材料の名前

日本語では「浮き粉(うきこ)」と呼ばれる。ほかにも「じん粉(沈粉)」「本浮き粉」「貫雪粉(かんせつこ)」といった別名がある。

「じん粉」という名称は、小麦粉を水で練り洗い流した際に、でんぷんが水中に「沈む」ことに由来する。一方、「浮き粉」の「浮き」は、水中で上層に浮き上がる微細な粒子を集めたことから来ているとされる。ちなみに「貫雪粉」は、雪のように真っ白な見た目からつけられた風雅な呼び名である。

英語では「wheat starch(ウィートスターチ)」が一般的な表記で、海外の製菓材料店やアジア系スーパーでもこの名称で販売されている。中国語では「澄粉(チェンフェン)」あるいは「澄麺粉(チェンミェンフェン)」と表記され、広東料理の点心づくりには欠かせない粉として広く流通している。

特徴

浮き粉は、小麦粉からたんぱく質のグルテンを取り除き、残ったでんぷん質のみを精製した粉である。見た目は片栗粉と似ており、きめ細かくさらさらとした白い粉末をしている。

最大の特徴は「練ってもグルテンが生じない」という点にある。通常の小麦粉は水を加えてこねると粘りや弾力が生まれるが、浮き粉にはグルテンがほぼ含まれないため、生地が硬く締まらない。そのため生地に混ぜ込むと、焼き上がりや蒸し上がりがふんわりと軽く仕上がる。

もう一つの大きな特徴は、加熱すると半透明になることだ。浮き粉を主体とした皮で具材を包み蒸すと、中身がうっすら透けて見える美しい仕上がりになる。広東点心の海老蒸し餃子(蝦餃・ハーガウ)の皮がツヤツヤと半透明に輝くのは、まさに浮き粉のこの性質を活かしたものである。

栄養面を見ると、日本食品標準成分表(八訂)によれば、浮き粉(小麦でんぷん)100gあたりのエネルギーは約351〜360kcal、たんぱく質は0.2g、脂質は0.5g、炭水化物は86.0gとなっている。ほぼ炭水化物で構成されており、たんぱく質や脂質はごくわずかだ。

片栗粉(馬鈴薯でんぷん)やコーンスターチとの違いも押さえておきたい。片栗粉は加熱するとしっかりとしたとろみがつき、冷めると固くなりやすい。一方、浮き粉は糊化したあとの粘度が片栗粉より低めで、加熱しても硬くなりにくい。この「柔らかさが持続する」性質こそ、お菓子や点心の生地に浮き粉が重宝される理由である。コーンスターチも似た用途に使えるが、風味や透明度に微妙な差がある。

なお、浮き粉はグルテンを除去して製造されるものの、原料が小麦であるため、完全なグルテンフリーではない。微量のグルテンが残留する可能性があり、小麦アレルギーの方は摂取を控える必要がある。食品表示法上のアレルゲン表記でも「小麦を含む」と記載される点は注意が必要だ。

用途

浮き粉の用途は和菓子、中華菓子、料理まで実に幅広い。

和菓子の世界では、薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)の生地に少量混ぜ込んで使うことがある。浮き粉を加えることで生地が軽くなり、蒸し上がりのふくらみがよくなる。また、餅を分ける際の「手粉(もちとり粉)」としても使われている。もち生地に振りかけることで、餅どうしがくっつくのを防ぎ、作業性を高める役割を果たす。

和菓子に関連するところでは、兵庫県明石市の郷土料理「明石焼き(玉子焼)」にも浮き粉が欠かせない。明石焼きの生地は卵と小麦粉に浮き粉を加えて作る。浮き粉がグルテンの発生を抑えるため、焼き上がりがふわふわのとろけるような食感になるのだ。

中華菓子・点心では、先に触れた海老蒸し餃子(蝦餃)のほか、潮州粉果、腸粉(チョンファン)など、皮を半透明に仕上げたい料理に広く使われる。浮き粉に片栗粉やタピオカ粉を適量ブレンドし、熱湯でこねて生地を作るのが一般的な方法だ。蒸すとプルプルとした弾力のある皮になり、見た目にも涼やかで食欲をそそる。

また、関東地方の名物「久寿餅(くずもち)」は、小麦でんぷんを長期間(1年〜1年半ほど)乳酸発酵させてから蒸し上げて作るお菓子である。関西の葛餅が本葛粉を使うのに対し、関東の久寿餅は小麦でんぷん、すなわち浮き粉の原料と同じものを発酵させて作る。和菓子で唯一の発酵食品とも呼ばれるこの菓子は、江戸時代後期に生まれたとされている。

さらに、料理のとろみ付けに片栗粉の代わりとして浮き粉を使うことも可能だ。片栗粉よりも粘りが穏やかで、あんかけなどが重たくなりすぎないという利点がある。かまぼこやちくわなどの水産練り製品の増量材・食味改良材としても活用されており、食品工業の分野でも欠かせない素材のひとつといえる。

主な原産国・産地

浮き粉の原料は小麦である。世界の小麦生産量は、中国、インド、ロシア、アメリカ、フランス、カナダ、オーストラリアなどが上位を占める。

日本国内で流通する浮き粉の多くは、国内外の小麦から分離・精製された小麦でんぷんを使用している。たとえば前原製粉(兵庫県姫路市)の浮き粉は「小麦でん粉(国内製造)」と表記されているが、原料小麦の産地は国産に限らず、輸入小麦が使われるケースもある。日本が輸入する小麦はアメリカ、カナダ、オーストラリア産が大部分を占めており、これらの国の小麦が浮き粉の原料になっている場合も多い。

歴史的に見ると、日本国内で小麦でんぷんが生産されるようになった背景には、麩(ふ)の製造がある。麩は小麦粉からグルテンを取り出して作る食品であり、その製造過程でグルテンを洗い流した際に出るでんぷん乳が浮き粉の原料となった。いわば麩づくりの副産物として浮き粉は生まれたのである。

選び方とポイント

浮き粉を購入する際に、まず確認したいのが「本浮き粉」かどうかという点だ。市場に出回る浮き粉のなかには、小麦でんぷんではなく甘藷(さつまいも)でんぷんで代用されたものも存在する。波里(栃木県佐野市)の解説によれば、小麦でんぷんを精製した製品を「本浮き粉」と呼び、甘藷でんぷんの代用品と区別している。

本浮き粉は加熱すると半透明になり、蒸し餃子や点心の皮に適した仕上がりが得られる。甘藷でんぷん製の浮き粉でも料理には使えるが、透明度や食感に若干の差が出る。点心の皮を美しく仕上げたい場合や、明石焼き本来のふわふわ食感を求める場合は、原材料欄に「小麦でんぷん」と書かれた本浮き粉を選ぶのが望ましい。

また、浮き粉にも等級があり、波里の資料では「特等」「一等」「二等」の区分が紹介されている。最初に沈殿した粒子の大きなものを「沈(じん)」と呼び、粒子の小さいものが「浮き粉」として精製される。等級が高いほど粒子が均一できめ細かく、仕上がりも滑らかになる。

保存の際は、湿気を避けて密封容器やチャック付き袋に入れ、涼しく乾燥した場所に置くとよい。でんぷん質は湿気を吸うとダマになりやすいため、開封後はできるだけ早く使い切るか、しっかりと封を閉じて保管することが大切だ。

メジャーな製品とメーカー名

家庭で手に入りやすい浮き粉の代表的な製品をいくつか紹介する。

前原製粉(兵庫県姫路市)の「浮き粉 250g」は、明石焼きの本場・兵庫県に本社を置く和粉メーカーの定番商品である。1954年(昭和29年)に設立された同社は、「義士」の商標で知られ、白玉粉やきな粉などの和粉類を幅広く手がけている。業務用スーパーのアミカや、楽天市場・Amazonなどの通販サイトでも購入でき、明石焼き用途としての知名度が高い。原材料は「小麦でん粉(国内製造)」と表記されている。

富澤商店(TOMIZ)の「うき粉 200g」も、製菓・製パン材料の専門店として人気の高い商品だ。全国に実店舗を持つほか、オンラインショップでも購入可能で、価格帯は200gで200〜400円程度と手頃である。同店では「もちとり粉」としての用途も案内されており、和菓子づくりの手粉としても推奨されている。

パイオニア企画の「浮き粉 200g」は、製菓材料メーカーとして家庭向け商品を幅広く展開するパイオニア企画が販売する商品で、Amazonや各種通販サイトで入手しやすい。原材料は「小麦粉(国内製造)」と表記されている。薄力粉に1割程度混ぜて使うと、生地が軽くふんわりと仕上がる旨が商品説明に記載されている。

cotta(コッタ)の「粉の郷便り 浮き粉 1kg」は、製菓・製パン材料の通販サイトcottaが扱う業務用サイズの商品である。お菓子づくりを頻繁にする方や教室運営者に向いており、増量剤としての役割が紹介されている。

このように、浮き粉はスーパーの一般的な粉コーナーにはあまり並んでいないものの、製菓材料の専門店や通販サイトを利用すれば比較的容易に手に入る。近年は富澤商店やcottaなどの通販網が充実しているため、地方在住の方でも取り寄せに困ることは少なくなった。

歴史・由来

浮き粉の歴史をたどると、小麦から麩(ふ)を製造する技術の伝来にまで遡ることができる。日本に麩が伝わったのは、大和朝(奈良時代)の頃、中国から禅僧の手を経てもたらされたと伝えられている。当時は小麦粉を水で練り、でんぷんを洗い流してグルテンの塊を取り出し、これを焼いたり蒸したりして食べていた。

農畜産業振興機構(alic)が2023年に公開した論考「久寿餅(くずもち)と発酵小麦デンプン」によれば、麩が日本に伝来してから江戸時代後期まで、麩製造の副産物である小麦でんぷんは、もっぱら「糊(のり)」として利用されていた。障子貼りや製本などに使う「正麩糊(しょうふのり)」がそれにあたる。つまり、小麦でんぷんは長い間、食品ではなく接着剤として使われていたのだ。

江戸時代中期の百科事典『和漢三才図会』の記述にも、でんぷんを糊や接着用途に使っていたことがうかがえる。たとえば「漿に似たものになる。障子に糊用す」という記述があり、建具の修繕や襖張りに小麦でんぷんの糊が活用されていた様子が記録されている。

食品としての転機が訪れたのは江戸時代後期のことだ。麩が庶民の日常食として普及するにつれ、製造過程で大量に生じる小麦でんぷんの余剰が課題となった。これを食品として活用しようという発想から、自然発酵させたでんぷんを蒸して餅に仕立てた「久寿餅」が関東で生まれたとされる。川崎大師の門前で久兵衛という人物が発酵した小麦でんぷんを蒸して餅を作ったのが始まりだという伝承が残っている。

一方、兵庫県明石市では、江戸時代末期に「明石玉」と呼ばれるかんざし用の珊瑚の模造品が地場産業として栄えていた。明石玉は卵の白身を材料とするため、製造過程で大量の黄身が余った。この余った黄身に小麦粉と浮き粉(じん粉)を混ぜ、明石で豊富に獲れるタコを加えて焼いたものが、明石焼き(玉子焼)の起源の一つとして伝わっている。浮き粉を使うことで、たこ焼きとは一線を画すふわとろの食感が生まれ、だしに浸して食べるスタイルとともに明石の名物として定着した。

中国における浮き粉(澄粉)の使用はさらに古い歴史を持つ。広東地方の飲茶文化のなかで、蝦餃(ハーガウ)をはじめとする半透明の皮を持つ点心が発展してきた。蝦餃の原型は1920年代の広州で生まれたとされ、浮き粉と片栗粉を組み合わせた皮の技法が確立された。この技術が香港の飲茶文化の隆盛とともに世界に広まり、現在では日本でも中華料理店や家庭で蝦餃を作る際に浮き粉が使われている。

近年では、製粉技術の向上によって浮き粉の品質も安定してきている。かつては麩製造の副産物としてのみ得られていた小麦でんぷんだが、現在は小麦粉に食塩水を加えてグルテンとでんぷんを分離し、遠心分離機ででんぷんを精製するという工業的な製法が主流となっている。こうした技術の進歩により、等級の揃った均一な品質の浮き粉が安定的に供給されるようになった。

また、農畜産業振興機構の2026年の報告によれば、世界的に小麦でんぷんの需要は拡大傾向にあり、欧州では製紙・包装資材向けの工業用需要も大きい。食品分野に限らず、接着剤やテキスタイル加工などの工業分野でも小麦でんぷんは活躍しており、その歴史は江戸時代の「正麩糊」の時代から現代まで一貫して続いているといえる。

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