名前の由来と外国語表記

転化糖は、日本語では「てんかとう」と読み、製菓業界では「トリモリン」や「トレモリン」という商品名で呼ばれることも多い。英語では「invert sugar(インバートシュガー)」、フランス語では「sucre inverti(シュクル・アンヴェルティ)」と表記される。ドイツ語では「Invertzucker(インヴェルトツッカー)」と呼ぶ。

「転化」という名称は、光学用語に由来する。ショ糖の水溶液に偏光を通すと、光の回転方向は右向き(右旋光)になる。ところが、ショ糖を加水分解してブドウ糖と果糖の混合物にすると、果糖の左旋光のほうが強いため、溶液全体の光の回転方向が左向きに反転する。この「旋光面の反転(inversion)」に着目して、「転化糖」あるいは「invert sugar」と名付けられた。

転化糖とは何か ── 特徴を知る

転化糖の正体は、ショ糖(スクロース)を酸や酵素の力で加水分解して得られる、ブドウ糖(グルコース)と果糖(フルクトース)の等量混合物である。化学式で示すと次のようになる。

C₁₂H₂₂O₁₁(ショ糖)+ H₂O(水)→ C₆H₁₂O₆(ブドウ糖)+ C₆H₁₂O₆(果糖)

見た目は白いペースト状で、蜂蜜のようにとろりとした質感をもつ。味わいはすっきりとした甘さで、蜂蜜特有の風味やクセがないため、素材の風味を邪魔しにくいのが利点だ。

転化糖の主な特徴を以下に整理する。

甘味度はショ糖の約1.2~1.3倍とされるが、果糖は温度によって甘味度が変化する性質がある。40℃以下の低温ではショ糖よりはるかに甘く感じられ、高温になると甘味度は下がる。冷たいデザートに転化糖を使うと、少量でもしっかりとした甘さが得られるのは、この果糖の性質による。

吸湿性(保水性)に優れ、生地や菓子の水分を長時間保持する力がある。焼き菓子がパサつくのを抑え、日持ちのよいしっとり感を生むことができる。

ショ糖と違い「還元糖」であるため、アミノ酸やたんぱく質と反応してメイラード反応を起こしやすい。加熱時に美しい焼き色がつきやすく、カラメル化も進みやすい。パンやフィナンシェの表面にこんがりとした色艶が欲しいとき、転化糖を少量加えると効果的だ。

結晶化しにくい点も見逃せない。果糖の存在がショ糖の再結晶を妨げるため、シロップやガナッシュの口あたりをなめらかに保ち、ジャリジャリとした食感の発生を防ぐ。アイスクリームやソルベに加えると、氷の結晶が粗くなるのを抑え、なめらかな舌触りが持続する。凝固点を下げる作用もあるため、冷凍しても硬くなりすぎない仕上がりが叶う。

用途 ── どんなお菓子に使われるか

転化糖は、プロのパティシエやショコラティエにとって欠かせない副材料のひとつとなっている。使われる場面は幅広い。

まず、ガナッシュやトリュフなどのチョコレート菓子が代表例だ。ガナッシュに少量の転化糖を加えると、口どけがなめらかになり、保水効果で乾燥を防いで日持ちを向上させる。ボンボン・ショコラの中身が時間の経過とともにパサついたり、表面にシュガーブルーム(砂糖の白い結晶)が浮いたりするのを抑える働きが期待できる。

アイスクリームやソルベの製造にも多用される。転化糖を配合に取り入れることで、凝固点が降下し、冷凍庫から出してすぐでもスプーンが入る程度の柔らかさを保てる。氷の結晶が微細になるため、なめらかでクリーミーな食感が実現する。ジェラートの本場イタリアでも、ソルベの甘味料として転化糖はよく用いられている。

焼き菓子への添加も定番だ。マドレーヌやフィナンシェ、パウンドケーキなどのレシピで、砂糖の一部を転化糖に置き換えると、生地がしっとりと焼き上がり、翌日以降もパサつきにくくなる。加える量の目安は砂糖全体の10~30%程度とされ、入れすぎるとべたついたり焼き色が濃くなりすぎたりするため、分量の調整には注意が必要だ。

フォンダン(砂糖衣)にも転化糖は重要な役割を果たす。チョコレートで覆ったフォンダンの中身が、時間とともにクリーム状に変化するのは、酵素インベルターゼがショ糖を転化させた結果だ。英国の「キャドバリー・クリームエッグ」はこの原理を利用した代表的な商品で、固いフォンダンをチョコレートでコーティングした後、インベルターゼの作用でフォンダンが液状化し、独特のとろりとしたフィリングが完成する。

パン生地に微量を加えるケースもある。転化糖の還元糖としての性質が、メイラード反応を促進して焼き色をよくするほか、パン内部のしっとり感を長持ちさせる効果がある。ヴィエノワズリー(クロワッサンやブリオッシュなどのフランスの菓子パン類)の製造で活用されることがある。

身近なところでは、日本の「上白糖」にも転化糖が関わっている。上白糖は、精製したショ糖の結晶に「ビスコ」と呼ばれる転化糖液を少量振りかけて作られる。あのしっとりした質感は、まさに転化糖の保湿力によるものだ。上白糖が日本独自の砂糖である理由のひとつに、このビスコの添加工程がある。

さらに、ジャムも天然の転化糖を含む食品だ。果物に含まれる酸と加熱の組み合わせによって、煮込み中に自然とショ糖の一部が転化する。長期保存が可能でなめらかな食感のジャムが出来上がるのは、この自然な転化の恩恵でもある。蜂蜜もまた、ミツバチが花蜜のショ糖を体内のインベルターゼで分解した天然の転化糖といえる。

原料と主な産地

転化糖そのものは、ショ糖(砂糖)を原料として製造される加工品である。そのため、原産地は砂糖の原料であるサトウキビやテンサイ(甜菜、ビート)の産地に依存する。

サトウキビはインド原産のイネ科植物で、ブラジル、インド、中国、タイなどの熱帯・亜熱帯地域で広く栽培されている。テンサイはヨーロッパ原産のヒユ科植物で、フランス、ドイツ、ロシア、アメリカ北部などの冷涼な地域が主産地となる。日本では北海道がテンサイの産地であり、サトウキビは沖縄や鹿児島の南西諸島で栽培されている。

製菓用の転化糖製品は、フランス産やベルギー産が世界的に流通している。フランスのアルザス地方に拠点を置くエルスタン社(Cristalco/Cristal Unionグループ傘下)が製造する「トリモリン(Trimoline)」は、パティスリー業界で最も知名度の高い転化糖のブランドだ。同じくフランスのマルグリット(Marguerite)社が製造する「スタボリン(Staboline)」も業務用として広く使われている。

選び方とポイント

製菓材料店や業務用食材の通販サイトで入手でき、家庭向けの小容量パック(80g~500g)から業務用の大缶(7kg)まで、さまざまなサイズが販売されている。

選ぶ際に注意したいのは、まず固形分の含有率だ。トリモリンのような微結晶タイプの転化糖は固形分が約75~78%と高く、ペースト状でそのまま使いやすい。一方、液状の転化糖シロップは固形分がやや低めで、ドリンクやシロップ漬けなど液体ベースの用途に向く。レシピに「転化糖」と指定がある場合は、特に断りがなければペースト状の微結晶タイプを想定していることが多い。

蜂蜜や水あめで代用されることもあるが、それぞれ風味や組成が異なる。蜂蜜は花の種類による独特の香りがあるため、素材の風味を生かしたい場面では転化糖のほうが適している。水あめはデンプンを分解して作る糖で、主成分が麦芽糖(マルトース)であり、甘味度や保水性の面で転化糖とは異なる。代用する場合は仕上がりに差が出ることを理解したうえで使いたい。

保存は直射日光を避け、25℃以下の涼しい場所が望ましい。開封後は清潔なスプーンで取り分け、容器の蓋をしっかり閉めて空気に触れる面を最小限にする。糖度が高いため腐敗しにくいものの、水分が入ると劣化の原因になるので取り扱いには気を配りたい。

主な製品とメーカー

製菓業界で広く流通している転化糖製品をいくつか紹介する。

トリモリン(Trimoline)は、フランスのCristalco社(Cristal Unionグループ)傘下のエルスタン(Erstein)ブランドが展開する微結晶タイプの転化糖だ。1893年に創業したエルスタン社はアルザス地方を拠点とする砂糖メーカーで、トリモリンは世界中のパティスリーやショコラトリーで採用されている。日本ではレヴ社(French F&B)を通じて輸入・販売されており、製菓材料専門の通販サイトcotta(コッタ)や富澤商店(TOMIZ)でも取り扱いがある。容量は2kg缶、7kg缶、11kg缶などがラインナップされ、cotta独自の小分けパック(80g)も家庭向けに人気だ。

スタボリン(Staboline 815)は、フランスのマルグリット(Marguerite)社が製造する業務用転化糖である。100年以上の歴史をもつマルグリット社は、フランス菓子の技術を支えてきた老舗ブランドだ。日本では日仏商事を通じて輸入されており、富澤商店などで購入できる。トリモリンと同様にペースト状で、結晶化防止や保湿に優れた性能を発揮する。

このほか、富澤商店がプライベートブランドとして小分け販売する「転化糖(トレモリン)90g」も、家庭での製菓に手軽に使えるパッケージとして支持されている。

歴史と由来

転化糖の歴史は、砂糖の化学研究とともに歩んできた。

19世紀初頭、化学者たちはパン酵母(イースト)が砂糖を発酵させる際に、砂糖が別の形に変化することに気づいていた。1828年には、パン酵母を使ったショ糖水溶液の発酵実験の過程で、ショ糖が分解されて性質の異なる糖に変わる「転化」という現象が観察されている。

1860年、フランスの化学者マルセラン・ベルテロ(Marcellin Berthelot)が、酵母の細胞を破砕した抽出液からショ糖を加水分解する酵素(のちに「インベルターゼ」と命名される)を初めて単離した。この発見は、生きた細胞がなくても化学反応を触媒できる物質が存在するという証明であり、酵素学の発展に大きく貢献した。

産業面では、19世紀後半のイギリスで転化糖が大きな役割を果たした。1881年、スコットランド出身の実業家エイブラム・ライル(Abram Lyle)がロンドンのテムズ川沿いに砂糖精製工場を設立した。砂糖の精製過程で生じる副産物のシロップを活用して生まれた製品が「ライルズ・ゴールデンシロップ(Lyle’s Golden Syrup)」だ。このゴールデンシロップは約55%の転化糖と約45%のショ糖から成る混合シロップで、1885年から缶入りで販売が始まった。結晶化しにくく長期保存が可能なこのシロップは英国の食文化に深く根付き、ライル社は1921年にヘンリー・テイト創業の砂糖会社と合併して「テイト&ライル(Tate & Lyle)」となった。

フランスでは、エルスタン社が1893年にアルザス地方で砂糖製造を開始し、やがて製菓専用の高品質な転化糖「トリモリン」を開発・販売するようになった。ペースト状に微結晶化させたトリモリンは、液状シロップよりも計量しやすく保管もしやすいことから、パティシエたちに広く受け入れられていった。

20世紀に入ると、食品科学の発展に伴い、転化糖の機能性がより科学的に解明された。メイラード反応の促進、氷結晶の微細化、水分活性の制御といった多面的な効果が明らかになるにつれ、チョコレート、アイスクリーム、焼き菓子、パンなどの幅広い分野で転化糖の活用が進んだ。

日本では、上白糖の製造に転化糖液(ビスコ)を振りかける独自の製法が定着しており、日本人が好むしっとりとした砂糖の食感は、転化糖の保湿力がもたらしたものだ。製菓の現場でも、フランス菓子の技術が本格的に紹介されるようになった昭和後期から平成にかけて、トリモリンやスタボリンといった製菓用転化糖が輸入・普及し、プロのパティシエを中心に活用が広がった。近年は小分けパックの登場により、家庭の菓子づくりでも手が届きやすい材料になっている。

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