の有無だ。市販のドライフルーツには、漂白剤や保存料として亜硫酸塩(亜硫酸ナトリウム、二酸化硫黄)が使用されていることがある。亜硫酸塩は果実の色を鮮やかに保ち、保存性を高める役割を果たすが、喘息を持つ人の一部で過敏反応を引き起こす場合がある。無添加・無漂白のドライフルーツは色がくすんで見えることがあるが、果実本来の風味はむしろこちらのほうが豊かに感じられることも多い。
次にチェックしたいのが、オイルコーティングの有無である。果実同士がくっつくのを防ぐために植物油を表面に塗った製品が多いが、製菓・製パン用途ではノンオイルの製品が望ましい。油分が残っていると、パンやケーキの生地に混ぜ込んだときに生地となじみにくくなることがあるためだ。富澤商店やcotta(コッタ)などの製菓材料専門店では、「ノンオイル」と明記された製菓向けドライフルーツを取り扱っているので参考にするとよい。
砂糖の使用量も重要なポイントである。クランベリーやブルーベリーなど、もともと酸味が強い果実は砂糖を加えてから乾燥させた製品が多い。砂糖なし(無糖)の製品も存在するが、酸味が際立つため、用途に合わせて選ぶとよいだろう。一方、レーズンやデーツなどはもともと糖度が高いため、砂糖不使用の製品が中心となっている。
産地にも目を向けたい。同じレーズンでも、カリフォルニア産とトルコ産では風味がやや異なる。トルコのサルタナレーズンは明るい黄金色で軽やかな甘みが特徴的であるのに対し、カリフォルニア産の天日干しレーズンは深い紫褐色で濃厚な甘みがある。お菓子の仕上がりイメージに合わせて使い分けるのが理想的だ。
保存方法にも気を配りたい。開封後は密閉容器に移し、高温多湿を避けて保存するのが基本。冷蔵保存すればより長持ちするが、冷えた状態のまま生地に加えると温度差で仕上がりに影響することがあるため、使用前に常温に戻しておくのが無難である。
メジャーな製品とメーカー名
日本国内でドライフルーツを製菓材料として購入する際、よく目にするメーカーやブランドをいくつか紹介する。
富澤商店(TOMIZ)は、製菓・製パン材料の専門店として国内最大級の品揃えを持つ。レーズン、クランベリー、ブルーベリー、マンゴー、オレンジピールなど、種類ごとに複数の産地・グレードの製品を取り扱っている。ノンオイルコートの製品や、オーガニック認証を受けた製品もラインナップされており、用途や好みに合わせた選択が可能だ。
正栄食品工業は、ドライフルーツとナッツの分野で長い歴史を持つ食材専門商社であり、業務用から家庭用まで幅広い製品を展開している。製菓メーカーやベーカリーへの業務用供給に強みがあり、ミックスフルーツやプルーン、レーズンなど定番素材を安定的に供給している。
共立食品は、家庭向け製菓材料のメーカーとしてスーパーマーケットでもよく見かけるブランドだ。小分けパッケージのレーズンやクランベリーなど、家庭でのお菓子づくりに使いやすいサイズ展開が特徴となっている。
海外ブランドとしては、Sun-Maid(サンメイド)がレーズンの代名詞的な存在である。1912年にカリフォルニアで設立されたレーズン生産者協同組合で、赤い帽子をかぶった女性のパッケージデザインは世界的に知られている。日本でも輸入食品店やオンラインショップなどで購入できる。
南信州菓子工房は、長野県の果実を使った国産ドライフルーツを製造する企業として注目されている。りんご、いちご、柿など、国産果実にこだわった製品が特徴で、素材の風味を生かした仕上がりが好評を得ている。
このほか、製菓材料のオンラインショップcotta(コッタ)でも、各種ドライフルーツを取り扱っている。
歴史・由来
ドライフルーツの歴史は途方もなく長い。起源は紀元前4000年紀(今からおよそ6000年前)のメソポタミア地方にまでさかのぼるとされる。現在のイラクやイラン、シリアなどを含む「肥沃な三日月地帯」と呼ばれる地域で、ナツメヤシ(デーツ)やイチジク、ブドウといった果実が早くから栽培されていた。
そもそも果実の乾燥は、人類最古の食品保存法のひとつである。木から落ちた果実が灼熱の太陽のもとで自然に干からびる様子を、初期の狩猟採集民が観察したのが始まりだったと考えられている。乾燥した果実は腐りにくく、甘みが凝縮されていることに気づいた人々が、やがて意図的に果実を乾燥させるようになったわけだ。
紀元前1500年頃のメソポタミアの粘土板には、ドライフルーツに関する最古級の記録が残っている。アッカド語の楔形文字で書かれたこの石板には、大麦やキビ、小麦といった穀物と並んで、デーツ、イチジク、リンゴ、ザクロ、ブドウなどの果実が食用にされていたことが記されている。当時のバビロニアでは、デーツの果汁を煮詰めたシロップやレーズンが甘味料として使われ、蜂蜜と合わせたパンやケーキに練り込まれていた。パンの種類はなんと300種以上にのぼったという。
ナツメヤシは、世界で最初に栽培された樹木のひとつとされ、5000年以上前にメソポタミアで栽培化された。平均的な1本のナツメヤシは年間約50kgの実をつけ、それが60年以上続くという驚異的な生産性を持つことから、当時のメソポタミアでは最も安価な主食のひとつであった。乾燥させてお菓子として食べるだけでなく、肉料理や穀物のパイに風味を加える調味料としても使われていた。旅人の携行食としても重宝され、疲労回復に効くとして推奨されたという記録も残っている。
ブドウの栽培は、紀元前4000年紀にアルメニアや地中海東部で始まったとされ、砂漠の炎天下でブドウを干してレーズンを作っていた。やがてフェニキア人やエジプト人の手によって、レーズンの生産はモロッコやチュニジアなど北アフリカにも広がった。乾燥した気候が天日干しに適していたことが普及を後押しした。
古代ローマ時代になると、ドライフルーツは社会のあらゆる階層で消費される日常食品となった。レーズン入りのパンは朝食の定番であり、穀物や豆類、乳製品とともに食卓にのぼった。レーズンは食べ物としてだけでなく、剣闘士やアスリートへの褒賞品として、また物々交換の通貨代わりとしても使われた。紀元前100年頃の古代ローマの家政指南書には、干し梨、レーズン、イチジク、マルメロの保存を家政婦の年間を通じた義務として指示する記述がある。こうした文献からも、ドライフルーツが当時の生活に深く根づいていたことがうかがえる。
中世ヨーロッパでは、十字軍の遠征によって中東の食文化が西欧に伝わり、ドライフルーツを使った菓子づくりが発展した。ドイツのシュトレン、イギリスのミンスパイやクリスマスプディングなど、現在も愛されている伝統的な焼き菓子の多くは、この時代にルーツを持つ。
日本においても、干し柿や干し梅は古くから親しまれてきた伝統的なドライフルーツである。干し柿の歴史は平安時代にまでさかのぼるとされ、甘味の少なかった時代に貴重な甘味食品として珍重された。一方、レーズンやドライクランベリーといった西洋由来のドライフルーツが日本で広く流通するようになったのは、20世紀後半以降のことだ。洋菓子文化の定着やパンの消費拡大にともなって、製菓・製パン用ドライフルーツの需要が大きく伸びていった。
近年は健康志向の高まりを背景に、無添加・砂糖不使用・オーガニックをうたうドライフルーツ製品が増えている。フリーズドライ製法で果実の色・食感・風味をそのまま閉じ込めた製品も登場し、お菓子づくりにおけるドライフルーツの選択肢はますます広がっている。
