材料の名前

和名は「虎豆(とらまめ)」。いんげん豆の一品種であり、植物学上の学名はPhaseolus vulgaris L.に分類される。英語では「Tiger bean」と呼ばれることが多い。日本豆類協会やアサヒ食品工業など複数の国内文献でも「Tiger Bean」の表記が確認できる。なお、海外で流通する「Tiger’s Eye bean」は南米チリ・アルゼンチン原産の別品種(ブッシュタイプ)を指すことがあるため、混同には注意が必要だ。

日本国内では、北海道の生産者や豆の専門店を中心に「とら豆」とひらがな表記されるケースも多い。正式な分類としては、マメ科インゲンマメ属に属する蔓性(つるせい)のいんげん豆で、大福豆やべにばないんげん(白花豆・紫花豆)とともに「高級菜豆」というカテゴリーに位置づけられている。

特徴

虎豆の外観上の最大の特徴は、白地の豆肌にあらわれる独特の斑紋にある。へそ(種臍)の周囲を中心に濃い黄褐色と淡い黄褐色の模様が入り混じり、その見た目がまるで虎の縞模様のようであることから「虎豆」と名づけられた。豆の大きさはいんげん豆の中でも大粒の部類に入り、百粒重(乾燥豆100粒の重さ)はおよそ70g前後とされる。

味わいと食感にも際立った個性がある。火の通りが早く、煮あがりの豆はほくほくとした食感と独特の粘りを持つ。この柔らかさと粘り気から、北海道では古くから「煮豆と言えばとら豆」と認識されるほど煮豆と相性が良く、「煮豆の王様」という異名がつくほどだ。ただし、皮が柔らかいぶん破れやすいという一面もあり、形を美しく保ったまま煮あげるには水加減や火加減に繊細な技術が求められる。

栄養面も見逃せない。乾燥豆100gあたりの代表的な栄養成分は、エネルギーがおよそ333kcal、たんぱく質が約19.9g、脂質が約2.2g、炭水化物が約57.8g、食物繊維が約26.7gとなっている(出典:日本食品標準成分表、アサヒ食品工業)。脂質が少なくたんぱく質と食物繊維を豊富に含むバランスの良さが特長で、ビタミンB1、B2、B6、カルシウムなどのミネラル類も含まれている。

用途

虎豆のお菓子としての用途は幅広い。もっとも代表的なのが甘納豆だ。日本豆類協会の資料によれば、虎豆の需要のうち甘納豆向けが全体のおよそ4割を占めるとされている。大粒でふっくらとした虎豆は、砂糖の蜜をじっくり含ませる甘納豆の製法と相性が抜群で、豆そのものの風味と穏やかな甘みが調和した上品な仕上がりになる。

甘納豆のほかにも、鹿の子豆(かのこまめ)の材料としての需要が高い。鹿の子豆とは、豆を蜜漬けにした加工品で、和菓子のトッピングやパン生地への練り込み、洋菓子のアクセントとして幅広く使われる。大阪の製餡メーカー茜丸が展開する「五色豆鹿の子」には、小豆、金時豆、うぐいす豆、白小豆とともに虎豆が使われており、和洋問わず多彩な菓子づくりの場面で活躍している。

和菓子の世界では、煮豆としてそのまま菓子に仕立てるほか、羊羹や蒸し菓子への練り込み素材としても用いられる。老舗和菓子店のとらやは2022年の寅年に合わせ、虎豆を蒸羊羹に散りばめた「子虎跳ねる」という季節限定の菓子を発売したことがある。この例が示すように、虎豆は餡の原料としてよりも、粒のまま菓子に添えて食感や彩りのアクセントとする使い方が主流だ。

家庭での利用としては、砂糖と醤油で煮た甘煮が定番中の定番で、正月のおせち料理やおもてなしの一品として根強い人気がある。煮豆以外にも、サラダやスープの具材にするなど、近年は和洋の枠を超えた活用も広がりつつある。

主な原産国・産地

虎豆の原種はアメリカ大陸のいんげん豆で、日本へは明治時代にアメリカ合衆国マサチューセッツ州コンコードから「コンコード・ポール」(Concord Pole)という品種名で導入された。この経緯から、日本国内で流通する虎豆のルーツはアメリカにあると言える。

現在、日本での栽培は北海道にほぼ集中しており、なかでも北見地方(訓子府町、留辺蘂、置戸など)と胆振地方が主要産地だ。北海道立総合研究機構(旧北見農業試験場)の資料によれば、訓子府町は虎豆の一大産地として知られ、農林水産大臣賞を受賞した生産者もこの地域から輩出されている。

虎豆は蔓性の植物で、栽培には支柱を立ててつるを誘引する手間がかかる。機械化が難しく、収穫にも人手を要することから、生産コストが高い。そのため市場での流通価格は一般的ないんげん豆に比べて割高になりがちで、高級菜豆と呼ばれるゆえんのひとつとなっている。北海道の冷涼な気候が栽培に適しているものの、作付面積は限られており(北海道農産振興課の2008年の調べで約149ha)、生産量も決して多くはない希少な豆だ。

選び方とポイント

乾燥豆として購入する際は、いくつかのポイントを押さえておくと良い。

まず豆の表面をよく観察し、虎模様がくっきりと出ているものを選ぶ。斑紋のコントラストがはっきりしているほうが新鮮で、収穫からの時間が短い目安になる。古くなった豆は全体的にくすんだ色合いになりやすく、模様の境目がぼやけてくる傾向がある。

次に、粒の大きさが揃っているかどうかを確認する。大きさにばらつきがあると、煮たときに火の通り具合にムラが生じ、柔らかくなりすぎる豆と芯が残る豆が混在してしまう。粒揃いの良さは、仕上がりの均一さを左右する大切な要素だ。

割れ豆や虫食い豆が混ざっていないかも見ておきたい。豆の専門店では手選別を行って品質管理しているところもあるが、量販店で購入する場合は自分の目でチェックする習慣をつけると安心だ。

保存については、開封前であれば直射日光を避けた涼しい場所(常温)で問題ない。真空パックや脱酸素剤入りの包装であれば、酸化やカビの心配も少ない。開封後はチャック付きの袋やガラス瓶に移し替え、湿気を避けて保管するのが望ましい。水に戻してから冷凍保存する方法もあり、まとめて下茹でしておけば調理のたびに戻す手間が省ける。

煮るときのコツも併せて知っておくと役立つ。まず乾燥豆を豆の3〜4倍量の水に8時間ほど浸して十分に吸水させる。煮る際は、沸騰したら一度差し水をしてアクを取り、そのあとは弱火でゆっくり加熱するのが基本だ。火が強すぎると皮が破れるため、完全に沸騰させないよう注意しながら煮ると形が美しく仕上がる。

メジャーな製品とメーカー名

虎豆を使ったお菓子を代表する存在といえば、まず甘納豆専門店の銀座鈴屋を挙げないわけにはいかない。1951年創業の老舗で、「銀座六花 とらまめ」は看板商品のひとつだ。北海道産の虎豆を丁寧に蜜漬けし、豆本来の風味と上品な甘さを両立させた一品として知られている。大納言やうぐいす、大福豆など複数の甘納豆を詰め合わせた「おこのみ甘納豆」にも虎豆が含まれる。

金沢のにし茶屋街にある甘納豆かわむらも、虎豆の甘納豆で評判の高い店だ。国産素材にこだわり、保存料を使わない製法で仕上げた虎豆の甘納豆は、独特の粘りある食感とすっきりとした後味が持ち味。北陸土産の定番として人気を集めている。

製餡・製菓素材の分野では、大阪四天王寺の茜丸が展開する「虎豆鹿の子」がある。和菓子店やパン店向けの業務用商品だが、楽天市場などのオンラインショップで一般消費者も購入可能だ。「虎豆どらやき」という小売向け商品も展開しており、虎をイメージした縦縞模様の包装が目を引く。また、茜丸の看板商品「五色どらやき」には、虎豆を含む5種の豆が使われている。

東京・本郷にある老舗和菓子店の一炉庵でも、虎豆の甘納豆が季節商品として販売されることがある。ツヤのある大ぶりの虎豆をきゅっとした歯応えを残しつつ蜜漬けしたもので、豆好きの間で評価が高い。

老舗中の老舗であるとらやは、先述のとおり2022年に虎豆入蒸羊羹「子虎跳ねる」を期間限定で発売した。とらや初の虎豆使用商品として話題になり、黄と黒の蒸羊羹にほくほくの虎豆が散りばめられた見た目の美しさも注目を集めた。

このほか、横浜の「おもや」、北海道の清左衛門といった甘納豆・煮豆の専門店でも虎豆を使った製品が扱われている。家庭用の乾燥豆としては、鈴和商店やビーンズマーケットといった豆の専門問屋がオンライン販売を行っており、品質の良い北海道産虎豆を手軽に入手できる。

歴史・由来

虎豆の歴史は、いんげん豆そのものの渡来からひもとく必要がある。いんげん豆(Phaseolus vulgaris)はもともと中南米を原産地とする植物で、大航海時代以降にヨーロッパ、さらに世界各地へと伝播した。日本へは江戸時代に中国から隠元禅師が伝えたとされることから「隠元豆」の名がついたが、虎豆がこの時代に渡来したわけではない。

虎豆が日本に導入されたのは明治時代のことだ。日本豆類協会の資料によれば、もともと「コンコード・ポール」(Concord Pole)という品種名で、アメリカのマサチューセッツ州コンコードから北海道に持ち込まれたのが始まりとされている。北海道の冷涼な気候がいんげん豆の栽培に適していたこともあり、主に北見地方や胆振地方で作付けが広がった。

その後、北海道立農業試験場(現・北海道立総合研究機構)を中心に品種改良が進められ、原種のコンコード・ポールから「改良虎豆」が育成された。さらに改良を重ねて誕生したのが「福虎豆」で、収量性や密植適性が向上した品種として現在の栽培を支えている。福虎豆は改良虎豆に比べて密植した場合の収量増加幅が大きく、限られた農地の中で効率的に生産できるよう工夫された品種だ。煮豆や甘納豆としての加工適性は改良虎豆と遜色ないことが、北見農業試験場での試験によって確認されている。

「煮豆の王様」という通称がいつ頃から使われ始めたかは明確な記録が残っていないが、北海道の主産地では古くから冬の保存食として煮豆が親しまれてきた文化がある。虎豆はその柔らかさと粘りの良さから特に重宝され、北海道で「煮豆」と言えばとら豆を指すという言い回しが定着するほど、地域の食卓に根づいた存在だった。

近年では生産者の高齢化や後継者不足、蔓性栽培にかかる労力の大きさなどから、作付面積が減少傾向にあるとも指摘されている。一方で、甘納豆や鹿の子豆をはじめとする菓子素材としての需要は根強く、とらやのような大手和菓子メーカーが新商品に虎豆を採用するなど、その魅力が改めて見直される動きも出ている。煮豆の王様として、そして和菓子を彩る希少な素材として、虎豆はこれからも日本の菓子文化に欠かせない存在であり続けるだろう。

免責事項

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購入・ご利用の際は必ず最新のパッケージ表示または公式情報をご確認ください。特に食物アレルギーをお持ちの方は原材料を十分にご確認の上お求めください。
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