材料の名前
日本語では「オリゴ糖」、漢字表記で「少糖」と書く場合もある。英語では “Oligosaccharide”(オリゴサッカライド)と綴る。語源はギリシャ語の「oligos(少ない)」で、単糖が少数つながった糖質であることに由来する。フランス語では “oligosaccharide”、ドイツ語では “Oligosaccharid” と表記され、いずれも学術名がそのまま一般名として使われている。
日本の製菓・製パン業界では「オリゴ糖」と片仮名で呼ぶのが通例で、種類を区別するときは「フラクトオリゴ糖」「ガラクトオリゴ糖」「イソマルトオリゴ糖」「乳果オリゴ糖」「大豆オリゴ糖」「ラフィノース(ビートオリゴ糖)」など、原料や構造の名前を頭に付けて呼び分ける。
特徴
オリゴ糖は、炭水化物のなかで最小単位である「単糖」が2個から10個ほど結合した糖質の総称である。砂糖(ショ糖)も広い意味ではオリゴ糖に分類されるが、食品業界で「オリゴ糖」と呼ぶ場合は、ショ糖や乳糖以外の機能性をもつ少糖類を指すことが多い。
お菓子づくりの素材として見たとき、オリゴ糖には次のような特徴がある。
まず甘味度について。オリゴ糖の甘さは砂糖よりも控えめで、種類によって幅がある。明治や森永乳業が公表しているデータによると、フラクトオリゴ糖は砂糖の25~35%程度、ガラクトオリゴ糖も25~35%程度、イソマルトオリゴ糖は40~50%程度、大豆オリゴ糖は約70%の甘さとなる。甘みが穏やかなぶん、素材の風味を活かした菓子に向いている。
次にカロリーについて。難消化性のオリゴ糖(フラクトオリゴ糖やガラクトオリゴ糖など)は消化酵素で分解されにくく、小腸で吸収されずに大腸まで到達する。そのためエネルギー換算値は1gあたり約2kcalとされ、砂糖の1gあたり約4kcalに比べるとおよそ半分の熱量にとどまる。
さらに、整腸作用が広く知られている点もオリゴ糖の大きな特徴だ。大腸に届いたオリゴ糖はビフィズス菌をはじめとする善玉菌のエサとなり、腸内環境の改善をうながす。この働きから「プレバイオティクス」と呼ばれる食品素材に分類され、特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品の関与成分としても認められている。
加えて、砂糖と比べて虫歯の原因菌に利用されにくいという報告があり、子ども向けの菓子やキャンディに配合されるケースも増えている。
用途
お菓子づくりにおけるオリゴ糖の用途は、大きく分けて三つある。
一つ目は、砂糖の代替甘味料としての使い方だ。クッキーやマフィン、パウンドケーキなどの焼き菓子で砂糖の一部をオリゴ糖に置き換えると、甘さがやわらかくなり、素材そのものの味わいを引き出しやすくなる。フラクトオリゴ糖は砂糖と同程度の耐熱性をもっているため、焼き菓子に使っても風味が極端に変わらない。一方で甘味度が低いため、砂糖と同じ甘さを出したい場合は配合量の調整が必要となる。
二つ目は、ヘルシー志向の菓子開発での活用である。近年はカロリーや糖質を気にする消費者が増え、「低カロリー」「腸活」をうたったスイーツの需要が伸びている。チョコレート、グミ、ゼリー、アイスクリームなどで砂糖の一部をオリゴ糖に替えることで、カロリーを抑えつつ整腸機能をプラスできる。実際に明治は2024年、砂糖の代わりにフラクトオリゴ糖を用いた機能性チョコレートを発売し、注目を集めた。
三つ目は、保湿性やテクスチャーの改良を目的とした使い方だ。オリゴ糖シロップには砂糖シロップと同様の保水力があるため、焼き菓子のしっとり感を保つ目的で配合されることがある。また、飴やキャンディの結晶化を抑えたり、アイスクリームの食感をなめらかに仕上げたりする場面でも役立つ。
このほか、ヨーグルトや飲料への添加、和菓子のあん練りなど、お菓子に限らず幅広い食品加工で利用されている。
主な原産国・生産国
オリゴ糖の製造は、日本が世界をリードしてきた分野である。1983年に明治製菓(現・明治)がフラクトオリゴ糖を世界で初めて商品化して以降、日本国内では酵素技術を応用したさまざまなオリゴ糖の工業生産が発展した。現在も明治フードマテリア、日本甜菜製糖、パールエース、日本オリゴなど複数のメーカーが国内に生産拠点を構えている。
北海道産のてんさい(ビート、砂糖大根)から抽出されるラフィノース(ビートオリゴ糖)は、国産オリゴ糖の代表格だ。日本甜菜製糖をはじめ、北海道に工場をもつメーカーがてんさいを原料にしたオリゴ糖を製造している。
海外では、ヨーロッパのベルギーに本社を置くBeneo-Orafti(ベネオ・オラフティ)がチコリの根を原料としたイヌリンやフラクトオリゴ糖の大手メーカーとして知られる。オランダのFrieslandCampina(フリースランドカンピーナ)はガラクトオリゴ糖の供給で世界的なシェアを持つ。このほか、中国やインドでもでんぷん由来のイソマルトオリゴ糖の生産が拡大しており、アジア太平洋地域の市場成長が著しい。
まとめると、原料の産地としては日本(てんさい、砂糖)、ベルギー・オランダ(チコリ、乳糖)、中国(でんぷん)が代表的で、研究開発と高付加価値品の製造では日本とヨーロッパが中心的な役割を果たしている。
選び方とポイント
お菓子づくりにオリゴ糖を取り入れる際、いくつかの視点で選ぶとよい。
まず確認したいのが「種類」である。フラクトオリゴ糖はクセのないまろやかな甘みで製菓との相性がよく、砂糖に近い風味を保ちやすい。ガラクトオリゴ糖もクセが少なく、乳製品を使うスイーツに合う。大豆オリゴ糖は甘味度が高めなので、少量で甘みをつけたいときに使い勝手がよい。イソマルトオリゴ糖は耐熱性に優れるため、高温で焼く菓子やべっこう飴のような加工にも向く。
次に「形状」を選ぶ。市販のオリゴ糖にはシロップタイプと粉末タイプがある。シロップタイプは液体なので飲み物やゼリーなどに溶けやすく、手軽に使えるのが長所だ。ただしオリゴ糖の含有率は30~50%程度にとどまる製品が多く、残りはショ糖やブドウ糖などで構成されている場合がある。一方、粉末タイプはオリゴ糖の純度が高い傾向にあり、95%以上のものも珍しくない。焼き菓子に砂糖の代わりとして混ぜ込みたいなら、計量しやすい粉末タイプが扱いやすい。
「純度」も見逃せないポイントだ。商品パッケージの原材料表示を見て、オリゴ糖がどの程度含まれているかを確認するとよい。たとえば「フラクトオリゴ糖シロップ」と書かれていても、フラクトオリゴ糖の含有率が40%で残りが砂糖や水飴という製品もある。整腸作用や低カロリーのメリットを重視するなら、オリゴ糖の含有率が高い製品を選んだほうが目的に合う。
最後に、特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品の表示があるかどうかも判断材料になる。こうした表示のある製品は、有効性や安全性に関する科学的根拠が審査されたうえで許可・届出されたものなので、品質面の安心感がある。
メジャーな製品とメーカー名
日本国内で広く流通しているオリゴ糖製品を紹介する。
パールエースの「オリゴのおかげ」は、乳果オリゴ糖(乳糖果糖オリゴ糖)を関与成分とする特定保健用食品で、スーパーやドラッグストアで手に入りやすい定番商品だ。シロップタイプと顆粒タイプがあり、お菓子づくりにも料理にも使える。甘味度は砂糖の約55%で、上品な甘さが特徴とされる。
加藤美蜂園本舗の「北海道てんさいオリゴ」は、北海道産のてんさいから抽出したラフィノースやケストースなどのオリゴ糖を含む液状甘味料である。てんさい由来のやさしい甘みがあり、ヨーグルトや焼き菓子との相性がよいとして人気が高い。
日本オリゴの「フラクトオリゴ糖」は、特定保健用食品として長年販売されているシロップ製品だ。てんさい糖を主原料とし、国内工場で製造される。腸内のビフィズス菌を増やして整腸に役立つ旨の表示が許可されている。
味の素の「パルスイート おなかすこやかオリゴ」は、フラクトオリゴ糖を配合した機能性表示食品。砂糖と比べてカロリー45%カットをうたい、ボトルから手軽に使えるシロップ形状が特徴である。
明治フードマテリアの「メイオリゴ」は、業務用のフラクトオリゴ糖素材として菓子メーカーや飲料メーカーに広く供給されている。一般消費者向けというよりはBtoB向けの原料だが、明治が発売する「明治オリゴ糖ミルクチョコレート」など最終製品にもこの素材が使われている。
粉末タイプでは、ニチガ(NICHIGA)やヘルシーカンパニーが販売する北海道産ビートオリゴ糖(ラフィノース)の高純度粉末が、通販を中心に支持を集めている。
歴史・由来
オリゴ糖が注目されるきっかけとなったのは、1950年代の母乳研究だった。母乳を飲んでいる赤ちゃんの腸内には、粉ミルクで育つ赤ちゃんよりもビフィズス菌が多く存在することが観察され、研究者たちはその原因を探った。やがて、母乳に含まれる特殊なオリゴ糖(ヒトミルクオリゴ糖)がビフィズス菌の増殖を助けていることが判明する。この発見を契機に、オリゴ糖と腸内細菌の関係を調べる研究が世界的に進んだ。
日本では、古くから味噌や醤油、日本酒など発酵食品の製造が盛んだったこともあり、微生物や酵素を扱う技術の蓄積があった。その土壌のうえに、オリゴ糖の工業生産技術が花開くことになる。
1979年、明治製菓(現・明治)が「虫歯にならない新しい甘味料」の開発を目標に、フラクトオリゴ糖の研究をスタートさせた。ショ糖に酵素を作用させてフラクトオリゴ糖を生成する技術を確立し、1983年にはフラクトオリゴ糖を使った商品を世界で初めて発売。翌1984年からは食品原料「メイオリゴ」として業務用のバルク供給を開始した。これが機能性オリゴ糖の商業化における世界初の事例とされている。
1988年には米国で医療用・食用素材としての販売が始まり、1993年にはフラクトオリゴ糖が日本初の特定保健用食品(トクホ)として「お腹の調子を整える」旨の表示を許可された。2000年にはオリゴ糖として初めて米国FDA のGRAS(一般に安全と認められた食品)認証を取得し、さらに「ミネラルの吸収促進」機能のトクホ表示も認められ、オリゴ糖初のダブルトクホ素材となった。
こうした動きと並行して、1990年代から2000年代にかけて国内ではさまざまな種類のオリゴ糖が次々と商品化された。乳果オリゴ糖を用いた「オリゴのおかげ」(パールエース)、ガラクトオリゴ糖を活用した乳製品(ヤクルト、森永乳業)、てんさい由来のラフィノース(日本甜菜製糖)など、多彩なオリゴ糖製品が市場に登場している。
海外でも、ベルギーのBeneo-Oraftiがチコリ由来のフラクトオリゴ糖やイヌリンを展開し、オランダのFrieslandCampinaがガラクトオリゴ糖「Vivinal GOS」を供給するなど、欧州勢が存在感を高めた。近年は中国やインドでもでんぷん原料のイソマルトオリゴ糖の生産が伸びており、世界のオリゴ糖市場は拡大を続けている。
お菓子の世界に目を向ければ、かつてオリゴ糖は「健康食品」の棚に並ぶイメージが強かった。しかし近年は製菓メーカーがチョコレートやビスケットの原材料として積極的に採用し、コンビニやスーパーの菓子売り場でもオリゴ糖配合をうたう商品が増えてきた。砂糖に代わる甘味素材としてだけでなく、腸活や低カロリーといった付加価値をスイーツにもたらす存在として、オリゴ糖の役割は今後さらに広がっていくだろう。
