材料の名前(日本語・外国語)
日本語では「レッドキドニービーンズ」または「赤インゲン豆」と呼ばれる。日本の豆業界では単に「レッドキドニー」と略されることも多い。英語表記は「Red Kidney Beans」で、人間の腎臓(kidney)に形が似ていることが名前の由来となっている。
各国での呼び名も押さえておきたい。インドでは「ラジマ(Rajma)」、パキスタンでは「スルフ・ロービア(Surkh Lobia=赤いロービア)」と呼ばれ、いずれも日常的な食材として親しまれている。ジャマイカでは「レッドピーズ(Red Peas)」、スペインのラ・リオハ州では「カパロネス(Caparrones)」という名で知られる。学名はPhaseolus vulgaris(ファセオルス・ブルガリス)で、インゲンマメ属の一品種にあたる。
なお、日本国内で流通する「金時豆(大正金時など)」も同じ赤いインゲンマメの仲間だが、レッドキドニービーンズとは品種が異なる。両者の違いについては後述の「特徴」で詳しく触れる。
特徴
レッドキドニービーンズの最大の特徴は、深い赤紫色の外観と、しっかりした皮の質感にある。腎臓のようなカーブを描く独特のフォルムは、一度見れば忘れにくい。乾燥状態で長さ1.5〜2cm程度、やや縦長の楕円形をしている。
日本の金時豆との違いを問われることが多いが、ポイントは「皮の硬さ」と「風味」の二点に集約される。金時豆は皮がやわらかく、甘く煮ると口当たりがなめらかに仕上がる反面、長時間の煮込みでは崩れやすい。対してレッドキドニービーンズは皮が厚くてしっかりしており、カレーやチリコンカンのような煮込み料理でも形を保つ。豆そのものの風味はやや淡白で、クセが少ないため多様な料理に合わせやすい。
栄養面に目を向けると、茹でた状態100gあたりの数値はおおよそ次のとおりである(USDAデータベースより)。エネルギーは約127kcal、タンパク質は約8.7g、炭水化物は約22.8g、食物繊維は約7.4g、脂質はわずか0.5g。葉酸、鉄分、リン、銅については1日の推奨摂取量の20%以上を含む「豊富」な水準にあり、植物性タンパク質の供給源としても優れている。カリウムは100gあたり約403mg含まれ、マグネシウムや亜鉛も中程度の量が確認されている。
ただし、生の赤インゲン豆にはフィトヘマグルチニンという天然毒素(レクチンの一種)が比較的多く含まれる点には注意が必要だ。加熱が不十分な状態で食べると、吐き気や嘔吐、腹痛、下痢といった食中毒症状を引き起こすことがある。米国食品医薬品局(FDA)は、乾燥豆を十分に水に浸したのちに100℃で30分以上沸騰させることを推奨している。スロークッカーなどの低温調理(80℃程度)では毒素が分解されないため、必ず高温での煮沸が求められる。市販の缶詰や水煮パウチ製品は製造時に十分な加熱処理が施されているので、開封後そのまま使うことができる。
用途
レッドキドニービーンズは料理の幅が広い食材だが、お菓子づくりの材料としても注目を集めている。ここでは、料理と製菓の両面から用途を整理する。
まず料理の定番といえばチリコンカン(チリコンカルネ)だろう。挽き肉、トマト、スパイスとともにレッドキドニービーンズを煮込むこの料理は、アメリカ南部やメキシコで広く愛されている。米国ルイジアナ州には月曜日にレッドビーンズ・アンド・ライスを食べる習慣があり、赤インゲン豆を米と合わせた家庭料理が受け継がれてきた。インドの「ラジマカレー」も代表的な一皿で、濃厚なトマトベースのグレービーで豆を煮込む北インドの定番である。
サラダやスープの具材としてもよく使われる。皮がしっかりしているため、ドレッシングで和えても形が崩れにくく、赤い色が料理に彩りを添えてくれる。
製菓分野での活用も広がりを見せている。特に海外在住の日本人の間では、小豆が手に入りにくい環境でレッドキドニービーンズをあんこの代用に使うレシピが共有されている。茹でたレッドキドニービーンズをつぶして砂糖と練り合わせると、小豆のあんこよりやや色が淡く、味はあっさりめに仕上がる。おはぎや白玉ぜんざい、あんパンの具材にアレンジするケースも少なくない。
ヴィーガンスイーツの材料としても相性がよい。たとえばキドニービーンズブラウニーは、小麦粉や卵、バターを使わずに、フードプロセッサーで豆をペースト状にし、ココアパウダーやメープルシロップ、デーツなどと合わせて焼き上げるレシピが定番化している。グルテンフリーかつ食物繊維やタンパク質を含むスイーツとして、健康志向の層から支持を得ている。
そのほか、寒天やゼラチンと合わせたミルク寒天に甘煮のレッドキドニーをのせるデザートや、キドニービーンズ入りカップケーキ、マフィンなど焼き菓子への応用も見られる。淡白でクセの少ない豆の味わいは、チョコレートやスパイスとの組み合わせに適しており、お菓子の新しい可能性を広げている。
主な原産国・生産国
レッドキドニービーンズを含むインゲンマメ(Phaseolus vulgaris)の原産地は中南米である。考古学的な研究によると、ペルーを中心とするアンデス地域では約8,000年前から共通の祖先種が栽培されていたとされる。そこからメソアメリカ(現在のメキシコ・中米)にも広がり、先住民にとって重要なタンパク源となっていた。
現在、世界的なインゲンマメの主要生産国としては、インド、ミャンマー、ブラジル、中国、アメリカなどが挙げられる。レッドキドニービーンズ(ダークレッドキドニー)に限ると、主要な輸出国はアメリカ、カナダ、アルゼンチン、中国の4か国で、これらが市場の大部分を占めている。
日本に輸入されるレッドキドニービーンズの多くはアメリカ産やカナダ産で、缶詰や冷凍品の原材料表示を見ると、この2国の名前が頻出する。一方、日本国内でもインゲンマメ自体は北海道を中心に栽培されているが、レッドキドニービーンズ型の品種はもともと日本の気候に合いにくかった。近年は北海道の育種場で開発された「きたロッソ」(平成30年品種登録)のように、煮崩れしにくく色落ちしない国産の赤インゲン品種も登場しつつある。
選び方とポイント
レッドキドニービーンズを購入する際は、乾燥豆、缶詰(水煮)、冷凍品の三つの形態から用途に合わせて選ぶことになる。
乾燥豆を選ぶ場合は、粒の色つやが均一で、割れや虫食いのないものが良質とされる。表面にしわが多いものは古い場合があるため避けたほうがよい。乾燥豆は密閉容器に入れて冷暗所で保管すれば1年程度は保存できるが、古くなるほど戻す時間と煮る時間が長くなるため、購入時は収穫年度や賞味期限を確認しておきたい。使う際は、豆の約3倍量の水に6時間から一晩浸し、戻し汁を捨ててから新しい水で煮始める。前述のとおりフィトヘマグルチニンの分解には100℃で十分に沸騰させることが必須であり、最低でも10分、FDAの推奨では30分の煮沸が望ましい。
缶詰や水煮パウチは、あらかじめ加熱処理が済んでいるため、開封してすぐに使える手軽さが魅力だ。お菓子づくりで「試しにレッドキドニーを使ってみたい」という段階なら、まずは缶詰から始めるのが手軽だろう。缶を選ぶ際のチェックポイントは、原材料欄に記載された豆の産地、添加物(砂糖・食塩・酸化防止剤など)の有無、そして固形量と内容総量の比率。固形量が多いほどコストパフォーマンスが高い。
冷凍品は、茹でた豆をバラ凍結してあるタイプが中心で、業務用として1kg単位で流通している。必要な量だけ取り出して使えるため、頻繁にレッドキドニーを使う人や、業務で大量に使う飲食店に向いている。
有機JAS認証のオーガニック製品を選ぶ方法もある。農薬や化学肥料を使わずに栽培された豆を求める場合は、パッケージに「有機JAS」マークが記載されているかを確認するとよい。
メジャーな製品とメーカー名
日本国内で比較的入手しやすいレッドキドニービーンズの製品をいくつか紹介する。
S&W(エスアンドダブリュー)のレッドキドニービーンズ缶詰は、スーパーや業務用食品店で広く流通しているロングセラー商品だ。日本ではリードオフジャパンが輸入を手がけており、4号缶(439g)サイズが定番として知られる。アメリカ産のレッドキドニービーンズを水煮にした製品で、そのままサラダに使ったり煮込みに入れたりと汎用性が高い。
キユーピーのグループブランド「サラダクラブ」からは、レッドキドニー(赤いんげん豆)50gのパウチ製品が販売されている。独自の「まめつや製法」(特許取得済み)を採用し、豆の表面がつややかに仕上がっているのが特徴だ。袋を開けてすぐに使える少量パックで、家庭でサラダやスープに手軽に取り入れられる。
アリサン(Alishan)は、埼玉県に本拠を置くオーガニック食品専門メーカーで、有機JAS認証のレッドキドニービーンズを乾燥豆と缶詰の両方で展開している。500gや1kgの乾燥豆パック、425gの水煮缶詰などがラインナップされ、自然食品店やオンラインショップで購入可能だ。
フィアマ・ベスビアーナ(Fiamma Vesuviana)はイタリアの豆缶ブランドで、日本では日本珈琲貿易が輸入を担当している。400g缶のレッドキドニービーンズが主力商品で、輸入食品店やディスカウントストアで手頃な価格で販売されている。
カゴメは業務用冷凍食品として「レッドキドニー(赤インゲン豆)」を1kgパックで展開。アメリカ産のレッドキドニーを茹でて急速バラ凍結した製品で、調味料は一切加えられていないため、甘煮やデザートへの転用もしやすい。
極洋(キョクヨー)は「そのまま食べられるレッドキドニー」という110g缶を販売している。ドライパック製法でふっくら仕上げており、食塩無添加で豆本来の味わいが楽しめる。使い切りやすい小容量なので、お菓子づくりのちょっとしたアクセントにも向いている。
製菓材料専門の通販サイトでも、乾燥レッドキドニービーンズの取り扱いが増えており、cotta(コッタ)やTOMIZ(富澤商店)などで購入できる。
歴史・由来
レッドキドニービーンズを含むインゲンマメ属(Phaseolus vulgaris)の歴史は非常に古い。考古学的な調査によると、ペルーのアンデス地域およびメソアメリカ(メキシコ・中米)で、約8,000年前にはすでに豆の栽培が始まっていたとされている。南米の先住民にとって豆は貴重なタンパク源であり、トウモロコシやカボチャとともに「三姉妹(Three Sisters)」と称される基幹作物の一角を担っていた。
15世紀末から16世紀にかけてのいわゆる「大航海時代」に、スペインやポルトガルの探検者がアメリカ大陸からヨーロッパへインゲンマメを持ち帰った。その後、交易ルートを通じてアフリカ、アジア各地へと伝播していった。
日本へのインゲンマメの伝来については、江戸時代初期の1654年(承応3年)に中国から来日した隠元隆琦(いんげんりゅうき)禅師が伝えたという逸話が広く知られている。隠元禅師は中国臨済宗の高僧で、京都・宇治に黄檗宗の本山である萬福寺を創建した人物だ。「インゲン豆」という日本語名はこの禅師の名に由来するとされている。ただし、隠元禅師が実際に持ち込んだのは「フジマメ(藤豆)」だったとする異説もあり、学術的には確定していない。いずれにしても、ヨーロッパ経由でユーラシア大陸を横断し、中国から日本に渡ってきたという経路は広く認められている。
「レッドキドニービーンズ」という名称そのものは英語由来で、近代以降に日本へ入ってきた呼び名である。日本では古くから赤い色のインゲンマメは「金時豆」として栽培・消費されてきたが、海外品種であるダークレッドキドニーが日本市場に広まったのは、戦後の食文化の多様化が進んでからだ。チリコンカンやタコスなどメキシコ・アメリカ料理の普及、さらにはインドカレーやエスニック料理ブームが追い風となり、缶詰や乾燥豆の輸入量が増加した。
近年は「プラントベース」「ヴィーガン」といった食の潮流のなかで、豆類全般への関心が世界的に高まっている。国連食糧農業機関(FAO)が2016年を「国際マメ年」に指定したこともあり、タンパク質や食物繊維を豊富に含むレッドキドニービーンズは、持続可能な食料としても注目されている。製菓の世界でも、グルテンフリーのブラウニーやヴィーガンスイーツの材料として利用が拡大しており、今後さらに存在感を増していくことが予想される。
