材料の名前
日本語では「十穀玄米(じゅっこくげんまい)」と呼ばれる。「十穀米(じゅっこくまい)」と近い意味合いで使われることもあるが、十穀玄米は玄米をベースに10種類の穀物をブレンドしたものを指し、精白米ベースの十穀米とは組成がやや異なる。
英語圏では定まった訳語があるわけではないものの、「Ten-Grain Brown Rice」あるいは「Ten-Grain Rice Blend」と表記されることが多い。フランス語では「Riz complet aux dix céréales」、中国語では「十穀糙米」と表現される場合がある。いずれも「10種類の穀物を配合した玄米」という意味合いで、海外の健康食品売り場やアジア食材店でも少しずつ認知が広がっている。
特徴
十穀玄米は、もち玄米やうるち玄米を主体としながら、もち赤米、もち黒米、黒大豆、小豆、はとむぎ、もちきび、もちあわ、うるちひえなど計10種の穀物を組み合わせた雑穀ブレンドである。製品によって配合される穀物の種類は多少異なるが、「玄米+9種の雑穀」で合計10種とする構成が一般的だ。
最大の特徴は、穀物ごとに異なる栄養素を一度に摂取できる点にある。玄米はビタミンB1やB6、食物繊維を白米より多く含み、もちきびやもちあわはマグネシウムや鉄分に優れる。黒米にはポリフェノールの一種であるアントシアニンが含まれ、赤米にはカテキンやタンニンといった色素成分が存在する。はとむぎはたんぱく質やアミノ酸が豊富で、古くから薬膳食材としても利用されてきた。こうした多彩な穀物を一つにまとめることで、単一の穀物だけでは補いきれない栄養素を効率よく取り入れられる。
食感の面でも魅力がある。もち種の穀物が複数含まれるため、炊飯すると全体にもちもちとした弾力が生まれ、冷めても食感が損なわれにくい。また、黒米や赤米の色素によって炊き上がりがほんのり紫がかった色合いになり、見た目にも華やかになる。製菓材料として使う場合には、この独特の色味とプチプチした歯ざわりが、お菓子に自然な風合いと食感のアクセントを加えてくれる。
栄養成分の目安としては、富澤商店が販売する「十穀玄米スティック」の場合、100gあたりエネルギー353kcal、たんぱく質9.9g、脂質4.1g、炭水化物71.1gとなっている。白米100gあたりのたんぱく質が約6.1gであることと比較すると、たんぱく質量が多い傾向にある。
用途
十穀玄米はもともと炊飯用の雑穀ブレンドとして開発されたものだが、お菓子づくりの素材としても幅広く活用されている。
まず、クッキーやビスコッティへの利用が代表的だ。十穀玄米を軽く煎ってから生地に練り込むと、穀物の香ばしさが際立ち、ザクザクとした歯ごたえのある焼き菓子に仕上がる。山梨県の信玄十穀屋では、十穀を使ったクッキーやパウンドケーキ、マドレーヌなどを製造販売しており、添加物を使わない素朴な焼き菓子として人気を集めている。
グラノーラやシリアルバーの材料としても相性がよい。オーツ麦やナッツ類と合わせてオーブンで焼き上げれば、朝食にもおやつにもなるヘルシーなスナックになる。甜菜糖やはちみつで甘みを加えることで、穀物本来の風味を損なわずに仕上げられる。
そのほか、おせんべいやおこし、ポン菓子の原料としても使える。十穀玄米を膨化(パフ化)加工すれば軽い食感のライスパフになり、チョコレートバーやキャラメルクランチのトッピングにも活用できる。玄米粉に加工してから薄力粉の一部に置き換えれば、パンケーキやマフィンにも応用可能だ。
製菓以外の用途にも触れておくと、白米に混ぜて炊くだけで手軽に雑穀ごはんが楽しめるため、家庭の日常食としての需要がもっとも大きい。おにぎりやお弁当に入れれば、冷めてももちもちとした食感が維持されるので、日常的に雑穀を取り入れたい人に向いている。
主な原産国
十穀玄米に使われる個々の穀物は、それぞれ異なる地域を原産とする。
玄米(もち玄米・うるち玄米)の原型である稲は、中国の長江中・下流域が原産地とされ、日本には縄文時代後期から弥生時代にかけて朝鮮半島や中国大陸を経由して伝わった。
もちきびはアジアや北アフリカ、南ヨーロッパで有史以前から栽培されてきた穀物で、日本へはあわやひえよりやや遅れて中国大陸から伝来したと考えられている。もちあわは日本でも縄文時代から栽培の痕跡があり、明治末期まで主食の一つであった。うるちひえの原産国はインドとされ、仏教伝来の経路を通じて日本にたどり着いたといわれている。
はとむぎの原産地は中国南部からインドシナ半島の一帯と推定されている。黒米は中国雲南地方が原産とされ、赤米は縄文時代晩期に中国大陸から日本に渡ったとされる古代米の一種である。黒大豆と小豆は東アジア原産のマメ科植物で、日本では古くから栽培されてきた。
現在、国内で流通している十穀玄米は、全種が国産原料で構成されている製品も多い。富澤商店の十穀玄米スティックは原料原産地がすべて国産と明記されており、国産にこだわる消費者から支持を得ている。一方、輸入原料を一部使用する雑穀ブレンドもあり、たとえばひえはインド産、アマランサスもインド産のものが流通している場合がある。購入の際には、パッケージの原料原産地表示を確認するとよい。
選び方とポイント
十穀玄米を選ぶ際に押さえておきたいポイントをいくつか挙げる。
一つめは原料の産地だ。国産原料100%の製品は、トレーサビリティ(生産履歴の追跡可能性)の面で安心感がある。パッケージ裏面の「原料原産地名」欄に産地が明記されているかどうかを確認するとよい。
二つめは穀物の構成内容である。ひと口に十穀玄米といっても、製品によって配合される穀物の種類は異なる。もち種の穀物が多い製品はもちもち感が強くなり、うるち種が中心の製品はあっさりとした仕上がりになる。お菓子に使う場合、もち種が多いブレンドは焼き上がりにしっとりした食感を出しやすく、うるち種中心のブレンドはサクサク・ザクザクした歯ざわりを活かしやすい。
三つめは個包装かどうかという点だ。富澤商店の十穀玄米スティックのように1回分ずつ小分けされた製品は、計量の手間が省けるうえ、湿気を防ぎやすい。製菓用途では少量ずつ使うことが多いため、個包装タイプのほうが扱いやすいだろう。
四つめはアレルギー表示の確認である。十穀玄米そのものには小麦は含まれないことが一般的だが、製品によっては同じ製造ラインで小麦を含む食品を製造している場合がある。特にアレルギー対応のお菓子を作る際には、コンタミネーション(意図しない混入)の注意書きまで目を通しておきたい。
五つめは賞味期限と保管方法だ。十穀玄米は玄米を含むため、精白米に比べると脂質がやや多く、保存状態が悪いと酸化しやすい。直射日光や高温多湿を避け、開封後はできるだけ早く使い切るか、密閉容器に移して冷暗所に保管するのが望ましい。
メジャーな製品とメーカー名
十穀玄米およびそれに近い雑穀ブレンド製品は、複数のメーカーから販売されている。ここでは代表的なものを挙げる。
富澤商店(TOMIZ)の「十穀玄米スティック」は、もち玄米を筆頭にもち白米、黒大豆、もち赤米、はとむぎ、もち黒米、小豆、もちきび、もちあわ、うるちひえの10種を国産原料のみでブレンドした製品だ。30g×6袋の個包装で、製菓材料専門店ならではのラインナップとして長く販売されている。製菓・製パンの材料として購入する人も多い。
はくばく(山梨県)は雑穀ごはんの分野で高い知名度を持つメーカーで、「おいしさ味わう十六穀ごはん」をはじめとする多彩な雑穀製品を展開している。十穀に限定した製品ではないが、発芽玄米や黒米、赤米、もちあわ、もちきびなど十穀玄米と共通する穀物を数多く含んでおり、製菓への転用にも適する。同社の公式サイトでは、雑穀を使ったクッキーのレシピも公開されている。
やずや(福岡県)の「発芽十六雑穀」は、累計愛用者数175万人を超えるロングセラー商品だ。16種類の国産穀物を発芽させてからブレンドしている点が特徴で、発芽によりGABA(ガンマアミノ酪酸)の含有量が高まるとされる。
ベストアメニティ(福岡県)は、日本で初めて「雑穀米」を商品化したメーカーとして知られる。十穀タイプから二十穀タイプまで幅広い構成の雑穀ブレンドを取り揃えており、業務用製品の供給も行っている。
信玄十穀屋(山梨県甲州市・信玄館内)は、十穀を使った焼き菓子を専門的に製造販売しているユニークな存在だ。十穀クッキー、十穀パウンドケーキ、十穀マドレーヌ、十穀スティックケーキなど、雑穀をふんだんに使い、添加物を加えない焼き菓子のラインナップを展開している。お菓子に十穀玄米を活用した製品の代表格ともいえる。
光永食品(奈良県)からも「十穀米」が販売されており、玄米と雑穀10種類をブレンドした構成になっている。
歴史・由来
十穀玄米を構成する雑穀の歴史は非常に古い。ベストアメニティの資料によれば、雑穀の主な起源はユーラシア大陸とアフリカ大陸にあり、紀元前3000年以前から栽培されてきたものが大半を占める。
日本における雑穀の記録は、最古級の歴史書にまでさかのぼる。「古事記」には稲、粟、麦、小豆、大豆の五穀の起源話が記され、「日本書紀」ではこれに稗を加えた六穀として登場している。このことからも、雑穀が古代から日本人の基本的な食料であったことがわかる。
考古学的な証拠はさらに古い。日本では縄文時代の遺跡からヒエやアワの種子が出土しており、これらの穀物は1万年以上にわたって日本列島で食されてきた可能性がある。弥生時代には中国大陸から稲作が本格的に伝わり、水田による米の栽培が始まったが、それ以前の主食はあくまで雑穀だった。
江戸時代中期の元禄のころ、上流階級や江戸の武士・町民のあいだで白米を食べる習慣が広がった。しかし、日本全体で見れば多くの人々が少量の白米にひえやあわを混ぜた雑穀飯を主食としていた。白米偏重の食生活は脚気の流行を引き起こし、「江戸患い」と呼ばれた。経験的にソバや麦、小豆を食べると症状が改善すると知られていたのは、雑穀に含まれるビタミンB1が脚気の予防に有効だったためである。
明治以降も雑穀は各地で栽培され続け、戦後まもなくの時期までは多くの日本人が日常的に食べていた。しかし、高度経済成長期に入ると主食は白米に一本化され、雑穀は「貧しい時代の食べ物」というイメージとともに食卓から姿を消していった。
雑穀が再び脚光を浴びたのは、健康志向が高まった2000年代に入ってからだ。ベストアメニティが日本で初めて「雑穀米」を商品化し、手軽に白米へ混ぜるだけで栄養価を補えるブレンド製品を世に送り出した。これをきっかけに、はくばくややずやなど複数のメーカーが参入し、雑穀米は広く一般家庭に浸透していった。
2023年は国連が定めた「国際雑穀年(International Year of Millets)」にあたり、世界的にも雑穀の栄養価値や持続可能な農業への貢献が再評価された。こうした流れのなかで、日本国内でも十穀玄米をはじめとする雑穀製品への関心は一段と高まっている。
製菓分野での雑穀活用は、この健康ブームの延長線上にある。砂糖やバターを控えめにしつつ穀物の風味と栄養を活かした「ギルトフリー(罪悪感のない)」なお菓子への需要が増すなかで、十穀玄米はクッキーやグラノーラ、おせんべいなどの原材料として存在感を高めている。信玄十穀屋のような専門店が登場したこと自体が、十穀玄米とお菓子の結びつきが深まっていることの証左といえるだろう。
