材料の名前
日本語では「ひまわりの種」と呼ばれ、英語では「Sunflower Seed(サンフラワーシード)」と表記される。学名はHelianthus annuusで、属名のHelianthusはギリシャ語で「太陽(helios)」と「花(anthos)」を組み合わせた語に由来する。中国語では「瓜子(グアズ)」や「葵花子(クイファーズ)」と呼ばれ、フランス語では「Graine de tournesol(グレーヌ・ド・トゥルヌソル)」、ドイツ語では「Sonnenblumenkern(ゾンネンブルーメンケルン)」にあたる。和名の「向日葵」は、太陽の動きに合わせて花の向きが変わるように見えたことに由来するが、実際にこの動きをするのは成長期の若い茎であり、開花後は東を向いたまま固定されるものがほとんどである。
特徴
ひまわりの種は、あの大きな花の中心部(花托)にびっしりと並ぶ小さな果実の中に収まっている。外側の殻は黒色や白黒の縞模様をしており、殻を割ると中から淡いクリーム色の仁(じん)が現れる。ちなみに、縞模様の品種は「コンフェクショナリー種」と呼ばれ、主にスナック用として栽培されている。一方、全体が黒い品種は「オイルシード種」と呼ばれ、搾油用に使われることが多い。
味わいは淡白でクセが少なく、噛むとほのかなナッツの風味が広がる。ローストすると香ばしさが増し、カリッとした軽い食感に変わるため、製菓材料やスナックとして幅広く親しまれている。
栄養面で見ると、ひまわりの種は非常にエネルギー密度が高い食材だ。日本食品標準成分表(八訂)によると、フライ・味付けの状態で100gあたりのエネルギーは611kcal、たんぱく質は20.1g、脂質は56.3gとなっている。脂質の多くを占めるのがリノール酸で、これは体内で合成できない必須脂肪酸のひとつ。血中コレステロール値を低下させる働きがあるとされる一方で、過剰摂取は善玉コレステロールも減少させる可能性があるため、適量を心がけたい。
もうひとつ注目すべきはビタミンEの含有量だ。100gあたり12.0mg(α-トコフェロール換算)と、かぼちゃの種(0.6mg)と比較すると約20倍にもなる。ビタミンEは抗酸化作用を持つ脂溶性ビタミンで、細胞の酸化ストレスから体を守る役割を果たす。そのほかにもマグネシウム、鉄、亜鉛、銅、セレンなどのミネラル類、さらに不溶性食物繊維が豊富に含まれている。
ただし、高カロリーであるため食べ過ぎには注意が必要だ。一日の摂取目安は殻付きで片手の手のひらに乗る程度、殻なしの仁で20~30g程度とされることが多い。
用途
お菓子づくりの世界では、ひまわりの種は実に多彩な使われ方をする。
まず、パンや焼き菓子のトッピングとしての利用がある。ドイツやオーストリアではライ麦パンの表面にひまわりの種をまぶして焼く「ゾンネンブルーメンブロート」が日常的に食べられている。日本でもハード系のパンやマフィン、ビスコッティなどの生地に練り込んだり、表面に散らしたりする使い方は広く定着してきた。
グラノーラやミューズリーの材料としても欠かせない。オートミールにひまわりの種やかぼちゃの種、ドライフルーツを加えてオーブンで焼くと、栄養バランスに優れた自家製グラノーラが仕上がる。ナッツアレルギーの方にとって、ひまわりの種はナッツの代替食材として重宝されるケースもある(ひまわりの種はキク科であり、ナッツ類とは植物学的に異なるため)。ただし、アレルギーは個人差があるため、利用の際は専門家に相談するのが望ましい。
ロシアや東欧には「ハルヴァ」や「コジナキ(ゴジナキ)」と呼ばれる伝統菓子がある。ハルヴァはひまわりの種をすりつぶしたペーストに砂糖や油脂を加え、ねっとりとした食感に仕上げたもの。コジナキはひまわりの種を蜂蜜や砂糖のシロップで固めたブリトル(おこし状の菓子)で、カリカリとした歯ごたえが特徴だ。
中国では「瓜子」の名で、味付けひまわりの種が国民的なスナックとして浸透している。塩味、五香粉味、キャラメル味など多様なフレーバーがあり、春節(旧正月)の時期には家族でテレビを見ながら瓜子をつまむ光景が風物詩となっている。殻ごと口に入れ、前歯で器用に割って中の仁だけを食べるのが一般的な食べ方だ。
アメリカでは、メジャーリーグの選手がベンチでひまわりの種をかじる姿がおなじみとなった。かつてベンチで噛みたばこを嗜む選手が多かったが、健康上の理由からその習慣を改め、代わりにひまわりの種が広まったとされる。スタジアムの売店でも定番のスナックとして販売されている。
このほか、サラダのアクセント、スムージーボウルのトッピング、バターのように加工した「サンフラワーシードバター」など、お菓子以外にも幅広い食の場面で活用される食材である。
主な原産国と生産地
ひまわりの種の生産は、ロシアとウクライナの二大産地を中心に世界各地で行われている。2024年の統計によると、ロシアの生産量は約1,655万トンで世界首位、次いでウクライナが約1,290万トンで2位を占めた。この2カ国だけで世界全体の生産量の約5割を占めるほどの存在感がある。
3位以下にはアルゼンチン、中国、トルコ、フランス、スペイン、ハンガリー、ブルガリアなどが続く。近年はカザフスタンの生産量が増加傾向にあり、新たな産地として注目を集めている。
なお、日本国内でのひまわりの種の商業的な大規模栽培はほとんど行われていない。国内で流通する食用ひまわりの種の多くは、アメリカ、中国、ブルガリアなどからの輸入品だ。製菓材料としてはブルガリア産やアメリカ産のものが品質の高さから好まれる傾向がある。
選び方とポイント
ひまわりの種を購入する際、まず確認したいのは「生」か「ロースト」かという加工状態の違いだ。
生タイプは加熱処理がされておらず、ビタミン類など熱に弱い栄養素をより多く保持している。製菓やパンの生地に練り込んで焼く場合は、生タイプを選ぶとオーブンの熱で自然にローストされ、香ばしい仕上がりになる。自分でフライパンで乾煎りして好みの加減に焼き上げるのも楽しい。
ローストタイプはすでに火が通っているため、開封後そのまま食べられる手軽さが魅力だ。すでに香ばしさが引き出されているので、グラノーラやサラダにそのままトッピングするには向いている。
殻付きか殻なし(カーネル)かも選択のポイントとなる。殻なしのカーネルは調理にすぐ使えるため製菓用途には便利だ。殻付きはスナックとして楽しむ場合に適しており、殻を割る動作がゆっくり食べることにつながるため、食べ過ぎを防ぎやすいという利点もある。
品質をチェックする際は、仁の色がふっくらとした淡いクリーム色をしているか、変色や油臭さがないかを確認する。脂質が多いため酸化しやすく、開封後は密閉容器に入れて冷暗所に保管するのが鉄則だ。高温多湿を避け、夏場は冷蔵庫での保存が望ましい。大袋で購入した場合は、小分けにして冷凍保存すると風味を長く保てる。
また、製菓用に購入する場合は「食塩不使用」のものを選ぶとよい。味付け済みの製品は塩味やフレーバーがついているため、お菓子の味に干渉してしまうことがある。パッケージの原材料表示を確認し、「ひまわりの種」のみの無添加タイプを選ぶのが基本だ。
メジャーな製品とメーカー名
日本で手に入るひまわりの種は、用途や好みに応じてさまざまな製品が流通している。
製菓・製パン用の業務向け原材料としては、正栄食品工業が「サンフラワーシード」シリーズを展開している。ブルガリア産の高オレイン酸タイプをロースト加工した製品や、中国産のフライ加工品などを取りそろえており、洋菓子店やパン屋で広く使用されている。また、富澤商店(TOMIZ)も「生ひまわりの種」や「味付ひまわりの種」を自社ブランドで販売しており、家庭でのお菓子づくり向けに入手しやすい。
スナック・おやつ用途では、小島屋がアメリカ産のひまわりの種を国内の自社工場で直火焙煎した無添加ローストを販売しており、ナッツ専門店ならではのこだわりが感じられる。イオンのプライベートブランド「トップバリュ」からも手頃な価格帯の「ひまわりの種」が発売されている。
海外ブランドに目を向けると、アメリカではDAVID Seeds(デイビッドシーズ)が圧倒的な知名度を持つ。オリジナルの塩味からBBQ味、ランチ味まで多彩なフレーバーを展開しており、メジャーリーグの球場でも定番のスナックだ。同じくアメリカのBIGS(ビッグス)も大粒の種を使ったフレーバーシードで人気を集めている。
中国の洽洽食品(チャチャ食品、Anhui Qiaqia Food Co., Ltd.)は、瓜子市場で圧倒的なシェアを誇るメーカーだ。「洽洽香瓜子」は原味(オリジナル)や五香味、キャラメル味など複数のバリエーションがあり、中国国内はもちろんアジア各国の輸入食品店でも見かけることが多い。
ロシア・東欧のお菓子としては、アゾフ製菓工場(Azov Confectionery Factory)が製造する「コジナキ ティモーシャ(Kozinaki Timosha)」がある。ひまわりの種を蜜で固めたブリトルで、輸入食品店やオンラインの海外食品ショップで購入できる。また、ひまわりの種から作ったハルヴァもロシアや中東の食文化圏で広く親しまれている伝統菓子だ。
歴史・由来
ひまわりの原産地は北アメリカ大陸。その栽培の歴史は驚くほど古い。考古学的な調査によれば、紀元前3000年頃にはすでにネイティブアメリカンが食用作物としてひまわりを育てていたとされている。彼らは種を石ですりつぶして粉にし、パンやスープに加えたり、種から油を搾って料理に使ったりしていた。ひまわりは彼らにとって、種から栽培される重要な農作物のひとつだったのだ。
ひまわりの運命を大きく変えたのは、16世紀のスペイン人による新大陸征服だった。スペイン人はひまわりをヨーロッパへ持ち帰り、当初はマドリードの植物園で観賞用として育てた。金色に輝く大きな花は珍奇な植物として注目を集め、やがてフランス、イタリア、オランダ、ドイツなどヨーロッパ各国へと広まっていった。
18世紀に入ると、ひまわりはロシアへ渡る。この普及に大きく貢献したのがピョートル大帝(在位1682-1725)だとされており、オランダからひまわりを持ち帰ったという逸話が伝わっている。ロシアではひまわりの種が「大斎(四旬節のような宗教的断食期間)」中に食べてよい食品リストに含まれたことから、爆発的に人気が高まった。バターや動物性油脂が禁じられる期間に、ひまわり油は貴重な植物性油脂として重宝されたのだ。こうしてロシアはひまわりの一大産地へと成長し、搾油用の品種改良も積極的に進められた。
興味深いのは、ロシアで品種改良されたひまわりが19世紀後半にアメリカへ「逆輸入」された点だ。ロシア系移民がアメリカの大平原地帯にひまわりの種を持ち込み、アメリカでもひまわり栽培が本格化する。こうして、北アメリカ原産のひまわりは大西洋を渡って進化し、再び故郷の大地に戻ってきたことになる。
日本へのひまわりの伝来は17世紀、江戸時代前期のことだ。1666年頃に中国を経由して渡来したとする説が有力で、当初は「丈菊(じょうぎく)」と呼ばれていた。貝原益軒の『大和本草』(1709年)にもひまわりの記述があり、江戸中期の元禄年間(1688~1704年)には「ひまわり」の名が広まったとされる。ただし、日本ではもっぱら観賞用として栽培され、種を食べる文化は長らく根付かなかった。
日本で食用のひまわりの種が広く認知されるようになったのは比較的最近のことだ。健康志向の高まりやスーパーフードブーム、さらにメジャーリーグ中継で選手がひまわりの種を食べる様子がたびたび映し出されたことなどが重なり、日本でもじわじわと認知度が上がっていった。現在ではナッツ専門店や輸入食品店はもちろん、スーパーマーケットやコンビニエンスストアでも見かけるようになり、製菓材料としての需要も年々拡大している。
数千年前に北米大陸の先住民が育て始めた小さな種が、海を渡り、宗教的背景や食文化と結びつきながら世界中に広がっていった。そんな壮大な旅路を持つひまわりの種は、今日も世界各地のお菓子やパン、スナックに欠かせない食材であり続けている。
