材料の名前(日本語・外国語)
鰹節の正式な日本語名称は「鰹節(かつおぶし)」であり、「かつぶし」とも略される。削ったものは「削り節(けずりぶし)」、くだけた言い方では「おかか」とも呼ばれる。鰹節を薄く大きく削ったものは「花かつお」、粉状に砕いたものは「粉節(こなぶし)」と呼ばれ、それぞれ用途が異なる。
英語では「Katsuobushi」がそのまま固有名詞として国際的に通用しており、一般的には「Dried bonito flakes(ドライド・ボニート・フレークス)」あるいは単に「Bonito flakes(ボニート・フレークス)」と訳される。原料となるカツオはスキップジャック・ツナ(Skipjack tuna)に分類される魚であり、英語圏のレシピサイトでもこの名称で広く認知されている。フランス語では「Flocons de bonite séchée」、ドイツ語では「Getrocknete Bonitoflocken」などと表現されるが、近年は「Katsuobushi」という日本語名がそのまま用いられることも増えている。
特徴
鰹節の最大の特徴は、その圧倒的なうま味にある。うま味の主成分はイノシン酸(核酸系うま味物質)であり、これは三大うま味成分のひとつに数えられる。昆布に含まれるグルタミン酸(アミノ酸系うま味物質)と組み合わせると、うま味が7〜8倍にも増幅される「うま味の相乗効果」が生じることが科学的に証明されており、和食のだしの基本である「昆布とかつお節の合わせだし」はまさにこの原理を活かしたものである。
栄養面では、鰹節は極めて高タンパクな食品であり、100gあたりのタンパク質含有量は約77gにも達する。脂質はわずか約2.9gと少なく、低脂肪・高タンパクの理想的な食材といえる。さらにビタミンB群(特にナイアシンは100gあたり45mg、ビタミンB12は14.8µg)、鉄分(5.5mg)、カリウム(940mg)、セレン(320µg)なども豊富に含まれ、栄養価の高さも特筆すべき点である。
また、鰹節は「世界で最も硬い食品」ともいわれ、完成した本枯節はまるで木材のような硬さを持つ。この硬さゆえに専用の削り器で薄く削って使用するのが伝統的な方法であり、削りたての鰹節は芳醇な香りと繊細な風味を放つ。
製法の違いにより「荒節(あらぶし)」と「枯節(かれぶし)」に大別される。荒節はカツオを煮熟・焙乾(燻して乾燥)した段階の製品で、力強い燻製の香りとコクがある。一方、枯節は荒節の表面を整えた裸節に、カツオブシカビ(学名:Aspergillus glaucus)を付着させて天日干しを繰り返すことで水分をさらに除去したもので、上品でまろやかな風味が特徴である。カビ付けと乾燥を3〜4回以上繰り返したものは「本枯節(ほんかれぶし)」と呼ばれ、完成までに半年以上、長いものでは2年以上の歳月を要する最高級品である。
用途
鰹節は和食における「だし」の中核を担う存在であるが、お菓子の分野でもさまざまな形で活用されている。
お菓子における最もポピュラーな使い方は、せんべいやおかきへの風味付けである。鰹節の粉末を生地に練り込んだり、削り節をトッピングに用いたりすることで、甘辛い味わいに深いうま味と香ばしさが加わる。鹿児島県枕崎市の鰹節専門店が製造する「かつおせんべい」は、本枯節を生地に練り込んだ人気商品の代表例であり、鰹節問屋の老舗「にんべん」も「日本橋かつぶし煎餅」を販売している。
また近年では、鰹節の風味を活かした新感覚のスイーツも登場している。にんべんが展開するイベントでは、カツオをモチーフにしたサブレやもなか、スナック感覚で食べられる「かつおボニートチップス」、小さなトンカチで叩いて割る鰹節形の飴菓子なども紹介されている。鰹節専門店が手がける「鰹節まんじゅう」は、鰹のうま味と和菓子の甘みが絶妙に調和した逸品である。
お菓子作りにおいて、鰹節は単独で使われるだけでなく、醤油やみりんなどの和風調味料と組み合わせることで、和のテイストを前面に打ち出した製品の開発に貢献している。削りがつおを使ったパリパリせんべいは家庭でも手軽に作れるおやつとして人気があり、ごはんのおこげに鰹節と醤油を絡めた「おこげせんべい」は、SNSでも話題のレシピとなっている。
さらに、豆菓子に本枯節の削り粉をまぶした商品や、クッキーの生地に鰹だしを隠し味として加えるアイデアなど、洋菓子との融合も進んでいる。うま味の相乗効果を活かし、チーズやバターなどの洋風素材と鰹節を組み合わせた塩味系スイーツは、甘いものが苦手な人にも好まれる新たなジャンルを切り拓いている。
主な原産国
鰹節はもともと日本固有の加工食品であり、国内生産が圧倒的な割合を占める。国内の主要産地は大きく三つあり、鹿児島県枕崎市、鹿児島県指宿市(山川地区)、そして静岡県焼津市が「かつお節の三大産地」として知られている。令和5年の統計では、枕崎市が全国生産量の約53%(約13,865トン)、指宿市山川地区が約24%(約6,271トン)、焼津市が約23%(約6,042トン)を占めており、この三地域だけで国産鰹節の95〜98%を生産している。鹿児島県全体では全国生産量の7割以上のシェアを誇る。それぞれの産地の鰹節は「薩摩節」「焼津節」と呼ばれ、歴史的には高知県で作られる「土佐節」も三大名産品に数えられてきた。
一方、海外からの輸入も行われており、主な輸入先はインドネシア(スラウェシ島北部のビトゥンなど)、フィリピン、モルディブなどである。2017年度の実績ではインドネシアからの輸入が2,553トンと最も多く、全体の輸入量約5,621トンの半数近くを占めた。赤道付近の好漁場で獲れるカツオは脂肪分が少なく鰹節製造に適しているとされる。なお、モルディブには古くから「ヒキマス」と呼ばれる鰹節に類似した加工品を製造する伝統があり、日本の鰹節文化との歴史的関連性も指摘されている。
選び方とポイント
鰹節を選ぶ際にまず理解すべきは、「荒節」と「枯節(本枯節)」の違いである。荒節は燻製の香りが強くパンチのある味わいで、お好み焼きのトッピングやたこ焼き、せんべいの風味付けなどカジュアルな用途に向いている。市販の小分けパック削り節の多くは荒節を削ったものである。一方、枯節・本枯節はカビ付けの工程を経ているため上品で澄んだ味わいが特徴であり、繊細な風味が求められる吸い物や高級和菓子の隠し味などに最適である。
節の状態で購入する場合は、表面の色が紅色がかっていてしわが細かく、二つの節を打ち合わせたときに澄んだ高い音がするものが良質とされる。これは内部まで十分に乾燥し、うま味が凝縮されている証拠である。
パック入りの削り節を選ぶ際には、窒素充填やガス充填で酸化が防止されている製品を選ぶと、開封時に削りたてに近い香りと風味を楽しめる。また、パッケージに「かれぶし」「本枯節」と表記があれば枯節を使用した上質な製品であり、表記がなければ一般的に荒節を使用している。
お菓子作りに使用する場合は、用途に合わせた厚さの削り節を選ぶことも重要である。せんべいやクッキーの生地に練り込むなら粉末状の「粉節」や細かい「削り粉」が馴染みやすい。一方、トッピングとして見た目も重視するなら、薄く大きく削った「花かつお」が美しい仕上がりになる。
地域による味の好みの違いも参考になる。一般的に東日本では枯節のまろやかな風味が好まれ、西日本では荒節のしっかりとした味わいが好まれる傾向がある。
メジャーな製品とメーカー名
鰹節業界には長い歴史を持つ専門メーカーがいくつも存在し、家庭用から業務用まで幅広い製品を展開している。
にんべん(株式会社にんべん) は、元禄12年(1699年)に初代・高津伊兵衛が江戸・日本橋で鰹節と塩干類の販売を始めたことに端を発する、300年以上の歴史を持つ老舗である。昭和44年(1969年)に業界初の個包装削り節「フレッシュパック」を発売し、鰹節の流通に革命を起こした。窒素充填により酸化を防ぎ、いつでも削りたての風味を楽しめるこの製品は、現在も主力商品として販売されている。「本枯鰹節」シリーズや「つゆの素」なども広く知られている。
ヤマキ株式会社 は、大正6年(1917年)に愛媛県で「城戸豊吉商店」として創業し、花かつおの製造からスタートした。現在はかつお節(花かつお)やだしの素、めんつゆなどを展開する総合メーカーへと成長しており、にんべんと並んで業界をけん引する存在である。「徳一番花かつお」シリーズは家庭用の定番商品として広く流通しており、業務用の大容量パックも飲食店で多く採用されている。
マルトモ株式会社 は、愛媛県伊予市に本社を置くシーフードの総合食品メーカーで、かつお節を中心に調味料やチルド食品などを製造している。独自の研究によりイノシン酸やアミノ酸を豊富に含む鰹節「プレ節」を開発し、25ミクロンの薄さに削る技術で口溶けのよい削り節を実現している。「徳用かつおパック」は手軽な小分けタイプとして家庭で重宝されている。
このほか、静岡県や鹿児島県には地域に根ざした鰹節専門の中小メーカーも多数存在し、枕崎の「かつ市」が販売する「かつおせんべい」「鰹節まんじゅう」、安藤鰹節店の「本枯節削り粉を使った豆菓子」など、お菓子分野に特化したユニークな製品も各地で生まれている。
歴史・由来
鰹節の歴史は日本の食文化の歩みそのものといえるほど古く、そのルーツは縄文時代にまで遡る。青森県八戸市の一王寺貝塚からはカツオの骨が出土しており、縄文時代前期にはすでにカツオが食用とされていたことがわかっている。
5世紀頃の古墳時代には、干しカツオ(堅魚)が作られていたと考えられている。飛鳥時代の大宝元年(701年)に制定された大宝律令の賦役令には、「堅魚」「煮堅魚」「堅魚煎汁(かつおのいろり)」が諸国からの献納品として記載されている。これらは現在の鰹節とは異なる干物に近いものであったと推定されるが、カツオの加工品が朝廷への貢ぎ物として重要視されていたことがうかがえる。
「鰹節」という文字が文献に初めて登場するのは、永正10年(1513年)のことである。臥蛇島から種子島家への貢物に関する記録に「かつおぶし」の文字が確認されている。
室町時代(1338年以降)には現在の鰹節に比較的近いものが出現し、長享3年から延徳元年(1489年)のものとされる『四条流庖丁書』には「花鰹」の記述がある。これはカツオの加工品を削ったものと考えられており、すでにこの時代には鰹節を削って使う食文化の萌芽があったことを示している。
鰹節の製法に画期的な革新をもたらしたのは、江戸時代の人物・角屋甚太郎(かどやじんたろう)である。紀州印南浦(現在の和歌山県印南町)出身の漁民であった甚太郎は、魚肉を煙で燻して水分を除去する「燻乾法(くんかんほう)」を考案し、現在の荒節に近い製法を確立した。この燻乾法で作られた鰹節は「熊野節」として市場で高い人気を博した。延宝2年(1674年)には、甚太郎がこの製法を土佐(高知)の宇佐浦に伝えたとされる。
土佐では、大消費地である大坂や江戸から遠いという地理的条件から、輸送中にカビが発生するという問題に悩まされた。しかし逆転の発想により、カビを積極的に利用して水分を除去する「カビ付け」の技法が考案される。この改良土佐節は味が良く長期保存にも耐え、爆発的な人気を得た。土佐藩はこの製法を藩の秘伝としたが、やがて宝永年間(1704〜1711年)には紀州の森弥兵衛によって薩摩(枕崎)に、天明年間(1781〜1789年)には土佐与市によって安房(千葉)や熊野にも伝えられ、全国に広まっていった。こうして「土佐節」「薩摩節」「伊豆節」が三大名産品と称されるようになった。
明治時代には品評会が各地で開催され、鰹節の品質向上が図られた。明治16年(1883年)の「第一回水産博覧会」、明治41年(1908年)の「大日本水産会第一回鰹節即売品評会」などを通じて、焼津節と土佐節が特に高い評価を受けた。大正時代に入ると、産地である枕崎などではカツオ漁業と鰹節加工業が分離・専業化し、品質がさらに向上した。
昭和以降は、それまで自然発生に頼っていた枯節のカビ付けに、純粋培養したカツオブシカビを噴霧する方法が主流となり、品質の安定化と製造期間の短縮が実現された。そして昭和44年(1969年)、にんべんが窒素充填による個包装削り節「フレッシュパック」を発売したことは、鰹節の歴史における最大の転換点のひとつとなった。それまで鰹節は節のままで購入し、家庭で削り器を使って削るのが一般的であったが、この製品の登場により、誰でも手軽に削りたての風味を楽しめるようになった。以降、各メーカーが小分けパック製品を展開し、鰹節はより身近な存在となって現在に至っている。
なお、鰹節は「カツオ」が「勝男」に通じることから、古くから縁起物として珍重されてきた。結婚式の引き出物に鰹節を添える風習は現在も続いており、本節を背側の「雄節」と腹側の「雌節」に分けることから「一対=夫婦」の象徴ともされる。戦国時代には武士が出陣前に鰹節を食べる風習があり、「勝男武士(かつおぶし)」の語呂合わせで戦勝祈願の意味が込められていた。
