材料の名前
日本語では「米飴(こめあめ)」と呼ばれる。もち米を原料にしたものは「もち米飴」、水飴状のものは「米水飴」と区別されることもある。英語圏では「Rice Malt Syrup」あるいは「Brown Rice Syrup」の名で流通しており、オーストラリアやアメリカの自然食品店でも見かける機会が増えてきた。韓国には「ジョチョン(조청)」と呼ばれるほぼ同じ製法の伝統甘味料があり、コチュジャンの原料やトッポギの味つけなど幅広い料理に使われている。中国語では「麦芽糖漿」「米糖漿」などと表記される。
特徴
米飴は、米のデンプンを大麦麦芽の酵素(アミラーゼ)で糖化して作る穀物由来の甘味料である。原料となる米の種類や煮詰め具合によって、黄金色から琥珀色、さらに赤銅色まで色合いが変化する粘性の液体で、見た目はハチミツに似ている。
甘味度は砂糖(ショ糖)のおよそ3割程度とされ、口に含むとまろやかでコクのある穏やかな甘さが広がる。後味にべたつきが少なく、素材の風味を邪魔しにくい点が大きな長所だ。主成分は麦芽糖(マルトース)で、米に含まれるタンパク質が麦芽の酵素によって分解されるため、アミノ酸やミネラル類もバランスよく含まれている。砂糖と比べて血糖値の上昇が緩やかとされることから、マクロビオティックやヴィーガンの食事法を実践する人たちにも支持されてきた。
伝統的な米飴の原料は米と大麦麦芽と水だけで、添加物を一切使わない。この素朴さが、昨今の「本物志向」「健康志向」の流れにあっても再評価される理由だろう。なお、もち米を使った米飴はアミロペクチンの含有率が高いぶん、粘りが出やすく、より濃厚な味わいになる傾向がある。一方、うるち米を使ったものはすっきりとした甘さに仕上がる。
もう一つ知っておきたいのが「保湿性」だ。米飴に含まれるデキストリンや麦芽糖は保湿性と粘性に優れ、水分活性を安定させる。そのため、菓子生地の柔軟性を保ち、老化(硬くなること)を遅らせる働きがある。カステラやどら焼きがしっとりした食感を長く維持できるのは、米飴のこうした性質に負うところが大きい。
用途
米飴の活躍の場は驚くほど幅広い。お菓子づくりの現場では、甘味の付与だけでなく、テリ・ツヤ・色沢の向上、保湿効果、食感の改良といった多機能な役割を担っている。
カステラは米飴の代表的な用途の一つであり、高級カステラには欠かせない原材料として知られる。玉子の風味を引き立てつつ、しっとりした食感を生み出し、焼き色を美しく仕上げる効果がある。業務用の米飴を製造する日成産業や内田糖化は、カステラメーカー向けの供給を主要な事業の柱としている。
和菓子全般においても米飴は重宝されてきた。どら焼き、饅頭、羊羹、求肥、飴菓子など、甘みと風味の両面で活用される。飴菓子に配合すると、表面のベタつき(泣き)やシャリ(砂糖の再結晶化)を防ぐ効果もある。洋菓子ではスポンジケーキ、バームクーヘン、クッキーなどに加えられ、焼き色と香ばしさを高める。
菓子以外の分野では、佃煮・煮豆・タレなどの惣菜・調味料にも用いられる。照り焼きソースに少量加えると、自然な照りとコクが生まれ、肉や魚に美しくからむ仕上がりになる。離乳食の甘味づけとして使う家庭もあり、白砂糖に比べて穏やかな甘さが赤ちゃんにも馴染みやすいとされる。
近年では健康食品・自然食品・マクロビオティック食品の甘味料として、砂糖の代替品にもなっている。なお、砂糖を米飴に置き換える場合は、砂糖の1.5倍から1.8倍程度の量が目安とされる。米飴は液体のため、ハチミツやメープルシロップを使うレシピのほうが置き換えやすい。
主な原産国・産地
米飴は日本各地で製造されているが、とりわけ石川県は産地として名高い。金沢市の「あめの俵屋」、能登町の「横井商店」など、歴史ある飴屋が伝統製法を守り続けている。石川県以外では、広島県福山市の「内田糖化」、佐賀県鹿島市の「小笠原商店」、奈良県奈良市の「砂糖傳増尾商店」なども知られている。
海外に目を向けると、韓国のジョチョン(조청)は米と麦芽を原料とする伝統甘味料で、製法は日本の米飴とほぼ同じである。欧米では「Brown Rice Syrup」の名称でオーガニック食品売り場に並ぶことが増えており、アメリカやオーストラリアにも製造メーカーが存在する。ただし、これらは精製酵素を用いた工業的製法のものが多く、大麦麦芽で糖化させる伝統製法の米飴とは風味が異なる場合がある。
選び方とポイント
米飴を選ぶ際には、まず原材料の表示を確認したい。伝統製法で作られた米飴の原料は「米」と「麦芽」のみで、それ以外の添加物は含まれない。「酸味料」「酵素」「コーンスターチ」などが記載されている場合は、工業的に製造された水飴である可能性が高い。伝統製法の米飴にこだわるなら、原材料欄が「米、麦芽」とだけ書かれたものを選ぶのが基本となる。
次に確認したいのが、使われている米の種類だ。もち米を原料にした米飴は、粘りが強くコクのある甘さが特徴で、カステラや和菓子のように風味を重視する用途に向いている。うるち米を使った米飴はあっさりとした味わいで、料理の甘味づけや飲み物にも使いやすい。パッケージの表記で「もち米飴」「うるち米飴」と区別されていることが多いので、用途に応じて選び分けるとよい。
また、固さ(粘度)もメーカーによって異なる。トロトロと流れるハチミツ状のタイプは料理や飲み物に溶かしやすく、そのまま食べることもできる。一方、箸で持ち上げられるほどの固さがあるタイプは、菓子の成形や飴として楽しむのに適している。購入前に商品説明を読み、用途に合った固さのものを選ぶと失敗しにくい。
保存の面では、未開封であれば常温で1年から3年ほど日持ちする製品が一般的だが、開封後は冷蔵庫で保管し、清潔なスプーンで取り出すようにしたい。冷蔵すると固くなるので、使う前に湯煎で温めると扱いやすくなる。
メジャーな製品とメーカー名
横井商店(石川県鳳珠郡能登町)の「松波米飴」は、能登半島で約500年前の戦国時代から伝わる米飴を、現在唯一製造し続けているメーカーとして知られる。能登産のうるち米と石川県産の大麦だけを使い、昔ながらの製法で作られている。「じろ飴」と呼ばれる水飴状のほか、固飴タイプも販売されている。
あめの俵屋(石川県金沢市)は、天保元年(1830年)創業の金沢で最も古い飴屋である。初代の次右衛門が、天保の大飢饉で母乳が出なくなった母親たちのために、栄養価の高い米飴を作ったのが始まりとされる。看板商品の「じろあめ」は、良質な米と大麦のみを原料とし、約200年にわたって同じ製法を守り続けている。
砂糖傳増尾商店(奈良県奈良市)の「御門米飴」は、安政元年(1854年)創業の砂糖専門店が手がける米飴である。国産米を100%使用し、人工甘味料や防腐剤を加えず、伝統的な製法で作られている。東大寺の長老・故清水公照師が「美味い水飴がなくなった」と嘆いていると聞き、店主が届けたことが商品名の由来になったという逸話も残る。
内田糖化(広島県福山市)は、昭和23年創業のもち米飴製造元で、国内産もち米と大麦麦芽のみを使った業務用の水飴を製造している。大手カステラメーカーから街の菓子店まで幅広く納入しており、福山市内で唯一の水飴製造会社として、伝統の平釜煮詰め製法を守っている。
小笠原商店(佐賀県鹿島市)は、文政5年(1822年)創業の老舗で、もち米飴を約200年にわたって作り続けている。多良岳山系の良質な清水ともち米、自家製の麦芽のみを原料としたもち米飴は、マクロビオティック実践者の間でも評価が高い。
日成産業は、業務用の米飴「こづち印米飴」を製造・販売する食品原材料商社である。100%国産米と麦芽を使用した伝統製法の米飴を、カステラ・和洋菓子・佃煮などの業務用途に供給している。
歴史・由来
米飴は「日本最古の甘味料」と称されることがある。その根拠は、奈良時代初期に成立した「日本書紀」に遡る。神武天皇が大和の国を平定した際、大和高尾の地で「水無飴(みずなしあめ)」を作ったという記述があり、当時の製法は明らかになっていないものの、米を原料とする水飴状のものだったと推測されている。これが現在の米飴のルーツと考えられており、日本にショ糖(砂糖)が中国から伝来する奈良時代中期よりもはるか以前から、穀物由来の甘味料が存在していたことがわかる。
平安時代に入ると、文献上にも飴が登場するようになる。しかし当時の飴は大変貴重な品であり、朝廷や大きな寺社でしか用いられなかった。貴族や支配者層の甘味料として珍重され、一般の庶民が口にすることはほぼなかったとされる。
初期の糖化には、米を発芽させた「米もやし」が使われていた。やがて、より強い酵素を持つ大麦の芽(麦もやし=麦芽)を用いる方法が広まり、製造効率が大きく向上した。この麦芽糖化法は、現在の伝統製法にもそのまま受け継がれている。
飴が庶民の手に届くようになったのは、江戸時代初期のことである。このころから「堅飴(かたあめ)」と呼ばれる流動性のない固形の飴が売られるようになり、対して流動性のあるものは「湿飴(しめあめ)」と呼ばれた。飴売りが街を練り歩く光景は江戸の風物詩となり、庶民の暮らしに甘味が浸透していった。
明治時代以前の飴の製造には、もっぱら米が使われていた。粟やきびなどの穀類、芋類が使われることもあったが、コーンスターチのような精製デンプンは用いられていない。糖化はすべて麦芽によるものであり、出来上がった飴はいわゆる「アメ色」をしていて、原料に由来する固有の香りがあった。
大きな転換点が訪れたのは明治時代末期から大正時代にかけてである。アメリカから酸糖化による水飴製造技術が伝わり、大正時代には酸糖化水飴の国産化に成功した。昭和に入ると、戦中・戦後の食糧難を背景に、より安価で大量に安定供給できる甘味料が求められた。その結果、原料は米から精製デンプン(コーンスターチなど)へ、糖化法は麦芽糖化から酸糖化を経て酵素糖化へと主流が移り変わった。精製技術の進歩によって無色透明・無臭の工業用水飴が普及し、これが現在の一般的な「水飴」の姿となっている。
こうした工業化の波の中で、米と麦芽だけを使う伝統製法の米飴は次第に生産量を減らしていった。しかし近年、食の安全や健康志向への関心が高まるにつれ、自然素材だけで作られた米飴の価値が改めて見直されている。マクロビオティックやヴィーガン食の広がり、地方の伝統食品を守ろうとする動きも追い風となり、各地の老舗メーカーが伝統を継承しながら新たな顧客を獲得しつつある。
