材料の名前
日本語では「黒豆(くろまめ)」、正式名称は「黒大豆(くろだいず)」と呼ばれる。英語では「Black soybean」と表記されることが多い。韓国語では「黒太(フクテ/흑태)」、中国語では「黒大豆(ヘイダードウ/黑大豆)」と表記される。学名はダイズと同じく Glycine max (L.) Merrill で、マメ科ダイズ属に分類される一年草である。表皮が黒いこと以外は基本的に大豆と同じ種であり、黒い色素の正体はポリフェノールの一種であるアントシアニンだ。
特徴
黒豆は、いわゆる黄大豆や青大豆と同じ「大豆」の仲間であるが、種皮にアントシアニンを含むため外見が黒い。この黒い皮に由来する独特の風味とコク、そしてほのかな甘みが、お菓子の材料としての大きな魅力となっている。
栄養面では、大豆と共通する良質なたんぱく質や大豆イソフラボン、大豆サポニン、食物繊維、カリウム、カルシウム、鉄分などに加え、黒い皮の部分にアントシアニンを豊富に含む点が特筆される。アントシアニンは抗酸化作用を持つポリフェノールで、ブルーベリーなどにも含まれる色素として知られている。つまり黒豆は、大豆の栄養価にアントシアニンの抗酸化力が上乗せされた食材といえる。
品種によって粒の大きさや表面の質感がかなり異なる。代表的な品種を挙げると、まず「丹波黒(たんばぐろ)」がある。兵庫県丹波地方を発祥とする極大粒の品種で、百粒重(豆100粒の重さ)は約80~90グラムにもなる。一般的な大豆の百粒重が約30グラム程度であることを考えると、実に3倍近い大きさだ。表面にはうっすらと白い粉(ブルーム)が吹いており、煮るとふっくら柔らかく仕上がるのが持ち味である。お節料理の煮豆や高級和菓子の材料として珍重されてきた。
もう一つの代表品種が、北海道を主産地とする「光黒(ひかりくろ)」だ。丹波黒よりも粒はやや小ぶりだが、名前のとおり表面にツヤのある光沢を持つ。煮崩れしにくい特性があり、甘納豆やしぼり豆など、形を残して仕上げたいお菓子に適している。
ほかにも、丹波黒に東山140号を交配して育成された「玉大黒(たまだいこく)」や、北海道で栽培される「いわいくろ」、在来品種の「雁喰(がんくい)」など、各産地に根付いた品種が存在する。
用途
お菓子づくりにおいて、黒豆はじつに幅広い使われ方をしている。
和菓子の分野では、甘く煮た黒豆をそのまま砂糖衣で仕上げた「黒豆しぼり」や「黒豆甘納豆」が定番中の定番だ。半生の食感で黒豆本来の風味が楽しめるこれらの豆菓子は、お茶請けとして長く親しまれてきた。さらに、黒豆を練りこんだ最中や、黒豆あんを用いた饅頭、黒豆入りのぜんざいといった商品も数多い。
洋菓子の分野でも黒豆の活躍は広がっている。黒豆を生地に混ぜ込んだパウンドケーキやマフィン、黒豆の煮豆をトッピングしたタルトやロールケーキなど、和と洋を融合させたスイーツが各地の洋菓子店やパティスリーで見られるようになった。黒豆の黒い粒がアクセントになり、見た目の華やかさにも一役買っている。
また、黒豆をきな粉に加工した「黒豆きな粉」もお菓子材料として需要が高い。通常のきな粉よりも風味が深く、わらび餅やおはぎ、団子のまぶし粉として使えば、香ばしさとコクが一段と際立つ。
煎り豆としてそのままおやつにする食べ方も根強い人気がある。熱風焙煎した黒豆はカリッとした歯ごたえで、素朴ながら後を引く味わいだ。近年は抹茶やコーヒー、きな粉、ブランデー、紅茶といったフレーバーをまとわせた煎り黒豆のバリエーションも増えている。
お菓子以外の用途にも少し触れておくと、お節料理の煮豆、黒豆茶、黒豆納豆、黒豆豆腐、枝豆(丹波黒の未成熟豆を「丹波黒枝豆」として食す)など、食卓のさまざまな場面で活躍する食材でもある。
主な原産国・産地
大豆の原産地は中国東北部からシベリアにかけての地域と考えられており、黒豆もその起源は同じだ。日本には縄文時代後期から弥生時代にかけて伝わったとされる。
現在の黒豆の主要な国内産地は、大きく分けて二つの地域に集中している。
一つ目は兵庫県丹波篠山市を中心とする丹波地方で、ここは丹波黒の発祥地にして日本一の産地である。京都府や岡山県、滋賀県などでも丹波黒の系統品種が栽培されており、西日本の広い範囲で丹波系の黒豆が生産されている。
二つ目は北海道で、光黒やいわいくろなどの品種が大規模に作付けされている。黒大豆の栽培面積で見ると北海道が最も広く、次いで兵庫県、岡山県、滋賀県、京都府と続く。ただし、丹波黒は少量生産で希少価値が高く、北海道産の光黒は比較的安定した供給量がある、という違いがある。
海外では、中国でも丹波黒の種子を用いた黒豆栽培が行われており、日本に輸入されるケースもある。また韓国でも黒豆は伝統的に食用とされてきた。ただし、高品質な黒豆菓子の原料としては国産品、とりわけ丹波篠山産や北海道産が高く評価されている。
選び方とポイント
お菓子づくりに使う黒豆を選ぶ際には、用途に合った品種を見極めることが大切だ。
ふっくらとした煮豆に仕上げてケーキに添えたり、おせち風の煮豆菓子を作りたい場合は、丹波黒が適している。粒が大きく、煮上がりの食感がもっちりと柔らかいため、豆そのものを味わう菓子にぴったりだ。ただし価格は高めで、産地や等級によって差がある。兵庫県丹波篠山産の丹波黒は最高級とされ、それに次いで京都府産や岡山県産のものが流通している。
一方、甘納豆やしぼり豆のように形をしっかり残したい場合は、煮崩れしにくい光黒が扱いやすい。表面に光沢があるため見栄えもよく、価格も丹波黒に比べると手頃だ。
乾燥黒豆を購入する際にチェックしたいのは、粒の大きさが揃っているかどうか、虫食いやひび割れがないか、変色していないか、といった点である。丹波黒の場合は表面に白い粉が吹いているのが良品の証で、これはワックス成分(ブルーム)であり品質には問題ない。むしろ、この白い粉がしっかり付いているものほど丹波黒らしい特徴が出ているといえる。
保存は、直射日光と高温多湿を避けた冷暗所が基本だ。長期間保存するなら密閉容器に入れて冷蔵庫に入れると風味が保たれやすい。古い豆は水を吸いにくく、煮ても硬く仕上がる傾向があるので、できるだけ新豆(その年に収穫されたもの)を選びたい。毎年秋から冬にかけて新豆が出回るため、年末から年明けが最も品質の良い黒豆を手に入れやすい時期となる。
メジャーな製品とメーカー名
黒豆を使ったお菓子や食品を手がけるメーカーは数多いが、ここでは代表的なものを紹介する。
フジッコ株式会社の「おまめさん 丹波黒黒豆」は、スーパーマーケットで広く流通する煮豆製品のロングセラーだ。国産の丹波黒を使い、ふっくらとした煮上がりが特徴で、国際味覚審査機構(ITI)の優秀味覚賞で3つ星を複数年連続で獲得している実績がある。そのままおやつにも、製菓材料にも使いやすい。
光武製菓株式会社の「黒豆しぼり」は、佐賀県武雄市に本社を置く甘納豆メーカーが手がける人気商品である。北海道産の黒大豆を100%使用し、甘さ控えめに仕上げた半生タイプの豆菓子で、コンビニエンスストアやスーパーマーケットでも見かける定番の一品だ。
丹波の黒太郎(株式会社丸善)は、国産丹波黒大豆を専門に扱う黒豆菓子のブランドである。看板商品の「おやつ黒豆」は、大粒の丹波黒を二昼夜かけて蜜煮し乾燥させた、うす甘納豆タイプの豆菓子だ。ほかにも、煎り豆、きな粉せんべい、抹茶味やコーヒー味のフレーバー黒豆など、豊富なラインナップを展開している。
寛永堂は京都に本店を構える和菓子店で、丹波黒を用いた黒豆菓子や黒豆茶を主力としている。しぼり豆を抹茶やチョコレートでコーティングした商品など、伝統と現代的な感覚を融合させた菓子づくりが特徴だ。
小田垣商店は、享保19年(1734年)に創業した兵庫県丹波篠山市の老舗黒豆卸店で、約290年の歴史を持つ。厳選した丹波黒大豆の販売に加え、「黒豆しぼり豆」などの菓子も展開しており、丹波黒の品質を知り尽くした専門店ならではの信頼感がある。
このほか、大阪の善祥庵(丹波の黒太郎の姉妹ブランド)が手がける黒豆最中や黒豆ぜんざい、梅花堂の丹波黒納豆なども、黒豆菓子の愛好家のあいだでは知られた存在だ。
歴史・由来
黒豆の歴史は、大豆そのものの歴史と深く結びついている。大豆の原種はツルマメ(Glycine soja)と考えられており、中国東北部から黒龍江沿岸にかけての地域で約4000年前から栽培が始まったとされる。日本には縄文時代後期から弥生時代初期に渡来したとみられ、やがて各地で在来品種が生まれていった。
日本の古文書で黒豆に関する最初期の記述とされるのが、平安時代の承平5年(935年)ごろに成立した「倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)」である。このなかで黒豆は「烏豆(くろまめ)」と表記されており、当時すでに食品として認識されていたことがわかる。
お節料理に黒豆が登場する起源は、室町時代にまでさかのぼるといわれている。当時はまだ砂糖が普及しておらず、黒豆をこんにゃくと炊き合わせた「座禅豆」と呼ばれる料理が食されていた。これがのちの黒豆煮の原形と考えられている。
江戸時代中期になると、砂糖の流通が広がるにつれて、黒豆を醤油や砂糖で甘く煮た煮豆が一般にも広まっていった。天保10年(1839年)には黒豆の「さとうだき(砂糖炊き)」という表現が町人の献立に現れており、庶民のあいだでも甘い黒豆煮が定着しつつあったことがうかがえる。幕末期の「絵本江戸風俗絵図」には、正月三が日に「座禅豆(黒豆)、田作(ごまめ)、数の子」の三品を重詰にする風習が記録されている。どんな貧しい家であっても、この三品だけは正月に用意したという記述からは、黒豆がいかに日本人の正月に深く根付いていたかが伝わってくる。
丹波黒の大粒化の歴史もまた興味深い。江戸時代後期から明治時代にかけて、現在の兵庫県丹波篠山市日置地区の大庄屋であった波部六兵衛とその跡継ぎの波部本次郎が、優良な黒大豆の種子を選抜・育成したと伝えられている。こうした篤農家の努力が、今日の丹波黒の極大粒という唯一無二の特徴を生み出す礎となった。1949年(昭和24年)には、兵庫県農事試験場が兵庫県多紀郡(現・丹波篠山市)で栽培されていた黒大豆を「丹波黒」と正式に命名し、奨励品種として登録した。
一方、北海道での黒豆栽培の歴史は比較的新しく、明治時代に始まる。それまで蝦夷地と呼ばれていた北海道では狩猟や漁業が中心で、農業は限られていた。開拓が進むなかで大豆栽培が広がり、やがて光黒などの品種が北海道の風土に適応していった。
黒豆がお節料理に欠かせないものとなった背景には、日本人の暮らしに根ざした願掛けの文化がある。「黒い色は邪気を払い、災いを防ぐ」という信仰、そして「まめに暮らす」「まめに働く」という語呂合わせから、一年の無病息災と勤勉を祈って食べる習慣が定着した。食文化研究家の永山久夫氏は、黒豆の「黒い色」は日焼けを連想させて勤勉の象徴であり、「丸い形」は太陽を意味し、「豆=まめ」は精を出して働くことを表す、と解説している。こうした縁起物としての意味合いが、黒豆を日本の食卓における特別な存在に押し上げてきたのだ。
現在では、お節料理の枠を超えて、黒豆は通年で楽しまれるお菓子の材料として確固たる地位を築いている。甘納豆やしぼり豆といった伝統的な豆菓子から、パウンドケーキやチョコレートがけの黒豆といった現代的なスイーツまで、その活躍の場は広がり続けている。健康志向の高まりとともにアントシアニンやイソフラボンへの関心が増していることも、黒豆人気を後押しする追い風になっているといえるだろう。
以上が黒豆の概要である。お菓子の材料としては地味な印象を持たれがちだが、千年以上にわたって日本人の食文化を支えてきた奥深い素材だ。品種ごとの個性を理解し、用途に合わせて使い分けることで、黒豆の魅力を最大限に引き出すことができる。
