材料の名前(日本語・外国語)

梅肉は日本語で「ばいにく」と読み、梅の果実から種を除いた果肉部分、あるいはそれをすりつぶしてペースト状に加工したものを指す。お菓子の原材料としては、生の果肉そのものを使う場合もあれば、梅干しの果肉を裏ごしした「練り梅(ねりうめ)」や、青梅の果汁を長時間煮詰めて濃縮した「梅肉エキス」として使用されることもある。

梅の学名は Prunus mume(プルヌス・ムメ)で、バラ科サクラ属に分類される。英語圏では Japanese apricot(ジャパニーズ・アプリコット)や Chinese plum(チャイニーズ・プラム)と呼ばれることが多い。また、近年では日本文化の国際的な浸透に伴い、Ume(ウメ)という日本語名がそのまま通用する場面も増えている。梅肉そのものを英語で表す場合は ume paste や plum paste、梅肉エキスは ume extract や concentrated plum extract と表記されるのが一般的である。中国語では梅を「梅(メイ/méi)」、韓国語では「매실(メシル)」と呼び、いずれの国でも古くから食文化や薬膳に深く根付いた存在である。

特徴

梅肉の最大の特徴は、その鮮烈な酸味と華やかな芳香にある。この酸味の正体はクエン酸を中心とする有機酸で、梅果実中には4〜6%もの有機酸が含まれている。クエン酸のほかにリンゴ酸、シュウ酸、少量の酒石酸、コハク酸なども含有しており、それらが複雑に絡み合うことで、単なる「酸っぱさ」にとどまらない奥行きのある風味を生み出している。未熟な青梅にはリンゴ酸が多いが、成熟するにつれてクエン酸の比率が高まっていく。

色合いは、原料となる梅の品種や加工方法によって異なる。青梅を原料にした梅肉は淡い黄緑色、完熟梅から作ったものは黄色からオレンジがかった色合いになる。梅干しの果肉を裏ごしした練り梅の場合は、赤紫蘇と漬け込んだものであれば鮮やかな紅色を帯びる。

梅肉にはミネラルやビタミン類も含まれている。一般財団法人梅研究会のデータによれば、青梅の可食部100gあたりカリウム240mg、鉄0.6mg、ビタミンE3.3mgを含み、それぞれリンゴの約2倍、6倍、33倍に相当する。また、梅由来のポリフェノールとして、ネオクロロゲン酸やクロロゲン酸などの抗酸化成分が知られている。

さらに、梅肉エキス(青梅の果汁を加熱濃縮したもの)には「ムメフラール」という特有の成分が含まれる。これは1999年に発見された物質で、梅果汁中の糖とクエン酸が加熱によって化学反応を起こすことで生成される。生の梅や梅干しには含まれず、加熱濃縮工程を経た梅肉エキスにのみ存在する点がユニークである。

なお、未熟な青梅の果肉や種子にはアミグダリンというシアン配糖体が含まれており、生のまま大量に摂取すると中毒の恐れがある。ただし、果実の成熟、塩漬け、砂糖漬け、加熱処理などによってアミグダリンはほぼ消失するため、通常の梅加工食品として食べる分にはまったく問題ない。

用途

梅肉はお菓子づくりにおいて非常に多彩な使われ方をする原材料である。

もっとも代表的な用途は のし梅 の製造である。のし梅は、完熟梅の果肉を裏ごしした梅肉を寒天に練り込み、薄くのばして竹の皮に挟んで乾燥させた伝統的な和菓子で、琥珀色に透き通る美しい姿と、上品な甘酸っぱさが特徴である。茶席の菓子としても重用されている。

また、梅ゼリー や 梅羊羹 といった和洋折衷の菓子にも梅肉は欠かせない。梅ゼリーでは梅の果汁や梅肉ペーストをゼラチンや寒天と合わせ、爽やかな酸味を活かした夏向きの涼菓に仕立てる。梅羊羹では白餡に梅肉を練り込むことで、ほんのり梅の芳香が漂う上品な仕上がりになる。

梅飴・梅キャンディー の分野では、梅肉や梅肉エキスを練り込んだ飴が古くから親しまれてきた。近年では、梅肉のフリーズドライを使って練り固めた「ねり梅菓子」が独特の食感で人気を集めている。ノーベル製菓の「ねりり梅ねり」やアイファクトリーの「梅ぼしのシート」、上間菓子店(沖縄)の「スッパイマン」シリーズなどがその代表格である。

さらに、甘露梅(求肥で梅の甘露煮を包んだ和菓子)、梅大福(大福餅の中に梅餡や梅の甘露煮を入れたもの)、梅風味の 琥珀糖 や 干菓子 にも梅肉は使われる。洋菓子の領域でも、梅肉を使ったパウンドケーキ、梅風味のチョコレート、梅ジャムを用いたタルトやデニッシュなど、和と洋を融合させた創作菓子への応用が広がっている。

お菓子以外では、料理の調味料として梅肉ペーストが鶏肉の梅肉和えや天ぷらのつけだれなどに使われるほか、梅肉エキスは健康食品としても流通している。

主な原産国

梅(Prunus mume)の原産地は 中国 であり、湖北省や四川省の山岳地帯が起源とされている。中国では2000年以上前から梅の栽培と利用が行われており、中国最古の薬物学書『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』にもすでに梅の薬効が記載されていた。

日本へは3世紀末頃から奈良時代にかけて中国大陸から伝来したと考えられており、当初は薬用として「烏梅(うばい)」(青梅を燻製・乾燥させたもの)の形で持ち込まれた。その後、日本の気候風土に適応し、全国各地で栽培されるようになった。現在、日本国内の梅の最大産地は 和歌山県 で、全国の収穫量の約6割以上を占めている。なかでも南部(みなべ)町・田辺市一帯は日本一の梅の産地として知られ、最高級品種「南高梅(なんこううめ)」の主産地である。和歌山県以外では群馬県、奈良県、三重県、長野県なども梅の産地として名高い。

東アジア全域で見ると、中国、日本のほか、韓国や台湾でも梅の栽培・加工が盛んに行われている。韓国では「매실청(メシルチョン)」と呼ばれる梅シロップが家庭で広く作られ、台湾でも梅の加工品が日常的に消費されている。

選び方とポイント

お菓子に使う梅肉を選ぶ際には、いくつかの重要なポイントがある。

まず、原料となる梅の品種 に注目したい。お菓子に最も適しているのは 南高梅(なんこううめ) である。南高梅は皮が薄く果肉が厚い大粒の品種で、酸味と甘みのバランスに優れ、加工後も梅本来の芳醇な香りが残りやすい。和歌山県産の南高梅は品質の高さで知られ、お菓子メーカーにも広く採用されている。そのほか、群馬県を中心に栽培される 白加賀(しらかが) は大粒で果肉がしっかりしており、梅ジャムやシロップに向く。山形県特産の梅は、のし梅の原料として長い伝統がある。

次に、加工形態の選択 も重要である。お菓子の種類によって最適な形態が異なる。練り梅(梅肉ペースト)はゼリーや羊羹、飴など均一に練り込みたい場合に使いやすい。梅の甘露煮は大福や求肥菓子のフィリングに適している。梅肉エキス(濃縮液)は少量で強い酸味と風味が出せるため、チョコレートやキャンディーの風味付けに重宝する。フリーズドライの梅肉は、サクサクとした食感を活かしたい場合や、チョコレートのコーティング素材として注目されている。

品質面 では、原料の梅が国産であること、添加物(着色料・保存料・人工甘味料など)の有無を確認することが大切である。特にお菓子の原材料として使う場合は、梅肉本来の風味を活かすために、梅・塩・紫蘇のみで作られた無添加タイプの練り梅が望ましい。また、業務用の梅肉ペーストを選ぶ際には、酸度や塩分濃度の表示を確認し、仕上げたい味のバランスに合うものを選ぶとよい。

保存方法としては、梅肉ペーストは開封後冷蔵保存が基本であり、梅肉エキスは常温保存が可能なものが多いが、直射日光と高温を避けて保管することが推奨される。

メジャーな製品とメーカー名

梅肉を原材料に使ったお菓子は、伝統的な和菓子から現代的なスナック菓子まで幅広い。以下に代表的な製品とメーカーを紹介する。

乃し梅本舗 佐藤屋(山形県山形市)は、文政4年(1821年)創業の老舗和菓子店で、のし梅の元祖として知られている。完熟梅の果肉を裏ごしし、寒天と合わせて竹の皮に挟んだ伝統の「乃し梅」は、山形を代表する銘菓である。近年では八代目による「乃し梅チョコ 玉響(たまゆら)」など、伝統と革新を融合させた商品も人気を博している。

亀じるし(茨城県水戸市)は、水戸銘菓としてのし梅を製造しており、南高梅と豊後梅の2種類の国産梅を使った製品で知られる。水戸は徳川光圀の時代から梅の名所として名高く、その土地柄を活かした梅菓子の伝統がある。

プラム食品株式会社(和歌山県)は、紀州産の梅を使ったのし梅やその他の梅菓子を専門的に製造するメーカーで、梅味・柚子味・抹茶味など多彩なバリエーションを展開している。

中田食品(和歌山県田辺市)は、明治30年(1897年)創業の梅干し・梅加工品の老舗メーカーである。梅肉ペースト「彩り梅にく」や「純正梅エキス」など、お菓子作りの原材料としても使える製品を幅広く展開している。

現代的な梅菓子の分野では、ノーベル製菓 の「ねりり梅ねり」が、梅肉のフリーズドライを練り固めた独特の食感で人気を集めている。上間菓子店(沖縄県)の「スッパイマン」シリーズは、甘酸っぱい干し梅菓子として沖縄土産の定番となり、全国的な知名度を獲得した。アイファクトリー の「梅ぼしのシート」は、梅肉を薄いシート状に加工した手軽なお菓子で、子どもから大人まで幅広い層に親しまれている。

業務用原材料としては、美濃与(みのよ)が紀州産などの国内産梅を原料とした「梅果肉」加工品を製造しており、和菓子店や食品メーカー向けに梅ゼリーや梅ようかんの素材として供給している。

歴史・由来

梅肉の歴史は、梅そのものの歴史と深く結びついている。

梅の原産地である中国では、2000年以上前から梅の実が薬用・食用として利用されていた。中国最古の薬物学書『神農本草経』にはすでに梅の効用が記されており、古代中国では青梅を燻製にした「烏梅(うばい)」が解熱や整腸の薬として珍重されていた。

日本への梅の伝来は、3世紀末頃とされている。百済の帰化人・王仁(わに)がもたらしたとする説や、中国・呉の高僧によって伝えられたとする説があり、当初は薬用の烏梅としてもたらされた。日本の文献に「梅」の字が初めて登場するのは、751年に編纂された日本最古の漢詩集『懐風藻(かいふうそう)』であり、『万葉集』にも梅を詠んだ歌が数多く収められている。

梅の実が食品として加工されるようになったのは奈良時代のことで、この時期にはすでに柿や桃などと並んで「生菓子」として食べられていたとされる。梅の塩漬けが「梅干し」として書物に初めて登場するのは平安時代中期のことである。村上天皇(在位946〜967年)が疫病にかかった際、梅干しと昆布を入れた茶を飲んで回復したという記録があり、これが元旦に飲む縁起物「大福茶」の起源になったとも言われている。

戦国時代には梅干しが兵糧食として重用された。軽くてかさばらず日持ちもよいことから、戦場における栄養補給源として重宝された。甲州流秘書に記された「忍術兵糧丸」のレシピにも、梅干しの果肉が材料として挙げられている。

江戸時代に入ると、梅は庶民の食卓にも普及し、梅干しだけでなく多様な加工品が生まれた。この時代に登場した梅の砂糖漬け「甘露梅」は、梅肉を菓子に用いる先駆けといえる。さらに江戸末期の1817年には、『諸国古伝秘方』という文献に梅肉エキスの原型となる製法が記録されており、梅の果汁を煮詰めて濃縮するという技法がすでに確立していたことがわかる。

のし梅の歴史も江戸時代に遡る。山形藩主の典医の家系に伝わっていた梅の気付け薬が、文政年間(1820年代)に菓子として昇華されたのが始まりとされる。これを現在の形に完成させたのが、文政4年(1821年)創業の乃し梅本舗佐藤屋であり、以来200年以上にわたって山形の銘菓として受け継がれている。のし梅はもともと薬として販売されていたものが、砂糖と寒天の技法を取り入れることで美味なる菓子へと変貌を遂げた、梅肉の菓子利用における画期的な事例といえる。

明治時代には、日清・日露戦争を契機に梅干しの需要が急増し、和歌山県をはじめ全国各地で梅林の拡大が進んだ。明治11年(1878年)に和歌山県でコレラが発生した際には、梅干しの殺菌力が改めて注目され、人々の間で梅への信頼がさらに深まったという。

昭和から平成にかけては、梅の科学的な研究が本格化した。1999年にはムメフラールが梅肉エキスから発見され、血流改善効果などが報告された。梅の健康機能が科学的に裏付けられるにつれ、梅肉エキスは健康食品として、梅肉ペーストは菓子・料理の素材として、ますます多様な場面で活用されるようになった。

そして令和の時代。新元号「令和」は万葉集の大伴旅人の歌の序文「初春の令月にして、気淑く風和ぎ、梅は鏡前の粉を披き…」に由来しており、梅と日本文化の深い絆を改めて世に知らしめた。現在も、伝統的な梅菓子の技法を守る老舗から、梅肉を用いた斬新な創作スイーツを生み出す新鋭パティシエまで、梅肉は日本のお菓子文化において欠かすことのできない原材料であり続けている。

免責事項

商品紹介等については、公式サイトおよび公開情報を基に作成しております。
記載内容は掲載時時点での参考値です。商品仕様は予告なく変更される場合があります。
購入・ご利用の際は必ず最新のパッケージ表示または公式情報をご確認ください。特に食物アレルギーをお持ちの方は原材料を十分にご確認の上お求めください。
本記事の内容ならびに画像の一部にAIを使用している場合があります。
画像はイメージの場合があり、説明内容とは異なる場合があります。
当記事の内容により生じた損害について、作成者は一切の責任を負いません。