材料の名前(日本語・外国語)

日本語では「カカオマス」と表記される。英語圏では “cocoa mass” のほか、”cocoa liquor” や “chocolate liquor” と呼ばれることも多い。liquor(リカー)とあるがアルコールは含まれておらず、カカオニブを磨砕した際にドロドロの液体になることから、この名がついた。フランス語では “pâte de cacao”(パート・ド・カカオ)、ドイツ語では “Kakaomasse”(カカオマッセ)と表される。海外のチョコレート製品の原材料欄に “cocoa liquor” と書かれていたら、それは日本でいうカカオマスと同じものを指す。液状のまま扱う場合を「カカオリカー」、冷やして固めた状態を「カカオマス」と区別して呼ぶこともあるが、製菓業界では固形の状態を指してカカオマスと総称するのが一般的である。

特徴

カカオマスは、カカオ豆の胚乳部分であるカカオニブをすりつぶしてペースト状にし、それを冷却・固化させたものだ。カカオニブには約50~57%のココアバター(カカオ脂肪分)が含まれているため、磨砕すると摩擦熱で脂肪分が溶け出し、どろりとしたペーストになる。これがカカオリカーであり、冷却して固まったものがカカオマスである。

色は濃い茶褐色で、砂糖やミルクを一切加えていないカカオ100%の素材にあたる。口に含むとカカオ本来の強い苦味と渋み、そしてわずかな酸味を感じる。甘みはほぼなく、そのまま食べるには慣れが要る。一方で、フルーティーな香りやナッツのようなコク、スパイシーな風味など、産地やカカオ品種によって味わいの個性が驚くほど変化するのも面白い点だ。

栄養面でいうと、カカオマスにはカカオポリフェノールが豊富に含まれている。文部科学省の食品成分データベースによると、カカオマス100gあたりポリフェノールは約2.2g。テオブロミンが約0.8g、カフェインが約0.1gのほか、食物繊維も約10%含まれる。カカオマスの食物繊維はほとんどが不溶性で、リグニンやセルロース、ヘミセルロースなどが中心だ。さらに、マグネシウムや鉄分などのミネラルも含んでいる。

物理的な特性として押さえておきたいのが融点である。カカオマスに含まれるココアバターは、ヒトの体温に近い30~35℃付近で溶ける。チョコレートが口の中ですっと溶けるあの感覚は、ココアバターの融点がもたらすものだ。

用途

カカオマスの代表的な用途は、なんといってもチョコレートの製造である。カカオマスに砂糖、ココアバター、レシチン(乳化剤)、香料などを配合し、レファイナーやコンチェといった機械で練り上げることで、ダークチョコレートが作られる。ミルクチョコレートの場合はさらに全粉乳や脱脂粉乳を加える。ホワイトチョコレートにはカカオマスを使わず、ココアバターのみをカカオ由来原料として使うため白い色をしている。

もうひとつの大きな用途がココアパウダーの製造だ。カカオマスをプレス機にかけてココアバターを搾り出し、残った固形分(ココアケーキ)を粉砕すると、ココアパウダーになる。ココアパウダーの脂肪分は約11~23%程度で、カカオマスの約55%と比べるとかなり低い。ココアパウダーはホットココアの材料になるだけでなく、焼き菓子やアイスクリーム、パンなど幅広い食品に使われている。

家庭での製菓においても、カカオマスは活躍する。富澤商店やcottaなどの製菓材料専門店では、コインタイプやフレーク状に加工されたカカオマスが手頃な価格で手に入る。ガトーショコラやトリュフ、フォンダンショコラなどを作るとき、市販の板チョコの代わりにカカオマスを使えば、砂糖の量を自分で調整でき、カカオの風味をより鮮明に感じるお菓子が仕上がる。

食品以外にもカカオマスの利用シーンはある。ココアバターは化粧品や石けんの原料として用いられることがあるが、それはカカオマスから圧搾されたものだ。

主な原産国

カカオマスの原料であるカカオ豆は、赤道を挟んで南北約20度の熱帯地域、通称「カカオベルト」で栽培されている。年間を通じて高温多湿で降水量が多い気候がカカオの生育に適している。

カカオ豆の生産量で世界のトップを走るのは、西アフリカのコートジボワールだ。国際ココア機関(ICCO)や各種統計によれば、同国の年間生産量は約180万~220万トンに及び、世界全体の約4割を占める。2位にはガーナがつけ、こちらも西アフリカの主要産地として知られる。日本に輸入されるカカオ豆の約7~8割はガーナ産で、明治やロッテなど国内大手メーカーの多くがガーナ産を主力としてきた。

3位以降にはインドネシア、エクアドル、ナイジェリア、カメルーン、ブラジルなどが続く。エクアドルは「アリバ種」と呼ばれる香り高い品種で知られ、高品質な「ファインカカオ」の代表的な産地だ。中南米にはほかにもベネズエラやペルー、ドミニカ共和国といった個性豊かなカカオ産地が点在する。マダガスカルやベトナムなども近年注目を集めている。

カカオ豆の品種は大きく3つに分けられる。生産量の大部分を占めるフォラステロ種は、西アフリカや東南アジアで栽培され、苦味が強く力強い味わいが特徴。クリオロ種は中南米原産で繊細な香りを持つが、病気に弱く生産量が少ない希少品種だ。トリニタリオ種はフォラステロ種とクリオロ種の交配種で、両者の特徴を受け継ぎ、風味と耐病性のバランスに優れている。

選び方とポイント

お菓子作りにカカオマスを取り入れるなら、いくつかの視点を持って選ぶと失敗しにくい。

まず確認したいのは原材料の表示だ。質の良いカカオマスは「カカオマス(カカオ豆)」とだけ書かれていて、余計な添加物が入っていない。砂糖や植物油脂、香料などが混ざっている場合はカカオマスではなくチョコレートに分類される。パッケージ裏面の原材料欄にカカオ豆以外の記載がないことを確かめよう。

次にチェックしたいのが産地の情報である。前述のとおり、カカオ豆は産地によって風味が大きく異なる。ガーナ産はバランスが良く万人向けの味わい、エクアドル産はフローラルで華やかな香り、マダガスカル産は柑橘系の酸味が強いなど、それぞれ個性がある。製品パッケージや商品説明に産地が記載されていれば参考にしたい。ブレンドされたカカオマスは安定した味が出しやすく、シングルオリジン(単一産地)のものは独特の風味を活かしたお菓子作りに向いている。

形状も選択のポイントだ。コイン型やタブレット型は計量しやすく湯煎でも溶けやすいため、家庭での製菓に扱いやすい。ブロック型は業務用に多く、大量に使う場面に向いている。

保存方法にも注意を払いたい。カカオマスは約55%の脂肪分を含むため、高温や直射日光の下では溶けてしまう。開封後は密閉して涼しい場所に保管し、湿気や強い匂いのある食品のそばに置かないようにする。冷蔵庫で保管する場合は結露に気をつけ、使用前に室温に戻してから作業に入ると、テンパリングなどがスムーズに進む。

メジャーな製品とメーカー名

日本国内でカカオマスを製造・販売する代表的なメーカーとして、まず名前が挙がるのが大東カカオだ。1924年(大正13年)に創業し、1929年にはスイス・ドイツ・イタリア製の機械を導入して、日本で初めてカカオ豆から製品までの一貫製造ラインを完成させたパイオニアである。同社はアフリカや東南アジア産のカカオ豆を国内工場で焙煎・加工し、「カカオマスブレンドN」をはじめ複数の業務用カカオマス製品を展開している。富澤商店では大東カカオ製のカカオマスがコインタイプで販売されており、家庭の菓子作りにも入手しやすい。

森永商事もカカオマスやクーベルチュールチョコレートを幅広く取り扱う業務用チョコレート原料の大手サプライヤーだ。厳選したカカオ豆を使ったカカオマスのほか、コーティング用チョコレートやチョコチップなど、多様な製品を製菓・製パン業者に提供している。

海外メーカーでは、スイスに本社を置くバリーカレボー(Barry Callebaut)が世界最大級のチョコレート・ココア製品メーカーとして知られる。同社は傘下に「カレボー」「カカオバリー」「バンホーテン」という歴史あるブランドを擁している。カレボーは世界で初めてクーベルチュールチョコレートを開発したブランドとして有名で、カカオバリーは1842年創業以来、パティシエやショコラティエに原材料を供給し続けてきた。バンホーテンは1828年にココアパウダーの製法を発明した由緒あるブランドだ。バリーカレボーは日本国内にも拠点を持ち、高崎工場などで製造を行っている。

製菓材料の小売り分野では、先述の富澤商店やcottaが手軽にカカオマスを購入できる店として人気がある。富澤商店は大東カカオ製のカカオマスを100gの少量パックから1kgの大容量パックまで揃え、ネット通販でも店舗でも入手可能だ。cottaもオンラインショップでカカオマスやクーベルチュールチョコレートを多数ラインナップしている。

歴史・由来

カカオマスの歴史は、人類とカカオの関わりの歴史そのものといえる。

カカオの起源は紀元前3300年頃のエクアドル周辺にまで遡る。考古学的な研究では、現在のエクアドルにあたる地域の先住民が5000年以上前にカカオを食料や飲料として利用していた痕跡が、古い陶器から発見されている。ただし当時の利用法は、カカオの果肉(パルプ)を発酵させた飲料が中心だったと考えられ、現在のカカオマスの形とは異なる。

中米では、14世紀に栄えたアステカ王国でカカオが珍重された。カカオ豆をすりつぶし、唐辛子やバニラ、トウモロコシの粉を混ぜた「ショコラトル」と呼ばれる苦い飲み物は、王族や戦士の特別な飲料だった。このカカオ豆をすりつぶす行為こそが、現在のカカオマス製造の原型にあたる。カカオ豆は通貨としても流通するほど価値が高かったという記録も残っている。

16世紀にスペイン人がアメリカ大陸を征服した際、カカオはヨーロッパへと渡った。スペイン宮廷ではカカオ飲料に砂糖を加えて甘くする飲み方が生まれ、やがてフランス、イタリア、イギリスなどヨーロッパ各国の貴族社会に広がっていった。ただし18世紀までのヨーロッパでは、焙煎したカカオ豆からペースト状のカカオマスを作り、それをお湯に溶かして飲むスタイルが主流であった。カカオマスに含まれる約55%の脂肪分のせいで湯と混ざりにくく、飲料としては脂っこくて扱いづらい存在だった。

この課題を解決したのが、1828年のオランダ人カスパルス・ファン・ハウテン(一説ではその息子コンラート・ヨハネス・ファン・ハウテン)による発明である。カカオマスから油圧式プレス機でココアバターを搾り出す技術が生み出され、脂肪分を大幅に減らした「ココアパウダー」の製造が可能になった。この技術はダッチプロセスと呼ばれ、同時にアルカリ処理で酸味を和らげ、水に溶けやすくするという画期的な手法も開発された。バンホーテンはこの製法で特許を取得し、ココア飲料の普及に大きく貢献した。

この発明は、思わぬ副産物も生んだ。プレスで搾り出されたココアバターが大量に余るようになったのだ。1847年、イギリスの菓子職人ジョセフ・フライは、砂糖入りのカカオパウダーに余剰のココアバターを混ぜ合わせることで、型に流し込める固形のチョコレートを作ることに成功した。これが世界初の「食べるチョコレート(イーティングチョコレート)」であり、チョコレートは飲み物から食べ物へと大きく転換した。

1875年にはスイスのダニエル・ペーターが粉ミルクとチョコレートを組み合わせ、ミルクチョコレートを開発。1879年にはスイスのロドルフ・リンツがコンチェ(精練機)を発明し、チョコレートのなめらかな口どけが実現された。これらの技術革新はすべて、カカオマスというベースがあってこそ成立したものだ。

日本にチョコレートが伝わったのは江戸時代後期、18世紀末頃とされる。国産チョコレートの製造が本格化したのは大正から昭和初期にかけてで、大東カカオが1929年にカカオ豆からの一貫製造ラインを完成させたのは、日本のチョコレート産業における大きな節目だった。

こうして振り返ると、カカオマスは数千年にわたる人類とカカオの関係を貫く、まさに「核」のような存在だ。古代の人々がすりつぶしたカカオのペーストは、産業革命を経て技術が磨かれ、やがて世界中で愛されるチョコレートやココアの出発点となった。現代の製菓においても、カカオマスの品質が最終製品の味わいを左右する根幹であることに変わりはない。

免責事項

商品紹介等については、公式サイトおよび公開情報を基に作成しております。
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購入・ご利用の際は必ず最新のパッケージ表示または公式情報をご確認ください。特に食物アレルギーをお持ちの方は原材料を十分にご確認の上お求めください。
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