三温糖(さんおんとう)
材料の名前
日本語では「三温糖(さんおんとう)」と呼ばれる。英語に直訳できる正式名称は存在しないが、和英辞典では「soft brown sugar」や「yellow soft sugar」と訳されることが多い。ただし、英語圏で一般に「brown sugar」として流通している砂糖とは製法や分類が異なるため、完全な同義語ではない点に注意が必要だ。海外のレシピを参考にする場合、「brown sugar」を三温糖で代用すると風味や仕上がりに差が出ることがある。中国語では「三温糖」とそのまま表記されるケースが見られるものの、日本以外の国ではほとんど製造されていない、日本特有の砂糖である。
特徴
三温糖は、上白糖やグラニュー糖と同じ精製糖の一種に分類される。見た目は黄褐色をしており、一見すると黒糖やきび砂糖に近い印象を受けるが、成り立ちはまったく異なる。黒糖やきび砂糖がサトウキビの搾り汁を糖蜜ごと煮詰めた「含蜜糖」であるのに対し、三温糖は遠心分離で結晶と蜜を分ける「分蜜糖」の工程を経て作られる。この違いは意外と知られておらず、「茶色い砂糖=ミネラル豊富で体にいい」と思い込む方も少なくない。
三温糖の褐色は、製造工程で糖液を繰り返し加熱する際に起こるカラメル化によるものだ。加熱のたびに糖が変化し、香ばしさやコクのもとになるカラメル成分が生まれる。上白糖に比べると甘みが強く感じられ、独特の風味がある。結晶の大きさは0.1~0.2mm程度と細かく、しっとりとした質感を持つ。
栄養面では、上白糖やグラニュー糖と比較してカリウム・ナトリウム・カルシウムなどのミネラルがわずかに多いとされる。しかし、食品成分表によると100gあたりのエネルギーは約390kcal、炭水化物は約99gであり、上白糖(100gあたり約391kcal)とほぼ変わらない。農畜産業振興機構も「白砂糖と比べてどちらが健康に良い・悪いということはない」と明言しており、「三温糖のほうが体にやさしい」という認識は科学的根拠に乏しい。砂糖の種類による健康への影響差は、日常の使用量を考えればごく小さなものと捉えるのが妥当だろう。
用途
三温糖は、コクのある甘みと香ばしい風味を活かせる料理やお菓子に向いている。
家庭料理で使われる場面としてまず挙げられるのが、煮物や佃煮だ。肉じゃが、かぼちゃの煮物、筑前煮などに三温糖を加えると、上白糖では出にくい深みのある甘さが加わり、料理の味に奥行きが出る。照り焼きや味噌だれに使うと照りが美しく仕上がり、見た目の食欲も増す。
お菓子作りの分野では、素朴な風合いを出したいときに重宝する。カステラやどら焼きなどの和菓子、黒みつ風味の蒸しパン、きな粉を使ったクッキーなどと相性がよい。洋菓子でも、キャラメルやカラメルソースの下地として用いると、ほろ苦く香ばしい味わいが引き立つ。一方で、スポンジケーキやメレンゲのように仕上がりの白さやあっさりした甘みが求められるお菓子には不向きとされる。色味や風味が生地に移るため、繊細な洋菓子にはグラニュー糖のほうが適している。
食品工場でも三温糖は広く活用されている。市販の佃煮や煮豆、甘露煮、味噌加工品、タレ類などの製造において、コクと色合いを付与する目的で採用されることが多い。
主な原産国と原材料の供給元
三温糖の主原料はサトウキビ(甘蔗)またはテンサイ(甜菜、ビート)から作られる原料糖である。日本国内で消費される砂糖のうち、国産原料から生産されるのは全体の約4割で、残りの約6割は海外から原料糖として輸入されている。
原料糖の主な輸入先はオーストラリアとタイの2か国だ。農畜産業振興機構の統計によれば、2024年時点の輸入先の割合はオーストラリアが約90%、タイが約10%で、この2か国でほぼ全量を占めている。近年は日豪EPA(経済連携協定)やCPTPP(TPP11)の発効を背景に、タイ産からオーストラリア産へのシフトが進んだ。
国産原料については、サトウキビは沖縄県や鹿児島県(奄美群島・種子島)で栽培されており、テンサイは北海道が主要産地となっている。これらの国産原料糖は、本州や九州にある精製糖工場に運ばれ、上白糖やグラニュー糖とともに三温糖へと加工される。
サトウキビの原産地はニューギニア島周辺とされ、紀元前8000年頃から栽培されていたと考えられている。その後インドへ伝わり、砂糖として結晶化する技術が確立された。世界的な砂糖の主要生産国としては、ブラジル、インド、中国、タイなどが知られている。
選び方とポイント
三温糖を選ぶ際に最初に確認したいのが、カラメル色素の有無だ。三温糖の中には、色味を均一に整える目的でカラメル色素を添加した製品がある。DM三井製糖のFAQでも「カラメル色素を使用しているものと不使用のものがあります」と案内されている。カラメル色素自体は砂糖を加熱して作られるもので、安全性に問題があるわけではないが、三温糖本来の風味にこだわりたい場合は、パッケージ裏面の原材料表示を確認し、「原料糖」のみ記載されているものを選ぶとよい。
次に注目したいのが、産地と原材料の表示だ。2022年4月より砂糖にも原料原産地表示が義務化されており、製品パッケージには原料糖の産地が記載されている。国産原料にこだわる方は「国内製造」「鹿児島県産」などの表記を手がかりにするとよいだろう。一般的なスーパーで並んでいる三温糖の多くはオーストラリア産やタイ産の原料糖から作られている。
また、三温糖はしっとりとした質感が特徴だが、開封後は湿気を吸いやすく、固まりやすい。保存容器は密閉性の高いものを選び、高温多湿を避けて常温保存するのが基本だ。逆に冷蔵庫に入れると乾燥してカチカチに固まることがあるため、冷蔵保存は避けたほうがよい。
内容量は1kgの大袋が主流で、使用頻度が少ない家庭では500gや400gのチャック付き小袋タイプが使い勝手に優れている。
メジャーな製品とメーカー名
三温糖は国内の大手製糖メーカー各社から販売されている。ここでは、スーパーやネット通販で入手しやすい代表的な製品を紹介する。
まず、DM三井製糖の「スプーン印 三温糖」は、もっとも知名度が高い製品のひとつだろう。スプーン印ブランドは発売から60年以上のロングセラーで、全国のスーパーに幅広く流通している。1kgの大袋のほか、400gのチャック付きタイプも展開しており、使い勝手がよい。カラメル色素を使用した製品と不使用の製品の両方がラインナップされている。
パールエース(株式会社パールエース)の「パールエース印 三温糖」も、スーパーの砂糖売り場で見かけることが多い定番製品だ。1kgと500gのサイズ展開があり、価格も手ごろで日常使いに適している。
ウェルネオシュガー(旧・日新製糖と伊藤忠製糖が2024年10月に合併して誕生)は「カップ印 三温糖」を販売している。カップ印は日新製糖時代から続くブランドで、家庭用・業務用ともに広く使われてきた。同社のグループ内には「クルルマーク」ブランドの三温糖もあり、こちらは旧・伊藤忠製糖の流れを汲む製品だ。
フジ日本精糖の「さくらんぼ印 三温糖」は、業務用を中心に展開されており、食品メーカーや飲食店への供給実績が多い。家庭用としても通販で入手できる。
このほか、自然食品志向の製品として、ムソーの「三温糖 1kg」はカラメル色素不使用で、自然食品店やオーガニック系の通販サイトで取り扱いがある。山口製糖の「料理党」も、料理にこだわる層から支持を集めている。大東製糖はサトウキビ由来の含蜜糖を得意とするメーカーで、同社の「料理上手 さとうきび三温糖」は独自の風味が特徴とされる。
日本甜菜製糖(ニッテン)は北海道産テンサイを原料とする砂糖メーカーとして知られ、三温糖の製造・販売も手がけている。テンサイ由来の三温糖を求めるなら選択肢のひとつになるだろう。
歴史・由来
三温糖の名前の由来は、明治初期の砂糖事情にさかのぼる。当時、日本は台湾から精製糖を輸入していた。台湾産の精製糖には「五温車糖」「四温車糖」「三温車糖」といった等級があり、これらは総称して「温糖」と呼ばれていた。「温」という字は、糖液を煮詰めて結晶化させる「煎糖(せんとう)」という工程を指しており、煎糖を5回繰り返したものが五温、4回のものが四温、3回のものが三温と呼ばれた。日本甜菜製糖のコラムによれば、五温車糖がザラメ糖、四温車糖が上白糖、三温車糖が着色した砂糖を意味していたという。やがて、着色した砂糖に対して「三温」という呼び名だけが残り、現在の「三温糖」という名称が定着した。
砂糖そのものの日本への伝来はさらに古く、奈良時代に遣唐使が中国から持ち帰ったとする説が有力だ。鑑真和上が伝えたという言い伝えもある。当初、砂糖は薬として扱われる希少品で、庶民が甘味料として口にできるようになったのは江戸時代以降のことだ。8代将軍・徳川吉宗が琉球からサトウキビの苗を取り寄せて国内栽培を奨励したことが、日本の製糖業発展のきっかけとなった。
明治時代に入ると、西洋の近代的な製糖技術が導入され、精製糖の国内生産が本格化する。グラニュー糖や上白糖の製造過程で残った糖液を活用して三温糖を作る工程は、この時期に確立されたと考えられている。上白糖が日本で大正11年(1922年)頃から本格的に普及した背景もあり、三温糖は上白糖の製造と密接に結びついて発展してきた。
戦後の高度経済成長期には、家庭で煮物や佃煮を作る機会が多く、コクのある甘みが求められる場面で三温糖の需要が高まった。現在でも、日本国内ではグラニュー糖、上白糖に次いで三番目に多く生産されている精製糖であり、家庭の台所に欠かせない存在であり続けている。
近年は、健康志向の高まりから「茶色い砂糖は白い砂糖より体にいい」というイメージが広まった時期もあった。しかし前述の通り、三温糖の褐色はカラメル化によるもので、栄養面の差はごくわずかだ。2010年代以降、農畜産業振興機構や食品の専門家が繰り返しこの誤解を訂正しており、「砂糖は風味や用途で選ぶもの」という認識が徐々に浸透しつつある。
