材料の名前
日本語では「バトンショコラ」、あるいは「ショコラバトン」と呼ばれる。フランス語の正式名称は「Bâton de chocolat(バトン・ド・ショコラ)」で、「bâton」は「棒」を意味する。パン職人向けの業務用製品では「Bâton boulanger(バトン・ブーランジェ)」という名称で販売されるケースも多い。英語圏では「Chocolate baton」または「Baking stick」と呼ばれ、いずれも「棒状の焼き込み用チョコレート」を指す。日本の製菓材料店やレシピサイトでは「バトンショコラ」の表記が定着しており、専門用語としてそのまま使われている。
特徴
バトンショコラの最大の特徴は、オーブンでの焼成に耐えられる耐熱性にある。一般的な板チョコレートや製菓用クーベルチュールをパン生地に巻き込んで焼くと、高温で完全に溶け出し、形が崩れてしまう。生地の表面にチョコレートがにじみ出したり、焼成後にモロモロとした舌触りになったりと、仕上がりの品質が安定しない。一方、バトンショコラは高い融点を持つように配合が調整されているため、200℃前後のオーブンで焼いても棒状の形がしっかり残る。
形状は細長いスティック状で、長さはおおむね8cm前後に統一されている。これはパン・オ・ショコラやクロワッサンなどの成形に適した寸法として設計されたもので、デニッシュ生地やブリオッシュ生地に沿わせて巻き込みやすい。太さはメーカーによって異なり、1本あたり約3.2gの細いタイプと、約5.3gのやや太いタイプ、さらに約9.5〜10gの大型タイプが存在する。用途や焼き上がりのチョコレート量に応じた使い分けが可能だ。
カカオ分は44〜48%程度に設定された製品が主流で、焼成後もカカオの風味がしっかり残るように仕上がっている。甘さは控えめに調整されているため、パンやヴィエノワズリー(菓子パン類)の生地と合わせたときにバランスがよい。焼成後に冷ますとチョコレートが再び固まり、かじったときのパリッとした食感が楽しめるのも大きな魅力といえる。
なお、原材料は一般的なチョコレートと同じく砂糖、カカオマス、ココアバターが基本で、乳化剤(レシチン)と香料が加えられている。製品によっては乳成分を含むものもあるが、ダークタイプでは乳原料を使用しないものが多い。
用途
バトンショコラの代表的な用途は、なんといってもパン・オ・ショコラの仕込みだ。パン・オ・ショコラとは、折り込んだデニッシュ生地(クロワッサン生地)でチョコレートバーを巻き込み、四角く成形して焼き上げるフランスの伝統的なヴィエノワズリーである。フランスのパン屋やパティスリーでは、クロワッサンと並ぶ朝食の定番として愛されている。この菓子パンに使うチョコレートとして、バトンショコラは欠かせない素材となっている。
パン・オ・ショコラ以外にも活躍の場は広い。ブリオッシュ生地にバトンショコラを1本差し込んで焼く「ブリオッシュ・ショコラ」や、通常のパン生地で包むチョコパンにも適している。成形のしやすさという点では、棒状であるがゆえに生地の端から端まで均一にチョコレートが行き渡り、どこを切っても断面にチョコレートが現れる仕上がりになるのが利点だ。
近年では、パン以外の焼き菓子にも応用されるようになった。フィナンシェやマドレーヌの生地にバトンショコラを1本載せて焼き込んだり、クッキー生地に刻んでトッピングしたりと、アイデア次第で活用の幅は広がる。Bean to Barブランドの「Minimal(ミニマル)」がカカオ濃度60%のハイカカオタイプのバトンショコラを展開し、パティスリーやベーカリーへの卸販売を行っていることからも、用途が焼き菓子全般に拡大している様子がうかがえる。
家庭での手作りパンやお菓子でもバトンショコラは重宝する。通販サイトのcotta(コッタ)や富澤商店では150gや64gといった小分けパッケージが販売されており、少量から気軽に試すことができる。パン・オ・ショコラは折り込み工程の難易度が高いが、一般的な菓子パン生地にバトンショコラを巻き込むだけでも、焼き上がりの完成度はぐっと上がる。
主な原産国
バトンショコラの主要な生産国はフランスである。後述するカカオバリー、ヴァローナ、DGFセルヴィスといったフランスの大手チョコレートメーカーが業務用バトンショコラ市場の中心を担っている。フランスはヴィエノワズリー文化の発祥地であり、パン・オ・ショコラ用のバトンショコラもフランス国内のパン職人の需要から発展した製品といえる。
一方、日本国内でも日新化工が「ロッシュバトンショコラ」を製造している。こちらは植物油脂をベースとした国産製品で、フランス産のカカオバター主体の製品とは原材料構成がやや異なるものの、耐熱性と扱いやすさに優れ、手頃な価格帯で流通しているのが特徴だ。
チョコレートの原料であるカカオ豆の産地としては、西アフリカのガーナやコートジボワール、中南米のベネズエラやエクアドルなどが主要な供給元になっている。メーカーによって使用するカカオ豆の産地は異なり、たとえばMinimalのバトンショコラはガーナ産カカオ豆を指定して使用している。
選び方のポイント
バトンショコラを選ぶ際に確認しておきたいのは、まずカカオ分の比率だ。カカオバリーやDGFの製品はカカオ分44%、ヴァローナの製品はカカオ分48%が標準的なラインナップとなっている。カカオ分が高いほど苦味とカカオの風味が強くなり、低いほど甘みが際立つ。パン・オ・ショコラのようにバターリッチな生地と組み合わせる場合は、カカオ分44〜48%程度のものが生地の風味と調和しやすい。より力強いカカオ感を求めるなら、Minimalのカカオ濃度60%のようなハイカカオタイプを検討してもよいだろう。
次に確認したいのが1本あたりのサイズだ。カカオバリーやヴァローナの標準的な製品は、1本あたり約3.2gで長さ約8cmの細いタイプと、1本あたり約5.3gで同じく長さ約8cmのやや太いタイプがある。さらにDGFからは1本あたり約9.5〜10gの太いタイプも販売されている。パン・オ・ショコラにはチョコレートバーを2本並べて巻き込むのが一般的なので、焼き上がりにどの程度のチョコレートのボリュームが欲しいかによって太さを使い分けるとよい。
購入量も重要な判断材料だ。業務用は1.6kgの箱入り(約300〜500本入り)が主流で、パン屋やパティスリーでの大量仕込みに対応している。家庭用であれば64g(約20本)や150g程度の小分けパックが各通販サイトで入手可能だ。
保存方法にも注意が必要で、直射日光と高温多湿を避け、18〜20℃以下の冷暗所で保管するのが基本となる。夏場は冷蔵保存が推奨される。チョコレートは周囲の臭いを吸いやすい性質があるため、香りの強い食品のそばには置かないようにしたい。
メジャーな製品とメーカー名
バトンショコラの市場で圧倒的な知名度と流通量を誇るのが、カカオバリー(Cacao Barry)の製品だ。カカオバリーはバリーカレボー(Barry Callebaut)グループに属するフランスのチョコレートブランドで、1842年にチャールズ・バリーがパリで創業した。バトンショコラはカカオ分44%のダークチョコレートで、1本あたり約3.2g(500本入り)と約5.3g(300本入り)の2サイズを展開。フランス産で、日本では日仏商事を通じて輸入・販売されている。世界中のパン屋やパティスリーで使われている業界のスタンダード的な存在だ。
次に名が挙がるのが、ヴァローナ(Valrhona)のバトンショコラである。ヴァローナは1922年にフランス・ローヌ地方のタン=レルミタージュで菓子職人アルベリック・ギロネ(Albéric Guironnet)が創業した高級チョコレートメーカーだ。カカオ分48%のバトンショコラを製造しており、カカオバリーの44%と比べるとやや高めのカカオ含有量が特徴。甘さ控えめでカカオの風味が豊かに広がり、焼成後の口溶けにもこだわっている。価格帯はカカオバリーやDGFよりも高めだが、プロのパティシエからの支持が厚い。日本ではサンエイト貿易が輸入を手がけている。
DGF セルヴィス(DGF Service)も、フランス産バトンショコラの代表的なブランドだ。DGFは1986年にフランスの製菓材料開発者ジャッキー・ジレが創立した製菓材料メーカーで、MOF(フランス国家最優秀職人章)の有資格者が品質管理と開発を担当していることでも知られる。バトンショコラはカカオ分44%で、500本入り(約3.2g/本)と165本入り(約9.5〜10g/本)の太いタイプを用意している。日本ではアルカンが輸入・販売を担当しており、業務用として広く流通している。
国産メーカーとしては、日新化工の「ロッシュバトンショコラ」がある。耐熱性に優れたミルクタイプの棒状チョコレートで、植物油脂を使用した配合が特徴。焼成後の乾き時間が短く、作業効率を重視する現場で評価されている。フランス産のカカオバター主体の製品とは風味の方向性が異なるが、コストパフォーマンスに優れた選択肢として、多くのパン屋で採用されている。
さらに、Bean to Barチョコレートブランドの「Minimal(ミニマル)」が展開するバトンショコラも注目に値する。ガーナ産カカオ豆を使用したカカオ濃度60%のハイカカオタイプで、カカオ豆の外皮を含め素材を丸ごと使用する独自製法を採用。ナッツのような甘さと上品なスパイスの香りが特徴的で、従来のバトンショコラとは一線を画す個性的な味わいだ。1.3kg入りの業務用パッケージで販売されている。
歴史・由来
バトンショコラの歴史は、パン・オ・ショコラの誕生と深く結びついている。パン・オ・ショコラの起源については諸説あるが、広く知られているのは、1830年代にオーストリアの菓子職人アウグスト・ツァング(August Zang)がパリにウィーン風のパン屋「Boulangerie Viennoise」を開業し、バターを折り込んだ生地にチョコレートを巻き込む菓子パンを紹介したとされる説だ。この時代にはまだ「バトンショコラ」という専用製品は存在せず、パン職人たちは板状のチョコレートを砕いたり、棒状に整形したりしながらパン生地に巻き込んでいたと考えられている。
19世紀後半から20世紀にかけて、フランスでは製パンと製菓の技術が急速に発展した。パン・オ・ショコラがフランス全土のブーランジュリー(パン屋)に定着するにつれ、焼成に適した専用のチョコレートを求める声がパン職人の間で高まっていった。通常のチョコレートでは焼成時に溶け出してしまい、形や食感の安定した製品を作ることが困難だったためだ。
こうした需要に応えるかたちで、フランスのチョコレートメーカーが焼き込み専用のチョコレートバー、すなわちバトンショコラの開発に取り組んだ。1842年創業のカカオバリーや、1922年創業のヴァローナといった老舗メーカーが、融点を高く設計した棒状のチョコレートを製品化。パン職人が生地に巻き込むだけで安定した焼き上がりが得られるように、形状も8cmのスティック型に規格化された。
フランス南西部では、パン・オ・ショコラのことを「ショコラティーヌ(chocolatine)」と呼ぶ地域もあり、名称をめぐる論争はフランス人にとって半ばジョーク、半ば本気のアイデンティティ問題として語られる。呼び名こそ異なるが、中に巻き込まれるバトンショコラの存在は共通しており、フランスのパン文化を支える裏方として欠かせない役割を果たしてきた。
日本にバトンショコラが本格的に普及したのは、1990年代以降のことだ。フランス仕込みのブーランジュリーやパティスリーが日本各地に増え、本場と同じ材料でパン・オ・ショコラを作る需要が生まれたことがきっかけとなった。現在では、日仏商事やサンエイト貿易、アルカンといった輸入商社を通じてフランス産のバトンショコラが安定的に流通しているほか、日新化工やMinimalといった国内ブランドの参入によって選択肢が広がっている。
