材料の名前
日本語では「ポップコーン」と表記され、英語の “Popcorn” がそのまま定着した呼び名である。原料となるトウモロコシの品種を指すときは「爆裂種(ばくれつしゅ)」あるいは「ポップ種」と呼ばれる。英語では “Zea mays var. everta” が学名にあたる。フランス語では “maïs soufflé(マイス・スフレ)”、ドイツ語では “Puffmais(プフマイス)”、スペイン語では “palomitas de maíz(パロミータス・デ・マイス)” といった名称が使われている。日本の地方名としては、四国で「花きび」「はぜとうきび」、和歌山では単に「花」と呼ばれていた記録がある。
特徴
ポップコーンの原料は、トウモロコシ6品種群のひとつである「爆裂種(ポップ種)」に限られる。スーパーマーケットに並ぶ甘味種(スイートコーン)では、いくら加熱してもポップコーンにはならない。爆裂種の粒は小さく、角質デンプンと呼ばれる硬いデンプン層で全体が覆われており、外皮もきわめて堅い。この堅い外皮こそが「弾ける」現象の鍵を握っている。
乾燥させた爆裂種の粒には、内部に約14%の水分が残っている。これを加熱すると、100℃を超えた段階で内部の水分が水蒸気へと変化し始める。しかし外皮が頑丈なため、蒸気は外に逃げられず、粒の内側で圧力がどんどん高まっていく。内部温度が約180℃に達すると、ついに外皮が耐えきれなくなって一気に破裂する。水が水蒸気になると体積はおよそ1,700倍に膨張するため、内部のデンプンが泡状に広がり、白いスポンジのような独特の形状が生まれる。これがポップコーンの正体である。
爆裂後の形状は大きく「バタフライ型」と「マッシュルーム型」の二つに分かれる。バタフライ型は蝶が羽を広げたような不規則な形に弾け、軽い食感が特徴となる。一方、マッシュルーム型はきのこのような丸い球状に弾ける。この違いは品種の差に由来するが、マッシュルーム型は弾けるために必要な温度がバタフライ型より高く、安定した高温加熱が求められる。
栄養面も見逃せない。ポップコーンは全粒穀物に分類され、玄米やオートミールと同様に、トウモロコシの皮・胚芽・胚乳を丸ごと食べることになる。日本食品標準成分表(八訂)によれば、100gあたりのエネルギーは472kcal、食物繊維は9.3g、タンパク質は10.2g、ビタミンEは11.8mgを含む。加えて鉄分4.3mg、亜鉛2.4mgなどのミネラルも含まれており、スナック菓子のなかでは栄養バランスに富んでいる。ただし市販品は油脂や塩分、砂糖が多く添加される場合があるため、栄養価は調味や調理方法によって大きく変わる点には注意が必要だ。
用途
お菓子の原材料としてのポップコーンは、実に幅広い場面で活躍する。
最もなじみ深いのは、映画館やテーマパークで販売される塩味やバターしょうゆ味のポップコーンだろう。バタフライ型の軽い食感がパウダー状の調味料と相性がよく、シンプルな味付けで気軽に楽しめる。
近年はグルメポップコーンと呼ばれる高級路線の製品も増えてきた。キャラメルやチョコレート、チーズなどのソースをコーティングしたタイプは、マッシュルーム型が多く使われる。丸い表面にソースが均一に絡みやすく、コーティングしても崩れにくいためだ。
製菓の世界では、チョコレートバーやスナックバーのトッピング、アイスクリームの具材、焼き菓子のアクセントとしても使われる。砕いたポップコーンをクッキー生地に混ぜ込んだり、キャラメリゼしてケーキの飾りに載せたりと、食感と見た目の両面で個性を出せる素材として注目を集めている。
イベントや祭りの屋台でも定番の存在で、ポップコーンマシンを使った実演販売は集客効果が高い。弾ける音と立ち上る香ばしい香りが、視覚と嗅覚に訴えかけるからだ。
主な原産国
ポップコーン用の爆裂種トウモロコシの生産は、世界的に見てアメリカ合衆国が圧倒的なシェアを占める。アメリカ国立農業図書館(USDA/NAL)の資料によれば、世界のポップコーン用トウモロコシ生産のほとんどがアメリカ国内で行われており、25の州で栽培されている。なかでもネブラスカ州が国内生産量の4分の1以上を担い、インディアナ州がそれに次ぐ。
アメリカ以外では、アルゼンチン、ブラジルといった南米諸国も生産国として知られる。トウモロコシそのものの世界的な主要生産国は、アメリカ、中国、ブラジルの順だが、ポップコーン向けの爆裂種に限ればアメリカが群を抜いている。
日本国内でもポップコーン用トウモロコシの栽培は行われている。北海道で生産された国産ポップコーン豆が製品化された事例もあり、2022年にはジャパンフリトレーがブランド初の国産ポップコーン豆を使用した商品を発売した。ただし国内の流通量は限定的で、市場に出回るポップコーン豆の大半は依然としてアメリカからの輸入品となっている。
選び方とポイント
ポップコーン豆を購入する際、まず確認したいのは品種のタイプである。バタフライ型になる品種は軽い食感で、塩やバター系のシンプルな味付けに向いている。一方、マッシュルーム型になる品種は丸く弾けるため、キャラメルやチョコレートのコーティングとの相性がよい。作りたいポップコーンの完成形をイメージしてから品種を選ぶと、仕上がりの満足度が上がる。
次に注目したいのは粒の状態だ。ポップコーン豆がしっかり弾けるには、内部に適度な水分が保たれていることが欠かせない。乾燥しすぎた豆は弾けにくくなるため、密閉された包装の製品を選び、開封後は湿気を避けて密閉容器で保存するのがよい。直射日光や高温多湿の環境は劣化を早めるので、冷暗所での保管が基本となる。
産地にも目を向けたい。アメリカ産が大半を占めるが、オーガニック認証を受けた製品や非遺伝子組み換え(Non-GMO)を明記した製品も流通している。原料の安全性を重視するなら、パッケージの表示をよく確認するとよいだろう。
量り売りやバルク販売の場合は、粒の大きさや色が揃っているかどうかも品質を判断する目安になる。粒が不揃いだと加熱ムラが出やすく、弾けない「不発弾」が増える原因にもなる。
メジャーな製品とメーカー名
日本国内で最も知名度が高いのは、ジャパンフリトレー株式会社が製造販売する「マイクポップコーン」だ。1957年に日本初のポップコーンブランドとして誕生し、60年以上にわたって国内ポップコーン市場をけん引してきた。「バターしょうゆ味」はロングセラー商品として広く親しまれている。ジャパンフリトレーはカルビー株式会社の子会社にあたり、同社はアメリカのフリトレー社との合弁をルーツとする。
グルメポップコーンの分野では、アメリカ・シカゴ発祥の「ギャレット ポップコーン ショップス(Garrett Popcorn Shops)」が日本でも人気を集めている。1949年にシカゴで創業し、3世代にわたって受け継がれた秘伝のレシピが看板である。日本では原宿に第1号店がオープンし、チェダーチーズ味の「チーズコーン」とキャラメル味を合わせた「シカゴミックス」が定番として知られる。
地方に目を向けると、高知県には「マックのポップコーン」がある。昭和34年(1959年)頃に高知市で生まれたブランドで、映画館での販売をきっかけに砂糖で味付けした「シュガー味」が誕生した。高知県民にとっては馴染み深いローカルブランドで、砂糖をまぶして着色した「花きび」も地元で長く愛されている。
業務用・家庭用のポップコーン豆としては、ハニー社(Gold Medal Products)やアメリカのJolly Time(American Pop Corn Company)など海外メーカーの製品が日本にも輸入されている。国内ではネット通販を中心に、さまざまな産地やオーガニック認証のポップコーン豆が手軽に入手できる時代になった。
歴史・由来
ポップコーンの歴史は、人類とトウモロコシの関わりそのものと言ってよいほど古い。アメリカ合衆国ニューメキシコ州の洞窟遺跡からは、紀元前3600年頃のものとされるポップコーンの痕跡が見つかっている。さらにペルー北部の遺跡からは約6,700年前のトウモロコシ調理の痕跡が発掘されており、南北アメリカ大陸の先住民が数千年前からポップコーンを食べていたことがうかがえる。古代のアステカ族やインカ族にとって、ポップコーンは儀式や装飾にも用いられる特別な存在だった。
ヨーロッパ人がポップコーンを知ったのは15世紀末以降のことである。アメリカ大陸に到達したコロンブスが先住民のトウモロコシ文化に触れたほか、17世紀初頭にはフランス人探検家が五大湖周辺のイロコイ族が熱した砂の入った土器でポップコーンを作る様子を記録している。ただしヨーロッパでは、トウモロコシは主に家畜の飼料として広まったため、ポップコーン文化そのものは大陸にはあまり根付かなかった。
アメリカ合衆国でポップコーンが菓子として広く食べられるようになったのは19世紀後半のことだ。1880年代にシカゴのチャールズ・クレトールがストリートカート型のポップコーンマシンを発明し、街頭での販売が一気に広がった。当時は糖蜜を絡めた甘い味付けが主流だったが、1930年代の世界恐慌の時代になると、5〜10セントという安さで買えるポップコーンが庶民の楽しみとして一層人気を高め、映画館での販売も定着していった。
日本にトウモロコシが伝来したのは安土桃山時代の1579年頃とされ、ポルトガル船が長崎もしくは四国にフリントコーン(硬粒種)を持ち込んだのが始まりだといわれている。爆裂種の直接の祖先にあたる品種で、当時は「南蛮黍(ナンバンキビ)」と呼ばれていた。四国の山間部で栽培が定着すると、トウモロコシを加熱して弾けさせたものを「はぜとうきび」「花きび」と呼んでおやつにする文化が生まれた。大正から昭和初期にかけての食生活記録にも、「焼いてはじかせた真っ白い花のように開いた香ばしいトウモロコシ」をおやつにしていたという記述が残っている。
近代的な商品としてのポップコーンが日本に登場したのは、1957年のマイクポップコーンの誕生がきっかけだ。アメリカの機械と原料、製造ノウハウを導入し、国産初のポップコーン企業として事業を開始した。以後、映画館文化の広がりとともに日本でもポップコーンはスナック菓子の定番となっていく。2010年代にはギャレットポップコーンをはじめとするグルメポップコーンブームが到来し、行列のできる専門店が話題を呼んだ。
現在ではアメリカ人が年間約130億クォート(約123億リットル)ものポップコーンを消費するとされ、世界のポップコーン消費量の過半を占める。日本でもポップコーン市場は拡大傾向にあり、従来の塩味やバター味にとどまらず、多彩なフレーバーや高品質路線の商品が次々と登場している。古代アメリカ大陸の焚き火から生まれた素朴な食べ物は、数千年の時を経て、世界中で愛されるスナック菓子の原材料へと進化を遂げた。
