材料の名前

日本語では「カカオパウダー」あるいは「ココアパウダー」と呼ばれる。製品パッケージには「純ココア」「ピュアココア」と表記されることも多い。英語では “Cocoa Powder” もしくは “Cacao Powder”、フランス語では “Poudre de cacao(プードル・ド・カカオ)”、ドイツ語では “Kakaopulver(カカオプルファー)”、スペイン語では “Cacao en polvo(カカオ・エン・ポルボ)” と表記される。

なお、日本の食品表示制度上は「ココアパウダー」が正式な原材料名として使われている。「カカオパウダー」と「ココアパウダー」は基本的に同じものを指すが、近年の健康食品やオーガニック市場では、焙煎温度が低い「ロー(raw)カカオパウダー」と、通常の焙煎工程を経た「ココアパウダー」を区別して販売するケースも見られる。この記事では製菓で一般的に使われるココアパウダーを中心に解説する。

特徴

カカオパウダーは、カカオ豆から抽出されるカカオマス(カカオリカー)を圧搾し、油脂分(ココアバター)の一部を取り除いたあと、残った固形物(ココアケーキ)を細かく粉砕して作られる粉末状の製菓原材料である。色は茶褐色から赤褐色、ときに黒に近い濃褐色まであり、製法や処理の違いによって色合いが大きく変わる。

味わいの軸となるのは、カカオ特有のほろ苦さと深いコク。甘みはほとんどなく、酸味と渋みを伴う複雑な風味が持ち味だ。粉末は非常に細かく、製菓においてはチョコレートのような油脂の多い素材とは異なる軽やかな口当たりを生地にもたらしてくれる。

カカオパウダーの栄養面にも触れておきたい。日本食品標準成分表(八訂)によると、ピュアココアパウダー100gあたりのエネルギーは約386kcal。たんぱく質が約18.5g、脂質が約21.6g含まれるほか、食物繊維は約23.9gと際立って多い。カカオポリフェノールやテオブロミン、鉄、マグネシウム、亜鉛、銅といったミネラル類も含まれており、嗜好品の原材料でありながら栄養素が豊富な点も特筆に値する。テオブロミンはカフェインに似た穏やかな覚醒作用を持ち、リラックス効果があるとされる成分で、カカオパウダー独特のほろ苦さの一因にもなっている。

製菓で使われるカカオパウダーには、ココアバターの含有率による分類がある。ココアバターを22~24%程度含む「ハイファット」タイプは風味が豊かでしっとりした仕上がりに向く。10~12%程度の「ローファット」タイプはあっさりした口当たりで、生地への分散性が良く、飲料にも溶かしやすい。用途や仕上がりのイメージに合わせて使い分けるのがポイントとなる。

もうひとつ重要な分類が、アルカリ処理の有無だ。カカオ豆は本来酸性を帯びているため、炭酸カリウムなどのアルカリ性溶液で処理して酸味を中和し、色を濃く、水や牛乳になじみやすくする製法がある。この処理は「ダッチプロセス(Dutch Process)」と呼ばれ、1828年にオランダのバンホーテン家によって考案された。現在、日本で流通する製菓用ココアパウダーの多くはこのアルカリ処理済みのタイプである。一方、アルカリ処理をしていない「ナチュラルココア(ブロマプロセス)」は酸味が強く、明るい茶色をしている。アメリカのハーシーズ社のピュアココアがこのタイプの代表格として知られる。ナチュラルココアは重曹(ベーキングソーダ)と組み合わせることで発泡反応を起こすため、アメリカ式の焼き菓子レシピに多く登場する。

用途

カカオパウダーは、製菓の世界で驚くほど幅広い場面に登場する。

まず真っ先に思い浮かぶのがチョコレート風味の焼き菓子だろう。ガトーショコラ、ブラウニー、チョコレートクッキー、チョコレートマフィンなど、生地に直接混ぜ込むことで、チョコレートを溶かして加えるよりも手軽に、かつ軽やかなカカオ風味を付与できる。油脂分が少ないぶん、生地の水分バランスを崩しにくいのも利点のひとつだ。

仕上げの装飾にも欠かせない。ティラミスの表面に茶こしでふんわりと振りかけるココアパウダー、トリュフチョコレートの仕上げにまぶすココアパウダーは、見た目の美しさと口に入れた瞬間のほろ苦さを演出してくれる。

飲料としてはホットココアが定番だ。温めた牛乳にカカオパウダーと砂糖を溶かし、泡立てながら仕上げる一杯は、寒い季節の定番として世界中で親しまれている。カフェモカのように、エスプレッソと合わせるアレンジも広く普及している。

さらに、アイスクリーム、ムース、プリン、パンナコッタといった冷菓にも使われるほか、パン生地に練り込んでココアパンを焼いたり、和菓子の生地や餡に加えて洋風テイストの創作菓子に仕立てたりと、その応用範囲はジャンルを越えて広がっている。

製菓以外では、スパイスミックスの一部としてメキシコ料理のモーレソースに配合される例もある。カカオの苦味とスパイスのハーモニーは、メソアメリカ文明の時代から受け継がれた伝統的な組み合わせだ。

主な原産国

カカオパウダーの原料となるカカオ豆は、赤道を中心に南北約20度の範囲、いわゆる「カカオベルト」と呼ばれる熱帯地域で栽培されている。年間平均気温27℃前後、年間降水量が豊富で、高温多湿な環境がカカオの生育には不可欠だ。

生産量で世界を圧倒しているのは西アフリカのコートジボワールで、世界全体の約4割を占める。続いて隣国のガーナが世界第2位に位置し、この2か国だけで世界のカカオ生産量のおよそ6割を担っている。日本に輸入されるカカオ豆はガーナ産が最も多く、コクと香ばしさ、酸味・苦味・渋味のバランスが良い点が評価されている。

アジアではインドネシアが主要な産地のひとつであり、スマトラ島やスラウェシ島で大規模な栽培が行われている。中南米ではエクアドル、ブラジル、コロンビア、ペルーなどが産地として知られる。とくにエクアドル産の「アリバ・ナシオナル種」は華やかな香りを持つ高品質なカカオとして、チョコレート専門店やパティシエに愛好されてきた。

カカオ豆の品種は大きく3つに分類される。世界の生産量の大半を占める「フォラステロ種」は、病害虫に強く収穫量が安定しているため大量生産に適している。対照的に「クリオロ種」は繊細な香味を持つが、栽培が難しく生産量がごくわずかで、希少品種として扱われる。この2つを掛け合わせた「トリニタリオ種」は、フォラステロの耐病性とクリオロの芳醇な風味を兼ね備えたハイブリッド種だ。ココアパウダーの風味は、原料となるカカオ豆の品種と産地、さらに焙煎やアルカリ処理の度合いによって大きく左右される。

選び方とポイント

製菓用にカカオパウダーを選ぶ際には、いくつかの基準を押さえておくと失敗が少ない。

ひとつ目は、前述した「ハイファット」か「ローファット」かという脂肪分の違いだ。生チョコレートやトリュフの仕上げ、ガトーショコラのようにしっとり感を重視する菓子にはハイファットタイプが向いている。一方、クッキーやサブレなど軽い食感の焼き菓子や、飲料に使う場合はローファットタイプが扱いやすい。

ふたつ目は、アルカリ処理の有無と程度である。アルカリ処理が強いほど色は濃くなり、酸味は穏やかになる。逆にナチュラルココアはフルーティな酸味が残り、明るい色合いに仕上がる。真っ黒に近い「ブラックココアパウダー」は強アルカリ処理を施した製品で、オレオ風のクッキーや、ダークな色合いを演出したいケーキに使われることが多い。ただし風味はやや単調になりがちなので、通常のココアパウダーとブレンドして使うパティシエも多い。

三つ目は、香りと味わいの確認だ。可能であれば少量を舌にのせてみると、苦味の強さ、酸味の有無、後味のコク、渋みの残り方など、製品ごとの個性がはっきりわかる。焼き上がりの色も製品によって異なるため、試作して確認するのが理想的だ。

保存方法にも注意が必要で、湿気と高温を嫌うため、密閉容器に入れて冷暗所で保管するのが基本となる。冷蔵庫に入れる場合は結露によるダマ(固まり)に気をつけたい。開封後はなるべく早く使い切ることで、風味の劣化を防げる。

メジャーな製品とメーカー名

製菓の現場で広く使われている代表的な製品とメーカーをいくつか紹介する。

まず、世界的に最も有名なのが「バンホーテン(Van Houten)」だ。1828年にオランダでココアパウダーの製造法を発明した歴史あるブランドで、現在はバリーカレボー(Barry Callebaut)グループに属している。日本では片岡物産が輸入・販売を手がけており、業務用の5kg入りから家庭用の小容量まで幅広い製品展開がある。きめ細かい粒子と「ベルベットフィーリング」と称されるまろやかな風味、安定した色調が特徴で、プロのパティシエから家庭の菓子づくりまで広く支持されている。

フランスの高級チョコレートメーカー「ヴァローナ(Valrhona)」のカカオパウダーも、製菓のプロが愛用する製品のひとつだ。赤みがかった色調と、苦味が控えめでカカオのコクが深く残る独特の味わいが持ち味で、繊細な風味の菓子に向いている。

日本国内メーカーとしては、「森永製菓」の純ココアが家庭用の定番として長い歴史を持つ。森永製菓は日本で初めてココアの製造を手がけたメーカーとして知られ、スーパーマーケットやコンビニエンスストアで手に入る身近さが強みである。業務用としては子会社の森永商事が「ローヤルNPCココア」などを展開している。

ほかにも、製菓材料店で入手可能な「cotta(コッタ)」のオリジナルココアパウダーや、富澤商店(TOMIZ)のプライベートブランド製品など、製菓愛好家向けの選択肢は近年増え続けている。アメリカ系の「ハーシーズ(Hershey’s)」のピュアココアはアルカリ処理をしていないナチュラルタイプの代表格で、アメリカンベーキングのレシピに適している。

歴史・由来

カカオの利用は、紀元前からメソアメリカの古代文明にまでさかのぼる。マヤ文明の人々はカカオ豆をすりつぶし、水に溶いて香辛料を加えた苦い飲み物を作っていた。この飲み物は神への捧げものとして儀式にも使われ、カカオ豆そのものが通貨として流通するほど高い価値を認められていた。その後のアステカ文明でも、カカオ飲料は「ショコアトル(xocoatl)」と呼ばれ、王族や上流階層に珍重された。「ショコアトル」は「苦い水」を意味し、これが「チョコレート」の語源になったとする説が広く知られている。

16世紀にスペインの征服者エルナン・コルテスがアステカを滅ぼした後、カカオはヨーロッパに持ち込まれた。スペイン宮廷では砂糖やバニラを加えた甘いカカオ飲料が流行し、やがてフランス、イタリア、イギリスなどヨーロッパ各地の王侯貴族の間に広まっていく。しかし当時のカカオ飲料はカカオ豆を砕いて煮出しただけのもので、油脂分が多く、飲み口が重たいという欠点があった。

この状況を一変させたのが、オランダのバンホーテン家である。1828年、カスパルス・ファン・ホーテン(Casparus van Houten)が水圧式の圧搾プレス機を用いてカカオマスからココアバターを分離する技術で特許を取得した。これにより、油脂分を大幅に減らした軽やかなココアパウダーが製造可能になった。さらに、息子のコエンラート・ヨハネス・ファン・ホーテン(Coenraad Johannes van Houten)は、カカオをアルカリ性溶液で処理して酸味を中和する「ダッチプロセス」の手法を確立した。この2つの技術革新によって、ココアパウダーは水や牛乳に溶けやすく、味はまろやかに、色は深みのあるブラウンに変わり、飲料として爆発的に普及するきっかけとなった。

バンホーテンの発明は、チョコレートの歴史にも大きな影響を与えている。ココアバターを分離する技術が生まれたことで、1847年にはイギリスのフライ社(J.S. Fry & Sons)が、カカオマスにココアバターと砂糖を混ぜて固める「食べるチョコレート」を初めて商品化することに成功した。つまり、ココアパウダーの誕生と板チョコレートの誕生は、密接に結びついた出来事なのだ。

19世紀後半以降、カカオの需要が急増するとともに、西アフリカでのカカオ栽培が本格化した。もともとカカオは中南米原産の植物だったが、植民地経営の一環としてアフリカ大陸に移植され、とりわけコートジボワールとガーナが世界最大の生産地へと成長していく。20世紀に入ると、ココアパウダーは製菓原材料としての地位を確固たるものにし、チョコレートケーキ、ブラウニー、ホットチョコレートなど、現代の菓子文化に欠かせない存在となった。

日本にココアが伝わったのは明治時代のこと。森永製菓が国内でのココア製造に先鞭をつけ、欧米で古くから親しまれていたこの飲み物を日本の家庭にも届けようと尽力した。当初は高級品だったココアも、戦後の経済成長とともに徐々に身近な存在となり、現在では製菓材料としてだけでなく、日常の飲み物やスイーツの素材として幅広く浸透している。

免責事項

商品紹介等については、公式サイトおよび公開情報を基に作成しております。
記載内容は掲載時時点での参考値です。商品仕様は予告なく変更される場合があります。
購入・ご利用の際は必ず最新のパッケージ表示または公式情報をご確認ください。特に食物アレルギーをお持ちの方は原材料を十分にご確認の上お求めください。
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