材料の名前

日本語では「押麦(おしむぎ)」と表記される。漢字の「押」は、製造工程でローラーを使って粒を押しつぶすことに由来する。英語では “pressed barley” や “rolled barley” と訳され、海外の食品パッケージにもこの名称が使われている。また、英辞郎などの辞書では “barley flake”(バーリーフレーク)という表記も見られ、薄く圧ぺんした形状をフレークにたとえた呼び方として通用する。ドイツ語では “Gerstenflocken”(ゲルステンフロッケン)、フランス語では “flocons d’orge”(フロコン・ドルジュ)がこれに近い表現にあたる。

原料は大麦(Hordeum vulgare)であり、大麦そのものは英語で “barley” と呼ばれる。押麦として流通する製品は大麦を加工した「精麦」の一種であるため、海外の店頭では大麦の加工品コーナーに並んでいることが多い。

特徴

押麦は、大麦の外皮を取り除いて精白した後、蒸気で加熱してやわらかくし、圧ぺんローラーで平たく押しつぶして乾燥させた加工穀物である。粒の中央に黒い筋(黒条線)が残るのが見た目上の大きな目印で、この黒条線の部分は食物繊維が集中している箇所にあたる。

食感面では、炊くとぷちぷち・もちもちとした歯ごたえが生まれ、噛みしめるほどに穀物らしいやさしい甘みが広がる。大麦はそのままでは硬くて吸水率が低いが、蒸気をあてて圧ぺんする加工を施すことで、短い炊飯時間でもふっくら仕上がるようになっている。この「押す」加工こそが押麦の名前の由来であり、加工前の状態である「丸麦」との違いでもある。

押麦の原料に使われる大麦は「うるち性」のもので、粘り気が少なくさらっとした炊きあがりになる。一方、近年人気が高まっている「もち麦」は「もち性」の大麦を使っており、粘りが強くもちもち感が際立つ。押麦ともち麦では、同じ大麦由来でありながら食感がかなり異なるため、お菓子づくりでは仕上がりのイメージに合わせて使い分けることが肝心だ。

栄養面でも注目すべき点がある。日本食品標準成分表(八訂)によれば、押麦(乾燥)100gあたりのエネルギーは約329kcal、たんぱく質は約6.7g、脂質は約1.5g、炭水化物は約77.8g。そのうち食物繊維の総量は約12.2gで、精白米(100gあたり食物繊維0.5g)と比較すると格段に多い。とりわけ水溶性食物繊維であるβ-グルカンを豊富に含んでいる点が、健康志向の消費者から評価される理由のひとつだ。はくばくの公表データによれば、押麦100g中のβ-グルカン含有量は約4.3gとされる。このβ-グルカンは、食後の血糖値上昇をゆるやかにしたり、コレステロール値に働きかけたりする機能が国内外の研究で報告されている。

ビタミン・ミネラルに関しては、ナイアシンやビタミンB6、銅、マグネシウムなどが比較的豊富に含まれる。一方でビタミンAやビタミンCはほとんど含まれないため、果物や野菜と組み合わせて使うと栄養バランスが整いやすい。

なお、大麦には小麦アレルギーの原因となるグルテンは含まれていない。ただし大麦特有のたんぱく質「ホルデイン」が含まれており、小麦アレルギーやセリアック病の方が反応する場合もあるため、アレルギーへの配慮は欠かせない。

用途

お菓子づくりにおける押麦の活躍の場は、思いのほか幅広い。

代表的なのが手作りグラノーラだ。オーブンで焼き上げる際にオートミールの代わりに押麦を使うと、より軽やかでぷちぷちとした食感のグラノーラに仕上がる。はちみつやメープルシロップ、ココナッツオイルをまぶしてナッツやドライフルーツと一緒にオーブンで焼けば、香ばしくザクザクしたグラノーラバーにもなる。

クッキーやビスコッティの生地に混ぜ込む使い方も定番だ。あらかじめゆでた押麦、あるいは乾燥のまま薄力粉の一部と置き換えて焼くと、ぷちぷちした歯ざわりが加わり、素朴で食べ応えのある焼き菓子になる。バナナやきなこなど和素材との相性もよく、ヘルシー系おやつの材料として取り入れる家庭も少なくない。

さらに、押麦をゆでてからヨーグルトやアサイーボウルのトッピングにする方法もある。プチプチした食感がアクセントになり、見た目にも変化がつくため、カフェメニュー風のデザートを自宅で楽しみたいときに重宝する。

お菓子以外では、麦ごはん(白米に混ぜて炊く)、サラダ、スープ、リゾットなど幅広い料理に使われている。麦とろごはんは昔ながらの定番メニューとして根強い人気がある。

主な原産国

押麦の原料である大麦は、寒冷・乾燥に強い作物で、熱帯地域を除いて世界各地で栽培されている。世界の大麦生産量ランキングでは、ロシアが最大の生産国で、続いてオーストラリア、ドイツ、フランス、カナダなどが主要な生産国として名を連ねる。

日本国内でも大麦は全国各地で栽培されている。食用に多く用いられる六条大麦の生産量は福井県が全国1位で、全体の約25%を占める。富山県や栃木県、茨城県、滋賀県なども主要産地だ。一方、ビール原料などに使われる二条大麦は、栃木県や佐賀県、福岡県が上位の産地となっている。

日本で流通する押麦は国内産のほか、アメリカ、カナダ、オーストラリアからの輸入大麦を原料にした製品もある。全国精麦工業協同組合連合会(全麦連)の情報によると、用途に適した品種が各国から輸入されている。

選び方とポイント

押麦を選ぶ際にまず確認したいのは、原料大麦の産地だ。国内産の大麦を使用した製品は、パッケージに「国産」「国内産大麦使用」と明記されていることが多く、産地にこだわりたい方はこの表示を目安にするとよい。

次に注目すべきは「胚芽の有無」。通常の押麦は精白の過程で胚芽が取り除かれるが、胚芽を残した「胚芽押麦」という製品も広く流通している。胚芽押麦は、ビタミンEや不飽和脂肪酸を豊富に含む胚芽部分がそのまま残されているため、栄養価をより重視する方に向いている。

精麦の度合い(削り具合)も選ぶ際のポイントになる。七分づき程度に抑えた製品は、ぬか層に含まれる栄養素が多く残る反面、独特の風味がやや強め。しっかり精白された製品は白米になじみやすく、初めて麦ごはんを試す人にも食べやすい。お菓子に使う場合は、クセが少なくほかの食材と調和しやすい精白度の高いものが扱いやすい。

パッケージの内容量も実用上の判断材料だ。日常的に使うなら800g入りがコストパフォーマンスに優れ、お試しで少量から始めたいなら300~500g程度のものが無駄になりにくい。保存は高温多湿を避け、開封後は密閉容器に移して早めに使い切ることが品質を保つコツである。

メジャーな製品とメーカー名

国内の精麦市場で圧倒的な存在感を持つのが、山梨県に本社を置く株式会社はくばくだ。同社は国内の小売店で販売される食用大麦(精麦)の約6割を供給しているとされ、「押麦」「胚芽押麦」「もち麦」などの製品ラインナップを幅広く展開している。スーパーの麦ごはんコーナーで最も目にする押麦製品のひとつが、はくばくの「押麦」(800g入り、国内産大麦使用)であり、食物繊維は100gあたり8.5gと表示されている。同社の「胚芽押麦」も長く支持されているロングセラー商品だ。

福岡県に本社を構える石橋工業株式会社も、精麦メーカーとしての歴史が長い。「九州産押麦」(800g入り)は九州産の大麦のみを原料とし、地元産にこだわりたい消費者から根強い支持を得ている。

熊本県八代市の西田精麦株式会社は、九州トップクラスの精麦量を誇るメーカーだ。「国産胚芽押麦」(800g入り)は無添加・国産原料にこだわった製品で、通販サイトでも高い評価を獲得している。

神奈川県茅ヶ崎市に本社がある日本精麦株式会社も、押麦やはと麦、麦茶など大麦製品を幅広く手がける老舗メーカーである。

お菓子の分野では、押麦を直接使ったグラノーラ製品にも注目したい。日清シスコが発売する「スーパー大麦グラノーラ」は、食物繊維豊富な大麦素材をグラノーラに配合した製品として知られる。カルビーの「フルグラ」シリーズにも大麦を使ったフレークが含まれており、朝食やおやつとして広く親しまれている。

歴史・由来

押麦の原料である大麦の歴史は、途方もなく長い。はくばくの「おいしい大麦研究所」の情報によると、100万年以上前の原人の時代にはすでに野生の大麦が食されていた痕跡があるという。栽培作物としての大麦の始まりはおよそ1万年前にさかのぼり、現在のイスラエル付近やシリアからトルコにかけての「肥沃な三日月地帯」で、実が落ちにくい突然変異種が発見されたことが農耕の起点になったと考えられている。

紀元前6000年ごろには、メソポタミア文明の中心地であるチグリス・ユーフラテス両河流域で大麦の栽培がすでに行われていた。古代エジプトやメソポタミアでは、大麦を粥にしたり、粉にして水で練り焼いてパンにしたりと、さまざまな食べ方が実践されていた。ビールの原料として大麦が使われ始めたのもこの時代にあたる。

日本への伝来は弥生時代とされている。朝鮮半島を経由して伝わったと考えられており、弥生時代初期の遺跡からは土器に付着した大麦が発見されている。奈良時代になると、元正天皇が「飢餓に備えて、晩稲、そば、大小麦を植えよ」との詔勅を出したことが文献に残っており、この時代にはすでに大麦が重要な食糧として位置づけられていた。

その後も大麦は、飢饉の際に人々の命をつなぐ作物として重宝された。江戸時代の「天保の飢饉」(1833年~)では、農政家の二宮尊徳が冷害に強い雑穀や大麦の栽培を推奨し、米よりも早く収穫できる大麦が救荒作物として多くの命を救ったとされる。また、徳川家康が麦ごはんを好んで食べていたという逸話も広く知られている。

しかし大麦はそのままでは硬く、水を吸いにくいため調理しづらいという課題があった。かつては挽き割りにして粥にしたり、あらかじめゆでてから米に混ぜて炊いたりと、手間をかけて食べていた。こうした不便さを解消するために生まれたのが「押麦」の加工技術である。蒸気で蒸して圧ぺんローラーで平たくつぶすことで吸水性が格段に向上し、白米と同じ感覚で炊飯できるようになった。

戦前から戦中にかけて、白米が不足した時代には麦ごはんが広く食べられていた。しかし戦後の高度経済成長期に入ると白米だけのごはんが一般的になり、麦を混ぜることは貧しさの象徴として敬遠される時期もあった。

転機が訪れたのは、健康志向が高まった現代になってからだ。食物繊維やβ-グルカンの健康機能が注目されるようになり、押麦やもち麦は「体によい穀物」として再評価されている。スーパーやコンビニでも麦ごはん入りのおにぎりや弁当が並ぶようになり、かつての「貧しい食べ物」というイメージはすっかり過去のものとなった。お菓子の分野でも、グラノーラバーやクッキーの素材として押麦が積極的に取り入れられ、健康的なおやつの材料としての地位を確立しつつある。

免責事項

商品紹介等については、公式サイトおよび公開情報を基に作成しております。
記載内容は掲載時時点での参考値です。商品仕様は予告なく変更される場合があります。
購入・ご利用の際は必ず最新のパッケージ表示または公式情報をご確認ください。特に食物アレルギーをお持ちの方は原材料を十分にご確認の上お求めください。
本記事の内容ならびに画像の一部にAIを使用している場合があります。
画像はイメージの場合があり、説明内容とは異なる場合があります。
当記事の内容により生じた損害について、作成者は一切の責任を負いません。