材料の名前

日本語名: 小麦粉(こむぎこ)

英語: Wheat flour(ウィート・フラワー)。お菓子用の薄力粉は「Cake flour(ケーキ・フラワー)」、焼き菓子用は「Pastry flour(ペストリー・フラワー)」と呼び分けられる。なお、英語圏では単に「flour(フラワー)」と言えば小麦粉を指す。

フランス語: Farine de blé(ファリーヌ・ド・ブレ)。通常は「Farine(ファリーヌ)」だけでも小麦粉を意味する。フランスでは灰分量に基づく「Type」分類が用いられ、お菓子作りには主にType 45やType 55が使われる。

ドイツ語: Weizenmehl(ヴァイツェンメール)。ドイツでも番号による分類があり、Type 405が日本の薄力粉に近い。

イタリア語: Farina di grano tenero(ファリーナ・ディ・グラーノ・テーネロ)。イタリアでは「00粉(ドッピオ・ゼロ)」がきめの細かい製菓・製パン向けの粉として広く知られている。

スペイン語: Harina de trigo(アリーナ・デ・トリゴ)

特徴

小麦粉は、イネ科コムギ属に属する小麦の胚乳部分を粉砕・製粉して得られる粉状の食材である。小麦粒は大きく胚乳(約83%)、表皮(約15%、「ふすま」や「ブラン」とも呼ばれる)、胚芽(約2%)の三つの部位で構成されており、製粉工程で表皮と胚芽を取り除き、胚乳部分を細かく挽いたものが一般的な小麦粉となる。主成分は糖質(でんぷん)とたんぱく質であり、その中でも小麦に特有のたんぱく質である「グルテン」が、小麦粉の最大の個性を生み出している。

グルテンは、小麦粉に水を加えてこねることで形成される網目状の組織であり、パンのふっくらとした弾力や、うどんのコシの強さ、ケーキのしっとりとした食感など、さまざまな食品の食感を左右する要素である。このグルテンの含有量と質の違いにより、小麦粉は大きく以下の三種類に分類される。

「薄力粉」はたんぱく質含有量が約6.5〜9.0%と最も少なく、グルテンの力が弱い。原料には軟質小麦が使われ、粒度が細かく、さらさらとした質感が特徴である。グルテンが少ないことで生地を練っても粘りが出にくく、焼き上がりが軽くふんわりとした食感になるため、ケーキやクッキーなどの洋菓子をはじめ、天ぷらの衣や和菓子にも幅広く使われる。お菓子作りにおいて最も使用頻度が高い粉である。

「中力粉」はたんぱく質含有量が約7.5〜10.5%で、薄力粉と強力粉の中間の性質を持つ。中間質小麦や軟質小麦が原料で、うどんやそうめんなどの麺類に適している。

「強力粉」はたんぱく質含有量が約11.5〜13.0%と最も多く、グルテンの力が強い。原料には硬質小麦が使われ、粒度がやや粗い。よくこねることで強い粘りと弾力が生まれるため、パンや中華麺、ピザ生地などに向いている。

このほか、デュラム小麦を粗挽きにした「デュラムセモリナ」はスパゲティやマカロニなどのパスタ専用粉として、また小麦粒を丸ごと挽いた「全粒粉」は食物繊維やミネラルが豊富な健康志向の粉として、それぞれ特定の用途で活用されている。

さらに、小麦粉の品質を語る上で欠かせない指標が「灰分(かいぶん)」である。灰分とは小麦粉に含まれるミネラル分(リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄など)の総量を指し、表皮や胚芽に多く含まれる。灰分値が低いほど白く、きめ細かく上品な味わいになり、灰分値が高いほど色が濃く小麦の風味が強くなる。日本では灰分量をもとに特等粉(灰分0.3〜0.35%)、一等粉(灰分0.35〜0.45%)、二等粉、三等粉といった等級に分けられており、製菓用として最もよく使われるのは特等粉や一等粉である。

用途

お菓子作りにおける小麦粉の用途は極めて幅広い。洋菓子の世界では、スポンジケーキ(ジェノワーズ)、パウンドケーキ、シフォンケーキ、ロールケーキ、ショートケーキの土台、マドレーヌ、フィナンシェ、クッキー、サブレ、タルト生地、シュー生地、クレープ、ミルフィーユのパイ生地(折り込み生地にはバターとともに薄力粉や強力粉が使われる)など、ほぼすべての焼き菓子に薄力粉が使用される。また、カスタードクリームのとろみ付けにも小麦粉(あるいはそこから精製したコーンスターチと併用して)が活躍する。

和菓子においても小麦粉は重要な材料であり、饅頭の皮、どら焼きの生地、カステラ、たい焼きの生地、人形焼などに使われている。特にカステラは、16世紀にポルトガルから伝来した南蛮菓子をルーツに持ち、小麦粉・卵・砂糖というシンプルな材料から生まれる日本独自の菓子として発展した。

お菓子以外では、パン(強力粉)、うどんやそうめん(中力粉)、餃子の皮やピザ生地(強力粉)、天ぷらやお好み焼き(薄力粉)、パスタ(デュラムセモリナ)など、世界中の多種多様な食品に使用されており、小麦粉は文字通り人類の食文化を支える基盤的食材と言える。

主な原産国

小麦の原産地は、現在のイラクやシリアにあたるメソポタミア地域を含む「肥沃な三日月地帯」とされている。この地域で約1万年前に野生の小麦の栽培が始まったと考えられており、小麦は人類最古の作物のひとつである。

現在の世界の小麦生産量(2022年FAO統計)を見ると、第1位が中国(約1億3,772万トン)、第2位がインド(約1億774万トン)、第3位がロシア(約1億423万トン)、第4位がアメリカ(約4,490万トン)となっており、このほかフランス、カナダ、オーストラリア、ドイツ、パキスタン、ウクライナなどが主要な生産国として名を連ねる。

日本における小麦の自給率はカロリーベースで約16%にとどまり、消費量の大部分を輸入に頼っている。2024年のデータによると、輸入先はアメリカ(約40.5%)、カナダ(約38.5%)、オーストラリア(約20.9%)の3か国でほぼすべてを占める。国内では北海道が最大の生産地で、国内生産量の半分以上を占めている。国産小麦の代表的な品種としては、パン用の「春よ恋」「ゆめちから」、うどん用の「きたほなみ」「さぬきの夢」などがあり、近年は国産小麦を使ったお菓子やパンへの注目が高まっている。

選び方とポイント

お菓子作りにおいて小麦粉を選ぶ際に注目すべきポイントは、主に「たんぱく質含有量」と「灰分値」の二つである。

たんぱく質含有量は、焼き上がりの食感を大きく左右する。ふんわりと軽い口当たりのスポンジケーキやロールケーキを目指すなら、たんぱく質の少ない薄力粉(6〜7%台)を選ぶのがよい。日清製粉の「スーパーバイオレット」(たんぱく質約6.0%)はその代表格で、非常にきめ細かく軽い仕上がりになる。一方、クッキーやタルトのように多少のサクサク感や小麦の風味を活かしたい場合は、たんぱく質がやや高め(8〜9%台)の薄力粉を選ぶと味わいに奥行きが出る。フランス産小麦を使った「エクリチュール」(たんぱく質約9.2%)はヨーロッパ菓子らしいホロホロとした食感を再現でき、焼き菓子に人気が高い。

灰分値については、灰分が低い(0.3%台)ほど色が白くクセのないすっきりとした味になり、灰分が高め(0.4%以上)になると小麦本来の香りや風味がしっかりと感じられるようになる。真っ白なスポンジケーキを焼きたい場合は低灰分の粉を、素朴な焼き菓子やガレットブルトンヌのように小麦の味を楽しみたい場合はやや灰分の高い粉を選ぶとよい。

保存に関しても注意が必要である。小麦粉はにおいを吸着しやすい性質があるため、香りの強い食品の近くでの保管は避けるべきである。また、湿気にも敏感なため、開封後はしっかりと密封し、涼しく乾燥した場所で保存する。穀物を好むダニなどの害虫が外部から侵入する可能性もあるため、密閉容器に移し替えるのが望ましい。なお、冷蔵庫での保管は結露やにおい移りの原因になるため推奨されていない。賞味期限の目安は、薄力粉・中力粉で約1年、強力粉で約6か月とされている。

メジャーな製品とメーカー名

日本の製粉業界は日清製粉グループ(国内シェア約40%)を筆頭に、ニップン(旧・日本製粉、業界2位)、昭和産業、鳥越製粉などの大手メーカーが中心となっている。お菓子作りに使われる代表的な製品を以下に紹介する。

日清製粉 は、家庭用薄力粉の定番「日清 フラワー」を筆頭に、製菓用として業務用・家庭用ともに圧倒的なシェアを持つ。「バイオレット」(たんぱく質約7.1%)はお菓子作りの入門にも最適なオールラウンドな菓子用薄力粉であり、「スーパーバイオレット」(たんぱく質約6.0%)は同社で最も高品質な菓子用粉として、プロのパティシエから家庭の製菓愛好家まで幅広く愛用されている。ふんわりとボリュームのあるスポンジケーキやビスキュイに特に適しており、日本で最もよく使われる製菓用薄力粉のひとつである。強力粉では「カメリヤ」がパン作りの定番として知られる。

ニップン(旧・日本製粉) は、家庭用薄力粉の「ハート」が代表製品で、色調が白くきめが細かく、和洋菓子から天ぷらまで幅広い用途に対応する万能型の薄力粉として支持されている。業務用では「宝笠印」シリーズが菓子業界で高い評価を得ている。

鳥越製粉 は、北海道産小麦を使用した製品など、品質にこだわった粉づくりで知られる製粉メーカーである。

昭和産業 は、製粉事業のほか油脂事業も手がける総合食品メーカーで、業務用小麦粉を幅広く展開している。

富澤商店(TOMIZ) は製粉メーカーではないが、製菓・製パン材料の専門小売店として多彩な小麦粉を取り扱っており、北海道産薄力粉「ドルチェ」(江別製粉製造)などのオリジナルブランドが人気である。「ドルチェ」は国産小麦ならではのもっちりとした食感と豊かな風味が特徴で、シフォンケーキやマフィンに向いている。

フランス産小麦100%の「エクリチュール」(日清製粉)は、ヨーロッパ菓子特有のホロホロとした食感を再現できる薄力粉として、こだわり派の製菓愛好家やパティシエに愛されている。

歴史・由来

小麦は人類最古の栽培作物のひとつであり、その歴史は約1万年前にまで遡る。現在のイラク、シリア、トルコ南東部からパレスチナにかけて広がる「肥沃な三日月地帯」と呼ばれる地域で、野生の小麦や大麦の栽培が始まったとされている。当初、人々は麦の粒を石と石の間に挟んで砕き、そのまま焼いたり、土器の発明後は粗挽きにしてお粥のようにして食べていた。

今から約5千年前(紀元前3,000年頃)の古代エジプトでは、「サドルカーン」と呼ばれる平たい石臼を使って小麦を挽き、水を加えてこねて平たいパンを焼いていた。この時代に画期的な発見が起こる。こねた生地を放置していたところ、空気中の天然酵母が生地に入り込んで発酵し、大きく膨らんだのである。これを焼いてみたところ、従来よりも柔らかく美味しいパンが焼けた。これが発酵パンの誕生であるとされている。

紀元前600年頃になると、古代オリエントで「ロータリーカーン」(回転石臼)が考案され、より粒の細かい小麦粉を効率的に作れるようになった。この技術はヨーロッパや中国にも伝播し、やがて水車や風車を動力とする製粉へと発展していった。18世紀のイギリス産業革命でワットの蒸気機関が発明されると、大規模な製粉工場が登場し、19世紀にはロール製粉機が実用化されたことで、現代の製粉技術の基礎が確立された。

日本に小麦が伝わったのは弥生時代の中期頃(紀元前1世紀〜紀元後4世紀頃)とされており、大麦や大豆などとともに朝鮮半島を経由してもたらされたと考えられている。その後、7世紀頃に中国からうどんやそうめんの原型となる麺類が伝来し、平安時代には小麦粉や米粉を使った唐菓子(からくだもの)と呼ばれる菓子が中国から伝わった。室町時代になると、禅僧の点心(間食)として麺類や饅頭が食べられるようになり、特に1341年に中国から来日した林浄因が奈良で作った饅頭は、日本の和菓子の歴史における重要な出来事として語り継がれている。

16世紀にはポルトガルやスペインとの南蛮貿易を通じて、カステラ、金平糖、ビスケット(ビスカウト)などの南蛮菓子が日本に伝来した。これらの菓子はいずれも小麦粉を主要原料としており、日本の菓子文化に大きな影響を与えた。パンは1543年に種子島に漂着したポルトガル船によって初めてもたらされたが、江戸時代を通じて日本人の食生活に定着することはなかった。

明治時代に入ると西洋文化の流入とともに、洋菓子やパンの文化が本格的に広まり始めた。近代的な製粉工場も設立され、小麦粉の品質と生産量が飛躍的に向上した。第二次世界大戦後は、学校給食でのパン食や、アメリカからの小麦援助(いわゆるキッチンカー運動やMSA協定に基づく余剰農産物の導入)を契機に、パンや洋菓子が日本人の日常的な食生活に深く浸透していった。現在、日本人ひとり当たりの小麦粉消費量は年間約32kgとされ、米に次ぐ主食的存在として私たちの食卓に欠かせないものとなっている。

こうして振り返ると、小麦粉は約1万年にわたって人類の食を支えてきた、まさに文明の土台ともいえる食材である。お菓子作りの世界においても、小麦粉なくしてはケーキもクッキーもカステラも存在し得ない。一袋の白い粉の中に、これほど深い歴史と科学が詰まっていることを知ると、日々のお菓子作りがより一層楽しく、豊かなものに感じられるのではないだろうか。

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