材料の名前
和名はダイズ(大豆)。学名は Glycine max (L.) Merrill で、マメ科ダイズ属に分類される一年草である。英語では soybean(アメリカ英語)、soya bean(イギリス英語)と表記され、フランス語では soja、ドイツ語では Sojabohne、中国語では「大豆(ダードウ/dà dòu)」、韓国語では「콩(コン)」と呼ばれる。英名の soybean は、醤油を意味する soy が語源となっており、大豆が醤油の主原料であることに由来している。
特徴
大豆は「畑の肉」と称されるほどたんぱく質を豊富に含む穀物で、乾燥した黄大豆100gあたり約33.8gものたんぱく質が含まれる。この数値は鶏むね肉(100gあたり約24.4g)を上回る水準だ。たんぱく質以外にも脂質、食物繊維、カルシウム、鉄分、ビタミンB群、そして女性ホルモンに似た働きを持つとされる大豆イソフラボンなど、多彩な栄養素を備えている。
種皮の色によって大きく三つに分けられる。もっとも流通量が多いのが黄白色から黄色の「黄大豆」で、豆腐や味噌、醤油、きな粉など幅広い食品に加工される。淡い緑色から濃い緑色の「青大豆」は、香り高いきな粉や煮豆に向く。そして黒い種皮を持つ「黒大豆」は、おせち料理の煮豆でおなじみだ。このほか茶色や赤色、斑紋の入った地方品種も各地に残っている。
お菓子づくりの観点から注目すべきは、大豆が持つ自然な甘みと香ばしさである。炒って粉にしたきな粉は、和菓子に欠かせない風味を与え、大豆を丸ごと粉砕した大豆粉は小麦粉の代替として低糖質スイーツの材料になる。大豆は小麦と比較して糖質が少ないため、糖質制限を意識した菓子開発でも重宝されている。
用途
お菓子の原材料としての大豆は、実にさまざまな形に姿を変えて使われている。
まず、和菓子の世界できな粉の存在は欠かせない。炒った大豆を挽いて粉にしたきな粉は、わらび餅やくず餅にまぶしたり、安倍川餅の衣として使われたりする。埼玉県の銘菓「五家宝(ごかぼう)」は、もち米のパフを水飴で棒状に固め、周囲にきな粉をたっぷりとまぶした伝統菓子で、きな粉の風味を存分に楽しめる。京都の生八ッ橋にきな粉を振ったタイプや、きな粉を練り込んだ餅菓子なども広く親しまれてきた。
豆そのものを使う菓子としては、炒り大豆がある。節分に食べる福豆はその代表格で、素朴ながら大豆の旨味を直接味わえる。炒り大豆に砂糖衣をかけた甘納豆風の豆菓子や、チョコレートでコーティングしたものも、手軽なおやつとして根強い人気がある。
洋菓子の分野でも大豆の出番は増えている。大豆粉を生地のベースにした焼き菓子は、グルテンフリー対応のスイーツとして需要が高まっている。大塚製薬が販売する「SOYJOY(ソイジョイ)」は、小麦粉を使わず大豆をまるごと粉にした生地にフルーツやナッツを練り込んで焼き上げた栄養食品バーで、手軽な間食として定着した。豆乳を使ったプリンやアイスクリームも、乳製品を控えたい人や植物性食品を好む層に支持されている。
このように、大豆はきな粉、大豆粉、炒り大豆、豆乳といった多様な加工形態を通じて、和菓子から洋菓子、健康志向のスナックまで幅広くカバーする万能素材である。
主な原産国・生産国
大豆の原産地は中国東北部を中心とする東アジア一帯とされ、数千年前から栽培が行われてきた。現在の世界における生産規模は年間約3億5,000万トン以上に達し、穀物の中でもトップクラスの生産量を誇る。
生産量の国別順位を見ると、ブラジルが世界最大の大豆生産国で、近年はアメリカを上回る生産量を記録している。2022年のFAO統計によれば、ブラジルの生産量は約1億2,070万トン、アメリカが約1億1,638万トン、3位にアルゼンチンが約4,386万トンで続く。4位は大豆発祥の地である中国(約2,028万トン)、5位にインドが入る。南北アメリカ大陸の3カ国だけで世界全体の約8割を占める構図が長年続いている。
日本における大豆の国内自給率は3~4%程度にとどまり、消費量の大半を輸入に頼っている。輸入先はアメリカが最も多く、次いでブラジル、パラグアイなどが続く。ただし、国産大豆はほぼ全量が食品用に仕向けられているため、製油用を除いた食用自給率は2割強にまで上がる。国内の主要産地は北海道が最大で、東北地方、関東地方、北陸地方、九州地方にも産地が広がっている。
選び方とポイント
お菓子づくりに使う大豆を選ぶ際、まず意識したいのは用途に合った加工形態を選ぶことだ。きな粉として使うなら、炒りの深さや粒度で風味が変わるため、香りが立ちやすい国産青大豆のきな粉は上品な風味を楽しめる一方、黄大豆のきな粉はコクのある味わいに仕上がる。大豆粉として焼き菓子に使う場合は、生の大豆を粉にしたタイプと、加熱処理済みのタイプがあるので注意が必要だ。生の大豆粉は青臭みが残りやすいため、お菓子には加熱済みのものが扱いやすい。
乾燥大豆を直接使う場合は、粒の大きさが揃っているもの、表面にシワや割れが少ないもの、色つやが良いものを選ぶとよい。国産大豆はたんぱく質含有量が比較的高く、ふっくらとした食感に仕上がりやすい傾向がある。用途によって品種の適性も異なり、たとえば大粒で甘みのある品種は煮豆や甘納豆に向き、小粒品種は炒り豆や納豆向きとされる。
国内の主な品種としては、九州・中国・四国・近畿・東海地方で栽培される「フクユタカ」、北陸地方に多い「エンレイ」、北海道で広く作付けされる「ユキホマレ」や「トヨマサリ」銘柄の品種群などがある。これらの品種はそれぞれ味や食感に個性があるため、菓子の仕上がりイメージに合わせて選びたい。
また、遺伝子組み換え大豆を避けたい場合は、パッケージの表示を確認することが大切だ。国産大豆は遺伝子組み換え品種の商業栽培が行われていないため、国産品を選ぶのが確実な方法の一つといえる。
メジャーな製品とメーカー名
大豆を使った菓子製品は、伝統的な豆菓子から現代的な栄養食品バーまで多岐にわたる。
豆菓子の分野では、でん六(山形県)が老舗として広く知られている。節分の福豆や、落花生・大豆を使った各種豆菓子を展開し、鬼の面付き節分豆は季節の風物詩にもなっている。同じく春日井製菓(愛知県)はグリーン豆やピーナッツを使った豆菓子を多数ラインナップしており、スーパーやコンビニで手に取りやすい。徳永製菓(香川県)は明治2年創業の豆菓子専門メーカーで、大豆やそら豆を独自の製法で仕上げている。
きな粉を前面に押し出した菓子では、埼玉県熊谷市の堀内製菓や埼玉製菓が手がける「五家宝」が代表格だ。もち米パフを水飴で固め、国産きな粉をまぶしたこの菓子は、明治時代から続く埼玉の銘菓として親しまれている。
現代的な製品としては、大塚製薬の「SOYJOY(ソイジョイ)」が挙げられる。大豆粉を生地に使い、フルーツやナッツを組み合わせた焼き菓子タイプの栄養食品バーで、低GI食品としても注目されている。「プラントベース」シリーズでは乳や卵も使わない仕様となっており、植物性食品への関心の高まりに対応した商品展開がなされている。
このほか、きな粉を使ったクッキーやラスク、豆乳を使ったプリンやチョコレートなど、大豆由来素材を取り入れた菓子は各メーカーから続々と登場しており、健康志向の高まりを背景に市場は拡大傾向にある。
歴史・由来
大豆の栽培史は非常に古く、原産地とされる中国では数千年前にはすでに栽培が始まっていたと考えられている。中国の古い文献として、紀元前の記録に大豆に関する記述が見られ、米、麦、粟、黍(きび)とともに「五穀」の一つとして重んじられてきた。
日本への伝来は、弥生時代初期に朝鮮半島を経由してもたらされたとする説が有力だ。稲作の伝播とともに大豆も渡来し、当初は煮豆や炒り豆として食べられていたと推測されている。奈良時代に入ると中国との交流が活発になり、味噌や醤油の前身にあたる穀醤(こくびしお)としての利用が始まった。712年に成立した「古事記」には、大宜都比売神(オオゲツヒメノカミ)の体から五穀が生まれる神話が記されており、大豆もその一つとして登場する。「大豆」という名前の由来について、大きさが理由というわけではなく、「大いなる豆」つまり「偉大な豆」「もっとも大切な豆」という意味で名付けられたとされる。かつて「豆」と言えば大豆を指すほど、日本人の暮らしに不可欠な存在だったのだ。
国内で大豆が広く栽培されるようになったのは鎌倉時代以降のことで、仏教の普及にともなう肉食制限の影響もあり、貴重なたんぱく源として重宝された。豆腐、納豆、味噌、醤油といった大豆加工食品が庶民の食卓に定着していくのは、室町時代から江戸時代にかけてのことである。
菓子の歴史に目を向けると、きな粉を使った和菓子は古くから存在する。安倍川餅は、徳川家康が駿府(現在の静岡市)で食したという伝承が残る菓子で、搗きたての餅にきな粉をまぶしたものだ。五家宝の原型は江戸時代後期に生まれたとされ、埼玉県の熊谷や加須の名物として受け継がれてきた。節分の炒り大豆(福豆)も、邪気を払う儀式とともに古くから食されてきた豆菓子の原点といえるだろう。
一方、海外に目を転じると、大豆がアジア以外の地域で本格的に栽培されるようになったのは比較的新しく、欧米での大規模栽培は20世紀に入ってからである。とりわけアメリカでは、20世紀前半に油脂原料および飼料用として大豆栽培が急速に拡大し、やがてブラジルやアルゼンチンでも大規模な生産が始まった。現在ではブラジルがアメリカを抜いて世界最大の大豆生産国に成長している。
近年は、大豆の持つ栄養価や環境負荷の低さが世界的に再評価され、プラントベース(植物由来)食品の原材料としての需要も急増している。お菓子の領域でも、大豆粉や豆乳を活用したスイーツの開発が進み、大豆は伝統の枠を超えた新たな可能性を見せている。
