材料の名前

和名は「寒梅粉(かんばいこ)」。別名として「焼きみじん粉」とも呼ばれる。関東地方では単に「みじん粉」と呼ぶ場合もあるが、厳密には寒梅粉とみじん粉は粒子の細かさが異なり、寒梅粉のほうがよりきめ細かい。京都の和菓子業界では「寒梅粉」の呼称が定着しており、関東の「みじん粉」とは区別して使われることが多い。

英語圏では定訳がなく、辞書では “flour made from cooked glutinous rice” と説明的に訳される。海外のレシピサイトなどでは “kanbaiko” とローマ字表記されるケースもある。中国語や韓国語にも直接対応する語はなく、製法を説明しながら紹介されるのが一般的だ。

なお、地域や製造業者によって呼び名の体系が若干異なる点には注意が必要である。名古屋の老舗・伏繁商店のまとめによれば、100メッシュ前後の細かい粉を「寒梅粉」あるいは「焼きみじん」と呼び、やや粗い50~80メッシュのものを「上南粉」「落雁粉」、さらに粗い20~50メッシュのものを「味甚粉」「真挽種」と分類している。同じもち米由来の焼き粉でも、粒度によって名前と用途が変わる奥深い世界だ。

特徴

寒梅粉の原料はもち米(糯米)である。製法の概略は次のとおりだ。まず、もち米を精白して水洗いし、一定時間水に浸漬する。十分に吸水させたら蒸し上げて餅状にし、これを薄く延ばして色がつかないように白く焼き上げる。焼き上がった薄い煎餅状のものを砕き、細かく製粉してふるいにかけると、きめの細かい白い粉が出来上がる。これが寒梅粉だ。

最大の特徴は、加熱処理によって「アルファ化」されたでんぷんを含んでいる点にある。でんぷんには、生の状態の「ベータ型(β型)」と、加熱によって糊化した「アルファ型(α型)」の二つの状態がある。寒梅粉は蒸して餅にした後、さらに焼くという二段階の加熱を経ているため、でんぷんが完全にアルファ化している。そのため、水や砂糖と合わせるだけでそのまま食べることができ、再度火を通す必要がない。この性質が、落雁や打ち物といった「焼かない」「蒸さない」タイプの和菓子に使われる理由である。

色は純白に近く、きめが非常に細かい。口に含むとほのかな香ばしさともち米由来のやわらかな甘みが広がる。粒子が細かいぶん舌触りがなめらかで、上品な口溶けが生まれる。また、粘性をほどよく持っているため、砂糖や水あめと合わせると型崩れしにくい生地に仕上がる。保存性も比較的高く、直射日光と高温多湿を避ければ常温で数か月保管できる。

用途

和菓子の世界で寒梅粉の出番はじつに幅広い。代表的な用途をいくつか挙げてみよう。

まず筆頭に来るのが落雁(らくがん)である。落雁は、寒梅粉(あるいは味甚粉)に上白糖や和三盆糖を合わせ、少量の蜜で湿らせてから木型に押し込み、成形して乾燥させた干菓子だ。寒梅粉のきめ細かさと香ばしさが、砂糖の甘みと調和して上品な味わいを生む。

打ち菓子・押し菓子にも欠かせない。木型に粉と砂糖を詰めて「打つ」ようにして成形する菓子で、落雁と似た技法だが、より装飾性の高い細工物に仕上げることもある。茶席に供される干菓子の多くがこの系統だ。

練り切りにも寒梅粉は使われる。白あんに求肥やつなぎの粉を加えて練り上げる練り切りでは、寒梅粉を少量混ぜることで生地にコシが出て、繊細な造形がしやすくなる。

豆菓子の衣にも活躍する。ピーナッツや大豆に寒梅粉の衣を何層にもかけて焼き上げることで、サクサクとした軽い食感が生まれる。豆菓子メーカーにとっても、品質のよい寒梅粉は仕上がりを左右する重要な原料だ。

雲平(うんぺい)という干菓子も、寒梅粉と砂糖と蜜を合わせて練り、薄く延ばして型で抜き、乾燥させて作る。関西では「生砂糖(きざとう)」とも呼ばれるこの菓子は、季節のモチーフを象った繊細な意匠が持ち味で、茶道の場では馴染み深い存在だ。

さらに近年では、洋菓子への応用も試みられている。パウンドケーキやクッキーの生地に小麦粉の一部を寒梅粉に置き換えると、もちっとした独特の食感と米の風味が加わる。伏繁商店の製品説明によれば、粉の1割程度を寒梅粉に替えるだけで風味が変わるという。グルテンフリーの観点からも米粉の一種として注目されており、小麦アレルギーへの配慮が求められる場面で選択肢に上がることもある。

また、和菓子の世界を離れると、木工や工芸の分野で接合剤として使われた歴史もある。少量の水で練ると粘りのある糊状になるため、木材の接合に用いられていた時代があった。

主な原産国と産地

寒梅粉の原料であるもち米は日本国内で広く栽培されており、製造も基本的に国内で行われている。原料米の産地としては、滋賀県産の「羽二重もち米」が高品質な品種として知られる。伏繁商店の最高級品「謹製 寒梅粉」には滋賀羽二重もち米が使用されている。

新潟県も有力な産地で、まつや株式会社は米どころ新潟で寒梅粉を専門に製造し続けて110年以上の歴史を持つ。佐賀県や熊本県などの九州産もち米を使った製品もあり、小城製粉(鹿児島県薩摩川内市)はタイ産や米国産のもち米を使用した業務用の寒梅粉も手がけている。

家庭向けに流通している製品の多くは「国内産もち米100%」を謳っているが、業務用のなかにはコストを抑えるために海外産米やコーンアルファ(とうもろこしの加工でんぷん)をブレンドしたものも存在する。購入時にはパッケージの原材料表示を確認することが望ましい。

選び方とポイント

寒梅粉を選ぶ際、まず確認したいのは原材料の表示だ。「もち米(国産)」のみの表記であれば、混ぜ物のない純粋な寒梅粉である。一方、コーンアルファやうるち米が配合されている製品もあり、これらは風味や食感がやや異なる。用途に応じて使い分けるとよい。

色の白さも品質の目安になる。寒梅粉は餅を焦がさずに白く焼き上げたものが上質とされており、黄色味がかっていたり褐色がかっていたりするものは、焼成時に色がついてしまった可能性がある。

粒子の細かさも選定の基準だ。落雁や練り切りのように滑らかな仕上がりが求められる菓子には、きめの細かい「上寒梅粉」や「特上」クラスが適している。豆菓子の衣など、ある程度の粗さが食感につながる用途では、やや粒度の大きいものでも問題ない。

京都の老舗菓子店・駿河屋の資料には「品質を見分ける確実な方法はなく、試作を繰り返して最良のものを選ぶしかない」との記述がある。砂糖を一切加えず、粉と水だけで団子状に蒸し上げ、風味・舌触り・時間経過による変化を確かめるのが昔ながらの品質判定法だという。家庭で使う場合にそこまで厳密に試す必要はないが、少量パックを買って実際に落雁などを作り、口溶けや香りを比較してみるのが実用的な方法だろう。

保存については、高温多湿を避け、密閉容器に入れて冷暗所に置くのが基本だ。湿気を吸うと固まりやすく、風味も落ちるため、開封後はなるべく早く使い切りたい。

メジャーな製品とメーカー

寒梅粉は専門性の高い原料であるため、製造メーカーは限られている。ここでは代表的なメーカーと製品を紹介する。

まつや株式会社(新潟県新潟市)は、明治40年(1907年)に東京・神田で創業し、昭和31年に新潟へ工場を移した老舗だ。寒梅粉の専門メーカーとして110年以上の実績を持ち、「姫寒梅粉」「殿寒梅粉」といった高品質な製品を和菓子業界に供給している。国産水稲もち米100%使用で、粘度や嵩密度の異なる複数のラインナップを揃えている。

合資会社 伏繁商店(愛知県名古屋市中川区)は、明治元年(1868年)の創業。道明寺粉や寒梅粉をはじめとする和菓子材料の老舗メーカーで、滋賀羽二重もち米を使った最高級品「謹製 寒梅粉」から、一般向けの「特上」「特製」「別製」「本寒梅粉」「金星寒梅粉」まで多彩なグレードを展開している。オンラインショップでの小売にも対応しており、家庭でも入手しやすい。

小城製粉株式会社(鹿児島県薩摩川内市)は、1947年創業の九州を代表する米穀粉メーカーだ。かるかん粉で知られるが、寒梅粉も主力製品のひとつで、「生菓子用寒梅粉」や豆菓子専用の「陸寒梅粉」など、用途別に細分化された製品を揃えている。業務用が中心で、製菓材料の卸サイト「オーダリー」などを通じて購入可能だ。

株式会社山口商店(東京都大田区)は、昭和26年(1951年)創業の米粉総合メーカー。茨城県に工場を持ち、寒梅粉やうるち米アルファ粉、味甚粉など幅広い米粉製品を製造している。「さくら」「さつき」「千両」といった銘柄の寒梅粉を和菓子店や豆菓子メーカーに卸している。

朝日製粉所は、国産もち米100%の寒梅粉を200g・500gの小袋で販売しており、Amazonや楽天などの通販サイトで家庭用として購入できる。個人で和菓子づくりに挑戦する人にとって、手に取りやすい存在だ。

また、製菓材料の総合販売で知られる富澤商店(TOMIZ)でも、国産もち米使用の寒梅粉を200g単位で取り扱っている。実店舗とオンラインショップの両方で購入できるため、入手のしやすさでは筆頭といえるだろう。

和菓子材料処 京都ヤマグチも、上質な国産もち米100%の寒梅粉をオンラインで販売しており、品質にこだわる和菓子愛好家から支持されている。

歴史・由来

「寒梅粉」という風雅な名前の由来は、その製造時期にある。かつて寒梅粉は、寒い冬の時期に新米のもち米を使って粉に挽いていた。ちょうどその時節は、厳しい寒さのなかで梅の花がほころび始める頃にあたる。「寒中に咲く梅」と「新米を粉にする作業」が重なることから「寒梅粉」の名がついたと伝えられている。老舗メーカーの伏繁商店も「寒中に寒梅の花が咲く寒い時期に糯米の新米を粉にしたところから寒梅粉と名付けられました」と記している。

また、京都の老舗和菓子店・甘春堂や御菓子処ささまの解説にも、新米の舌触りのよさと香りを生かすために寒中の新米を使い、その時期がちょうど梅の咲く頃であったことが名の由来だと記されている。新米を使う理由は明快で、収穫から時間が経っていない米のほうが水分を適度に含み、風味豊かな粉に仕上がるからだ。

和菓子の歴史において、寒梅粉のような「アルファ化された米粉」が使われるようになった時期を正確に特定するのは難しい。ただし、落雁という干菓子は室町時代から安土桃山時代にかけて中国から伝来したとされており、少なくともその頃にはもち米を加工した粉の技術が存在していたと考えられる。江戸時代になると和菓子文化が大きく花開き、茶の湯の発展とともに干菓子の需要が高まった。寒梅粉を使った落雁や打ち菓子が茶席に欠かせない存在となり、粉の品質を追求する製粉業者も増えていった。

現代では機械化により年間を通じて安定した品質の寒梅粉が製造されているが、名前だけは昔のまま「寒梅」の風情を留めている。梅の花が厳寒に凛と咲く姿と、白く清らかな粉の佇まいが重なるようで、季節感を大切にする日本の菓子文化にふさわしい命名といえる。

和菓子材料としての寒梅粉は、地味ながらも日本の菓子づくりの土台を支えてきた存在だ。落雁の口溶け、練り切りのコシ、豆菓子の軽やかな衣。その一つひとつに、もち米を丁寧に蒸し、焼き、挽くという手間が宿っている。名前に込められた冬の梅の清々しさとともに、この白い粉の奥深さを味わっていただければ幸いである。

免責事項

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購入・ご利用の際は必ず最新のパッケージ表示または公式情報をご確認ください。特に食物アレルギーをお持ちの方は原材料を十分にご確認の上お求めください。
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