材料の名前

準強力粉は、日本語では「じゅんきょうりきこ」と読みます。パン業界やお菓子業界では「フランス粉」「フランスパン専用粉」という通称でも広く知られています。英語では “semi-strong flour” あるいは “medium-strong flour” と訳されることが一般的です。フランスでは小麦粉の分類体系が日本と異なり、灰分(かいぶん)の含有量によって分類されるため、準強力粉に直接対応する名称は存在しません。ただし、フランスパン用途としてよく使われる「Type 55(タイプ・サンカント・サンク)」や「Type 65(タイプ・ソワサント・サンク)」が、日本の準強力粉に近い位置づけとして語られることが多くあります。なお、日本で製造・販売されている準強力粉の製品名にも「リスドォル(Lys d’or)」「メルベイユ(Merveille)」「トラディショナル(Traditionnelle)」など、フランス語由来の名称が多く用いられており、フランスパン文化との深い結びつきを感じさせます。

特徴

準強力粉の最大の特徴は、タンパク質(グルテン)の含有量が強力粉と中力粉の中間に位置することです。日本で流通している小麦粉は、タンパク質の含有量によって大きく四つに分類されます。強力粉がおよそ11.5〜13.5%、準強力粉がおよそ10.5〜12.5%、中力粉がおよそ8.5〜10.5%、薄力粉がおよそ7.0〜8.5%です。準強力粉はこのうち強力粉に次ぐタンパク質量を持ちながらも、グルテンの質は「やや強い」程度にとどまるため、強力粉ほど強靭な弾力を生まず、適度にゆるやかな生地のつながりを形成します。

この「ほどよいグルテン形成力」こそが、準強力粉ならではの魅力です。強力粉で作るとグルテンが強く働きすぎて生地がしっかりしすぎるところを、準強力粉であればパリッとした外皮(クラスト)ともっちりとした内層(クラム)を両立させることができます。バゲットの皮がカリッと割れ、中がしっとりと軽い食感になるのは、まさに準強力粉の特性によるものです。

もう一つの重要な特徴が「灰分」です。灰分とは、小麦の表皮や胚芽部分に含まれるリン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄などのミネラル分の総称で、小麦粉を高温で燃やした後に残る灰の量から測定されます。準強力粉は一般的に灰分が0.4〜0.7%程度と、強力粉(0.3〜0.4%程度)よりやや高めの傾向にあります。灰分が多い粉は小麦本来の香りや味わいが強く出るため、バゲットやカンパーニュのようにシンプルな材料で作るパンでは、粉の風味がダイレクトに仕上がりに反映されます。

粒子の大きさについては「やや粗い」とされ、薄力粉の極めてきめ細かい粒子と比べるとさらさら感は控えめです。原料となる小麦は硬質小麦(ハードウィート)で、そのなかでもタンパク質量がやや控えめなものが選ばれます。

用途

準強力粉の代表的な用途は、何といってもフランスパン(ハードパン)です。バゲット、バタール、ブール、エピ、カンパーニュ、リュスティックなど、外皮がパリッとして中が軽い食感のパンには、準強力粉が欠かせません。フランスパンは小麦粉、水、塩、イーストというごく少ない材料で作られるため、小麦粉の品質と特性がそのまま味に直結します。準強力粉のほどよいグルテンと豊かな風味が、フランスパン特有の歯切れの良さと奥深い味わいを生み出すのです。

クロワッサンやデニッシュなどの折り込み生地にも準強力粉は好んで使われます。これらの生地は、バターを何層にも折り込みながら伸ばす作業を繰り返すため、グルテンが強すぎると生地が縮みやすく作業が困難になります。準強力粉であれば適度な弾力がありつつも伸展性に優れるため、折り込み作業がしやすく、焼き上がりにサクサクとした軽い食感を実現できます。

お菓子の分野でも準強力粉は活躍します。特にフランス菓子の世界では、ガレット・ブルトンヌやサブレといったバターの風味を前面に出す焼き菓子に準強力粉が使われることがあります。薄力粉よりもやや強い生地感が生まれることで、ザクっとした力強い食感やしっかりとした噛みごたえが得られます。スコーンに準強力粉を使えば、外はカリッと中はふんわりした独特の仕上がりになります。また、パイ生地やタルト生地に用いることで、サクサクとした層の食感を引き立てることもできます。

さらに、中華麺(ラーメンの麺)や餃子の皮など、適度なコシと弾力が求められる麺類にも準強力粉は活用されています。

主な原産国(原料小麦の産地)

準強力粉の原料となる小麦の主要な産地は、アメリカ、カナダ、オーストラリア、フランス、そして日本国内(特に北海道)です。

日本は小麦の約9割を輸入に頼っており、その主要な輸入先はアメリカ、カナダ、オーストラリアの三カ国です。日本の製粉メーカーは、これらの国々から仕入れた硬質小麦をブレンドし、フランスパンに最適な準強力粉を製造しています。たとえば日清製粉の「リスドォル」はアメリカ、カナダ、オーストラリア産の小麦を主体としたブレンド粉です。

フランス産小麦100%を使用した準強力粉も高い人気を誇ります。フランスの小麦は独特の風味とコクがあり、灰分がやや高めであることから、伝統的なフランスパンの味わいを再現するのに適しています。富澤商店(TOMIZ)で販売されている「メルベイユ」や「ラ・トラディション・フランセーズ」などがその代表例です。

近年は北海道産小麦を使った準強力粉も注目を集めています。「タイプER」(江別製粉)や「キタノカオリ ハードブレッド専用粉」(平和製粉)、「春よ恋 ハードブレッド専用粉」(平和製粉)などがあり、国産小麦ならではのもっちりとした食感と香りが特徴です。

選び方とポイント

準強力粉を選ぶ際に注目すべきポイントは、タンパク質含有量、灰分、原材料の三つです。

まず、タンパク質含有量は仕上がりの食感に直結します。タンパク質が多め(11〜12%台)の準強力粉は、もっちりとした食べごたえのあるパンに仕上がりやすく、初心者でも扱いやすい傾向にあります。逆にタンパク質が少なめ(10〜11%程度)のものは、よりパリッと軽い、本場フランスに近い食感が得られますが、生地がだれやすく扱いには経験が必要です。初めてフランスパンに挑戦する方には、タンパク質量が10.5〜11.5%前後で安定した製品を選ぶのがおすすめです。

次に灰分は、風味の強さを左右します。灰分が高い(0.55〜0.7%程度)粉は小麦の味と香りがしっかり出ますが、酵素活性も高いため生地がだれやすく、上級者向けです。灰分が低め(0.4〜0.45%程度)の粉は風味は穏やかですが作業性に優れ、安定した焼き上がりが期待できます。フランスの分類では、灰分0.5〜0.6%が「タイプ55」、0.62〜0.75%が「タイプ65」に相当し、日本の製品でもこの呼称が説明に使われることがあります。

もう一つ確認したいのが原材料表示です。準強力粉の中には、小麦粉のみで構成されているものと、あらかじめ粉末麦芽(モルトパウダー)が添加されているものがあります。モルトパウダーはイーストの栄養源となり、発酵を促進して焼き色をつきやすくする役割を果たします。砂糖を使わないフランスパンでは特に有効ですが、自分でモルトの量を調整したい場合は、小麦粉のみの製品を選ぶとよいでしょう。

メジャーな製品とメーカー名

準強力粉の製品は数多く販売されていますが、特に知名度が高く広く使われている代表的な製品を紹介します。

リスドォル(Lys d’or)/日清製粉 は、日本で最も有名な準強力粉といっても過言ではありません。1969年に発売されて以来、50年以上にわたって多くのパン職人や家庭のパン愛好家に支持されてきたロングセラー製品です。タンパク質10.7±0.5%、灰分0.45±0.03%というバランスの取れた配合で、どんなハードパンにも合う万能型の粉です。原材料は小麦粉と粉末麦芽で、アメリカ・カナダ・オーストラリア産の小麦がブレンドされています。「リスドォル」はフランス語で「金のゆり」を意味し、フランス王家の紋章(フルール・ド・リス)に由来しています。

メゾンカイザートラディショナル/日清製粉 は、フランスの著名なパン職人エリック・カイザー氏と日清製粉が共同開発したプレミアム粉です。タンパク質11.6±1.0%、灰分0.43%で、炒ったきなこのような独特の香ばしい風味が特長です。ハードパンはもちろん食パンなどあらゆるパンに使える汎用性の高さが魅力です。

フランス/鳥越製粉 は、日本で最も早く開発されたフランスパン専用粉として知られています。タンパク質12.0%、灰分0.43%で、カナダ・アメリカ・国産の小麦を主体に使用しています。ふんわりとしたボリュームと小麦本来の風味を両立した製品です。

メルベイユ/日清製粉(富澤商店取扱) は、フランス産小麦を100%使用した準強力粉で、フランスの「タイプ65」を再現することを目指して開発されました。タンパク質10.0±1.0%、灰分0.6±0.1%と灰分が高めで、長時間発酵によってコクのある深い味わいと芳醇な香りのパンに仕上がります。

ラ・トラディション・フランセーズ/MINOTERIES VIRON社 は、フランスの小麦メーカーVIRON社が製造するフランス産小麦100%の準強力粉です。硬く香ばしいクラストともっちりとした弾力あるクラムが特長で、レトロタイプのバゲットのほか、ガレットやサブレなどの焼き菓子にも適しています。

そのほか、日清製粉の オーベルジュ (タンパク質11.5±0.5%)、 Fナポレオン (タンパク質11.8±0.5%)、江別製粉の タイプER (タンパク質12.2±0.7%、北海道産)など、用途や好みに応じて選べる豊富なラインナップが揃っています。

歴史・由来

準強力粉の歴史は、日本におけるフランスパン文化の発展と密接に結びついています。

日本で最初にフランスパンが作られたのは明治時代に遡るとされ、東京・小石川にあったフランスのカトリック教会の孤児院(現在のカトリック関口教会の前身)で、孤児への職業訓練としてフランスパン作りが行われたのが始まりと伝えられています。しかし、当時から長い間、日本で流通していた小麦粉は食パンや菓子パンに向いた強力粉が主流であり、本格的なフランスパンを作るのに適した粉はなかなか手に入りませんでした。

転機となったのは1950〜60年代です。フランスの著名なパン技術者レイモン・カルヴェル教授が日本を訪れ、本場のフランスパン製法を伝えたことで、日本のパン業界にフランスパンへの関心が一気に高まりました。しかし当時、フランス産の小麦粉は日本に輸入されておらず、アメリカやカナダ産の小麦でフランスパンに適した粉を作ることが大きな課題となりました。

1965年頃、老舗パンメーカーのドンクが本格的なフランスパンの国内製造を目指し、日清製粉にフランスパン専用粉の開発を依頼します。フランスの小麦とは品種も特性も異なる北米・オセアニア産の小麦から、フランスと同等の品質の粉を作り上げるという難題に、日清製粉の技術者たちは試行錯誤を重ねました。そして1969年、ついにフランスパン専用粉「リスドォル」が誕生します。これが日本における準強力粉の歴史の大きな出発点となりました。

一方、鳥越製粉もほぼ同時期にフランスパン専用粉「フランス」を開発しており、こちらは「日本で最も早く開発された本格的フランスパン専用粉」として知られています。

以降、日本では準強力粉の品質向上と多様化が進み、製粉各社がさまざまな特色ある製品を展開するようになりました。2000年代以降は、フランス産小麦100%の準強力粉や、北海道産小麦を使った国産準強力粉なども登場し、家庭製パン愛好家からプロのパン職人まで、幅広い選択肢が広がっています。

また、グローバルな視点で見ると、フランスにおける小麦粉の歴史は数百年に及びます。フランスでは小麦粉を灰分の含有量によって「Type」で分類する体系が確立されており、バゲットに使われるType 55やType 65は、長い伝統のなかで磨き上げられてきた粉の規格です。日本の準強力粉は、このフランスの伝統的な粉の特性を、日本で入手可能な小麦を使って再現しようとする努力の結晶であるといえます。近年では製粉技術の向上や国際的な小麦流通の発展により、かつてないほど高品質な準強力粉が家庭でも手軽に入手できるようになりました。

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