材料の名前
日本語では「竹の皮」あるいは「竹皮(たけかわ/たけがわ)」と呼ぶ。英語では “bamboo sheath” が一般的な訳語にあたる。中国語では「竹殻(zhú ké)」または「竹皮(zhú pí)」と表記される。筍(たけのこ)の外側を覆っている鞘状の葉のことで、竹が成長する過程で自然に剥がれ落ちる部分を指す。よく「竹の幹を削いだもの」と誤解されるが、正確には筍が伸びていく際に一枚ずつ脱落する皮(稈鞘)である。
特徴
竹の皮は、古くから天然の包装資材として日本の食文化を支えてきた素材である。その機能性の高さは、現代の科学的な分析でも裏付けられている。
まず注目すべきは抗菌性だ。竹の皮の表面にはろう質(ワックス状)の皮膜が形成されており、外部の細菌の侵入を防ぐ役割を果たす。竹にはフェノール類やタンニンなどの天然の抗菌成分が含まれていることが、林野庁や森林総合研究所の資料でも報告されている。おにぎりや羊羹を竹の皮で包むと日持ちがよくなるのは、こうした成分の働きによるところが大きい。
次に挙げたいのが調湿性である。竹の皮は撥水性を持ちながら、同時に適度な吸湿性も備えるという、一見矛盾する性質を兼ね備えている。食品を包んだ場合、余分な水分は吸い取り、内容物が乾燥し始めると逆に水分を放出して湿度を保つ。ラップフィルムで包んだおにぎりの表面に露がつき、べたつくことがあるが、竹の皮で包むとこの「露吹き」がほとんど起きない。通気性のある気孔構造がうまく機能するためだ。
さらに、丈夫で破れにくいという物理的な強度もある。薄い一枚の皮でありながら繊維が緻密に絡み合っていて、多少の力では裂けない。消臭効果も認められており、食品包装材としてはまさに万能選手といえる。
竹の皮の見た目にも触れておきたい。種類によって斑紋や色合いが異なり、包み方ひとつで表情が変わる。和菓子を竹の皮で包むと、素朴な風合いのなかに凛とした気品が漂い、手に取ったときの「いかにも本物」という存在感が生まれる。プラスチックや紙の模造品では再現できない質感であり、贈答品としての格を高める意味でも価値が高い。
食品包装に使われる竹の皮は、主にマダケ(真竹)、モウソウチク(孟宗竹)、ハチク(淡竹)の三種類から採取される。このうち、包装用として最も広く流通しているのがマダケの皮で、表面が滑らかで毛がなく、黒褐色の斑点が散在するのが目印となる。モウソウチクの皮は表面に褐色の毛が密生しており、乾燥すると割れやすい性質があるため、鹿児島のあくまきなど地域限定の用途で使われることが多い。ハチクの皮は全体にろう質の物質が付着していて白みを帯び、薄手で繊細な風合いがある。
用途
お菓子の分野における竹の皮の用途は、大きく二つに分けられる。
一つ目は「包装材」としての利用だ。羊羹、団子、おはぎなど、完成した和菓子を竹の皮で包んで商品とするもので、歴史も古い。竹の皮がもたらす抗菌性と調湿性のおかげで、菓子の品質を保ちながら見た目にも風情ある仕上がりとなる。羊羹の竹皮包みは、その典型例といえるだろう。
二つ目は「調理資材」としての利用である。ちまきやあくまきのように、竹の皮でもち米や餅を包んだまま蒸したり煮たりする調理法がこれにあたる。竹の皮は熱にも強く、加熱調理中に破損しにくい。蒸し上がったとき、竹の皮のかすかな香りが菓子に移り、独特の風味を添える効果も見逃せない。
和菓子以外にも、おにぎり、鯖寿司、精肉の包装、弁当の容器など、日本の食文化のさまざまな場面で竹の皮は活躍してきた。近年は環境意識の高まりからプラスチック削減の動きが広がり、繰り返し洗って使える天然素材として竹の皮が改めて注目を集めている。
主な原産国と産地
竹の皮が採れる竹そのものは、アジアを中心に世界の熱帯・温帯地域に広く分布している。食品包装に使われる竹の皮の供給元としては、中国が圧倒的なシェアを占める。日本国内で流通している竹の皮の多くは中国産であり、とらや(虎屋)が竹皮包羊羹に使用している「石膏竹(せっこうちく)」も中国産の品種である。
一方、日本国内でもマダケを中心に竹の皮の採取は行われている。岐阜県可児市の吉田包装店は、創業から約90年にわたり国産竹皮の加工を手がける老舗で、東海地方では最後の竹皮専門の職人ともいわれる。岡山県高梁市に本社を構える株式会社松本は、竹の皮を扱って100年以上の歴史を持ち、竹皮容器を日本で初めて製品化した会社として知られる。ただし、国産の竹皮は採集者の高齢化や担い手不足により年々生産量が減少しており、中国産に比べて価格も高い。竹の皮は毎年6月中旬から7月上旬にかけての梅雨の時期に落ちるため、採集期間が限られることも流通量を制約する要因となっている。
選び方とポイント
竹の皮を購入する際、まず確認したいのはサイズである。用途によって必要な大きさが異なり、おにぎりを包む程度であれば幅12~15センチほどの中サイズで十分だが、羊羹やちまきを包むなら幅15センチ以上の大きめのものが使いやすい。販売時にはkg単位でまとめて袋詰めされている場合が多く、枚数は竹の皮の厚みや大きさによってばらつきがある。
次に、表面の状態をよく観察することが大切だ。マダケの皮であれば、黒褐色の斑点が自然に散在し、表面が滑らかで毛がないものが上質とされる。割れやヒビが入っているもの、カビが生えているもの、極端に変色しているものは避けたほうがよい。乾燥状態で販売されることがほとんどなので、使用前には水に20~30分ほど浸して柔らかく戻す必要がある。ぬるま湯を使えば戻す時間を短縮できる。
国産品と輸入品の違いにも目を向けたい。国産の竹の皮は色合いが自然で、竹本来の香りが豊かである。輸入品のなかには漂白や着色が施されているものもあるため、食品に直接触れる用途で使うなら、信頼できるメーカーの製品を選ぶのが無難だろう。
富澤商店(TOMIZ)やcotta(コッタ)といった製菓材料の専門店では、家庭用に小分けされた竹の皮を手軽に購入できる。業務用であれば、株式会社松本が展開する「BAMLEE(バンリ)」ブランドや、竹虎(虎斑竹専門店)のオンラインショップなどが選択肢に入る。
メジャーな製品とメーカー名
竹の皮を使った和菓子は全国各地に存在する。代表的な製品をいくつか紹介したい。
まず外せないのが、とらや(虎屋)の「竹皮包羊羹」だ。室町時代後期に京都で創業した老舗中の老舗であり、竹皮で羊羹を包んでいた記録は元禄15年(1702年)の古文書にまでさかのぼる。現在も「夜の梅」をはじめとする練羊羹を竹の皮に包んで販売しており、贈答品の定番として根強い人気がある。
岩手県奥州市の回進堂が手がける「岩谷堂羊羹 本竹皮包」も、竹の皮を使った和菓子の代表格だ。延宝年間(1673~1681年)に伊達藩・岩谷堂城の城主が奨励したのが始まりとされ、300年以上の歴史を持つ。本煉、黒煉、くり、ゆずなど複数の味を竹の皮で包んだ商品が展開されている。
島根県津和野町の山田竹風軒本店が作る「源氏巻」も、竹皮と縁の深い銘菓だ。明治18年(1885年)の創業以来、薄いカステラ生地で小豆餡を巻いたこの菓子は、かつて竹の皮で包んで売られていた。津和野藩の危機を救った献上品がルーツという言い伝えもあり、津和野を代表する土産物として親しまれている。
南九州に目を向けると、鹿児島県の「あくまき」が挙げられる。灰汁に浸したもち米を孟宗竹の皮で包み、さらに灰汁で長時間煮込む独特の製法で作る餅菓子で、端午の節句に欠かせない存在だ。関ヶ原の戦い(1600年)の際、薩摩の島津義弘が日持ちのする兵糧として持参したのが始まりとも伝えられる。鹿児島県内の多くの和菓子店や食品メーカーが製造しており、特定の一社というよりは地域全体の伝統食として根付いている。
竹の皮そのものを販売する主要な事業者としては、先述した株式会社松本(岡山県)、吉田包装店(岐阜県)、竹虎(高知県)のほか、坂商店(大阪府)などがある。富澤商店では家庭向けに10枚入りの小パックを扱っており、ちまき作りの季節になると需要が高まる。
歴史・由来
竹の皮が食品の包装に使われ始めた正確な時期は、実のところわかっていない。ただし、株式会社松本の資料によれば、日本書紀にも竹の皮に関する記述が見られるとされており、古代から身近な素材として活用されていた可能性がある。竹は日本列島に自生する植物であり、身の回りにある大きな葉状のものを食べ物の包みに使うという発想は、ごく自然に生まれたものだったのだろう。
菓子の包装に竹の皮が使われていたことを示す文献としては、江戸時代に刊行された図説書『人倫訓蒙図彙(じんりんきんもうずい)』(1690年)が挙げられる。京都の商人や職人を紹介するこの書物には「竹皮屋」の項目があり、「草履、笠、雪駄の表、其外菓子を包也」と記されている。つまり17世紀末の京都には、竹の皮を専門に扱う商売が成り立っていたことになる。
さらに、とらや(虎屋)の文庫に残る元禄15年(1702年)の記録には「やうかん六棹かわニツヽミ入」という記述があり、羊羹を竹の皮で包んで納品していた様子がうかがえる。寺島良安が編纂した図説百科事典『和漢三才図会』(1712年自序)にも、竹皮で包まれた羊羹や外郎餅の図が収録されている。これらの資料から、少なくとも300年前には竹の皮が菓子の包装材として広く普及していたことが確認できる。
江戸時代の後期になると、竹皮は庶民の暮らしにもいっそう浸透していく。歌川広重の錦絵「太平喜餅酒多多買(たいへいきもちさけたたかい)」(1843~1846年頃)には、竹の皮で胴体を表現された団子や、竹皮の武者装束をまとった羊羹の姿がユーモラスに描かれている。食品の包装だけでなく、草履の材料や台所の敷物など、さまざまな形で日常に溶け込んでいた竹の皮は、絵師たちの想像力をも刺激する身近な存在だったのだ。
しかし、昭和30年代(1955年以降)に入ると、竹の皮を取り巻く状況は大きく変わる。紙製の竹皮模造品やプラスチックトレー、ラップフィルムの登場により、本物の竹の皮は急速に需要を失った。安価で衛生管理がしやすい工業製品に押され、竹の皮の採集業者も減少の一途をたどった。
ところが近年、状況に変化の兆しが見えている。プラスチックごみによる環境汚染が世界的な課題となるなか、天然素材で繰り返し使え、最終的には土に還る竹の皮が「サステナブルな包装材」として再評価されつつある。竹虎(虎斑竹専門店、高知県須崎市)は、国産竹皮の魅力を積極的に発信しており、吉田包装店(岐阜県可児市)も全国の竹林管理団体と連携して竹皮の安定供給を目指す取り組みを進めている。
竹の皮が担ってきた役割は、単なる包装にとどまらない。食べ物を守り、おいしさを長持ちさせ、見た目に風情を添える。そこには、自然の恵みを余すことなく活かそうとしてきた先人たちの知恵が凝縮されている。和菓子づくりにおいて竹の皮は、味そのものには直接関わらない脇役のようでいて、実は菓子の価値を何段階も引き上げる重要な存在だ。
