材料の名前

和名はハトムギ(鳩麦)。学名は Coix lacryma-jobi var. ma-yuen で、イネ科ジュズダマ属に分類される穀物である。英語では Job’s tears(ジョブズ・ティアーズ)や Adlay(アドレイ)と呼ばれる。中国では薏苡(よくい)の名で古くから知られ、種皮を除いた種子の部分は生薬「薏苡仁(ヨクイニン)」として漢方の世界で処方されてきた。日本ではシコクムギ(四国麦)やトウムギ(唐麦)という別名もある。

はと麦粉とは、このハトムギの実を製粉したものを指す。焙煎してから粉にしたタイプと、生のまま粉砕した非焙煎タイプがあり、それぞれ風味や使い道が異なる。名前に「麦」が付くものの、小麦や大麦とは系統が離れており、分類上はトウモロコシやモロコシに近い仲間にあたる。

特徴

はと麦粉の最大の特徴は、穀物のなかでもタンパク質の含有量が比較的多い点にある。日本食品標準成分表によると、はと麦(精白粒)100gあたりのエネルギーは約360kcal、タンパク質は13.3g、炭水化物は72.2g、脂質は1.3gとなっている。白米のタンパク質が100gあたり約6gであることを考えると、はと麦にはおよそ2倍のタンパク質が含まれている計算になる。ビタミンB2も精白米の2倍以上を含むとされ、アミノ酸バランスにも優れている。

でんぷん質は糯性(もちせい)、いわゆる「もち」タイプであるため、粉にして水分を加えると独特のもっちりした質感が生まれる。小麦粉に含まれるグルテンはハトムギには含まれないため、グルテンフリー素材として海外でも注目を集めている。ただし、イネ科の植物であることから、イネ科アレルギーを持つ人は注意が必要となる。

焙煎したはと麦粉は、きな粉に似た香ばしい香りが立ち、ほのかな甘みをともなう。色はやや黄みがかったクリーム色で、口に含むと穀物のやわらかな風味が広がる。一方、非焙煎(生)のはと麦粉はクセが少なく、小麦粉に近い感覚で料理やお菓子に混ぜて使える。どちらのタイプも粉の粒子が細かいため、生地への馴染みがよいのが利点だ。

用途

お菓子づくりの分野では、クッキーやパンケーキ、マフィンなどの焼き菓子に小麦粉の一部を置き換えて使う方法が定番である。小麦粉に1~3割ほど混ぜるだけで、仕上がりに穀物特有の香ばしさと、ほどよいコクが加わる。グルテンを含まないため、はと麦粉だけで焼き菓子を作ると生地が膨らみにくくなる点には留意したい。米粉やタピオカ粉と組み合わせると、グルテンフリーの焼き菓子にも対応できる。

和菓子の世界でも活躍の場がある。はと麦粉の素朴な風味は、団子やもちもちした食感の生菓子とも相性がよい。石川県能美市では、はと麦を練り込んだパイ生地で餡を包んだ「はと麦の里」(和洋菓子のたかぎ)が地元の銘菓として知られている。

お菓子以外にも、パン生地に混ぜて栄養価を高めたり、天ぷらの衣に加えてサクサク感を出したりと、さまざまな使い方ができる。焙煎タイプであれば、そのまま牛乳やヨーグルトに混ぜて飲むことも可能だ。薬膳の食材としても古くから用いられてきたため、薬膳粥やスープの素材に加えるケースも少なくない。

主な原産国と産地

ハトムギの原産地は、中国南部からインドシナ半島のベトナムにかけての熱帯アジアとされている。現在もアジア圏での栽培が盛んで、日本国内に流通するハトムギの多くは中国、タイ、ラオスからの輸入品が占める。農研機構の資料によれば、2018年度時点でのハトムギの国内自給率は約18%にとどまっており、大部分を海外からの輸入に依存している状況だ。

国内の主な産地は東北地方が中心で、岩手県の奥州市衣川区や花巻市は代表的な産地として知られる。ほかにも栃木県の鹿沼市・小山市、広島県三原市大和町、富山県の氷見市・小矢部市、青森県中泊町、福岡県久留米市三潴町などで栽培が行われている。国内で栽培される主要品種「あきしずく」は、国内生産のかなりの割合を占めるとされ(全日本ハトムギ生産技術協議会による)、水田の転作作物としても位置づけられている。

選び方とポイント

はと麦粉を選ぶ際に押さえておきたいのが、焙煎タイプか非焙煎(生)タイプかという違いである。

焙煎タイプは加熱処理済みのため、そのまま飲み物に溶かしたり、火を通さずに使うこともできる。香ばしい風味を生かしたクッキーやスコーンとの相性が抜群で、手軽に使えるのが魅力だ。一方の非焙煎タイプは加熱前の生粉であるため、必ず加熱調理して使う必要がある。クセが少なく、小麦粉の代替として料理やお菓子に幅広く使えるメリットがある。

産地も選択の基準になる。国産のはと麦粉は品質管理が行き届いている反面、価格はやや高めの傾向がある。海外産は価格面で手に取りやすいが、残留農薬の基準など品質の確認を丁寧に行いたい。パッケージに「国産」「無農薬」などの表記があるかどうかが判断材料になるだろう。

また、全粒粉タイプ(渋皮付き)と精白タイプの違いも見逃せない。全粒粉タイプは食物繊維やミネラルがより多く含まれる反面、風味がやや強くなる。精白タイプは口当たりが軽く、繊細なお菓子に向いている。用途に合わせて使い分けるのがよいだろう。

保存は高温多湿を避け、開封後はチャック付きの袋や密閉容器に入れて冷暗所で保管するのが基本だ。生の粉は特に虫害やカビが生じやすいため、冷蔵庫での保存も検討したい。

メジャーな製品とメーカー名

はと麦粉を取り扱うメーカーや販売者は複数存在する。以下、代表的なものを挙げる。

富澤商店(TOMIZ)は、「国産はと麦粉 120g」を製菓・製パン材料として販売している。栃木県産のはと麦を使用しており、パンや和菓子、天ぷら粉に混ぜて使える汎用性の高い商品だ。全国の店舗やオンラインショップで入手しやすく、家庭での製菓にも取り入れやすい。

国定農産は、栃木県を拠点にハトムギ専門で加工販売を行っている。「ハトムギ精白粉」「ハトムギ玄麦粉」「ハトムギ煎粉」など、用途に応じた複数の粉製品を取り揃えている。自社内で加工・製造を一貫して行う体制が特徴的である。

オーサワジャパンは、自然食品の分野で知名度が高い。「オーサワの浄身粉」は有機はと麦を殻ごと遠赤焙煎した全粒粉末で、栄養機能食品(鉄)として販売されている。また、「国産はとむぎのおやつ」は砂糖・食塩・油脂不使用のシンプルなはと麦スナックとして販売されている。

三重県の榊原商店は、無農薬栽培のはとむぎを使った「はとむぎ粉末」を製造・販売しており、50年以上の実績を持つ老舗である。

お菓子の完成品としては、石川県能美市の「和洋菓子のたかぎ」が製造する「はと麦の里」が有名だ。はと麦を練り込んだパイ生地に各種餡を包んだ焼き菓子で、天皇皇后両陛下への献上品に選ばれた経歴を持つ。

歴史・由来

ハトムギの歴史は古く、その起源はインドシナ半島にまで遡る。アワやヒエなどの雑穀と同様、水稲が普及する以前から東南アジアの人々の食を支えてきた作物のひとつである。ミャンマーでは、主要民族が水稲を主食とする一方、辺境の少数民族がハトムギを陸稲とともに畑で栽培し、主食として利用してきた歴史がある。

中国への伝来には有名な故事が残っている。後漢の時代(紀元1世紀頃)、馬援(Ma Yuen)将軍が交趾郡(現在のベトナム北部)へ遠征した際、この穀物を見つけて栽培用に中国本土へ持ち帰ったとされる。ハトムギの学名に含まれる変種名「ma-yuen」は、まさにこの馬援将軍の名にちなんでいる。中国ではその後、薬効のある穀物として広まり、明代の李時珍が編纂した『本草綱目』には、ヨクイニンについて「脾を健やかにし胃を益す。肺を補い清熱する。風を去り湿に勝つ。」と記されている。消炎や利尿、鎮痛などの薬効が古くから認められていたことがわかる。

日本への伝来時期は正確には定まっていない。群馬県の黒井峯遺跡(6世紀前半)から近縁種のジュズダマの種子が出土しており、ハトムギの栽培種は奈良時代までに渡来した可能性が指摘されている。唐から来日した高僧・鑑真が伝えたという仮説もあるが、確定的な証拠は見つかっていない。栽培が確実に行われていたと断定できるのは江戸時代の享保年間(1716〜1736年)で、松岡玄達の著書『用薬須知』(1726年)には、果実の「皮がやわらかい」というハトムギ特有の特徴が記述されている。

「ハトムギ」という名前の由来には諸説あるが、鳩が好んでその実を食べたことから明治以降に名付けられたとする説が広く知られている。それ以前は「薏苡(よくい)」「トウムギ」「シコクムギ」などの名で呼ばれていた。

近代以降、日本でのハトムギ栽培は水稲やトウモロコシの台頭にともない一時減少した。転機となったのは1981年、水田利用再編対策の特定作物としてハトムギが認められたことである。この施策をきっかけに水田転作作物としての栽培が広がり、東北地方を中心に作付面積が拡大した。現在でも国内自給率は2割弱と低い水準にとどまるものの、健康志向の高まりやグルテンフリー需要の拡大を背景に、はと麦粉への関心は着実に高まっている。

漢方の世界では、ヨクイニンとしての利用が今なお続いている。漢方処方の「薏苡仁湯(よくいにんとう)」は関節痛や筋肉痛に用いられ、また、いぼ取りの民間療法としてもヨクイニンは広く知られてきた。美容分野でも、ハトムギエキスは保湿作用や肌荒れ改善の成分として基礎化粧品に配合されており、食べてよし、塗ってよしの素材として幅広い層に親しまれている。

このように、はと麦粉は古代アジアの食文化と薬効に根ざした深い歴史を背景に持ちながら、現代のお菓子づくりの現場でも健康的な原材料として存在感を増している。穀物の素朴な風味と栄養価の高さを兼ね備えた、注目の製菓材料である。

免責事項

商品紹介等については、公式サイトおよび公開情報を基に作成しております。
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購入・ご利用の際は必ず最新のパッケージ表示または公式情報をご確認ください。特に食物アレルギーをお持ちの方は原材料を十分にご確認の上お求めください。
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