材料の名前
日本語では「フォンダン」と表記する。フランス語の「Fondant」がそのまま日本語に取り入れられた外来語で、発音は「フォンダン(fɔ̃dɑ̃)」となる。英語圏でも「Fondant(fɒndənt)」と呼ばれ、世界中の製菓業界で通じる共通語のひとつだ。語源はフランス語の「fondre(フォンドル)」で、「溶ける」を意味する。チーズ料理で知られる「フォンデュ」や、金属を溶かす「鋳造所(foundry)」と同じ語源を持っている点がおもしろい。日本のパティシエや製菓材料店では「フォンダン」のほか、業務用製品の商品名として「ホンダント」と記載されることもある。
特徴
フォンダンは、砂糖と水を主原料とした製菓材料である。その最大の特徴は、砂糖のシロップを煮詰めてから冷却し、強く撹拌(かくはん)することで砂糖を微細な結晶に再結晶化させる点にある。結果として生まれるのは、きめが細かく、なめらかなクリーム状あるいはペースト状の白い素材だ。口に入れるとすっと溶けていく独特の食感があり、まさに「溶ける」という名前にふさわしい。
砂糖を107~115℃程度まで加熱したものを40~50℃まで冷まし、そこからヘラやミキサーで力強く練り上げる。加熱温度帯としてはシロップよりも高く、キャラメルよりは低い。この温度管理が仕上がりの品質を大きく左右するため、製菓の現場では温度計による精密な管理が欠かせない。
完成したフォンダンは純白のペーストで、保存が効く素材でもある。密閉容器に入れて冷暗所(15℃以下)で保管すれば長期間使用できる。使うときは湯煎で温め、白ワインやシロップで適度な粘度に調整するのが一般的な方法だ。食用色素を加えて好みの色に染めることもでき、デコレーションの幅を広げてくれる。
フォンダンには主に以下のタイプがある。
液状フォンダン(Poured Fondant)は、もっとも基本的な形態で、砂糖と水、場合によっては水あめ(グルコースシロップ)を加えて作る。温めるとトロリとした液体になり、菓子の表面に流しかけてコーティングに用いる。光沢のある仕上がりになるのが特徴で、エクレアやプチフール、バウムクーヘン、シナモンロールの糖衣として広く使われている。水分含量は10~15%程度が一般的で、この水分量によって硬さが変わる。
ロールフォンダン(Rolled Fondant)は、砂糖にゼラチン(または寒天)やグリセリン、植物油脂やショートニングなどを加え、パイ生地のように伸ばせるようにしたものだ。粘土のような質感を持ち、ケーキ全体をまるごと覆って、つるりとした平滑な表面を作り出す。ウェディングケーキのデコレーションでは定番の素材で、食用色素を練り込んで鮮やかな色に仕上げることも容易。ただし、味については「甘さが強く、粉っぽい」と感じる人もおり、見た目の美しさを重視して選ばれる傾向にある。
マシュマロフォンダン(Marshmallow Fondant)は、市販のマシュマロを溶かして粉砂糖とショートニングを加え、練り合わせて作る家庭向けのフォンダンである。特別な材料が不要で手軽に作れるため、趣味でケーキ作りを楽しむ人たちの間で人気がある。
スカルプティングフォンダン(Sculpting Fondant)は、ロールフォンダンよりも硬めに配合されており、立体的な造形や彫刻的なデコレーションに向いている。人形や動物などの細かい装飾パーツを作る際に重宝する素材だ。
用途
フォンダンの用途は多岐にわたる。代表的なものをいくつか挙げてみたい。
まず、焼き菓子やパンの糖衣掛け。エクレアの上部に光沢のあるチョコレート色やパステルカラーのフォンダンをかけるのは、フランス菓子の定番の仕上げだ。プチフール(小さな一口菓子)を液状フォンダンでコーティングして、つややかな表面に仕上げる技法も古くから受け継がれている。バウムクーヘンやシナモンロールの表面を覆う白い糖衣もフォンダンの一種だ。
次に、ケーキのデコレーション。ロールフォンダンでケーキ全体を包み、その上にさらにフォンダンで作った花や人形、リボンなどの装飾パーツを配置する。ウェディングケーキやバースデーケーキで多用され、とりわけ見た目のインパクトを求めるデザインケーキとは相性がよい。表面が滑らかに仕上がるため、バタークリームでは難しい精密な表現が可能になる。
さらに、ボンボン・ショコラ(チョコレート菓子)のセンター(中身)としても使われる。フォンダンにサッカラーゼ(転化酵素)を加えると、時間の経過とともにショ糖が分解されて転化糖になり、クリーム状のフォンダンがトロリとした液体に変化する。イギリスの菓子メーカー、キャドバリーが販売する「キャドバリー・クレーム・エッグ」の中身は、まさにこの技法で作られたフォンダンクリームである。
ファッジやソフトキャンディーの製造工程でも、フォンダンは種結晶(シードクリスタル)として利用される。完成品に滑らかな口どけを与えるために、フォンダンの微細な砂糖結晶をキャンディーベースに加えることで、結晶の大きさを均一にコントロールする役割を果たしている。
このほか、フロスティングやアイシングのベース素材としての役割もある。フォンダンにバターや生クリームを加えてアレンジすれば、独自のフロスティングを作ることもできる。
主な原産国(原料と生産の背景)
フォンダンの主原料は砂糖であり、砂糖の原料はサトウキビまたはテンサイ(甜菜、ビート)である。サトウキビ糖の主要生産国はブラジル、インド、タイ、中国。テンサイ糖はEU諸国(フランス、ドイツなど)、ロシア、アメリカ合衆国が主な産地となっている。
フォンダンそのものはフランス発祥の製菓技法であり、フランスの菓子文化を象徴する素材のひとつといえる。現在では世界各地で製造されており、日本でもユニオン商事をはじめとするメーカーが業務用フォンダンを国内生産している。海外ではイギリスのレンショー(Renshaw)、アメリカのサテンアイス(Satin Ice)やウィルトン(Wilton)、ニュージーランドのベーケルス・ペティニス(Bakels Pettinice)、イタリアのサラチーノ(Saracino)など、各国のメーカーが独自の配合でロールフォンダン製品を展開している。
選び方とポイント
フォンダンを選ぶ際は、まず自分がどのような用途で使いたいのかを明確にすることが出発点になる。
コーティングに使うのであれば、液状フォンダンを選ぶ。業務用の液状フォンダンは、5kg単位で販売されていることが多い。原材料は「砂糖、水あめ」というシンプルな構成が一般的で、ブリックス値(糖度)が87.5度前後のものが標準的な製品にあたる。糖度が高いほど保存性に優れるが、使用時に適切な粘度に調整する必要がある。
ケーキのカバーリングやデコレーションが目的なら、ロールフォンダンが適している。市販のロールフォンダンは各メーカーによって柔らかさや伸びやすさ、乾燥のしやすさが異なるため、できれば複数のブランドを試して自分の手に合うものを見つけるとよい。伸ばしやすさと作業性を重視するなら、ゼラチンやグリセリンがバランスよく配合された製品を選びたい。一方、細かい造形を行いたい場合は、やや硬めのスカルプティングフォンダンやガムペーストを選択する。
家庭で気軽に使いたい場合は、市販のマシュマロと粉砂糖で自作するマシュマロフォンダンという選択肢もある。コスト面では有利だが、プロの仕上がりとは質感が異なる点は留意しておきたい。
保存については、未開封であれば常温の冷暗所で長期保管が可能な製品が多い。開封後はラップや密閉容器で乾燥を防ぎ、できるだけ早めに使い切るのが望ましい。ロールフォンダンは乾燥するとひび割れの原因になるため、使わない部分はこまめにラップで包んでおくこと。
液状フォンダンを使う際は、湯煎で50℃前後に温めてから使用する。直火にかけると焦げたり結晶構造が壊れたりするため避けるべきだ。シロップや白ワインで粘度を調整しながら、ナッペ(流しがけ)しやすい状態に整えるのがコツとなる。
メジャーな製品とメーカー名
日本国内で流通している代表的な液状フォンダン製品として、ユニオン商事の「ホンダントUN」がある。砂糖と水あめから作られた業務用のフォンダンで、5kg単位で販売されている。製パン・製菓の現場で広く使われており、富澤商店やプロフーズといった専門の製菓材料通販サイトでも取り扱いがある。
海外メーカーのロールフォンダン製品では、以下のブランドが広く知られている。
サテンアイス(Satin Ice)はアメリカを代表するフォンダンブランドで、バニラやチョコレートのフレーバーが付いた製品を展開している。プロのケーキデコレーターから支持を集めており、扱いやすさと安定した品質に定評がある。
ウィルトン(Wilton)は1929年創業のアメリカの製菓用品メーカーで、フォンダンのほかデコレーション用ツールや食用色素など幅広い製品ラインナップを持つ。家庭用から業務用まで対応しており、入門者にも手に取りやすい価格帯が特徴だ。
レンショー(Renshaw)はイギリスの老舗製菓材料メーカーで、ロールフォンダンの品質の高さからヨーロッパのプロの菓子職人に愛用されている。柔らかく扱いやすい質感と、発色のよいカラーバリエーションが魅力だ。
ベーケルス・ペティニス(Bakels Pettinice)は、ニュージーランドのベーケルスグループが製造するロールフォンダンで、オーストラリアやニュージーランドでは定番の製品として広く流通している。柔らかくて伸びがよく、作業性の高さが評価されている。
サラチーノ(Saracino)はイタリアのメーカーで、ケーキデコレーション用のフォンダンやモデリングペーストを製造している。味のよさと伸びのよさで、近年世界中のケーキアーティストの間で注目が高まっている。
歴史・由来
フォンダンの歴史は砂糖の歴史と密接に結びついている。砂糖の精製技術がヨーロッパに伝わったのは中世のことで、十字軍の遠征やアラブ世界との交易を通じて、甘味料としての砂糖が徐々にヨーロッパ各地に広まった。
フォンダンの前身とされるシュガーペーストの記録は、16世紀(1558年頃)まで遡ることができる。当時のレシピは砂糖、バラ水、卵白、レモン果汁、トラガカントガム(ガムドラゴンとも呼ばれる植物性の増粘剤)を材料としたもので、現代のロールフォンダンの原型といえる。ルネサンス期のヨーロッパ貴族の宴席では、こうした砂糖細工が華やかな装飾として珍重されていた。
一方、現在広く知られる液状フォンダン(注ぎがけタイプ)が確立されたのは19世紀のフランスにおいてとされる。砂糖を煮詰めて冷却・撹拌し、微細な結晶を作り出す技術が発展したのは、フランスの菓子職人(パティシエ)たちの功績が大きい。19世紀のフランス菓子界では、砂糖の加熱温度と結晶化の関係に対する科学的な理解が深まり、フォンダンの品質は飛躍的に向上した。ケーキに流しかけてツヤのある糖衣を作る技法がこの時代に洗練され、プチフールやエクレアの仕上げとして定着していった。
20世紀に入ると、フォンダンの用途はさらに広がる。チョコレート菓子のセンター素材としての利用が本格化し、キャンディーやファッジの製造でもシード結晶としてのフォンダンの役割が認識されるようになった。
ロールフォンダンがケーキデコレーションの主流素材として脚光を浴びるようになったのは、比較的最近のことである。もともとウェディングケーキの装飾にはマジパン(アーモンドペースト)やロイヤルアイシング(卵白と粉砂糖のアイシング)が使われていた。しかし、ナッツアレルギーへの配慮やデザインの自由度の高さから、ロールフォンダンの人気が急速に拡大。2000年代以降、テレビ番組やSNSでケーキデコレーションが広く注目されたことも追い風となり、プロから愛好家まで幅広い層にロールフォンダンが浸透した。
日本では、フランス菓子の技法として液状フォンダンが古くからパティシエの間で使われてきた。エクレアやミルフィーユの仕上げに使う白い糖衣としてなじみ深い。ロールフォンダンによるケーキデコレーションは、欧米から輸入された文化として2010年代前後から日本でも広がりを見せている。
