材料の名前

日本語では「ヘーゼルナッツ」と呼ばれるのが一般的だが、和名では「セイヨウハシバミ(西洋榛)」の実にあたる。漢字では「榛実(しんじつ)」と表記され、中国語圏では可食部を「榛子(ジェンズ)」と呼ぶことが多い。

英語ではhazelnut、フランス語ではnoisette(ノワゼット)、イタリア語ではnocciola(ノッチョーラ)、ドイツ語ではHaselnuss(ハーゼルヌス)、トルコ語ではfındık(フンドゥック)と表記する。フランス菓子のレシピで「ノワゼット」と書かれていれば、それはヘーゼルナッツのことを指している。製菓の現場では、日本でもフランス語名の「ノワゼット」がしばしば使われる。

分類上はカバノキ科ハシバミ属の落葉低木が実らせる堅果にあたり、見た目はドングリに似ているものの、ドングリが属するブナ科とはまったく異なる植物である。

特徴

ヘーゼルナッツは、アーモンド、カシューナッツとともに「世界三大ナッツ」に数えられている。ほかのナッツと比べて際立つのは、ローストしたときに広がる深い香ばしさと、クリーミーで濃厚なコクだろう。この独特の芳香は、フィルベルトン(5-メチル-2-ヘプテン-4-オン)という香気成分によるもので、加熱すると一段と強く立ち上がる。

栄養面では脂質が約69%を占め、その脂肪酸組成が特徴的である。オレイン酸を中心とした一価不飽和脂肪酸の比率が高く、飽和脂肪酸は少ない。また、ナッツ類のなかでもビタミンEの含有量が突出しており、日本食品標準成分表によれば100gあたり18.0mg含まれる。葉酸の含有量もナッツ類のなかではトップクラスで、食物繊維も100gあたり7.4g含む。カロリーは100gあたり約701kcalとエネルギー密度が高いため、食べすぎには注意が必要である。

味わいの面では、生のままだとやや渋みがあるが、ローストすると渋皮がはがれやすくなり、甘みと香ばしさが引き立つ。ペースト状にすると滑らかな口どけが生まれ、チョコレートやバターとの親和性がきわめて高い。この性質が、製菓材料として重宝される最大の理由である。

用途

お菓子づくりにおけるヘーゼルナッツの活躍の場は幅広い。代表的な用途を以下に整理する。

まず、ホール(粒のまま)の使い方がある。ローストしたヘーゼルナッツをチョコレートでコーティングしたり、焼き菓子のトッピングに散らしたりする方法で、粒の食感がアクセントになる。フェレロ ロシェのように、一粒のヘーゼルナッツを中心に据えた製品はこの典型例だ。

次に、パウダー(粉末)としての活用がある。アーモンドパウダーと同様に、フィナンシェやダクワーズの生地に混ぜ込むことで、焼き上がりにナッツ特有のコクと香りが加わる。フランス菓子で「フィナンシェ・ノワゼット」と呼ばれるのは、アーモンドの代わりにヘーゼルナッツパウダーを使用した焼き菓子である。

さらに、ペースト状にした「プラリネ」が製菓において欠かせない素材となっている。プラリネとは、ナッツをキャラメリゼ(カラメル化した砂糖でコーティング)したのち、細かく粉砕してペースト状にしたものを指す。ヘーゼルナッツで作ったプラリネは「プラリネ・ノワゼット」と呼ばれ、ボンボンショコラの中身やムースの風味づけ、バタークリームへの練り込みなど、洋菓子の幅広い場面で使用される。

チョコレートとの組み合わせも見逃せない。ヘーゼルナッツペーストとチョコレートを練り合わせた「ジャンドゥーヤ」は、イタリア・トリノ発祥のチョコレート菓子として世界中に知られている。パンに塗るスプレッドとして大ヒットした「ヌテラ」も、ヘーゼルナッツペーストとココアを主原料にした製品だ。

このほか、ヘーゼルナッツを浸漬して風味を抽出したリキュール「フランジェリコ」が存在し、カクテルや菓子の香りづけに使われる。カフェメニューでおなじみの「ヘーゼルナッツラテ」も、このナッツのフレーバーを活かした飲み物である。

主な原産国

ヘーゼルナッツの原産地はトルコ北部の黒海沿岸とされ、紀元前の時代からこの地域で栽培が行われてきた。現在も世界最大の生産国はトルコで、世界シェアの約60~70%を占めている。GLOBAL NOTEの統計(2024年データ)によると、トルコの生産量は約71万7,000トンに達し、2位のイタリア(約12万トン)を大きく引き離している。

主な生産国を並べると、トルコ、イタリア、アゼルバイジャン、アメリカ(主にオレゴン州)、ジョージアなどが上位に入る。イタリアではピエモンテ州、カンパニア州、ラツィオ州、シチリア州が主要な産地であり、とりわけピエモンテ州ランゲ地方で育つ「トンダ・ジェンティーレ・デッレ・ランゲ」品種は世界最高峰の品質と評価されている。アメリカではオレゴン州ウィラメットバレーが一大産地で、州内の農地が拡大傾向にある。

日本国内でもヘーゼルナッツ栽培の取り組みが進んでおり、長野県や北海道で生産が行われている。ただし国内生産量はごく少量で、日本で消費されるヘーゼルナッツの約95%はトルコからの輸入に依存しているのが現状だ。

選び方とポイント

製菓用にヘーゼルナッツを選ぶ際は、いくつかのポイントを押さえておきたい。

まず、用途に合わせた形態の選択が大切だ。ホール、ダイス(刻み)、パウダー、ペースト(プラリネ)と、市販の製菓用材料にはさまざまな形態がある。トッピングにはホールやダイス、生地に練り込むならパウダー、クリームやガナッシュの風味づけにはペーストというように、レシピに応じて使い分けるとよい。

品種にも注目したい。最高級とされるのはイタリア・ピエモンテ産の「トンダ・ジェンティーレ・デッレ・ランゲ(トリロバータ)」で、1993年にEUのIGP(保護地理的表示)認定を受けている品種だ。丸みを帯びた形状で、他品種に比べて油分がやや少なく、上品な甘みと繊細な香りを持つ。ただし希少なうえ価格も高いため、トルコ産の汎用品種でも十分に美味しい菓子を仕上げることができる。

購入時には鮮度の確認も欠かせない。ヘーゼルナッツは脂質が多いため酸化しやすく、古くなると独特の油くさい臭いが出る。殻つきの場合は振ってみてカラカラと音がしないもの(実が詰まっている証拠)を選ぶのが基本だ。むき身の場合は、表面にツヤがあり、割れや変色がないものを選びたい。開封後は密閉容器に入れ、冷暗所か冷蔵庫で保存すると風味を長く保てる。

ローストの度合いも味の仕上がりを左右する。市販のローストタイプは手軽だが、生のヘーゼルナッツを自分でオーブンロースト(150~160℃で12~15分程度)すると、焼き加減を好みに調整でき、より香り高い仕上がりが期待できる。

メジャーな製品とメーカー名

ヘーゼルナッツを主役に据えた製品は世界各国に存在する。ここでは代表的なものを取り上げる。

ヌテラ(Nutella) ─ フェレロ社(イタリア) 1964年に発売された、ヘーゼルナッツペーストとココアを主原料とするチョコレートスプレッドである。第二次世界大戦後にカカオが極端に不足した時代、ピエモンテ地方の菓子職人ピエトロ・フェレロがヘーゼルナッツでカカオを補ったペーストを考案したのが始まりとされる。息子のミケーレ・フェレロがレシピを磨き上げ、「ヌテラ」の名で商品化した。現在では世界160か国以上で販売され、チョコレートスプレッドの代名詞的存在になっている。

フェレロ ロシェ(Ferrero Rocher) ─ フェレロ社(イタリア) 1982年に同じくフェレロ社から発売された球形のチョコレート菓子。丸ごと1粒のローストヘーゼルナッツを芯に、ヘーゼルナッツクリームとウエハースで包み、さらにミルクチョコレートと砕いたナッツでコーティングしている。金色の包み紙が印象的で、ギフト需要でも高い人気を誇る。

ジャンドゥーヤ(Gianduja)チョコレート ─ カファレル社(Caffarel、イタリア)ほか ヘーゼルナッツペーストとチョコレートを練り合わせた、トリノ発祥の伝統的なチョコレート。カファレル社は19世紀からジャンドゥーヤを製造する老舗として知られ、三角柱型に成形した「ジャンドゥイオット」は同社の代表製品である。

バチ(Baci) ─ ペルジーナ社(Perugina、イタリア、現ネスレグループ) ヘーゼルナッツのかけらを混ぜたジャンドゥーヤチョコレートの上に、丸ごとのヘーゼルナッツ1粒をのせ、ダークチョコレートでコーティングした一口サイズのチョコレート菓子。1922年の誕生以来、愛のメッセージが包み紙に印刷されていることでも知られる。

このほか、日本国内では東京風月堂やゴディバ、リンツなどのブランドがヘーゼルナッツを使った焼き菓子やチョコレートを展開しており、コンビニエンスストアでもヘーゼルナッツ入りチョコレートバーを手軽に購入できるようになっている。

歴史・由来

ヘーゼルナッツの歴史はきわめて古い。考古学的な調査では、ヨーロッパの石器時代の遺跡からハシバミの殻が出土しており、人類が数千年以上前からこのナッツを食べていたことが確認されている。セイヨウハシバミは氷河期の終わりとともにヨーロッパ北部へ分布を広げた最初期の低木のひとつで、紀元前7万5000年から紀元前5500年の泥炭層からはセイヨウハシバミの花粉が大量に見つかっている。

栽培が体系的に始まったのは約2,300年前、トルコ北部の黒海沿岸地域とされる。古代ギリシャや古代ローマの文献にもハシバミの記録があり、当時すでに重要な食糧資源として認識されていた。ローマの博物学者プリニウスは『博物誌』のなかでハシバミについて言及している。

中世ヨーロッパでは、ヘーゼルナッツは貴重なタンパク源・脂質源として、スープや煮込み料理に用いられた。ケルト文化圏では「知恵の象徴」とされ、魔除けや占いの道具にハシバミの枝が使われるなど、食用にとどまらない文化的な意味合いも持っていた。

菓子の素材として脚光を浴びる転機は19世紀初頭に訪れた。1806年、フランス皇帝ナポレオンが「大陸封鎖令(ベルリン勅令)」を発布し、イギリスおよびその植民地との貿易を禁止した。その対抗措置としてイギリスが海上封鎖を敷いたため、ヨーロッパ大陸にはカリブ海やアフリカからのカカオや砂糖が入りにくくなった。チョコレートの一大生産地であったイタリア・トリノの菓子職人たちは、不足するカカオを補うために地元ピエモンテ産のヘーゼルナッツを大量にすり潰してカカオに混ぜるという工夫を編み出した。こうして誕生したのが、ヘーゼルナッツペーストとチョコレートを練り合わせた「ジャンドゥーヤ」である。

ジャンドゥーヤという名称は、トリノのカーニバルに登場する陽気なキャラクター「ジャンドゥーヤ」に由来する。このチョコレートは大陸封鎖令が解除されたあとも人々に愛され続け、トリノの菓子文化を象徴する存在となった。

20世紀に入ると、ヘーゼルナッツの用途はさらに拡大する。第二次世界大戦後のイタリアでは再びカカオが入手困難になり、ピエモンテ州アルバの菓子職人ピエトロ・フェレロが、ヘーゼルナッツペーストを主体にしたチョコレートクリーム「パスタ・ジャンドゥーヤ」を1946年に商品化した。これがのちの「スーパークレーマ」を経て、1964年に息子ミケーレの手で「ヌテラ」として世界に発信された。ヌテラの爆発的な成功はヘーゼルナッツの世界的な需要を飛躍的に押し上げ、トルコを中心とする生産国の農業にも大きな影響を与えた。

現在、世界のヘーゼルナッツ市場は拡大を続けている。健康志向の高まりによるナッツ需要の増加に加え、チョコレート菓子やスプレッド、プラントベース(植物性)ミルクの原料としての需要が伸びていることが背景にある。製菓業界にとって、ヘーゼルナッツはこれからも欠かすことのできない重要な素材であり続けるだろう。

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購入・ご利用の際は必ず最新のパッケージ表示または公式情報をご確認ください。特に食物アレルギーをお持ちの方は原材料を十分にご確認の上お求めください。
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