材料の名前

日本語では「黒糖(こくとう)」または「黒砂糖(くろざとう)」と呼ばれる。消費者庁が2010年にJAS法の解釈通知を改定し、黒糖と黒砂糖は同義であると定義づけた。いずれもサトウキビの搾り汁を煮詰めて固めた含蜜糖(がんみつとう)を指す。

英語圏では「muscovado(マスコバド)」の名で知られており、スペイン語またはポルトガル語を語源とする。一般に「brown sugar」という英訳が当てられることもあるが、brown sugarは精製した白砂糖に糖蜜を加え戻したものを含む広い意味の総称であり、サトウキビの搾り汁を丸ごと煮詰めた黒糖とは製法が異なる。英語圏で正確に黒糖を指すときは muscovado sugar、あるいは産地にちなんで Barbados sugar と呼ぶのがより正確である。

中国語圏では「黑糖(ヘイタン)」と表記され、台湾や中国南部で広く使われている。インドでは同様の含蜜糖を「ジャガリー(jaggery)」、中南米では「パネラ(panela)」や「ピロンシージョ(piloncillo)」と呼ぶなど、サトウキビ栽培が盛んな地域にはそれぞれ固有の名前をもつ類似の砂糖が存在する。

特徴

黒糖はサトウキビの搾り汁に石灰を加えて中和し、不純物を沈殿・除去したのち、煮沸して水分を蒸発させ、冷却・固化させたものである。白砂糖のように糖蜜を遠心分離で取り除く「分蜜」の工程を経ないため、砂糖の分類上は「含蜜糖」に該当する。

外見は濃い黒褐色で、固形のブロック状で流通するものが多い。粉末状に加工された製品もある。蜜分を多く含むため固まりやすく、上白糖のようにさらさらした質感ではない。

味わいの面では、ショ糖(スクロース)の純度が75~86%と、上白糖の約97%に比べて低い。その分、糖蜜に由来するカラメルのようなコク、かすかな渋み、ほのかな苦みが混在し、複雑で奥行きのある甘さが生まれる。この風味こそが黒糖ならではの持ち味であり、お菓子に使うと味わいに深みと香ばしさが加わる。

栄養面では、文部科学省が公表する「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」によると、黒砂糖100gあたりのエネルギーは352kcal。カルシウムが240mg、カリウムが1100mg、鉄が4.7mg含まれるほか、マグネシウム、リン、亜鉛、銅といったミネラル類が幅広く含まれる。ビタミンB1、B2、B6、パントテン酸、ビオチンなどのビタミンB群も微量ながら含有しており、上白糖と比較するとミネラル・ビタミンの含有量に大きな差がある。たとえば上白糖のカルシウムは100gあたり1mgに過ぎないが、黒糖にはその240倍が含まれる。

ただし注意すべき点がある。黒糖にはハチミツと同様にボツリヌス菌の芽胞が含まれる可能性があり、加熱しても芽胞は死滅しない。そのため1歳未満の乳児には、黒糖そのものだけでなく、黒糖を使ったお菓子や飲料も与えてはならない。

用途

お菓子づくりにおける黒糖の用途は幅広い。代表的なものを挙げてみよう。

和菓子の分野では、かりんとうの衣として使われるほか、黒棒、黒糖まんじゅう、黒糖蒸しパン、黒糖羊羹などに欠かせない原材料である。黒蜜に加工して、わらび餅やくずもち、あんみつにかける使い方も定番だ。沖縄や奄美の郷土菓子では、サーターアンダギー(沖縄風揚げドーナツ)やちんすこうの風味づけに黒糖が用いられることがある。

洋菓子やパンの分野でも活躍の場がある。クッキーやマフィン、スコーンの生地に白砂糖の代わりとして練り込めば、焼き上がりに独特のコクと香ばしさが加わる。パウンドケーキやフィナンシェのアクセントとして使うパティシエも少なくない。

飲料の分野では、黒糖を煮溶かしたシロップがカフェラテやチャイ、タピオカミルクティーのベースとして使われている。近年は台湾発の黒糖タピオカミルクが人気を博し、黒糖シロップの需要が高まった。

料理用途としては、煮物の甘み付けや豚の角煮、しょうが湯などにも使われるが、独特の風味があるため、素材の味を活かしたい繊細な料理には向かない場面もある。用途を選ぶ甘味料ではあるものの、使い方次第で料理や菓子の味わいを格段に引き上げてくれる存在だ。

主な原産国・産地

黒糖の原料であるサトウキビは熱帯・亜熱帯の植物であり、日本国内では沖縄県と鹿児島県の離島地域に栽培が限られる。

沖縄県では伊江島、粟国島、伊平屋島、多良間島、小浜島、与那国島、西表島、波照間島の8つの離島に製糖工場が設けられ、島ごとに異なる土壌や気候を反映した味わいの黒糖が生産されている。沖縄県黒砂糖協同組合に所属する製糖工場で作られたものは「沖縄黒糖」の地域団体商標を使用でき、2006年には特許庁に商標登録され、同年に財団法人食品産業センターの「本場の本物」認証も取得している。

鹿児島県では、奄美大島、徳之島、喜界島、種子島などの離島で小規模に生産が行われている。2024年2月には、薩南諸島に伝わる黒糖製造技術が国の登録無形民俗文化財に登録される見通しとなったことが報じられるなど、伝統的な手づくりの製糖技術が評価されている。

日本国外では、世界最大の含蜜糖生産国であるインドが挙げられる。インドでは「ジャガリー(jaggery)」や「グル(gur)」と呼ばれる含蜜糖が広く日常的に消費されている。コロンビアは「パネラ(panela)」の生産量で世界有数の国として知られ、年間約140万トンを生産する。そのほか、フィリピン(マスコバド糖の名で有名)、バルバドス、ベトナム、フィジー、メキシコ、ブラジルなど、サトウキビ栽培が盛んな地域で各種の含蜜糖が生産されている。台湾もかつては大量に黒糖を製造・輸出していたが、近年は生産量が減少傾向にある。

世界全体の砂糖生産量(サトウキビ糖と甜菜糖を合わせて)は2億トン弱に達するが、そのうち含蜜糖は約500万トンほどとされ、全体の2.5%程度にとどまる。沖縄黒糖はそのなかでも約1万トンと、極めて限られた生産量だ。

選び方とポイント

黒糖を選ぶ際にまず確認してほしいのが「純黒糖」か「加工黒糖」かという区分である。

純黒糖は、原材料がサトウキビのみ。商品パッケージの原材料表示欄に「さとうきび」だけが記載されている。サトウキビ本来のミネラルや風味がそのまま残り、島ごとの個性を感じられるのが魅力だ。お土産やそのまま食べる用途、こだわりのお菓子づくりには純黒糖がおすすめである。

一方の加工黒糖は、粗糖(ザラメ)や糖蜜などを黒糖に配合して作られたもの。原材料表示には「粗糖」「糖蜜」「黒糖」などが並ぶ。味が均一で安定しているため、日常の料理やお菓子の量産には使いやすい。価格も純黒糖より手頃なものが多い。

選ぶときのポイントとして、用途に合わせた形状も意識したい。固形のブロックタイプはそのまま食べるのに適しており、おやつや来客時のお茶請けにちょうどよい。粉末タイプはお菓子の生地に混ぜやすく、飲み物に溶かすにも便利だ。ブロック状のものを自分で砕いて使う方法もあるが、粉末状のほうが計量しやすく、均一に混ざりやすい。

産地による味の違いも、選ぶ楽しみのひとつである。たとえば沖縄の多良間島産はまろやかで甘みが強く人気が高い。波照間島産はコクが深く、与那国島産は独特の力強い風味を持つ。こうした産地ごとの味わいの差は、土壌のミネラル成分やサトウキビの品種、製造時の火入れ加減によって生まれるものだ。

保存の面では、直射日光と高温多湿を避け、密閉容器に入れて常温保存するのが基本である。黒糖は精製糖と異なりミネラル等の成分を多く含むため、湿気を吸うとカビが発生しやすい。ただし糖度が高いため基本的に腐敗はしにくく、正しく保管すれば長期間もつ。

メジャーな製品とメーカー名

黒糖そのものの製品としては、まず沖縄県黒砂糖協同組合に所属する製糖工場の製品が代表格である。宮古製糖株式会社の「多良間島産黒糖」は、まろやかな甘さと品質の安定感から全国的に知名度が高い。黒糖本舗垣乃花は「多良間島のひとくち黒糖」や「雪塩黒糖」など、多彩な黒糖製品を展開している。海邦商事は伝統的な直火炊き製法にこだわる黒糖専門メーカーとして知られ、粉黒糖やブロック黒糖を幅広く手がけている。

加工黒糖の分野では、大正2年(1913年)創業の上野砂糖株式会社が老舗として名高い。同社の「焚黒糖」シリーズは、沖縄黒糖を原料に独自の製法で炊き上げた加工黒糖で、業務用から家庭用まで幅広く使われている。

琉球黒糖株式会社は沖縄黒糖を主原料とした菓子やOEM製品を手がける企業で、黒糖を使った加工食品の製造では沖縄を代表する存在だ。

黒糖を使ったお菓子としては、九州・福岡県久留米市のクロボー製菓株式会社が製造する「黒棒」が有名である。大正9年(1920年)創業で、小麦粉ベースの生地に黒糖をからめた「黒棒名門」や「えんどう豆かりんとう」などのロングセラー商品を展開し、九州土産としても親しまれている。

フィリピン産のマスコバド糖は、フェアトレード商品として日本でも流通している。オルター・トレード・ジャパンが取り扱う「マスコバド糖」は、ネグロス島の農民が伝統製法で作る含蜜糖で、有機認証を取得した製品もある。サニーファームの「有機黒砂糖」もフィリピン産の有機黒糖として楽天やAmazonで上位にランクインする人気商品である。

歴史・由来

黒糖の歴史は、サトウキビの伝播と深く結びついている。サトウキビの原産地はニューギニア周辺とされ、紀元前8000年頃から栽培が始まったといわれる。やがてインド、東南アジア、中国へと広まり、サトウキビから砂糖を製造する技術はインドで発達した。

日本への砂糖の伝来は奈良時代にまでさかのぼる。中国・唐から渡来した鑑真が砂糖を持ち込んだという記録があり、当時は薬として扱われるほど希少な品だった。長らく輸入に頼る高級品であった砂糖が日本国内で製造されるようになったのは、江戸時代初期のことである。

日本における砂糖製造の始まりについては、1610年に奄美大島でサトウキビの栽培と黒糖の生産が開始されたのが最初とする説がある。続いて1623年(元和9年)、琉球王国の士族・儀間真常(ぎま しんじょう)が中国・福州へ使者を送り、製糖技術を学ばせて琉球に持ち帰らせたことで、本格的な黒糖の製造が始まった。儀間真常は木綿栽培の導入でも知られる人物で、琉球の産業振興に大きく貢献した。

1609年の薩摩藩による琉球侵攻の結果、奄美群島は薩摩藩の直轄地となった。1690年に薩摩藩が琉球から製糖業を奄美に導入すると、黒糖は藩の重要な財源として位置づけられるようになる。1747年には年貢を米から黒糖に切り替える政策が施行され、奄美の島民はサトウキビ栽培を強制された。食料用の畑をサトウキビ畑に転換させられたため日常の食糧にも事欠く状況に追い込まれ、この苛酷な状態は「黒糖地獄」と呼ばれた。奄美の人々にとって黒糖は甘い恵みであると同時に、支配と収奪の象徴でもあったのだ。

明治時代に入ると、薩摩藩の支配から解放された奄美群島では黒糖生産が自由化された。沖縄でも廃藩置県後にサトウキビ栽培が拡大し、黒糖は沖縄経済を支える基幹作物となっていった。

戦後、沖縄がアメリカ統治下に置かれた時期も黒糖の生産は続き、1972年の本土復帰後は「沖縄黒糖」としてブランド化が進んだ。2006年に「沖縄黒糖」が地域団体商標に登録されたことは、その集大成ともいえる。

現在では、沖縄県の8島と鹿児島県の離島が国内の黒糖生産を担っている。離島経済を支える重要な産品ではあるものの、輸入品や加工黒糖との価格競争、サトウキビ農家の高齢化といった課題も抱えている。一方で、健康志向の高まりや天然素材ブームを背景に、純黒糖への関心は近年再び高まりつつある。お菓子づくりの原材料としても、自然な甘みとミネラルの豊かさを兼ね備えた黒糖は、ほかの砂糖では代替しがたい個性を持った存在といえるだろう。

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購入・ご利用の際は必ず最新のパッケージ表示または公式情報をご確認ください。特に食物アレルギーをお持ちの方は原材料を十分にご確認の上お求めください。
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