名称と表記

ひじきは、漢字では「鹿尾菜」または「羊栖菜」と表記される日本の伝統的な海藻である。「鹿尾菜」という字は、江戸時代に書かれた『本朝食鑑』において、その見た目が鹿の黒く短い尾に似ていることに由来すると記されている。学名は「Sargassum fusiforme (Harvey) Setchell」であり、分類上はヒバマタ目ホンダワラ科ホンダワラ属に属する褐藻の一種である。英語圏では「Hijiki」の名称がそのまま使われることが多い。

お菓子の世界においてひじきは、煮物や惣菜の食材という従来のイメージを覆す「健康系スイーツ素材」として注目を集めている原材料である。保育園や幼児向けのおやつをはじめ、クッキー、マフィン、せんべい、パウンドケーキなど、幅広い焼き菓子に配合され、不足しがちなミネラルや食物繊維を自然な形で補える点が大きな魅力となっている。

歴史と起源

ひじきの食用としての歴史は、日本列島において極めて古い。島根県の猪目洞窟や高知県の河洞遺跡などからは、ひじきと思われる海藻が土器片に付着した状態で発掘されており、縄文時代から弥生時代にかけての人々がすでにひじきを食していたことがうかがえる。

奈良時代になると、ひじきは神への供え物「神饌(しんせん)」として用いられるようになり、伊勢の神宮では現在でも2日に1回の割合で日毎朝夕大御饌祭にひじきが供されている。平城京から発掘された木簡には、調(税金の一種)として海藻が朝廷に献上されていた記録が残っており、48枚の木簡のうち22枚が伊勢志摩からのものであったという。平安時代中期に編纂された法令集『延喜式』にも、ひじきが朝廷への貢納品として選ばれたことが記されており、古来より格式の高い食材として位置づけられていたことがわかる。

江戸時代に入ると、伊勢ひじきの名が全国に広まり、一般庶民の間にも普及した。徳川三代将軍家光の時代に書かれた料理書『寛永料理物語』(寛永20年・1643年)には、ひじきの調理法として「にもの、あへもの」と記されており、現代と同じような料理法がすでに確立されていたことがわかる。寛政年間(1789〜1800年)には北村物産の先達が江戸で「伊勢ひじき」の名で販売を始め、これが「伊勢ひじき」ブランドの始まりと言われている。

お菓子の原材料としてひじきが注目されるようになったのは比較的近年のことで、食育の推進や健康志向の高まりを背景に、保育園や学校給食のおやつとしてひじきクッキーやひじきせんべいが開発されたことがきっかけとなった。

産地と流通

ひじきの国内の主な産地は、房総半島、伊勢志摩、紀伊半島、四国、九州地区である。なかでも三重県は歴史あるひじきの産地として知られ、ひじき加工品の生産量は全国トップクラスを誇る。国内産地としては長崎県、大分県、愛媛県なども有名である。

ただし、現在日本国内で流通しているひじきの約90%は韓国産・中国産の輸入品であり、国内産はわずか10%ほどにとどまる。国産ひじきは100%天然ものであるのに対し、韓国や中国では養殖も行われている。国産ひじきは希少性が高く、風味や品質面で高い評価を受けているため、輸入品と比較して価格も高めに設定される傾向がある。

種類とバリエーション

ひじきには大きく分けて「芽ひじき(米ひじき)」と「長ひじき(茎ひじき)」の2種類がある。

芽ひじきは、ひじきの葉や小枝にあたる先端の柔らかい部分を指す。細かくてやわらかい食感が特徴で、水戻しが早く食材とも絡みやすいため、調理がしやすい。子どもや高齢者の食事にも向いており、お菓子に使用する際にも生地に均一に混ぜ込みやすいことから、クッキーやマフィンなどの焼き菓子には芽ひじきが多く用いられる。

長ひじきは、茎の部分を指し、太くて噛み応えがあり、味もしっかりしているのが特徴である。煮物に使われることが多いが、刻んで焼き菓子に加えることで独特の食感のアクセントを生み出すこともできる。

このほか、流通形態としては乾燥ひじき(干しひじき)と生ひじきがある。スーパーなどで見かける「生ひじき」は、実際には一度乾燥させたものを再度水で戻した製品であることがほとんどである。収穫後に茹でただけで乾燥させていないものは「釜揚げひじき」「新物生ひじき」として区別される。お菓子の原材料としては、計量や保存の容易さから乾燥ひじき(特に芽ひじき)が使われることが圧倒的に多い。

製造・加工方法

乾燥ひじきの加工方法には、大きく分けて「伊勢製法」と「房州製法」がある。現在、市場に流通しているひじきの80%以上は伊勢製法によるものとされる。

伊勢製法では、まず3〜5月の旬の時期に人の手で丁寧に刈り取ったひじきを、産地でいったん天日乾燥させる。その後、加工場に運び入れて水戻し・水洗いを行い、同時に塩抜きを実施する。次に高温でしっかりと蒸し上げ、再び乾燥させ、異物除去・選別を経て包装される。蒸し上げる工程がひじきの渋みを取り除き、独特の風味と黒い色合いを生み出す重要な工程となる。三重県伊勢地域で江戸時代から伝わる伝統的な製法で、「蒸し製法」とも呼ばれる。

一方の房州製法は、千葉県房総半島で行われている製法で、採取したばかりのひじきを乾燥させずにそのまま釜で加熱し、ひじき自体から出た海水で煮込むのが特徴である。

栄養成分と特徴

ひじきは、少量でも多彩な栄養素を摂取できる優れた食材である。日本食品標準成分表2020年版(八訂)によると、干しひじき(ステンレス釜・乾燥)100gあたりの主な栄養成分は以下の通りである。エネルギーは180kcal、たんぱく質9.2g、脂質3.2g、炭水化物58.4g(うち食物繊維51.8g、糖質6.6g)、カルシウム1,000mg、マグネシウム640mg、カリウム(乾燥状態で豊富)、鉄6.2mg(ステンレス釜の場合)となっている。

特に注目すべきは食物繊維の豊富さで、ごぼうの約7倍にも相当する。カルシウムは牛乳の約10倍以上にもなり、マグネシウムはアーモンドの約2倍を含む。そのほか、ビタミンK、ヨウ素、β-カロテン、葉酸、ビタミンB2なども含まれており、総合的な栄養バランスに優れている。

なお、ひじきの鉄分含有量については重要な注意点がある。かつてひじきは「鉄分の王様」と称されていたが、2015年に改訂された日本食品標準成分表で、加工に使う釜の素材によって鉄分量が大きく異なることが明らかになった。鉄釜で加工された乾燥ひじき100gあたりの鉄分は58.2mgであるのに対し、ステンレス釜の場合は6.2mgと、約9倍もの差がある。近年はステンレス製の釜が主流となっているため、現在流通しているひじきの多くは、かつてほどの鉄分を含んでいない点に留意が必要である。

お菓子への活用方法

ひじきをお菓子に使う最大の利点は、日常の食事では不足しがちなカルシウム、食物繊維、ミネラル類を、おやつの時間に自然な形で摂取できる点にある。特に成長期の子どもや、健康を意識する層に向けた付加価値の高いスイーツ素材として活用されている。

代表的な活用例としては、まずひじきクッキーが挙げられる。水で戻した芽ひじきを刻んでクッキー生地に練り込むもので、保育園や幼稚園の手作りおやつの定番メニューのひとつである。バター、小麦粉、砂糖にひじきとごまを加えた「ごまひじきクッキー」は、香ばしさと栄養を兼ね備えた人気レシピとして広く知られている。ひじきのマフィンやパウンドケーキも人気があり、ひじきの煮物の残りを生地に混ぜ込む「ケーク・サレ(塩味のケーキ)」は、フードロス削減の観点からも注目されている。

市販品としては、ピジョンの「元気アップカルシウム ひじきせんべい」が、離乳食期(生後6か月頃)から食べられるベビー用おせんべいとして広く流通している。国産米とひじきを使用し、カルシウムを豊富に含んだ商品である。また、楽天市場などの通販サイトでは「ひじき」をキーワードにしたクッキー・焼き菓子が100件以上出品されており、健康志向のスイーツカテゴリーとして一定の市場が形成されている。

さらに、ひじきのガトーショコラという上級レシピも存在する。ひじきはそのままでは硬いため、みじん切りにして生地に加えることで、ガトーショコラのしっとりとした食感を損なわずにミネラル補給ができる工夫がなされている。和歌山県では乾物(ひじき、高野豆腐、切干大根など)をスイーツに変身させる体験プログラムも行われており、ひじきスイーツの可能性はますます広がりを見せている。

お菓子に使う際の下処理と注意点

お菓子の原材料としてひじきを使用する際には、適切な下処理が重要である。まず、乾燥ひじきを水またはぬるま湯で20〜30分程度かけて戻す。この水戻しの工程は、味や食感を整えるだけでなく、ひじきに含まれる無機ヒ素を減少させる効果がある。農林水産省の報告によると、干しひじきを60分間水戻しすると、芽ひじきで75〜95%、長ひじきで55〜90%のヒ素が除去されるとされている。水温が高いほどより多く除去される。

戻した後は十分に水を切り、お菓子の用途に応じて細かく刻む。クッキーやマフィンに混ぜ込む場合は、みじん切りにすることで生地への分散が均一になり、食感の違和感も少なくなる。ひじきの風味は比較的穏やかなため、チョコレート、きな粉、黒ごま、さつまいもなど、風味の強い素材と組み合わせると相性がよい。

ひじきに含まれる無機ヒ素については、厚生労働省が「ひじきを極端に多く摂取するのではなく、バランスのよい食生活を心がければ健康上のリスクが高まることはない」としており、これまでにひじきを食べてヒ素中毒になったとの報告はない。ただし、水戻しやゆでこぼしなどの適切な下処理を行うことが推奨されている。

保存方法と賞味期限

乾燥ひじきは日本古来の保存食であり、直射日光・高温多湿を避けて常温で保管すれば、開封前で1年程度は美味しく食べることができる。未開封であれば数年単位での保存も可能とされるが、風味の劣化を考慮すると賞味期限内に消費するのが望ましい。開封後は密閉できる保存容器に移し替え、冷暗所で保管する。冷凍保存も可能である。

水で戻した後のひじきは日持ちしないため、冷蔵保存で数日〜1週間程度を目安に使い切る必要がある。お菓子づくりに使う場合は、使用する分だけを水戻しし、余った乾燥ひじきは密閉して保管するのが効率的である。

市販の乾燥ひじきの価格は、輸入品(韓国・中国産)の芽ひじきで100gあたり200〜400円程度、国産品は100gあたり800〜1,500円程度と幅がある。国産のなかでも伊勢ひじきや特定産地のブランド品はさらに高値で取引される傾向にある。

主な取扱メーカー・ブランド

ひじきの加工・販売に携わる主要な企業としては、株式会社くらこん(大阪府)、北村物産株式会社(三重県・創業寛政年間の老舗)、ヤマナカフーズ株式会社、株式会社ほんぽ、うわべ食品工業株式会社(オーサワブランド)などが挙げられる。お菓子向けのひじき製品としては、ピジョン株式会社の「元気アップカルシウム ひじきせんべい」が乳幼児向け市場で広く認知されている。

まとめ

ひじきは、縄文時代から日本人に食されてきた歴史ある海藻であり、カルシウム、食物繊維、マグネシウムをはじめとする多彩な栄養素を含む優れた食品である。近年はお菓子の原材料としても活用が広がり、保育園のおやつから大人向けの健康スイーツまで、幅広いジャンルの焼き菓子に取り入れられている。和の素材ならではの穏やかな風味は、さまざまなスイーツ素材との相性もよく、健康と美味しさを両立させる原材料としての可能性を秘めている。

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