名称・読み方

「刻みあらめ(きざみあらめ)」は、海藻の一種である「あらめ」を加工・裁断して乾燥させた食品原材料です。正式な海藻名は「アラメ(荒布)」で、学名を Eisenia bicyclis といい、コンブ目コンブ科アラメ属に分類される大型の褐藻です。漢字では「荒布」「滑海藻」とも表記され、古くは「阿羅女」「阿良米」などの表記も見られます。「荒布」という名は、ワカメ(和布)に比べて葉の表面が粗くしわが多いことに由来するとされています。

なお、三重県をはじめとする西日本太平洋岸で「あらめ」として流通している製品の多くは、厳密にはアラメの近縁種である「サガラメ(Eisenia nipponica)」であることが近年の分子系統学的研究で明らかになっています。しかし、産地や市場では古来の慣習に従い、いずれも「あらめ」の名称で広く流通しています。

歴史・起源

あらめの食用の歴史は極めて古く、日本有数の歴史を持つ海藻食材のひとつです。『大宝律令』(701年)にはすでに「滑海藻」の記述があり、税(調)として納められる品目に含まれていました。続く『養老律令』(757年)でも滑海藻は調のひとつに指定されており、奈良時代にはすでに全国的に流通していたことがわかります。さらに『延喜式』(927年)では、滑海藻の貢納国として伊勢国・志摩国・紀伊国が記されており、伊勢志摩地方が古来より主要な産地であったことが裏付けられています。

伊勢神宮には古くからあらめが献上されてきた歴史があり、神前にお供えされる海藻として格別な扱いを受けてきました。平安時代中期の『和名類聚抄』には「好物」(煮物)としてあらめが登場し、室町時代の『大草流庖丁聞書』では「姫盛り」や「鷹の羽」といった調理法が紹介されています。また江戸時代初期の『料理物語』(1643年)にも汁物や煮物の食材としてあらめが記されています。

「刻みあらめ」という加工形態の起源についても興味深い経緯があります。ゆでて圧縮したあらめを刻み、干し上げたものを、京都方面の寺院に精進料理の食材として売り出したのが始まりとされ、そこから西日本全域へと広がっていきました。京都では「8のつく日」やお盆にあらめを食べる風習が今日まで続いており、8月16日の朝にあらめを油揚げと炊いた「あらめの炊いたん」を仏前に供え、茹で汁を玄関先に撒いて先祖を送り出す「追い出しあらめ」という行事も伝わっています。

主要産地

あらめの国内生産量のほぼ全量を三重県が占めており、年間の漁獲量はおよそ200トン前後で推移しています。伊勢志摩地域(鳥羽市・志摩市周辺)および熊野灘沿岸が中心的な産地であり、収穫期は毎年7月から9月にかけてです。あらめは養殖ができない海藻であるため、流通品はすべて天然物です。主に海女(あま)が素潜りで海底の岩礁から刈り取る伝統的な漁法で採取されます。水面下3〜5メートル程度の岩礁地帯に生育し、成熟するまでに3〜4年を要する多年生の海藻です。

三重県以外では、島根県隠岐諸島で採取される「隠岐あらめ」も知られています。隠岐のあらめは炒め煮にして食べる郷土料理が有名で、農林水産省の「うちの郷土料理」にも「隠岐アラメの炒め煮」として登録されています。

三重県あらめ協同組合および地元漁協では、あらめの普及を目的として、7月20日(旧海の日)を「あらめの日」と定めています。毎年この日に伊勢神宮の内宮前にある「おかげ横丁」で「あらめ祭り」が開催され、刻みあらめの無料配布やPR活動が行われてきました。

製造・加工工程

刻みあらめは、生のあらめに複数の手間をかけて加工される伝統的な乾物です。その製造工程は産地や加工業者によって多少の違いがありますが、基本的な流れは以下の通りです。

まず、夏季に海女が素潜りで海中の岩礁から成熟したあらめを刈り取ります。採取されたあらめは浜辺に広げて天日干しにされ、乾燥した状態で倉庫に保管されます。加工を始める際には、乾燥あらめを海水や水に1〜2時間浸して戻し、根の部分を切り落とします。次に、あらめを積み重ねて圧縮し、カンナなどの刃物で削り出す「手削り製法」や、蒸し加工を施してから裁断する方法など、各産地に伝わる伝統的な技法で細かく刻まれます。渋みを取るために海水で洗浄する工程も加わります。こうして刻まれたあらめは最終的に天日干しまたは機械乾燥で仕上げられ、「刻みあらめ」として製品化されます。

一般的な加工工程をまとめると、「採取 → 天日干し → 水戻し → 蒸し加工(または茹で加工) → 圧搾 → 裁断(刻み) → 洗浄 → 乾燥」という流れです。この多段階の加工工程によって生のあらめ特有の渋味やえぐみが取り除かれ、戻しやすく調理しやすい状態に仕上がります。

主要メーカー・販売元

刻みあらめを製造・販売する主要なメーカーは、いずれも三重県伊勢志摩地域に拠点を構える企業が中心です。

代表的な企業としては、「北村物産株式会社」があります。伊勢志摩産のきざみあらめ(30g入り)を製造しており、創健社などの自然食品流通を通じて全国に供給しています。「伊勢乾物」も刻みあらめ30gをはじめとする各種乾物を直販しているメーカーです。「カネウフーズ」は志摩市阿児町に所在し、自社で海藻を採取・加工する一貫体制で刻みあらめを製造しています。また、「海藻本舗」(株式会社うわべ)も伊勢志摩産の刻みあらめ100gパックなどを取り扱う専門メーカーです。

自然食品系の流通では、「オーサワジャパン」や「ムソー」が伊勢志摩産の刻みあらめを自社ブランドで販売しています。さらに、製菓材料の専門店である「富澤商店(TOMIZ)」でも「国産 刻みあらめ」(20g)が取り扱われており、製菓・製パン用途を想定した流通チャネルにも載っています。

特徴・外観・味わい

刻みあらめは、黒褐色の細長い糸状または短冊状に刻まれた乾物で、乾燥状態ではひじきにやや似た外観を呈します。ただし、ひじきよりも幅がやや広く、表面にしわのある独特の質感が特徴です。乾燥状態では軽く、パリパリとした質感ですが、水で戻すと10〜20分程度で柔らかくふっくらとした状態になります。

味わいは穏やかな磯の風味があり、昆布よりも柔らかく、ワカメよりもしっかりした歯応えがあります。クセが少なくほのかな甘みも感じられるため、さまざまな料理との相性が良好です。ひじきと同様の感覚で調理できる一方、ひじきに比べて戻し時間が短く、煮崩れしにくい点が特徴です。

栄養成分

刻みあらめ(蒸し干し)は「ミネラルの宝庫」とも称される栄養豊富な海藻です。日本食品標準成分表(八訂)によると、蒸し干しあらめ100gあたりの主な栄養成分は次の通りです。

エネルギーは約184kcalで、たんぱく質12.4g、脂質0.7g、炭水化物56.2gを含みます。炭水化物のうち食物繊維が48.0gを占めており、可食部のおよそ半分が食物繊維であるという点は海藻類の中でもきわめて高い水準です。この食物繊維にはアルギン酸やフコイダンといった水溶性食物繊維が豊富に含まれ、腸内環境の改善、コレステロール値の抑制、血圧上昇の抑制などの効果が期待されています。

ミネラル類では、カルシウムが790mg(牛乳の約12倍に相当)、カリウムが3,200mg、マグネシウムが530mg、鉄が3.5mgと非常に豊富です。βカロテンはトマトの約7倍にあたる2,700µgを含み、ビタミンKは260µgと高水準です。このほか、ヨウ素(ヨード)も多く含まれ、甲状腺機能に関わる重要な微量元素の供給源となっています。ただし、ヨウ素の過剰摂取には注意が必要であり、一度に大量に食べることは推奨されていません。

お菓子・製菓における活用

あらめは伝統的に煮物、炒め煮、酢の物、味噌汁などの惣菜利用が中心ですが、近年では健康志向の高まりを背景に、お菓子や製菓の原材料としても注目されつつあります。

刻みあらめは、製菓材料店である富澤商店でも「国産 刻みあらめ」として販売されており、製菓・製パンの分野での利用が想定されています。お菓子に使用する場合、その穏やかな磯の風味と食物繊維の豊富さ、ミネラル補給という栄養面での付加価値が魅力です。

具体的な活用方法としては、水で戻した刻みあらめを細かく刻んで生地に練り込む形で、パウンドケーキやマフィン、クッキーなどの焼き菓子に加える手法が考えられます。黒糖や和三盆との風味の相性が良く、和風テイストの焼き菓子に仕上がります。また、あらめを甘辛く煮付けたものを餡の代わりに使ったり、おはぎや大福の具材にしたりする和菓子的なアレンジも可能です。あらめ自体にクセが少ないため、チョコレートやナッツ類と組み合わせた創作菓子にも展開できるポテンシャルを持っています。

さらに、あらめに含まれるアルギン酸は、ゲル化剤や増粘剤としての性質を持つため、食品加工の観点からもお菓子の食感改良に寄与する可能性があります。健康志向のグルテンフリー菓子やマクロビオティックスイーツの分野では、海藻類を積極的に取り入れる傾向があり、刻みあらめもその選択肢のひとつとして位置づけられています。

保存方法・賞味期限

刻みあらめは乾物であるため保存性に優れています。未開封の状態では常温保存が可能で、直射日光と高温多湿を避けて冷暗所に保管することが推奨されています。賞味期限は製造メーカーによって異なりますが、おおむね製造日から1年間(360日〜1年)に設定されています。北村物産の製品は製造日より360日、オーサワジャパンやムソーの製品も製造日より1年、富澤商店の製品は製造日より270日となっています。

開封後は湿気を吸いやすいため、密封容器に入れるかチャック付き袋でしっかりと口を閉じ、なるべく早めに使い切ることが望ましいです。

使い方(戻し方)

刻みあらめを使用する際は、まずたっぷりの水で10〜20分程度浸して戻します。すでに蒸し加工が施されているため、他の乾燥海藻と比べて戻し時間が短いのが利点です。水で戻した後はざるにあげて軽く水洗いし、よく水気を切ってから調理に使用します。乾燥状態から水戻しすると、重量はおよそ7〜10倍に膨らみます。製菓に使用する場合は、水気をしっかりと絞ったうえで細かく刻み、生地に混ぜ込むのが基本です。

価格帯

刻みあらめの価格は、パッケージの容量やメーカーによって幅がありますが、一般的には20〜30gの小袋で300〜500円程度、100gの業務用パックで600〜1,000円程度が市場の相場です。天然採取のみで養殖品がないこと、収穫に従事する海女の減少により生産量が限られていることから、ひじきなどと比較するとやや高価な傾向にあります。自然食品店やオーガニック食品を扱うオンラインショップ、富澤商店のような製菓材料専門店などで入手できます。

バリエーション・関連商品

刻みあらめ以外にも、あらめ関連の製品にはいくつかのバリエーションがあります。「乾燥あらめ(板状)」は、刻まずに葉の形を残したまま乾燥させたもので、あらめ巻きなどに使用されます。「生あらめ」は産地限定で流通する未乾燥のもので、湯通ししてポン酢で食べたり、天ぷらにしたりします。また、島根県隠岐の「隠岐あらめ」は伊勢志摩産とは産地や風味がやや異なり、独自のブランドとして流通しています。佐渡地方の「板あらめ」は、実際にはツルアラメという別の海藻から作られる地域特産品です。

免責事項

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購入・ご利用の際は必ず最新のパッケージ表示または公式情報をご確認ください。特に食物アレルギーをお持ちの方は原材料を十分にご確認の上お求めください。
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