材料の名前

和名:もち麦(モチオオムギ/もち大麦) 学名:Hordeum vulgare L. 英名:Waxy barley 分類:イネ科オオムギ属

もち麦は大麦(オオムギ)の一種で、貯蔵でんぷんに「もち性」を持つ品種の総称である。お米に「うるち米」と「もち米」があるように、大麦にも粘りの少ない「うるち性」と粘りの強い「もち性」が存在する。英語では「Waxy barley」が正式な呼称として使われるが、海外のスーパーでは精麦された大麦を広く「Pearl barley」と表示していることも多い。日本の地方によっては「だんごむぎ」と呼ばれて親しまれてきた歴史もある。

特徴

もち麦の最大の特徴は、もちもちとした弾力のある食感と、噛んだときに感じるぷちぷちとした歯ごたえにある。この独特の食感は、でんぷんの構造に由来している。うるち性の大麦はアミロースとアミロペクチンの両方をバランスよく含むのに対し、もち性のもち麦はアミロペクチンの含有割合が圧倒的に高い。ただし、もち米のアミロース含有量がほぼ0%であるのに比べると、もち麦は品種によって2~6%程度のアミロースを含んでおり、粘りの程度にはやや幅がある。

栄養面で注目すべきは、水溶性食物繊維の一種であるβ-グルカン(ベータグルカン)の豊富さだ。農林水産省の情報によると、もち麦にはうるち性大麦の約1.5倍のβ-グルカンが含まれる。β-グルカンはでんぷんを包み込む性質を持ち、糖の吸収を穏やかにする働きがあるとされている。2006年にはアメリカで、大麦β-グルカンが冠状動脈心疾患のリスク低減に寄与するというヘルスクレーム(健康強調表示)が認められたことも、世界的にもち麦が注目されるきっかけとなった。

日本食品標準成分表(八訂)によれば、精麦したもち麦(乾燥状態)100gあたりの食物繊維総量は約12~13g程度で、白米の食物繊維量(100gあたり約0.5g)と比較すると格段に多い。水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の両方をバランスよく含む点も、他の穀物にはあまり見られない利点といえる。エネルギーは100gあたりおよそ330~340kcalで、白米とほぼ同程度だが、食物繊維の豊富さが満腹感の持続に貢献する。

もち麦にはいくつかの代表的な品種がある。「ダイシモチ」は四国農業試験場(現・農研機構 西日本農業研究センター)で育成され、1997年度に品種登録出願されたもち性の六条裸麦品種だ。穂や粒が紫色を帯びる外観が印象的で、「紫もち麦」とも呼ばれる。この紫色はアントシアニン色素によるもので、抗酸化作用が期待できる成分としても関心を集めている。一方、「キラリモチ」は農研機構が育成し、2009年に品種登録出願、2012年に登録されたもち性の二条裸麦品種である。炊飯後に褐変(茶色く変色)しにくい性質を持ち、見た目が白く、やわらかでもっちりした食感が特徴だ。β-グルカンの含有量も従来品種の約1.5倍と豊富で、食べやすさと栄養価の高さを両立した品種として広く栽培されている。このほか「ホワイトファイバー」や「はねうまもち」といった新しい品種も登場し、もち麦の品種開発は現在も進行中である。

用途

もち麦は白米に混ぜて炊く「もち麦ごはん」として食べるのが最も一般的な使い方だが、お菓子づくりの原材料としても幅広い可能性を持っている。

焼き菓子の分野では、茹でたもち麦をクッキー生地に練り込む方法が知られている。もち麦のぷちぷちとした食感がクッキーにザクザクとした噛みごたえを加え、単調になりがちな焼き菓子に奥行きのある歯触りを与える。小麦粉の一部をもち麦粉に置き換えて焼くことで、食物繊維を手軽に補給できるヘルシーなクッキーに仕上がる。もち麦粉を100%使用した小麦粉不使用のクッキーも市販されており、グルテンを控えたい層にも支持されている。

グラノーラの材料としても活躍する。もち麦をポン菓子のように膨化させたパフや、焙煎してフレーク状にしたものは、シリアルやグラノーラバーの素材として重宝される。オートミールやナッツ、ドライフルーツと合わせることで、食物繊維たっぷりの朝食やおやつが手軽に完成する。

和菓子との相性も見逃せない。もち麦を炊いて軽くつぶしたものをおはぎの生地にすると、もち米とは一味違うぷちぷちとした食感が楽しめる。あんこやきなことの組み合わせが自然で、伝統的な和菓子の味わいを残しつつも、食物繊維が豊富な現代風のおやつに仕上がる。

そのほか、パンケーキミックスにもち麦粉を配合した商品も登場している。香川県産のダイシモチ麦100%を使用したパンケーキミックスは、もちもちとしっとりの両方の食感を楽しめる和風テイストの一品として販売されている。さらに、茹でたもち麦はスープやサラダのトッピングにも使われ、食事系・スイーツ系を問わず活躍の幅が広い万能食材である。

主な原産国

大麦の栽培の歴史は非常に古い。原種の起源は西南アジア(現在のイスラエル、シリア、トルコ周辺)にあるとされ、紀元前3000年頃にはすでに栽培化されていたと考えられている。そこからユーラシア大陸全土とアフリカ東北部へ広まった。

もち麦食品センター(兵庫県福崎町)の資料によると、もち性の大麦は現在、主に日本、中国、朝鮮半島などの東アジア地域で栽培されている。世界全体で見ると大麦の生産量はロシアが最大で、次いでオーストラリア、ドイツ、フランスと続くが、これらの国で生産される大麦の多くはうるち性の二条大麦で、ビールや飼料用途が中心だ。

日本国内で流通するもち麦の原料としては、アメリカ産やカナダ産が多く使用されてきた。国内でのもち麦栽培は古くから行われていたものの、生産量が限られていたため、安定した品質と量を確保できる外国産に頼る側面があった。ただし近年は品種改良の進展に伴い、国産もち麦の栽培も広がりを見せている。香川県善通寺市のダイシモチ、兵庫県福崎町や加東市のキラリモチ、新潟県や岡山県での栽培など、各地で特色ある国産もち麦が生産されるようになった。

選び方とポイント

もち麦を選ぶ際にまず確認したいのは、国産か外国産かという点だ。国産もち麦は皮がやわらかく食べやすい傾向があり、炊飯時のなじみが良い。一方、外国産のもち麦はβ-グルカン含有量の多い品種が選ばれている場合が多く、栄養面を重視するなら選択肢に入る。ただし、β-グルカンの含有量は産地ではなく品種に左右されるため、「外国産だから栄養価が高い」とは一概にいえない。はくばくの公式情報にも、品種によって含有量は異なると明記されている。

品種ごとの個性も選ぶ際の大切なポイントになる。キラリモチは白く、炊飯後に変色しにくいため、見た目のきれいさを重視する場合や白米に混ぜて目立たせたくない場合に適している。ダイシモチは紫色の粒がアントシアニンを含み、独特のしっかりとした食感を好む方に向いている。お菓子づくりに使う場合も、生地に練り込んだ際の色味や食感に違いが出るので、仕上がりのイメージに合わせて品種を選ぶとよい。

有機JAS認定を受けた商品であれば、国産・外国産を問わず、農林水産省が定めた肥料や農薬の使用基準を満たしている。安全面が気になるなら、有機認証の有無をパッケージで確認するのが手堅い方法だ。

保存の面では、乾燥状態のもち麦は未開封であれば常温で長期間保存できるが、開封後は湿気を避けて密閉容器で保管し、できるだけ早く使い切ることが望ましい。茹でたもち麦は冷蔵保存で2~3日、冷凍すれば2週間ほどを目安に使い切ると、食感や風味を損ないにくい。

メジャーな製品とメーカー名

もち麦関連の商品を幅広く展開しているのが、山梨県に本社を置く穀物メーカー「はくばく」だ。「もち麦」シリーズとして、白米に混ぜて炊く精麦タイプや、そのまま食べられる無菌パックの「もち麦ごはん」、白米好きの方でも食べやすい「白米好きのためのもち麦」など、多彩なラインナップをそろえている。国産もち麦を原料に使った「国産もち麦」も定番商品として知られる。

兵庫県に本社を構える「マルヤナギ小倉屋」は、兵庫県産のキラリモチを使用した蒸しもち麦シリーズを展開している。「蒸しもち麦」はそのままサラダやスープに加えて食べられる手軽さが評価され、もち麦チップスなどのスナック系商品も販売している。国産もち麦の栽培にも力を入れ、生産者や地元農協と連携した取り組みが特徴的だ。

お菓子の分野では、UHA味覚糖の「もち麦満腹バー」がヒット商品のひとつに挙げられる。もち麦を主原料にしたバータイプの食品で、「十六雑穀プラス」「焼きおにぎり風味」など複数のフレーバーを展開。レトルトパウチで加熱不要、そのまま食べられる利便性から、間食や非常食としても支持を集めている。

栃木県足利市の「おおむぎ工房」(旧・大麦工房ロア)は、国産大麦を使った焼き菓子の専門メーカーとして知られる。看板商品の「大麦ダクワーズ」はモンドセレクション受賞歴もあり、大麦ならではの香ばしさと軽い食感が好評を博している。小麦不使用の商品も多く、グルテンフリーのお菓子を探している方の選択肢にもなる。

このほか、香川県産ダイシモチ麦100%を使ったパンケーキミックスや、もち麦粉を使用した小麦粉不使用クッキーなど、各地の中小メーカーからも個性的な商品が続々と登場している。

歴史・由来

もち麦のルーツをたどると、人類の農業の黎明期にまで遡る。大麦は紀元前8000年頃から西南アジアで栽培が始まった最古級の作物のひとつであり、もち性の大麦は紀元前3000年頃には西南アジアで栽培化されていたとされる。その後、東アジアを中心に伝播し、日本にも古くから渡来した。

日本国内でのもち麦栽培は、中国地方、四国地方、瀬戸内海沿岸の諸県、そして九州北部の一部地域に集中していた。特に香川県善通寺市には「弘法大師(空海)が唐から麦の種を持ち帰った」という伝説が残っており、この地域でのもち麦栽培の歴史の深さを物語っている。善通寺市では現在もダイシモチの主要な産地として、もち麦の生産と普及に積極的に取り組んでいる。品種名の「ダイシモチ」は、まさにこの弘法大師(大師)の伝説にちなんで命名されたものだ。

兵庫県神崎郡福崎町も、もち麦の産地として全国的に知られている。日本民俗学の父とされる柳田國男の生誕地であるこの町では、古くから黒紫色の麦を粉にして団子として食べる習慣があった。「もちむぎ」「だんごむぎ」と呼ばれ親しまれていたが、昭和30年頃になると食生活の洋風化や白米の普及により、栽培は急速に衰退した。転機となったのは昭和61年(1986年)のこと。福崎町の鍛治屋地区で試験栽培が再開され、加工食品の研究が重ねられた結果、もち麦は町の特産品として見事に復活を遂げた。現在では学校給食にも採用され、「もちむぎの郷」をはじめとする観光・食文化の拠点も生まれている。

全国的なもち麦ブームの火付け役となったのは、2010年代半ば以降のテレビ番組や健康情報メディアでの露出だ。β-グルカンの腸内環境改善効果や血糖値上昇の抑制効果が繰り返し紹介されたことで、もち麦は「スーパーフード」のひとつとして一般消費者の間に急速に浸透した。スーパーやコンビニでもち麦を使った商品が並ぶようになり、もち麦ごはんだけでなく、グラノーラ、スナック菓子、バー、パンケーキミックスなど、お菓子や軽食への展開も飛躍的に広がった。

品種開発の側面では、1997年度のダイシモチ品種登録出願を皮切りに、2012年のキラリモチ登録、さらにその後のホワイトファイバーやはねうまもちの登場と、国産もち麦の品種は着実に増え続けている。2025年には善通寺市を拠点に「善通寺2024」という新品種の出願公表もなされた。β-グルカンやGABA(ガンマアミノ酪酸)を豊富に含む次世代の品種として期待されている。

こうした歴史を振り返ると、もち麦は古代から日本の食卓にあった素朴な穀物でありながら、科学的なエビデンスの蓄積と品種改良の進化によって、現代の健康志向に合致する食材として再評価された存在だといえる。お菓子の原材料としても、食物繊維の豊富さ、もちもち・ぷちぷちとした唯一無二の食感、そして品種ごとに異なる色や風味の個性は、創作の幅を大いに広げてくれるだろう。

免責事項

商品紹介等については、公式サイトおよび公開情報を基に作成しております。
記載内容は掲載時時点での参考値です。商品仕様は予告なく変更される場合があります。
購入・ご利用の際は必ず最新のパッケージ表示または公式情報をご確認ください。特に食物アレルギーをお持ちの方は原材料を十分にご確認の上お求めください。
本記事の内容ならびに画像の一部にAIを使用している場合があります。
画像はイメージの場合があり、説明内容とは異なる場合があります。
当記事の内容により生じた損害について、作成者は一切の責任を負いません。