材料の名前

日本語では「レンズ豆」、あるいは和名で「ヒラマメ(扁豆)」と呼ばれる。
学名は Lens culinaris(レンス・クリナリス)。
英語では lentil(レンティル)、フランス語では lentille(ランティーユ)、ドイツ語では Linse(リンゼ)、イタリア語では lenticchia(レンティッキア)、ヒンディー語では masoor dal(マスール・ダール)と呼ばれる。マメ科ヒラマメ属に分類される一年草の種子で、日本の食卓では大豆や小豆ほどなじみがないものの、世界的には古くから親しまれてきた主要な豆のひとつである。

特徴

レンズ豆の最大の特徴は、凸レンズのような丸く平たい形状にある。直径はおおむね4~9mmで、厚みは薄く、ちょうどコインを小さくしたような姿だ。実は光学用語の「レンズ」は、もともとラテン語で「レンズ豆」を意味する lens が語源である。初期の凸レンズがこの豆の形に似ていたことから、その名がついた。豆が光学の名を生んだという逆転のエピソードは、レンズ豆の存在感を物語っている。

色や大きさにはいくつかの種類がある。茶色(ブラウン)レンズ豆は最も一般的で、ほどよい土っぽさと柔らかな甘みを持つ。赤(レッド)レンズ豆は外皮を除いた状態で販売されることが多く、加熱すると黄金色に変わり、煮崩れしやすいため、ペースト状の料理や餡(あん)に向く。緑(グリーン)レンズ豆は歯ごたえがしっかりしており、煮ても形が崩れにくい。なかでもフランス・オーヴェルニュ地方のル・ピュイ産緑レンズ豆は、AOP(原産地呼称保護)を取得しており、風味の豊かさから高級食材として珍重されている。黒(ベルーガ)レンズ豆はキャビアのような見た目で、サラダやトッピングに映える。

栄養面での充実ぶりも見逃せない。文部科学省の日本食品標準成分表によると、乾燥レンズ豆100gあたりのたんぱく質は約23.2g、食物繊維は約16.7g、鉄分は9.0mg含まれる。カリウムは1000mg、亜鉛は4.8mgにのぼり、ビタミンB群やセレンなども豊富だ。脂質はわずか1.5gと低く、植物性たんぱく源として注目度が高い。さらに、乾燥豆でありながら浸水(水戻し)が不要で、そのまま茹でれば15~30分ほどで食べられるという手軽さが、調理上の大きな利点となっている。

用途

レンズ豆は世界各地の料理に使われるが、近年はお菓子やスイーツの材料としても活用が広がっている。

まずお菓子の分野で注目したいのが「レンズ豆餡」だ。赤レンズ豆を柔らかく茹で、砂糖を加えて練り上げると、小豆の餡に似たペーストができあがる。色味はやや黄色がかっているが、あっさりとした甘さが特徴で、きんつばや大福、団子など和菓子の餡として使える。小豆アレルギーの方やヴィーガンの方にとっては頼もしい代替素材であり、低脂質でたんぱく質が豊富な餡を求める健康志向の消費者にも支持されている。

インドの伝統菓子にも、レンズ豆を使ったものがある。「ムングダール・バルフィ」はムング豆(緑豆の一種)で作られることが多いが、赤レンズ豆を用いたバリエーションも存在する。砂糖やギー(澄ましバター)、カルダモンで風味をつけ、ナッツを散らして固めるこの菓子は、祝祭やお祝い事に欠かせない。同様に「ムングダール・パヤサム」と呼ばれる南インドの汁粉風デザートでは、レンズ豆をジャガリー(ヤシ糖)やココナッツミルクで煮て仕上げる。

洋菓子の領域では、レンズ豆をマフィンやブラウニーの生地に混ぜ込む手法が広まっている。茹でたレンズ豆をフードプロセッサーでペーストにして生地に加えると、しっとりとした食感が生まれ、小麦粉の使用量を減らせる。グルテンフリーのお菓子にも応用しやすく、バナナと合わせたレンズ豆マフィンや、ココアパウダーと組み合わせたレンズ豆ブラウニーなどのレシピがオンライン上で多数公開されている。

スナック菓子としての需要も拡大中だ。レンズ豆を原料としたチップスやクリスプスは、ノンフライ製法で仕上げた製品が多く、一般的なポテトチップスと比べて脂質が低い。プロテインを手軽に補給できるおやつとして、健康志向の消費者層を中心に人気が高まっている。

料理用途としては、インドのダール(豆のカレー煮込み)やスープ、中東のムジャダラ(レンズ豆と米の炊き込み料理)、フランスのレンズ豆サラダやソーセージ添えの煮込みなどが代表的だ。こうした惣菜的な使い方が主流ではあるが、お菓子分野への応用が年々広がっていることは見逃せない潮流である。

主な原産国・生産国

レンズ豆の原産地は西アジア、メソポタミア地域とされる。いわゆる「肥沃な三日月地帯」と呼ばれる地域で、小麦や大麦とともに最も早く栽培化された作物のひとつだ。

現在の生産状況を見ると、FAO(国連食糧農業機関)の統計に基づく各種データでは、カナダが世界最大の生産国として長らくトップに立ってきた。2023年のデータでは、オーストラリアが約184万トンを生産してカナダ(約167万トン)をわずかに上回り、インド(約156万トン)が第3位という構図が報告されている。ただし年ごとの天候や作付面積の変動により、カナダとオーストラリアの順位は入れ替わることがある。カナダではサスカチュワン州が生産の中心地で、輸出量においてもカナダは世界をリードしている。トルコ、アメリカ合衆国、ネパール、バングラデシュなども主要な生産国に名を連ねる。

日本はレンズ豆をほぼ全量輸入に頼っている。主な輸入元はアメリカやカナダで、専門商社を通じて乾燥豆や水煮缶の形で国内に流通している。

選び方とポイント

レンズ豆を購入する際は、まず用途に応じた種類の選択が肝心だ。お菓子づくりに使うなら、煮崩れしやすくペースト状にしやすい赤レンズ豆が向いている。餡づくりやマフィン、ブラウニーなどの焼き菓子に混ぜ込む場合、裏ごしの手間が少ない赤レンズ豆が扱いやすい。一方、食感を残したい場合やトッピングとして粒の形を活かしたい場合は、煮崩れしにくい緑レンズ豆やブラウンレンズ豆を選ぶとよい。

品質の見分け方としては、粒の大きさが揃っているもの、割れや欠けが少ないものが良品とされる。色味にくすみがなく、つやのある豆は鮮度が高い。乾燥豆は未開封であれば賞味期限が長いものの、古くなると皮が硬くなり、煮えにくくなるため、パッケージに記載された賞味期限を確認し、なるべく新しいものを選びたい。

保存方法としては、直射日光と湿気を避け、密閉容器に入れて冷暗所に置くのが基本だ。開封後は冷蔵庫の野菜室での保存が望ましい。茹でたレンズ豆は茹で汁ごと冷蔵で2~3日、小分けにして冷凍すれば1か月程度保存できる。冷凍しても食感の劣化が比較的少ない点も、お菓子づくりにおいて使い勝手がよい理由のひとつだ。

有機栽培(オーガニック)の製品を選ぶ場合は、有機JAS認証や各国のオーガニック認証マークを確認するとよい。お菓子に使う際は素材の風味がダイレクトに出やすいため、品質のよいものを選ぶことが仕上がりの差につながる。

メジャーな製品とメーカー名

日本国内でレンズ豆を入手できる場所は限られていたが、近年は取扱店が増えている。以下に代表的な製品やメーカーを紹介する。

乾燥レンズ豆の分野では、豆の専門店「すずや」がアメリカ産のブラウンレンズ豆や赤レンズ豆を200g入りから業務用5kgまで幅広く展開している。輸入オーガニック食品を扱う「アリサン(Alishan)」は、有機赤レンズ豆や有機緑レンズ豆を販売しており、自然食品店やオンラインショップで入手できる。オーストラリアの有機食品ブランド「シェフズチョイス(Chef’s Choice)」の有機緑レンズ豆は、Amazonなどの通販サイトで購入しやすい製品のひとつだ。築地に拠点を置く豆の卸問屋「三栄商会」は、業務用の赤レンズ豆や茶レンズ豆を手選りで選別し、家庭用から飲食店向けまで幅広く供給している。レンズ豆の輸入を専門に手がける「杉原産業」は、神戸を拠点にアメリカ産を中心としたレンズ豆の輸入・卸販売を行っている。

レンズ豆を使ったスナック菓子では、リトアニア発の「オホ(OHO)」ブランドが赤レンズ豆ととうもろこしを使ったノンフライスナックを製造しており、カルディコーヒーファームで販売されている。サワークリーム&オニオン味が人気だ。同じくカルディで取り扱いのある「アンクルサバズ(Uncle Saba’s)」のレンズ豆チップスは、植物由来の原料にこだわったヘルシースナックとして注目を集めている。国内ブランドでは、「WEPOP」が展開する「デコまめ」シリーズに、レンズ豆を98%使用し塩のみで味つけしたポン菓子タイプのスナックがある。原材料のシンプルさから無添加志向の消費者に支持されている。

海外に目を向けると、アメリカの「Enjoy Life Foods」がアレルゲンフリーのレンズ豆チップスを展開しているほか、モンタナ州の「MontanaPure」がレンズ豆スナックを製造している。ヘルシースナック市場の拡大に伴い、レンズ豆を主原料とした製品は世界的に増加傾向にある。

歴史・由来

レンズ豆は、人類が最も古くから栽培してきた作物のひとつだ。考古学的な証拠によると、ギリシャのフランクティ洞窟から約1万1000年前のレンズ豆の痕跡が見つかっている。栽培化は紀元前8000年頃、メソポタミアの「肥沃な三日月地帯」で始まったと推定されており、小麦、大麦、エンドウ、ヒヨコマメ、ソラマメなどとともに「新石器時代の創始作物(Founder Crops)」のひとつに数えられている。

古代文明との結びつきも深い。紀元前5500年頃のトルコの遺跡からはレンズ豆が出土しており、エジプトでは紀元前2000年紀の墳墓に副葬品として納められたレンズ豆が発掘されている。旧約聖書の創世記(第25章)には、狩猟から疲れて帰ったエサウが、弟ヤコブにレンズ豆の煮物を食べさせてもらう代わりに長子の権利を譲り渡したという有名な逸話が残されている。一杯の煮物と引き換えに長子権を手放すほど、レンズ豆の煮物は空腹の体に沁みるごちそうだったのだろう。

古代ギリシャやローマにもレンズ豆は伝わった。ただし古代ローマではソラマメが好まれ、レンズ豆はやや格下の食材と見なされていた。それでもローマ時代の料理書「アピキウス」にはレンズ豆のレシピが複数掲載されており、完全に食卓から消えていたわけではない。中世ヨーロッパでもレンズ豆は庶民の食べ物という位置づけが続いたが、フランスのオーヴェルニュ地方などでは連綿と栽培が続けられ、ル・ピュイ産緑レンズ豆は後にフランス料理の高級食材へと昇華していく。

インド亜大陸におけるレンズ豆の歴史も長い。インドはレンズ豆の最大の消費国のひとつであり、「ダール」として日常的に食されてきた。ヒンディー語で赤レンズ豆を指す「マスール」という言葉は、家庭料理の代名詞といってもよい。インドの伝統菓子であるバルフィやハルワの一部にもレンズ豆が使われてきた歴史があり、甘味材料としての活用は現代の発明ではなく、古くからの食文化に根ざしている。

名称の由来に話を戻すと、「レンズ豆」という日本語名は英語の lentil やラテン語の lens に由来する。ラテン語の lens はもともとこの豆そのものを指す言葉で、16世紀にガラスの凸レンズが作られた際、その形がレンズ豆に似ていたことから光学のレンズにも lens の名が転用された。つまり、豆の名が光学用語を生んだのであり、逆ではない。英語の lentil はラテン語の lenticula(lens の指小形)が古フランス語 lentille を経て英語に入ったものだ。

近年、レンズ豆は植物性たんぱく質ブームやサステナブルな食の潮流に乗り、世界的に消費が伸びている。栽培において窒素固定をおこなうマメ科の特性から、土壌を肥沃にする効果があり、持続可能な農業の観点でも評価が高い。お菓子の材料としてはまだ新しい存在かもしれないが、1万年以上にわたって人類の食を支えてきたレンズ豆の底力は、甘い世界でも発揮され始めている。

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購入・ご利用の際は必ず最新のパッケージ表示または公式情報をご確認ください。特に食物アレルギーをお持ちの方は原材料を十分にご確認の上お求めください。
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