材料の名前
和名は「落花生(らっかせい)」。植物学上の標準和名は「ナンキンマメ(南京豆)」で、食用の種子部分を指して「ピーナッツ」とも呼ばれる。学名は Arachis hypogaea で、1753年に植物学者カール・フォン・リンネが命名した。種小名の hypogaea はギリシャ語で「地下の」を意味し、土の中で実をつけるこの植物の生態を表している。
英語圏では peanut のほか、groundnut(グラウンドナッツ)や earthnut(アースナッツ)という呼び名がある。フランス語では arachide(アラシッド)、ドイツ語では Erdnuss(エーアトヌス)、スペイン語では cacahuete(カカウエテ)と呼ぶ。中国語では「花生(ファシォン)」が一般的で、「落花生(ルゥォファシォン)」とも表記される。薬膳の世界では「長生果(ちょうせいか)」という美名も使われる。
日本国内でも地域によって名前が異なり、沖縄では「ジーマーミ(地豆)」、鹿児島では「だっきしょ」、長崎では「ドーハッセン」と呼ばれるなど、各地に根付いた多彩な呼称が残っている。
特徴
落花生は、マメ科マメ亜科ラッカセイ属に分類される一年草である。名前に「ナッツ」と付くものの、植物学的にはナッツ(木の実)ではなく、あくまで豆の仲間にあたる。
最大の特徴は、その実のでき方にある。夏場に黄色い小さな花を咲かせた後、受粉を終えた子房柄(しぼうへい)が地面に向かって伸び、土中に潜り込んでから莢(さや)をつくる。つまり、花が咲くのは地上だが、実が育つのは地下という珍しい仕組みで、これを「地下結実性」と呼ぶ。「落花生」という名前は、まさにこの「花が落ちて実が生まれる」様子に由来する。
草丈は25~50センチメートルほどで、莢の中には通常1~2粒の種子が入っている。品種は大きく分けて、そのまま食べるのに向いた大粒種と、チョコレートコーティングなどの加工に適した小粒種がある。日本国内の代表的な品種としては、千葉半立(ちばはんだち)、ナカテユタカ、Qなっつなどが知られる。千葉半立はコクのある甘みと香ばしさが持ち味で、国産落花生の最高級品種とされる。Qなっつは比較的新しい品種で、渋皮が薄く甘みが強いため、そのまま食べても渋みが少ないと評判を集めている。
栄養面では、100gあたりのタンパク質が約25g、脂質が約47gと高カロリーな食材である。ただし、この脂質の約80%は不飽和脂肪酸で占められており、内訳はオレイン酸が約50%、リノール酸が約30%となっている。ビタミンEやナイアシン(ビタミンB3)、カリウム、マグネシウムといったビタミン・ミネラル類も豊富に含む。渋皮にはポリフェノールの一種であるレスベラトロールが含まれるため、渋皮ごと食べる方が栄養を効率よく摂取できるとされる。
用途
お菓子の世界において、落花生は実に幅広い形で活躍している原材料である。
まず代表的なのが、炒り落花生やバターピーナッツなど、シンプルに加工したおつまみ・おやつだろう。塩味をつけて軽く炒っただけでも十分においしく、古くから日本の家庭で親しまれてきた。
和菓子の分野では、落花生を砂糖や味噌で絡めた豆菓子が定番である。黒糖ピーナッツや味噌ピーナッツは、素朴ながら奥深い味わいで根強い人気を保っている。節分の豆まきに炒り落花生を使う地域もあり、北海道や東北、信越地方では大豆の代わりに落花生を撒く習慣がある。
洋菓子の分野では、ピーナッツチョコレートが広く知られている。刻んだピーナッツやホールのピーナッツをチョコレートでコーティングした製品は、子どもから大人まで世代を問わず愛されるロングセラーだ。焼き菓子やクッキーの生地に砕いた落花生を混ぜ込む使い方や、ピーナッツクリームをフィリングにしたパイやタルトなども人気がある。
加工品としては、ピーナッツバターの存在感が大きい。アメリカでは食卓の定番として日常的に消費されており、パンに塗るだけでなく、ソースやドレッシングの材料、製菓材料としても使われている。ピーナッツバターを生地に練り込んだクッキーは、アメリカンベイキングの定番レシピのひとつである。
さらに、米菓(せんべい)の世界でも落花生は欠かせない脇役を務めている。亀田製菓の「亀田の柿の種」に入っているピーナッツは、ピリ辛の柿の種との組み合わせで知られ、柿の種とピーナッツの比率は7対3が基本配合とされている。
そのほか、落花生から搾った落花生油(ピーナッツオイル)は、揚げ物に使うと香ばしい風味が加わるため、中華料理やアジア料理で重宝される。沖縄の伝統菓子「ジーマーミ豆腐」は、落花生を水で戻してすりつぶし、でんぷんで固めたもので、もちもちとした食感が特徴的な郷土の味覚である。
主な原産国・生産国
落花生の原産地は南米大陸、現在のボリビア・ペルー・ブラジルにまたがるアンデス山麓の地域とされている。
現在の世界生産量を国別に見ると、1位は中国で、世界全体の約3~4割を占める圧倒的な規模を誇る。2位がインド、3位がナイジェリアと続き、この上位3カ国だけで世界の生産量のおよそ6割に達する。4位以下にはアメリカ、スーダン、インドネシアなどが並ぶ。
日本国内の生産量は世界的にはごくわずかで、流通する落花生の約9割が輸入品である。国内生産の約8割を千葉県が占めており、特に八街市(やちまたし)は「落花生の里」として全国的に名高い。千葉県に次ぐ産地は茨城県で、この2県を合わせると国内生産のおよそ9割以上をカバーする。千葉県では明治9年(1876年)から栽培が始まり、火山灰土壌で水はけのよい関東ローム層の土地が落花生栽培に適していたことから、一大産地に成長した。
選び方とポイント
落花生を選ぶ際にまず確認したいのは、殻の状態である。殻付きのものは、振ったときにカラカラと軽い音がするものが乾燥状態のよい証拠で、殻の表面に目立ったシミやカビがなく、しっかりと硬さのあるものを選ぶとよい。持ったときに不自然に軽いものは、中身が痩せている可能性がある。
むき身のピーナッツを選ぶ場合は、粒の大きさが揃っていて、表面の渋皮にツヤがあるものが新鮮な目安になる。変色したり、しなびた印象のある粒が混じっている場合は、鮮度が落ちていることが多い。
お菓子づくりの材料として使う場合、用途に応じて「素煎り(すいり)」「生」「味付き」のいずれかを選ぶことになる。チョコレートコーティングやクッキー生地への練り込みには、味のついていない素煎りタイプが扱いやすい。和菓子の豆菓子には生の落花生から自家焙煎するとより香ばしく仕上がる。
保存のポイントは、湿気と酸化を避けることに尽きる。落花生は脂質を多く含むため、空気に触れた状態で高温多湿の環境に置くと酸化が進み、風味が急速に劣化する。開封後は密閉容器に移し替え、冷暗所で保存するのが基本。長期間保存したい場合は、冷凍保存が有効で、密閉袋に入れて冷凍庫に入れれば1カ月程度は風味を保てる。
国産と外国産の違いも意識しておきたい。千葉県産の千葉半立をはじめとする国産品は、粒が大きく甘みとコクが豊かな反面、価格は外国産の数倍になることも珍しくない。日常使いのお菓子づくりには外国産、ここぞというときの贈答用や特別なレシピには国産と、使い分けるのもひとつの手だろう。
メジャーな製品とメーカー名
落花生を原材料に使ったお菓子は、日本国内だけでも数え切れないほどの種類がある。ここでは、スーパーやコンビニで手に取りやすい代表的な製品をいくつか挙げておく。
亀田製菓の「亀田の柿の種」は、柿の種とピーナッツの組み合わせで国民的なおやつの座を確立している米菓である。ピーナッツなしの「柿の種だけ」や、ピーナッツを増量した「たっぷりピーナッツ」など、バリエーション展開も豊富だ。
でん六は、「でん六豆」をはじめとする豆菓子の老舗メーカーで、ピーナッツチョコレートやポリッピーなど落花生を使った菓子を数多く手がけている。「ピーナッツチョコ(ブロック)」はロングセラー商品として知られる。
ピーナッツバターの分野では、アメリカ生まれの「SKIPPY(スキッピー)」が輸入ブランドとして日本でも高い知名度を持つ。1932年にアメリカで発売されて以来、世界中で親しまれている。日本国内メーカーでは、ソントンの「ピーナッツクリーム」が学校給食でも使われる定番のスプレッドとして認知度が高い。
千葉県八街市を中心とした産地には、落花生専門の菓子メーカーや販売店が集まっている。鈴市商店や益田落花生店、池宮商店(豆処いけみや)といった専門店は、殻付き落花生から落花生を使った焼き菓子、甘納豆まで多彩な商品を展開しており、千葉土産の定番となっている。
沖縄土産として人気のジーマーミ豆腐も、落花生を主原料とした菓子(甘味)のひとつ。タレをかけてデザート感覚で食べるタイプが近年注目を集めている。
歴史・由来
落花生の歴史は、はるか古代にさかのぼる。原産地は南アメリカ大陸のアンデス山麓、現在のボリビアからペルーにかけての地域と考えられている。ペルーのリマ近郊にある紀元前2500年頃の遺跡からは、大量の落花生の殻が出土しており、少なくともこの時代にはすでに人々の暮らしのなかに落花生が存在していたことがわかる。古代アンデス文明においては、落花生を象った土器も発見されており、食糧としてだけでなく文化的にも重要な位置を占めていたようだ。
紀元前6世紀頃までにはメキシコまで栽培が広がり、アステカ族は落花生を食糧というよりも薬として扱っていたと、16世紀のスペイン人修道士の記録に残されている。
16世紀の大航海時代に入ると、落花生はヨーロッパ人の手によって世界各地へ運ばれた。ポルトガル人はブラジルから西アフリカへ、さらにインドへと広め、スペイン人は南ヨーロッパや北アフリカへ持ち込んだ。ただし、ヨーロッパの気候は落花生の栽培にあまり適さなかったこともあり、ヨーロッパ本土では大規模な栽培は定着しなかった。
一方、温暖な気候をもつアフリカやアジアの各地では急速に広まった。アフリカでは重要な食糧作物として根付き、中国やインドでも盛んに栽培されるようになり、やがて世界有数の生産国へと成長していく。
日本への伝来は、1706年(江戸時代・宝永3年)に中国経由で渡ってきたのが最初とされる。当時は「南京豆」と呼ばれたが、広く普及するには至らなかった。本格的な栽培が始まったのは明治時代に入ってからである。1871年(明治4年)、神奈川県大磯町の農家・渡辺慶次郎が横浜の親戚から落花生の種を譲り受けて栽培を試みたのが、日本における落花生栽培の嚆矢(こうし)とされている。花は咲くのに地上に実がならないことを不審に思った渡辺が、足で株を蹴ったところ、地中から莢が出てきて初めて地下結実性に気づいたという逸話が伝わっている。
その後、明治10年頃から横浜の菓子店で殻付き落花生が販売されるようになり、商品としての道が開けた。千葉県では1876年(明治9年)から栽培が始まり、関東ローム層の火山灰土壌が栽培に適していたことから生産が拡大。大正から昭和にかけて品種改良が進められ、千葉県は不動の国内生産量第1位の座を確立していった。
アメリカでは、18世紀以前は落花生を家畜の飼料や黒人奴隷の食糧として位置づけていたが、南北戦争(1861年~1865年)をきっかけに食糧事情が悪化し、白人社会でも落花生が食べられるようになった。1895年にはジョン・ハーヴェイ・ケロッグがピーナッツバターの特許を申請し、1932年にはアメリカを代表するブランド「SKIPPY」が発売される。二度の世界大戦を経て、安価で栄養豊富なピーナッツバターはアメリカの食文化に深く根を下ろし、現在に至るまで消費量世界トップクラスを維持している。
こうして見ると、落花生は南米の古代文明に端を発し、大航海時代を経て世界へ広まり、各地の食文化のなかで独自の進化を遂げてきた食材だといえる。日本のお菓子文化においても、炒り豆から柿の種のお供、チョコレート菓子、そしてピーナッツバターまで、なくてはならない存在として今なお私たちの暮らしに溶け込んでいる。
