材料の名前(日本語・外国語)
「水飴」は日本語で「みずあめ」と読み、漢字では「水飴」と表記する。かつては「水無飴(みずなしあめ)」や「湿飴(しめりあめ)」と呼ばれた時代もあった。流動性のない固形の飴を「固飴(かたあめ)」と呼ぶのに対し、とろりとした液状の飴を水飴と呼んで区別してきた歴史がある。
英語ではstarch syrup(スターチシロップ)と訳されることが多い。麦芽で糖化した伝統的な水飴に限ればmaltose syrup(マルトースシロップ)やmalt syrup(モルトシロップ)とも呼ばれる。フランス語ではsirop de glucose(シロ・ド・グリュコーズ)、ドイツ語ではGlukosesirup(グルコーゼズィルップ)またはStärkesirup(シュテルケズィルップ)がほぼ同義に使われる。韓国語では「물엿(ムルヨッ)」、中国語では「麦芽糖漿(マイヤータンジャン)」などと表記される。なお、英語圏で一般的なcorn syrup(コーンシロップ)はトウモロコシのデンプンを原料とするもので、水飴の一種と捉えることもできるが、日本でいう伝統的な水飴とはニュアンスが異なる。
特徴
水飴は、デンプンを酸や酵素の力で途中まで加水分解して得られる粘液状の甘味料である。「途中まで」というのがポイントで、デンプンを完全に分解するとブドウ糖(グルコース)だけになるが、水飴の場合は分解を途中で止める。そのため、ブドウ糖のほかに麦芽糖(マルトース)やデキストリン(デンプンが部分的に分解された中間物質)が混ざった状態で存在している。
甘味の強さは砂糖(ショ糖)を100とした場合、水飴はおよそ10~65程度とされ、種類や糖化度によって大きく幅がある。砂糖のようにしっかりとした甘さではなく、控えめでまろやかな甘さが水飴の持ち味だ。口に含んだときに感じるやさしい後味は、和菓子に品のある甘みを与える要因のひとつでもある。
外見上の特徴としては、無色透明でとろみのある液体であることが挙げられる。ただし、これは精製デンプンを原料とする工業製品の場合の話で、伝統製法で作られた麦芽水飴は、原料の米や麦芽に含まれるミネラルやアミノ酸の影響でいわゆる「飴色」をしており、ほのかな穀物の香りがある。
水飴にはいくつかの種類がある。製法の違いによって大きく三つに分けられる。一つ目は「麦芽水飴」で、もち米や米のデンプンに麦芽の酵素を作用させてつくる昔ながらの製法だ。二つ目は「酸糖化水飴」で、デンプンに酸(かつてはシュウ酸、現在は塩酸が一般的)を加えて加水分解する方法で製造される。三つ目は「酵素糖化水飴」で、人工的に精製した酵素をデンプンに添加して分解する方法だ。酸糖化水飴と酵素糖化水飴は、いずれも精製デンプンを使うため無色透明に仕上がり、風味のクセが少ない。
もう一つ注意しておきたいのが「還元水飴」の存在だ。名前に「水飴」とついているが、水飴を水素添加して糖アルコールに変換したものであり、厳密には水飴そのものではない。カロリーが低くなる特性を持つ別の甘味料として扱われる。
用途
お菓子作りにおいて、水飴は実に多彩な役割を担っている。
まず代表的なのが「砂糖の結晶化を防ぐ」という機能だ。飴細工やキャラメル、ヌガーなどの砂糖を煮詰めて作るお菓子には、砂糖がざらざらと再結晶してしまう問題がつきまとう。水飴を加えると、その中に含まれるデキストリンや麦芽糖がショ糖の結晶化を妨げ、なめらかな仕上がりを長く保てるようになる。飴細工の職人が水飴を欠かせないと語る理由は、まさにこの性質にある。
つや出し効果も見逃せない。羊羹(ようかん)や練り切りといった和菓子の表面に水飴を薄く塗ると、しっとりとした光沢が生まれる。料理の世界では照り焼きや佃煮に水飴が使われるのも同じ理由だ。
保湿性の面でも水飴は活躍する。焼き菓子やカステラに水飴を配合すると、生地がしっとりとした状態を保ちやすくなり、日持ちが良くなる。パン生地に少量加えるケースもあり、焼き上がりのふんわりとした食感を長もちさせる効果が期待される。
もちろん、甘味料としての役割も健在だ。あんこを炊くときに砂糖と併せて水飴を加えることで、上品な甘さと適度な粘りが生まれ、口当たりが一段とよくなる。大学芋の蜜にも水飴が使われることが多く、とろりとした蜜の絡み具合は水飴ならではのものだ。
さらに、水飴は漢方の世界でも活躍してきた。麦芽水飴を乾燥させて粉末にしたものは「膠飴(こうい)」と呼ばれる生薬で、小建中湯や大建中湯といった漢方方剤に配合されている。滋養強壮や健胃に役立つとされ、お菓子の材料としてだけでなく、古来から薬としても重宝されてきた存在だ。
主な原産国・産地
水飴の原料は「デンプン」であり、どのデンプンを使うかによって原産国・産地の話は変わってくる。
日本国内で流通している水飴の多くは、輸入トウモロコシを原料とするコーンスターチから製造されている。農畜産業振興機構の資料によると、日本国内のデンプン供給量の約9割が輸入トウモロコシ由来のコーンスターチであり、そのトウモロコシの主な輸入先はアメリカ、ブラジル、アルゼンチンといった大生産国だ。
一方、伝統的な麦芽水飴や米飴は国産米を原料とするものが多い。佐賀県の相川水飴製造所、石川県金沢市の「あめの俵屋」、広島県の福永製飴所などは、国産のもち米や米を用いた昔ながらの製法を守り続けている。鹿児島県や北海道産のサツマイモデンプン(甘藷でんぷん)やバレイショデンプン(馬鈴薯でんぷん)を原料にした水飴もある。
世界的に見ると、デンプンシロップ(starch syrup)の生産量が特に多いのはアメリカ、中国、そして日本だ。アメリカではコーンシロップとして大量に生産されており、飲料や加工食品に広く使われている。中国でもトウモロコシやサツマイモを原料としたデンプンシロップの生産が盛んである。
選び方とポイント
家庭でお菓子づくりに水飴を使う場合、まず注目したいのが「種類」だ。スーパーの製菓コーナーで手に取れるものの多くは酸糖化水飴や酵素糖化水飴で、無色透明・クセのない味わいが特徴だ。飴細工やあめがけなど、色や風味を邪魔したくない場合にはこのタイプが向いている。
反対に、やさしい穀物の香りやコクのある甘さを楽しみたいなら、麦芽水飴や米飴を選ぶとよい。少し飴色がかった見た目で、砂糖にはない独特の奥行きのある甘さが持ち味だ。和菓子のほか、料理の隠し味にもよく合う。
粘度(かたさ)にも注意を払いたい。業務用では固形分85%前後のかための水飴から、固形分75%程度のやわらかめの水飴まで幅がある。家庭向けに売られている製品は扱いやすい中程度の粘度であることが多いが、レシピに「水飴」とだけ書かれている場合は、一般的な粘度のものを選んでおけばまず問題ない。
保存についても触れておきたい。水飴は糖度が高いため腐敗しにくい性質をもっているが、開封後はフタをしっかり閉め、直射日光を避けて常温保存するのが基本だ。冬場は固くなりやすいので、使う前にぬるま湯で容器ごと温めるとスプーンで取り出しやすくなる。
チューブタイプの製品であれば、片手で絞り出せるため計量も手軽だ。使用頻度が低い場合は小容量のチューブ入り、頻繁に使うなら広口のボトルタイプを選ぶと無駄なく使い切れる。
メジャーな製品とメーカー名
家庭向け製品として広く知られているのが、明治屋が販売する「My水あめ」だ。高麦芽糖水飴を使用しており、マイルドな甘さで照り焼きからお菓子づくりまで幅広く使える。スーパーの調味料コーナーや製菓材料コーナーで比較的見つけやすい定番品である。
加藤産業が展開するブランド「カンピー」からも水あめが販売されている。チューブ入りやボトル入りがラインナップされ、手軽さが支持されている。
製菓材料の専門店では、富澤商店(TOMIZ)が取り扱う水飴や麦芽水飴、米飴がよく利用されている。製菓・製パンに適した品質で、種類も豊富にそろうため、こだわりのある作り手からの評価が高い。
業務用分野に目を向けると、昭和産業、日本食品化工、日本コーンスターチ、加藤化学、向後スターチといったメーカーが水飴を大量に製造している。これらの企業はトウモロコシを原料にコーンスターチを製造し、そこからさらに糖化して水飴やブドウ糖を生産する一貫体制を持っている。
伝統的な麦芽水飴や米飴の分野では、石川県金沢市の「あめの俵屋」が有名だ。天保元年(1830年)創業と伝わる老舗で、米と大麦だけを原料にした「じろあめ」は看板商品として知られている。佐賀県の相川水飴製造所や、福山市の内田糖化、三重県の三重化糧なども、伝統製法や地域の原料を活かした水飴を製造している。日成産業の「こづち印米飴」も、伝統製法による本格的な米飴として業務用で流通している。
歴史・由来
水飴は、日本で最も古い歴史をもつ甘味料のひとつだ。
その起源は、奈良時代初期に編纂された「日本書紀」にまでさかのぼる。神武天皇が大和の国を平定する場面で、天香具山(あまのかぐやま)の土で祭器をつくり「水を使わずに飴をつくれたならば、武力によらず天下を平定できるだろう」と誓いを立てたという記述がある。ここに登場する「水無飴(みずなしあめ)」が、日本における飴の最古の記録とされる。当時の製法は明確にはわかっていないが、米を原料とした水飴状のものだったと推測されている。
奈良時代から平安時代にかけて、飴は朝廷や大きな寺社でのみ使われる大変貴重な甘味料だった。一般庶民の口に入るものではなく、貴族や支配者層が珍重する高級品だったという。「延喜式」(927年に完成した律令の施行細則)にも、米や麦芽を用いた糖(飴)の製造に関する記述が残っている。
飴が庶民に広まりはじめたのは、江戸時代初期のことだ。この頃から固飴の販売が活発になり、街頭で飴売りの姿が見られるようになった。固飴に対して流動性のある飴は「湿飴」と呼ばれるようになり、これが現在の水飴にあたる。当時の水飴は、もち米をやわらかく炊いて冷まし、そこに発芽した大麦と水を加えて一晩保温し、麦芽の酵素でデンプンを糖化させるという方法で作られていた。
明治時代の終わりから大正時代にかけて、日本の水飴づくりは大きな転換期を迎える。アメリカから酸糖化法の製造技術が伝わり、酸の力でデンプンを分解する酸糖化水飴が工業的に生産されるようになったのだ。さらに昭和に入ると、戦中・戦後の砂糖不足を背景に、安価に大量生産できるデンプン由来の水飴の需要が急増した。原料は米や芋から精製コーンスターチへと変わり、糖化方法も麦芽糖化から酸糖化、そして酵素糖化へと変遷していった。精製技術の進歩により、無色透明で不純物のない工業用水飴が主流となったのは、この昭和期のことである。
現在、日本国内で消費される水飴の大半は工業的に製造された酸糖化水飴や酵素糖化水飴だが、近年は健康志向や自然食品への関心の高まりを受けて、昔ながらの製法で作られた麦芽水飴や米飴が再評価される流れもある。ビーガンやマクロビオティックの食生活を実践する人々の間では、精製砂糖の代わりに米飴を使うケースも増えてきた。
世界に目を向ければ、デンプンを分解して甘い液体をつくるという技術は日本だけのものではない。ヨーロッパでは19世紀初頭にロシアの化学者キルヒホフがジャガイモのデンプンを硫酸で分解してブドウ糖を得ることに成功し、これがデンプン糖工業の礎となった。アメリカでは1840年代にジャガイモ原料のシロップ生産が始まり、1860年代以降はトウモロコシを原料としたコーンシロップが主流となった。
日本の水飴が千年以上の歴史を持つ甘味料であるのに対し、西洋のデンプンシロップは比較的近代的な産業として発展した経緯がある。その背景には、日本では米と麦芽という身近な食材から自然発生的に飴づくりが始まったのに対し、西洋では化学的な研究成果が工業化へと直結したという違いがある。いずれにしても、デンプンを分解して甘みを得るという知恵は、洋の東西を問わず人類が求め続けてきたものだといえるだろう。
