材料の名前
漢字では「微塵粉」または「味甚粉」と書き、どちらも読みは「みじんこ」である。粒子が非常に細かいことから「微塵(みじん)」の字が当てられたとされる。なお、もち米を原料としないタイプ(馬鈴薯でんぷんやコーンスターチを主原料とする揚げ衣用など)はひらがなで「みじん粉」と表記し、区別される場合がある。
英語圏では「roasted glutinous rice flour」「toasted rice flour」などと訳されることがあるものの、和菓子特有の素材であるため、海外のレシピサイトでは「Mijinko」とそのままローマ字表記されるケースも見られる。フランス語やドイツ語に定訳はなく、説明的に「farine de riz gluant grillée」(フランス語で「焙煎もち米粉」の意)と記されることもある。
地域によって呼び名が異なる点も特徴的だ。関西では「寒梅粉(かんばいこ)」や「焼味甚(やきみじん)」と呼ばれるものが、関東では「みじん粉」「上焼味甚」と呼ばれることがあり、さらに東海では「種粉」、北陸では「春雪粉」という呼称も使われている。伏繁商店のウェブサイトに掲載された地域別呼び名の一覧によれば、東北では「雲平粉」、信越では「上早味甚粉」などと呼ばれることもあるという。こうした名称の多さは、各地で和菓子文化が独自に発展してきた証ともいえる。
特徴
みじん粉の最大の特徴は、原料のでんぷんが加熱によってアルファ化(糊化)されている点にある。通常の餅粉や白玉粉は米を生のまま粉にした「ベータ型(生粉製品)」であり、必ず加熱してから食べる必要がある。一方、みじん粉はもち米を蒸す・焼く・煎るといった熱処理を経てから製粉した「アルファ型(糊化製品)」であるため、そのまま口にしても消化がよく、火を通さずに菓子の材料として使うことができる。
製法の違いによって、みじん粉にはいくつかの種類がある。代表的なものを整理すると次のとおりだ。
「焼きみじん粉(焼微塵粉)」は、もち米を蒸して餅にし、薄く延ばしてから焼き色がつかない程度に白焼きにし、それを粉砕したもの。粒子がきめ細かく、口溶けのよさに優れている。
「煎りみじん粉(煎味甚粉)」は、もち米を蒸してバラバラの状態で乾燥させ、それを煎ってから粉末にしたもの。焼きみじん粉に比べると香ばしさがやや強い。
「寒梅粉」は焼きみじん粉のなかでもとりわけ薄く延ばして焼いたものを、さらに細かいふるいにかけた上等品を指す。菓子処「ささま」の解説によれば、みじん粉をさらにふるいにかけた「上みじん粉」が寒梅粉であるとされている。
色味は基本的に白だが、市販品には赤(薄紅色)や緑(薄抹茶色)に着色したものも流通しており、揚げ物の衣として彩りを添える用途に使われている。
栄養面では、富澤商店が公開している成分表示によると、100gあたりエネルギー354kcal、たんぱく質4.1g、脂質0.4g、炭水化物83.4gとなっている。大部分が炭水化物で占められており、グルテンを含まない点はアレルギー対応の観点からも注目される。
用途
みじん粉が最もよく使われるのは和菓子の分野である。とくに干菓子の代表格である落雁(らくがん)や塩釜(しおがま)の材料として欠かせない。みじん粉に砂糖や和三盆を混ぜ合わせ、木型に詰めて押し固めるだけで、加熱せずとも上品な口溶けの菓子が出来上がる。アルファ化済みのでんぷんだからこそ実現できる製法である。
そのほか、豆菓子の製造にも利用される。豆にみじん粉をまぶして焼き上げることで、表面にサクサクとした食感が生まれる。玉あられや桜餅、おこしといった菓子にも、みじん粉あるいはその仲間の粉が活躍している。
和菓子以外の用途としては、料理用みじん粉がある。揚げ物の衣に使うと、通常のパン粉とは異なる細かな粒感が生まれ、軽い食感の揚げ上がりになる。料理屋向けには白・赤・緑の3色セットで販売されている製品もあり、見た目にも華やかな天ぷらや揚げ物に仕上げることができる。
意外な使い道として、花火の製造にもみじん粉は用いられている。花火の「星」と呼ばれる火薬の球をつくる際、水溶性の糊成分としてみじん粉を配合することで、火薬の粉末をまとめる役割を果たす。花火研究家・冴木一馬氏のサイトによれば、かつては花火専門のみじん粉屋が存在したが、現在は菓子用のものが転用されているという。日本食糧新聞の特集記事でも、菓子用途が縮小傾向にあるなか花火用途が一定の需要を支えていることが報じられている。
さらに、医薬品添加物としての利用もある。Wikipediaの微塵粉の項目には、医薬品添加物としての用途が記載されている。
主な原産国・産地
みじん粉の原料はもち米(一部うるち米)であり、国産品が主流を占める。とくに米どころとして知られる富山県、新潟県、秋田県などのもち米が重宝されている。明治18年創業の麻生圓兵衛商店(富山県)は、富山の良質な水稲もち米を原料として、寒梅粉やみじん粉をはじめとする各種米粉製品を製造し続けている老舗である。
富澤商店の「みじん粉 100g」の原材料表示を見ると、「もち米(国産)、ワキシースターチ(アメリカ)」と記載されている。ワキシースターチはもち種のとうもろこしから抽出されるでんぷんで、みじん粉の品質を安定させる副原料として配合されることがある。このように製品によっては、海外産の副原料が使われているケースもあるため、原材料表示の確認は重要だ。
もち米そのものの国内主要産地としては、北海道(きたゆきもちなど)、新潟県(こがねもちなど)、佐賀県(ヒヨクモチなど)が挙げられる。みじん粉の品質は原料米の粘りや風味に大きく左右されるため、各メーカーは産地や品種の選定にこだわりを持っている。
選び方とポイント
みじん粉を選ぶ際にまず確認したいのは、用途に合った種類かどうかである。和菓子に使うなら「焼きみじん粉」や「煎りみじん粉」を、落雁のようにとくになめらかな口溶けを求めるなら「寒梅粉」や「上早粉」を選ぶとよい。揚げ物の衣用として売られているみじん粉には、馬鈴薯でんぷんやコーンスターチが主原料のものもあるので、和菓子には適さない。パッケージの原材料表示を必ず確認しよう。
色も選択のポイントになる。白いみじん粉は和菓子全般に使え、着色されたもの(赤・緑など)は揚げ物の衣として色どりを添えたい場合に選ぶ。
国産もち米100%の製品は風味が豊かで、和菓子に仕上げたときの口溶けや香りが格段によい。京都ヤマグチの「上煎味甚粉」や、麻生圓兵衛商店の寒梅粉などは、国産もち米を100%使用している点を明記しており、品質にこだわりたい場合の目安になる。
粒子の細かさも重要な判断基準だ。京都の老舗菓子店・駿河屋の技術解説ページでは、「品質を見分ける確実な方法はなく、試作を繰り返して最良のものを選ぶしかない」と記されている。プロの和菓子職人でさえ試作を重ねるほど、粉の品質は微妙なものだ。家庭で使う場合は、信頼のおける製菓材料専門店の製品を選ぶのが堅実な方法といえる。
保存に関しては、開封後は湿気を吸いやすいため、密閉容器に入れて冷暗所で保管し、なるべく早く使い切ることが望ましい。
メジャーな製品とメーカー名
みじん粉を取り扱う代表的なメーカーと製品をいくつか紹介する。
富澤商店(TOMIZ)は、製菓・製パン材料の総合通販として広く知られている。「みじん粉 100g」をはじめ、少量パックから業務用まで幅広く展開しており、一般消費者にとって最も入手しやすい選択肢のひとつだ。
菊屋(きくや)は、「上味(みじん粉)250g」を販売している。もち米を蒸して餅にし、薄く延ばして白焼きにしたものを粉末にした製品で、ECサイトでも購入可能である。
京都ヤマグチは、和菓子材料の専門店として「上煎味甚粉」を販売している。国産もち米100%を使用し、きめ細かさに定評がある。楽天市場などのオンラインショップでも取り扱いがある。
麻生圓兵衛商店は、明治18年(1885年)創業の富山県の米粉メーカーである。寒梅粉、みじん粉、道明寺粉など、和菓子用米粉を幅広く製造しており、国産水稲もち米100%にこだわっている。業務用が中心だが、一部製品は通販サイト経由で一般消費者も購入できる。
伏繁商店は京都の和菓子原料メーカーで、国内産もち米を使った味甚粉を製造・販売している。自社サイトでは寒梅粉の地域別呼び名の一覧を公開するなど、和菓子の知識発信にも力を入れている。
藤林商店は大正14年(1925年)創業の京都の老舗和菓子材料専門店で、寒梅粉やみじん粉を含む製菓原料を幅広く取り扱っている。厳選された国産米を使用した製品が中心だ。
このほか、全国穀類工業協同組合が発行する「米粉ハンドブック」には、組合員として棚橋穀粉、八百重製粉、西脇商店、森田泰商店など各地の米粉メーカーが掲載されている。
歴史・由来
みじん粉の歴史を語るには、和菓子そのものの発展と米粉文化の変遷を振り返る必要がある。
日本で米を加工して粉にする技術は古くから存在しており、奈良時代には唐から伝わった唐菓子(からくだもの)の材料として米粉が使われていたとされる。ただし、みじん粉のように一度加熱してアルファ化させた粉が登場するのは、もう少し時代が下ってからのことだ。
みじん粉と深いかかわりを持つ和菓子の代表が落雁である。落雁は室町時代に中国・明朝との貿易(日明貿易)を通じて日本に伝わったとされる。中国では「軟落甘(なんらくかん)」と呼ばれる類似の菓子があり、朱舜水の『舜水朱氏談綺』(1708年成立)には、落雁が中国の軟落甘にあたるものだと記されている。当初は竹の筒を使って成形されていたが、江戸時代の明和年間(1764〜1772年)に木型が考案され、現在のような美しい型押しの落雁が生まれた。
落雁の主原料としてみじん粉が使われるようになった経緯は文献が少なく明確ではないが、江戸時代に加賀藩が製菓を大いに奨励したことにより、金沢を中心に和菓子文化が発展し、みじん粉をはじめとする各種米粉の製法が洗練されていったと考えられている。
「寒梅粉」の名の由来は、梅の花が咲く寒い時期(旧暦の1〜2月頃)に前年秋に収穫した新米を粉に加工していたことにちなむ。新米の風味が最もよい時期に仕込むという、季節に寄り添った製法が名前に反映されているわけだ。百万遍かぎや政秋や甘春堂といった京都の老舗和菓子店のサイトでも、同様の由来が紹介されている。
また、道明寺粉の製造過程との関連も見逃せない。道明寺粉は大阪府南河内郡の道明寺という寺で保存食として作られた「干飯(ほしいい)」に起源を持つ。この道明寺粉を製造する過程で出る微粉を煎って作ったものが「新引粉(しんびきこ)」であり、みじん粉と混同されやすいものの製法は異なる。Wikipediaの微塵粉の項目でも、新引粉とは別個の素材であることが明記されている。
近代に入ると、製粉技術の進歩によって粒度の均一化が進み、みじん粉の品質は安定していった。明治18年(1885年)に創業した麻生圓兵衛商店は、この時代から富山県で米粉製造を始めた企業のひとつであり、140年近い歴史を持つ。大正14年(1925年)に京都で創業した藤林商店は和菓子材料の流通を担い、こうした専門業者のネットワークが全国の和菓子文化を下支えしてきた。
現在、みじん粉の菓子用途は和菓子全体の消費減少に伴いやや縮小傾向にあるとされる一方、花火用途や料理用途で一定の需要を維持している。また、グルテンフリー食品への関心の高まりから、小麦粉の代替素材として米粉全般に注目が集まっており、みじん粉もその文脈で再評価される可能性がある。
