材料の名前
日本語では「きな粉」と表記し、漢字を当てると「黄粉」あるいは「黄な粉」と書く。語源は「黄なる粉」、つまり黄色い粉を意味する言葉に由来する。ただし、原料とする大豆の品種や焙煎度合いによって色は変わるため、必ずしも黄色とは限らない。
英語圏では「Kinako」がそのまま固有名詞として通じる場面も増えてきたが、一般的には「Roasted Soybean Flour(ローステッド ソイビーン フラワー)」と訳される。韓国語では大豆の粉を「콩가루(コンガル)」と呼び、きな粉に近い食材としてインジョルミ(きな粉餅)に使われる粉が知られている。中国語では「黄豆粉(ホアンドウフェン)」と表記されることが多い。いずれも大豆を粉にした食品という点で共通するが、焙煎の有無や製法が異なるため、厳密には別物として扱われる。
特徴
きな粉の原料は大豆である。乾燥させた大豆を焙煎(炒り)してから皮を取り除き、細かく挽いて粉状にしたものがきな粉となる。加熱によって大豆特有の青臭さが消え、代わりに香ばしく甘い風味が生まれるのが最大の特徴だ。
きな粉には大きく分けて3つの種類がある。1つめは黄大豆を原料とした一般的な「きな粉」で、黄褐色の見た目をしている。2つめは青大豆を使った「青きな粉」や「うぐいすきな粉」で、薄い緑色をしていることから鶯(うぐいす)粉とも呼ばれる。3つめは黒大豆から作られる「黒豆きな粉」で、近年の健康志向の高まりとともに人気が伸びている。黒大豆にはポリフェノールの一種であるアントシアニンが含まれており、抗酸化作用が期待されている。
焙煎の度合いにも地域差がある。関東地方では浅煎りで色の薄いきな粉が好まれる傾向にあり、大豆そのものの甘みが前面に出た味わいになる。一方、関西では深煎りで色の濃い「京きな粉」と呼ばれるタイプが主流で、焙煎由来の力強い香ばしさが特徴だ。和菓子の種類や食べ方に応じて、煎り加減を使い分ける職人も少なくない。
栄養面では、きな粉は大豆の栄養を粉末の形で効率よく摂取できる食品として知られる。日本食品標準成分表(八訂)によると、黄大豆の全粒きな粉100gあたりのおおよその栄養価は、エネルギーが約451kcal、たんぱく質が約36.7g、脂質が約25.7g、炭水化物が約28.5g、食物繊維が約18.1gとなっている。そのほかカリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄分、亜鉛などのミネラルも含まれており、大豆イソフラボンや大豆オリゴ糖なども摂取できる。粉末状であるため消化吸収が良く、牛乳やヨーグルトに混ぜるだけで手軽に栄養補給ができることから、健康食材としても広く親しまれている。
用途
お菓子づくりにおけるきな粉の用途は幅広い。もっとも馴染み深いのは、餅にまぶして食べる「きな粉餅」だろう。お正月の雑煮で余った餅にきな粉と砂糖をまぶす食べ方は、家庭の定番でもある。
和菓子の世界では、きな粉はなくてはならない存在だ。わらび餅にまぶすきな粉は、もちもちとした食感と香ばしさの相性が抜群で、夏場の定番として全国で親しまれている。安倍川もちはきな粉を使った餅菓子の代表格であり、静岡の名物として江戸時代から親しまれてきた。ほかにも、桔梗信玄餅(山梨県の銘菓で桔梗屋が製造)、鶯餅、葛餅、ぼたもち、五家宝(埼玉県の伝統銘菓)、きなこねじり、きなこ棒、州浜など、きな粉を主役級に使う和菓子は枚挙にいとまがない。
近年では和菓子にとどまらず、洋菓子やドリンクへの活用も進んでいる。きな粉を練り込んだクッキーやマフィン、きな粉アイスクリーム、きな粉ラテなどが人気を集めている。牛乳や豆乳に溶かした「きな粉ドリンク」は手軽なたんぱく質補給の手段として、スポーツ愛好家の間でも取り入れられるようになった。パンケーキやフレンチトーストの仕上げに振りかける使い方も、カフェメニューとして定着しつつある。
お菓子以外では、ご飯にきな粉と砂糖をまぶした「きな粉ご飯」という素朴な食べ方も一部地域で残っている。また、離乳食の材料として少量を加えることで、赤ちゃんにたんぱく質やミネラルを補う用途にも使われる。
主な原産国と産地
きな粉そのものは日本独自の加工食品としての色合いが強いが、原料となる大豆の生産は世界規模で行われている。FAO(国連食糧農業機関)の統計によると、大豆の主要生産国はブラジル、アメリカ合衆国、アルゼンチンの3か国で、この3か国だけで世界の大豆生産量のおよそ8割を占める。続いて中国、インド、パラグアイなどが上位に名を連ねる。
日本国内で流通するきな粉は、国産大豆を使用するものと輸入大豆を使用するものに大別される。国産大豆の主要産地は北海道で、全国の大豆生産量のおよそ3~4割を占めている。品種としては「フクユタカ」「ユキホマレ」「トヨムスメ」「ミヤギシロメ」などが知られ、きな粉メーカーは品種の特性に応じて使い分けている。輸入大豆はアメリカやカナダ産が多く、価格が比較的手頃なため量産品に採用されることが多い。ただし、国産大豆は風味が豊かで甘みが強いとされ、品質を重視する製品では国産原料が選ばれる傾向にある。
大豆の原産地は中国東北部とされており、日本には弥生時代に伝来したと考えられている。きな粉のような大豆を粉にした食品は、日本で独自に発展した加工法といえる。
選び方のポイント
きな粉を購入する際、いくつかの視点を持っておくと、用途に合った製品を見つけやすい。
まず確認したいのが原料の大豆の産地と品種だ。国産大豆を使用したきな粉は、大豆の甘みや風味が濃く出る傾向がある。パッケージに「北海道産大豆100%」「国産大豆使用」などの表記があるものは、産地が明確で安心感がある。輸入大豆使用の製品は手頃な価格で手に入るため、日常的に大量に使う場合にはこちらも選択肢になる。遺伝子組み換え大豆の使用を避けたい場合は、「遺伝子組み換えでない」の表記を確認するとよい。
次に焙煎の度合いに注目したい。パッケージの色味や「深煎り」「浅煎り」といった表記が参考になる。わらび餅や信玄餅のように香ばしさを存分に味わいたい場合は深煎りタイプが向いている。逆に、牛乳やヨーグルトに混ぜてまろやかに楽しみたいなら、浅煎りのほうがなじみやすい。
きな粉の粒度(粉の細かさ)も見逃せないポイントだ。「皮むき」と表記のあるきな粉は、大豆の薄皮を取り除いてから粉にしているため、口あたりがなめらかで舌触りがよい。ドリンクやスムージーに使うなら皮むきタイプが溶けやすくて適している。一方、全粒タイプは食物繊維を多く含むため、栄養を余すことなく摂りたい場合に向く。
保存性にも気を配りたい。きな粉は脂質を多く含むため酸化しやすく、開封後は密閉容器に移して冷暗所で保管するのが望ましい。使いきれる分量を選ぶことも、鮮度を保つうえで大切だ。
メジャーな製品とメーカー名
きな粉市場にはさまざまなメーカーが参入しているが、代表的な製品とメーカーをいくつか紹介する。
小川産業は、明治41年(1908年)創業の老舗きな粉メーカーだ。埼玉県に本社を置き、昔ながらの釜炒り製法にこだわった「小川のきなこ」シリーズを展開している。「フクユタカ大豆100%」や「京きな粉」「黒豆きな粉」など、原料と焙煎方法を変えた多彩なラインナップが特徴である。
株式会社真田(ブランド名「山城屋」)は、京都に本社を構える乾物メーカーで、「京きな粉」を代表商品として40年以上販売し続けている。北海道産大豆を焙煎職人が丁寧に深煎りして仕上げたきな粉は、色が濃く、香りと味に深みがある。きな粉ランキングで上位に入ることも多い。
真誠(しんせい)は愛知県に本社を置くメーカーで、「とろけるきなこ」が人気商品として知られている。皮をむいた大豆を使い、なめらかな舌触りに仕上げた製品だ。ほかにも「高たんぱくきなこ」や「黒ごまアーモンドきなこ」など、健康志向に応えた商品を多数展開している。
デルタインターナショナルの「黒ごまアーモンドきな粉」は、北海道産大豆のきな粉に黒ごまとアーモンドをブレンドした製品で、ネット通販やスーパーの売上ランキングで常に上位にランクインしている。牛乳やヨーグルトに混ぜるだけで手軽に栄養を摂れる点が支持を集めている。
波里(なみさと)は栃木県に本社を置くメーカーで、きな粉をはじめとする穀粉製品を幅広く手がけている。自社焙煎にこだわった「黒ごまアーモンドきな粉」や「なめらかきな粉」などが人気だ。
このほか、向井珍味堂(大阪)は大正14年(1925年)創業のきな粉専門メーカーとして、品種や焙煎に細やかなこだわりを持つ製品を作り続けている。幸田商店や中村食品産業、角屋米穀など、地域に根ざしたメーカーも多数あり、選択肢は豊富だ。
和菓子としてきな粉を使った有名製品では、山梨県の桔梗屋が製造する「桔梗信玄餅」が全国的に知られている。小さな容器に入った餅にたっぷりのきな粉と黒蜜を絡めて食べるスタイルは、お土産品として根強い人気を誇る。
歴史・由来
きな粉の歴史をたどると、その原料である大豆の伝来まで遡る必要がある。大豆の原産地は中国東北部と考えられており、日本には弥生時代に伝わったとされている。伝来当初は炒ったり煮たりして食べるのが主な利用法だった。
奈良時代に入ると、大豆を粉状にして使う方法が生まれたと推測されている。平安時代の和漢辞書『和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』(934年頃成立)には、大豆を挽いて粉にした「末女豆岐(まめつき)」もしくは「未女豆岐」という記述が見られる。これがきな粉の原型とされており、少なくとも平安時代にはすでに大豆を粉にして食す文化が存在していたことがわかる。ただし、当時は現在のように炒ってから粉にするという製法が確立されていたかどうかは定かではない。
「きな粉」という呼び名が定着したのは、それよりもずっと後のことだ。語源は先述のとおり「黄なる粉」で、黄色い大豆を粉にした見た目から名付けられた。
きな粉の普及を決定づけたのは江戸時代だといわれている。当時、餅にきな粉をまぶした安倍川もちが東海道の名物として広まり、庶民の間できな粉は身近な食材となった。安倍川もちの由来には諸説あるが、静岡市の安倍川周辺で旅人に振る舞われたのが始まりとされる。同じく江戸時代には、街道筋の茶屋できな粉をかけた餅が提供されるようになり、きな粉は「旅と甘味」を結びつける存在にもなった。北前船の航路に沿って大豆が全国へ流通するようになったことも、きな粉文化が各地に根付く後押しとなった。
明治以降は、製粉技術の近代化によって、より均一で滑らかなきな粉が量産できるようになった。戦後の食糧事情が安定するにつれ、きな粉は和菓子の材料としてだけでなく、学校給食で「きな粉揚げパン」として登場するなど、子どもたちにも馴染み深い食材となっていく。
2010年代に入ると、健康食品ブームの追い風を受け、きな粉への注目度が一段と高まった。黒豆きな粉や、黒ごま・アーモンドをブレンドした付加価値型のきな粉が続々と登場し、スーパーの棚に並ぶきな粉の種類は格段に増えた。ヨーグルトやスムージーに混ぜる食べ方がSNSなどを通じて広がり、和の食材でありながら現代的なライフスタイルにも溶け込んでいる。
こうして振り返ると、きな粉は奈良・平安の時代から千年以上にわたって日本の食卓に寄り添い続けてきた食材だといえる。素朴でありながら栄養価が高く、和菓子から日常の健康習慣まで幅広く活躍する懐の深さが、きな粉の最大の魅力だろう。
